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バッテリEVで“ターボ”を名のるルノー「サンクターボ3E」 インホイール・モーターの市販BEVの魔力は底なしなのか?

フラン工場でルノー「5ターボ3E」の市販版を公開

最大トルク4800Nm?

 2024年末に市販バージョンのティザー画像が出まわって以来、ルノー「5(サンク)ターボ3E」が2027年に1980台の限定で発売に移されることは既報のとおり。3月中旬、パリから西へ50㎞ほど離れたルノーの一大生産拠点で、現在はバッテリのリサイクル拠点として大きく性質を変えたフラン工場にて、ルノー5ターボ3Eの市販版が報道陣やディーラー関係者に披露された。

 プロトタイプとして2022年のパリサロンで発表され、クラシックカー・イベントなどでデモ走行も披露していたが、実際に市販化されるとは正直、意外だった。風雲急を告げる市販化の発表だったことはルノー内部の関係者も認めるところで、おそらくフォルクスワーゲングループ在籍時、クプラ(セアトのスポーツブランド部門)も率いた経験のあるルカ・デ・メオ現ルノー社長が、ヒョンデ「アイオニック5N」のような過激なスポーツBEV(バッテリ電気自動車)の評判に触発された可能性も、あながちゼロではないだろう。近年WRCなどで進境著しいとはいえ、標準仕様のハッチバック(やや大きめだが)を換骨奪胎チューンで過激仕様に仕立てるというクラシックなレシピの本家本元はどこか? 今一度はっきりさせるという意味だ。

 5ターボ3Eの市販バージョンは、先立つプロトタイプを受け継ぐようで、中身はまったくの別物だ。カーボンコンポジットのボディパネルに、42kWh容量で5E-テックの標準的なバッテリを床下に収める低重心シャシーにしても、ここ数年間の進歩がずいぶん反映され変化している。バッテリはおそらく開発中のアルピーヌ「A390」などと共通するのだろう、70kWhにまで容量がグレードアップされ、カーボンボディはそのままに前後重量配分は約43:57、徹底的な低重心設計が採られた。車両重量の約1450㎏のうち3分の1をバッテリが占めるため、相対的に残りの部分がかなりの軽量設計であることがうかがえる。

 4080×2030×1380mm(全長×全幅×全高)という特異なサイズ感も、5ターボ3Eの佇まいに異様な迫力を添える。標準の5E-テックが3920×1770×1490mm(同)なので、ほとんどタイヤ1本分近く外に出ているのだが、じつは張り出しているのはフェンダーだけではない。それでも5ターボ3Eのホイールベース2570mmは、標準比で30mmしか伸びておらず、4輪の接地ジオメトリーはおそらく市販車中、もっともスクエアに近いといえる。

サンクターボ3Eは1980年代にラリーで活躍した小型ミッドシップモデルの「5 ターボ」「5 ターボ2」が、バッテリEVとして現代に復活したモデル。市販版の世界生産台数は1980台で、日本市場にも導入予定であることが発表されている

 そこに駆動力を送り出すパワーユニットも、ルノーおよび車両開発を担当するアルピーヌは、途方もない飛び道具を用いてきた。後輪の左右になんと、インホイール・モーターを収めたのだ。つまり5ターボ3Eは最終ギヤやリデューサー、トランスミッションの変速ギヤをいっさい介在することなく、2基のモーターによるダイレクト駆動となる。そのスペックは、最高出力540HP(約545PS)、最大トルク4800Nmと発表され、0-100km/h加速は3.5秒以下、おそらく3秒以内が可能だという。

 実をいうと当初、最大トルク4800Nm、片側だけで2400Nmという数値は、入力か印刷の間違いかと思った。念を入れて確かめてもホントにそうだった点に、5ターボ3Eの恐ろしさがある。通常のトルク値は、原動機の動力軸、つまりICEならクランクからトランスミッションに繋がる前のところで記されるので、インホイール・モーターではこういう記載にならざるを得ないのだ。

 とはいえ、最大トルク4800Nmのいくばくかを瞬発的に後輪に伝えたら、いつでもパワースライドにもっていけるどころか、タイヤのトレッド面やホイールスポークが崩壊しかねない。そう、5ターボ3Eは物理的・電気的には完全にモンスターなのであり、情報を統合的に解析制御するプログラムを通じて、駆動力や回生力はもちろん、左右の差動によるベクタリングなどドレッサージュ(馬を躾けること)を施さないと、乗り手がまったく御することができない暴れ馬になるはずだ。むしろトランスミッションに代わって、ドライバーの操作や意思を読み取っては、レイテンシーなく駆動力や姿勢を制御するという方向性は、「リアルスケールのゲーム」ですらある。

カーボンボディ専用に改良されたアルミシャシーを採用するとともに、後輪にインホイール・モーターを装備して最高出力540HP/最大トルク4800Nmを実現。70kWhのリチウムイオンバッテリを搭載して最大航続距離は400km(WLTP)。0-100km/h加速3.5秒以下、最高速は270km/hとしている

価格帯を予想するなら……

サンクターボ3Eは2027年中にデリバリーを開始する予定

 一方で、車両開発を担当しているアルピーヌのエンジニアであるフレデリック・ロラン氏は、変速機や最終ギヤが間に介在せず、駆動力の伝達ロスも立ち上がりラグもゼロである以上、むしろセッティングは出しやすくエンジニアとしては扱いやすいのだと、事もなげに述べる。逆に通常のトランスミッション機構のあるクルマのパワートレーン制御では、ICEでもBEVでも輪列間で生じるロスを変数として、出力側とアウトプット側で釣り合うはずの方程式を最大限に効率化していくものだから、というのだ。これは純粋な理論ではなく、車両実験の場で開発を実践しながらの立場として述べられる経験だという。

 ここまで話を聞きながら、「扱いやすい」のは何と比べて? という疑問が頭をもたげてくるだろう。それは、すでに市販されたアルピーヌ A290のみならず、並行して開発されているアルピーヌ A110のBEV版、A390やA310を指しているのではないか。

 つまり5ターボ3Eは、時間的にも効率面でもラグのないハイトルク&ハイパワーを一気阿世に供給するクルマという意味で、まちがいなくターボカーの最新の末裔であり、ルノー・グループが今後投入するであろう一連のBEVともロジックの異なるモデルといえる。

 1980台すべてにナンバリングが施され、購入オーナーの好みによるパーソナライズが可能なこのクルマは、2027年中にデリバリー開始予定。価格こそ未発表だが、オーダー受注は開かれており、日本市場での取り扱いもルノー・ジャポンが公式にアナウンスしている。あえて価格帯を予想するなら、15万ユーロ(約2430万円)を基本に、オプションや仕着せ、装備もろもろで20万ユーロ(約3240万円)が今の為替レートで見込まれる。

サンクターボ3E(1分51秒)