ニュース

蓄電池に関する技術者確保の課題とは? パナソニックエナジーが未来の電池事業発展を担う学生を支援する「MIRAI奨学金」募集開始

2025年度の「MIRAI奨学金」などについて説明したパナソニックエナジー株式会社 人事・総務センタータレント・アクイジション推進部 部長の上田弘二氏

 車載向け電池をはじめとした蓄電池に関する技術者の確保が、日本において大きな課題となっている。

 日本政府は、2030年までに蓄電池分野で3万人の人材を育成、確保する目標を掲げており、産学官が一体となってこの課題に取り組んでいるところだ。そうした中、パナソニックエナジーは人材育成や確保に向けたいくつかの施策を開始している。

 産官学連携での人材育成を推進することを目的に、経済産業省を中心に発足した関西蓄電池人材育成コンソーシアムを通じた人材育成への取り組みのほか、大学生を対象にした「MIRAI奨学金」の提供、大阪公立大学における蓄電池人材育成プログラムの実施、パナソニックエナジー社内における技術・モノづくりアカデミーの開校などを通じて、広範な技術系の学生に対して電池技術を学ぶ機会の提供や、電池業界でのキャリア開発への関心を高める活動のほか、他業界からのキャリア採用した新たな人材を育成するための受け皿づくりなどにも余念がない。

関西蓄電池人材育成コンソーシアムについて。産学官の41機関・組織が参画している

 パナソニックエナジー 人事・総務センタータレント・アクイジション推進部 部長の上田弘二氏は、「残念ながら、電池を学ぶために高専や高校、大学に進んでいる人材は極めて少ない。これまでの蓄電池の市場規模が小さく、学生からフォーカスされなかったこと、電池工学という学問がなく、機械や化学などさまざまな学びが必要であり、電池に関してトータルで学ぶ場がなかったことが人材不足につながっている。蓄電池の業界からみれば、まずはバッテリに興味、関心を持ってもらうことが大切であり、そこから活動を開始する。興味を持ってもらった人たちに、専門的に学んでもらう場を用意し、コンテンツも用意する。それらの活動を経て、蓄電池分野で働いてもらえる人を増やしていきたい。パナソニックエナジーは、電池業界のリーディングカンパニーとして人材育成や人材確保に貢献したい」と述べた。

 パナソニックエナジーでは、2023年4月から社内にパナソニックエナジー 技術・モノづくりアカデミーを社内に開校。多様な人材に対して、技術、技能を中心とした基盤教育を行ない、短期間で専門能力を磨くことができる環境を整備してきた。上田氏は「キャリア採用も進めているが、そもそも電池技術の人材が少ないため、電池メーカーからの転職は数%に留まり、別の業界からの採用が多い。従来は現場任せの教育となっており、育成方法がバラバラだった。現場に寄り添う学習システムを確立することで、効率的に技術を学べるようにした。さまざまな人に活躍してもらえる場を作るために、入社後にも教育する仕組みを社内に構築している」と語る。

 技術・モノづくりアカデミーはパナソニックエナジーのCTO直轄の組織とし、技術学部、生産技術学部、製造学部を設置して、教育カリキュラムを整備。同社認定の高度技術者が講師となって教育を行ない、多様な人材が活躍できる土台をつくることに取り組んでいる。

 現在、143講座を用意し、約3300人が受講。知識やノウハウ、学習履歴などを一元的に管理できる仕組みも提供している。さらに新入社員向けのコースを開設しているほか、体験や実習ユニットなどを用意し、技術伝承を行なえるカリキュラムを46コース用意しているという。

 技術・モノづくりアカデミーの対象は、まずは入社2年目までの社員としているが、中長期的にはグローバルに展開し、対象とする職種や年齢も順次拡大していく考えだ。上田氏は「電池技術に関する人材でなくても、この分野に興味を持つ社員や、やる気のある人材を育てるといった取り組みを進めてきた。競争力向上が求められる中で、次世代の蓄電池業界のリーダーの育成にも力を入れていく」と述べた。

 また、同社では大阪公立大学とともに蓄電池人材育成プログラムを2025年4月からスタートしている。同大学の中百舌鳥キャンパス内に新設したイノベーションアカデミースマートエネルギー棟に同社が入居し、学生に対して電池の基礎講座の開催や、電池セルおよび蓄電池システムの設計、生産技術まで幅広く学べる講義を実施。リチウムイオン電池や乾電池の組み立て実習なども行なう。

