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自動車開発をALMとAIでサポート、日本の“スプシ”文化置き換えも狙うPTCの「Codebeamer」とは?

PTCの方々に「Codebeamer」についてうかがった

複雑化する自動車開発に、欧州メーカーが続々と導入する「Codebeamer」

 センサーによる検知や自動運転、大型ディスプレイによる情報表示にネット接続など、「走るコンピュータ」と言われるほどになった今の自動車は、それらを制御するソフトウェア開発の占める割合が以前と比べ大幅に増えている。

 ソフトウェアを変えることで機能を追加・向上できるSDV(Software Defined Vehicle)の考え方や、アップデートやメンテナンス機能をOTA(Over The Air)によるワイヤレス通信で提供するのが当たり前になってきたことも、それに拍車をかけているだろう。

 自動車はますます複雑化している。にも関わらず、市場の激しい変化に対応するため開発期間の短縮が求められ、次々と発生する規制に対応し、コストなどの課題もクリアしなければならない。そのうえで安全性を確保し、セキュリティや環境を意識した取り組みも行ない、ユーザー体験の向上とメーカーならではの価値提供を図っていく……。

 こうした自動車開発は、もはや「人間のエンジニアの脳で対応できる範囲を超えている」とし、それをALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)ツールで解決しようとしているのが、米国に本拠を置くPTCだ。

PTC シニアバイスプレジデント ALM 事業部 ゼネラルマネージャーのクリストフ・ブラオイクレ氏

 同社はソフトウェア開発プロセス全体の管理を行なえるようにするALMツール「Codebeamer(コードビーマー)」を提供している。顧客や各国が準拠を求める規格・規制などの上流要件、あるいは開発するハードウェア・ソフトウエアの要件の管理に始まり、ソフトウェアの実開発におけるリソース・バージョン管理、段階的・最終的なテストからリリースの管理まで、一連のプロセスを独自の機能、もしくは外部ソリューションとの連携によって実現するプラットフォームとなっている。

Codebeamerの概要

 開発の効率化・最適化への取り組みに熱心な欧州の自動車メーカー、たとえばフォルクスワーゲングループやBMWは、自社製品のソフトウェア開発などの現場で、このCodebeamerをすでに導入している。わずかな開発上のミスが莫大な損失につながりかねないなか、そうしたリスクを最小化するという意味でもALMの活用は重要と認識しているようだ。

AIで要件管理の作業負荷を軽減、開発プロセスのあらゆる部分の支援を目指す

 Codebeamerは2025年3月、メジャーアップデートとなる3.0をリリースし、加えてフォルクスワーゲングループとマイクロソフトとの協業によるAI機能「Codebeamer AI」のベータ版も実装した。Microsoft Azure AIをベースに構築したもので、これによって「人間のエンジニアの脳で対応できる範囲を超えている」という過大な開発負荷の一層の軽減につながるとPTCは考えている。

Codebeamer AIが実現する、もしくは実現予定の機能

 現段階では、開発の上流工程となる「要件管理」において、国際的なシステムエンジニアリング団体であるINCOSEが発行している業界標準ガイドラインなどを元に、要求内容の品質を評価するところでCodebeamer AIを利用できるという。

 フォルクスワーゲングループを始めとするいくつかの企業が活用し始めており、「業務の質が上がった」「エンジニアリング業務の全てを置き換えるわけではないが、確実に生産性向上の助けになっている」といった感想が届いているとのこと。PTCでは各社からのフィードバックを受けてAI機能の改善を繰り返し、精度を高めていっている。

Codebeamer AIが、ガイドラインを元に要求内容について指摘しているイメージ

 今後はそれ以外の開発プロセスにもCodebeamer AIの適用範囲を広げていく計画だ。過去に類似する要求項目がなかったかを素早く確認したり、ユーザーが入力した項目を元に必要なテストケースを提案したり、といったことがCodebeamer AIによって可能になるとし、2025年夏以降、年末までの間に順次リリースしていく予定だという。

 また、CodebeamerやCodebeamer AIはあくまでもプラットフォームとして位置付けていることから、企業が独自に用意したデータベースや他社AIサービスと連携できるのはもちろんのこと、企業の業務スタイルに合ったフロントエンド(AIエージェント)を組み込むことも可能。クラウド型でも、オンプレミスでも運用できる仕組みになっており、さまざまなニーズに応えられるとしている。

日本市場への最適化、スプシ文化からの脱却を図る

 Codebeamerは日本企業からの引き合いも多い。しかし、グローバルで連携して開発していく考え方が基本の海外メーカーと比べると、グローバル開発の意識がそこまで強くない日本では、こういったALMのようなシステムは「現場レベルに浸透しにくい」のが実情のようだ。

 特に日本の自動車業界においては、情報整理や共有の手段にExcelなどスプレッドシートを用いる、いわゆる“スプシ文化”がいまだ根強く、そこからの脱却は一朝一夕にはいかない。「日本のエンジニアの方が受け入れてくれる、より直感的なソリューションを提供できるようになることが私たちの目指すところ」だとし、日本のSIなどとのパートナーシップも視野に入れていると明かす。

 現在は英語とドイツ語のみの対応となっているCodebeamer AIについては、日本語対応も検討しているところ。Codebeamerの日本市場への最適化が進めば、アナログ的な業務が少なくない製造業にDXの波が一段と広がり、より競争力の高い国産自動車が生まれてくることが期待できるかもしれない。