 さらに同社CTOによる講演や同社の高度専門職が講師となる集中講座の実施、インターンシップの受け入れ、若手エンジニアとの座談会、キャリア形成の支援なども行なう。上田氏は「産学が一体となって蓄電池分野の人材の育成、確保を行なうことが目的となる。実習を含めて、手触り感を持って学んでもらうことができる。電気化学を専攻する学生だけでなく、機械系や情報技術系の学生たちが、電池分野においてもさまざまな専門知識を活かすことができるということを知ってもらえる機会にしたい」と語っている。

 さらにパナソニックエナジーは、2022年8月に発足した関西蓄電池人材育成コンソーシアムにも参画。48機関/組織による産官学の取り組みにより、設備、実機を導入した教育プログラムなどを実施している。

 関西エリアでは蓄電池関連企業が集積しており、この分野において、今後5年間に約1万人の雇用が見込まれている。同コンソーシアムを通じた産学官の連携により、2024年度からバッテリ人材の育成および確保の取り組みを本格化しているところだ。パナソニックエナジーでは、高校生や高専生を対象にしたテキスト、教材を開発して提供。大学生や大学院生、企業内人材を対象にした座学や実習、見学なども行なっているという。

関西エリアでは蓄電池関連企業が集積しており、この分野において今後5年間に約1万人の雇用が見込まれる

 今回、パナソニックエナジーが新たに発表したのが、2025年度の「MIRAI奨学金」の募集開始である。2024年度に続いて2年目となる取り組みであり、車載電池をはじめとした将来の電池産業の発展を支える理系専攻の人材を、幅広く支援していくことを目的としている。募集人員は20人。対象は大学3年生または大学院1年生で、電池事業に関連する分野を研究する理系学生としている。締め切りは2025年5月30日。

 同社の技術責任者などによって構成する選考委員会の検討を経て、選出された奨学生に対して1人あたり年間50万円を支給。パナソニックエナジーの電池事業において、最前線でグローバルに活躍する技術者と継続的に交流するほか、同社技術者で構成した社内コミュニティとその活動への参加や、現役の技術者から電池メーカーで働くやりがいの話を聞く機会を提供したり、研究活動のアドバイスを受けながら将来のありたい姿を一緒に考えたりすることで、就職活動の支援につなげるという。

2025年度の「MIRAI奨学金」概要。締め切りは2025年5月30日

 なお、奨学金の返済は不要で、パナソニックエナジーへの入社を前提とするものではないという。ただし、年2回開催するパナソニックエナジー社員による約5時間のプログラムを受講すること、そのほかの不定期イベントにも参加できること、3月に実施する成果報告会に参加することが条件となる。また、1年間の終了時点の成果報告の結果によっては、2年目の奨学金支給も可能だという。

 実施されるイベントにおいては、奨学生となる心構えなどを伝えるほか、同社CTOによる電池事業の魅力と、同社が持つ高い技術力に関する説明、同社副社長による米国における車載電池事業の現状と展望、同分野におけるエンジニアとしての可能性などを伝えることになる。

 パナソニックエナジーの上田氏は、「蓄電池は国家戦略上、重要なものに位置付けられており、日本国内において蓄電池に関する技術者を増やしていかなくてはならない。だが、国内では電池を学習している学生の数は限定的である。MIRAI奨学金制度は、そうした状況を受けた取り組みになる。理系学生が電池産業の発展に貢献できるように、研究や学習に支援できる環境づくりを支援していく。また、二次的な目的として優秀な人材を獲得したいと考えており、パナソニックエナジーの若手技術者と接点を持ち、一緒に活動することで学生のキャリアビジョンを支援する狙いもある」と説明した。

 2024年度の実績では188人の応募があり、その中から20人を選出。国立大学の学生が多く、材料や化学だけでなく、宇宙工学などの学部からの参加もあったという。申し込みでは女性比率が23%だったが、選出されたのは男性が5人、女性が15人だったという。上田氏は「奨学金によってアルバイトの時間を減らし、学ぶ時間に充てられるというメリットがあり、海外での学会発表をして賞をもらったという実績も出ている。学会に出席するための交通費に奨学金を充てたという奨学生もいた。MIRAI奨学金制度の参加者のうち、4~5人程度が2026年度にパナソニックエナジーに入社することを期待している」という。

 パナソニックエナジーの2023年度の実績は、売上高が9159億円、営業利益は888億円で、パナソニックグループ全体の占める割合は売上高で11%、営業利益で25%となっている。車載事業では車載用円筒形リチウムイオン電池を製品化。主力の2170のほか、1865、4680を生産、販売し、テスラなどに供給している。また、産業・民生事業としてノートPCやデータセンター向けバッテリ、電動アシスト自転車向けパッテリなどを提供している。充電池のエネループも同社が担当している。