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パナソニック、2024年度連結業績を発表 米国関税の影響は最小限も1万人の人員削減へ
2025年5月10日 14:59
- 2025年5月9日 発表
パナソニックホールディングスは5月9日、2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績を発表。EV用車載電池などの事業を行なうエナジーのセグメント業績は、売上高が前年比5%減の8732億円、調整後営業利益が281億円増の1227億円となった。
パナソニックホールディングス 執行役員 グループCFOの和仁古明氏は、「エナジーは車載電池における原材料価格低下見合いによる価格改定の影響などによって減収となった。また、調整後営業利益はエナジー全体では産業・民生用がデータセンター需要などによって増益となったが、車載電池については北米工場における生産性向上や、電極活物質製造コストに対する米国IRA補助金の追加計上、品質対応費用の良化があったものの、カンザス新工場や和歌山工場の立ち上げのための先行費用が増加したことによって減益になっている」と説明した。
一方、2025年度(2025年4月~2026年3月)におけるエナジーの業績見通しは、売上高が前年比19%増の1兆390億円、調整後営業利益が451億円増の1680億円と大きな成長を見込んでいる。
和仁古グループCFOは、「EV市場は成長が鈍化しているが、普及価格帯の車種を中心に一定のEV化は継続する見込みである。ネバダ工場の生産性向上に加えて、カンザス新工場、和歌山工場の稼働開始を織り込み、増収を計画。産業・民生用では、データセンター向け需要の継続拡大を想定している」としたほか、「2025年度までは工場への投資があるが、2026年度はキャッシュ面ではピークアウトすることになる。収益への貢献が見込まれる」とした。
北米での生産体制については、2170セルを量産しているネバダ工場において、2024年度末までに年間41GWhの生産能力を実現。2024年度第3四半期に追加の設備が順調に稼働したという。ここでは、オペレーション改善と高容量化技術の適用によって、さらなる生産容量拡大に取り組む考えで、2030年度には年間44GWhの生産規模を目指している。2023年度比で約15%の生産能力拡大となる。
また、同様に2170セルを生産するカンザス新工場においては、2025年度上期までに量産準備を完了する予定で、立ち上げの最終段階に入っているという。現在、戦略顧客(テスラ)との最終調整を行なっており、2026年度末には約30GWh規模のフル生産に移行する計画だ。
さらに日本においては、住之江工場、貝塚工場、大泉工場(群馬)において、日本の新規OEM(マツダおよびスバル)との協業により、生産体制を構築している段階であり、住之江および貝塚工場では、従来の1865セルから車載用の2170セルへと生産整備の切り替えを進めている。2027年度には量産準備を完了し、2030年度には年間14GWhの生産体制を整える。大泉工場では、車載電池生産のための新工場建設に向けた準備を進めており、2028年度に量産準備を完了させ、2030年度には年間16GWh規模の生産を行なうことになる。
4680セルを生産する和歌山工場では、2024年度第2四半期に量産準備が完了しており、量産開始に向けてスタンバイしているところだ。戦略顧客の最終評価を経て量産を開始する予定で、2025年度末には数GWhの生産が行なわれる見通しとなっている。
車載電池事業において注目されるのがトランプ関税の影響だ。だが、パナソニックホールディングスでは「影響は不透明であり、今後の動向を見極める必要がある」としながらも、「現時点では関税影響を業績見通しには織り込んでいない」と語る。実際、主力の米ネバダ工場においては、戦略顧客からの需要増が見られ、販売数量が拡大。四半期としては初めて10GWhの生産規模に到達し、フル生産に近い状況にあるという。和仁古グループCFOは「第4四半期を見ると、戦略顧客による車載電池に対する需要は引き続き旺盛であり、減速感はない。デマンドが減少しているという感触はない」とする。
現在稼働しているネバダ工場に加えて、今後の稼働が予定されているカンザス新工場が、いずれも米国国内にあることから、それが関税対策にはプラスに働いているともいえそうだ。「ネバダ工場はフル生産となっている一方で、量産立ち上げの最終段階にあるカンザス新工場も、現時点で稼働を延期してほしいという要望はない。カンザス新工場は2026年度末にはフル生産に移行する予定だが、むしろ新工場の立ち上げを急いでいる」とする。
パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOも、「関税によって日本からのEV輸出がどうなるかは分からないが、北米で生産するEVに対して、北米で生産した電池を納めるという点では、パナソニックグループのポジションは不利な状況ではないと考えている。ただ、電池に使用する材料が輸入に頼っているところがあり、この点での影響が懸念されるが、材料のすべてを米国で調達することは難しいことを考えると、サプライチェーンを大きく変えるのは難しいといえるだろう」とする一方、「米国では中国の電池を使ってEVを生産するといったことがやりにくい状況にある。これが、パナソニックの車載電池に対するデマンドを押し下げない要因になっていると推測している。この推測が正しければ、今後1年は主要顧客からのデマンドは落ちないだろう」と見込む。中国製車載電池パックを使っていたEVメーカーが、北米で生産しているパナソニックの車載電池パックへと移行しはじめていることがプラスになっているとの見方も示した。
パナソニックホールディングスは、2025年度の業績見通しを発表したが、この中にも関税影響は織り込まなかった。和仁古グループCFOは、「パナソニックグループは2024年度実績で米国では約1兆5700億円の売上げ規模がある。だが、北米での現地生産機能を一定程度有しており、調整後営業利益への最終的な関税影響は、グループ連結売上高の1%未満に収まり、780億円程度になると想定している。北米市場において、地産地消の基盤を築いてきたことが、関税に対して一定の耐性を生んでいる。現地生産をしないままだったら、関税影響はこの規模感ではすまなかっただろう」とした。パナソニックグループにとっては、米国市場における関税影響を最小限に食い止めることができそうだ。
一方、パナソニックホールディングスは、2026年度までの2年間で、国内5000人、海外5000人の合計1万人を対象にした人材削減を行なうことを発表した。
2025年度に1300億円の構造改革費用を計上。セグメント別内訳は、くらし事業が620億円、コネクトが20億円、インダストリーが160億円、パナソニックホーディングスおよびパナソニックオペレーショナルエクセレンスを含むその他が500億円を想定しており、エナジーは対象外となっている。だが、車載電池などの先行投資領域における収益改善に取り組む考えは示している。和仁古グループCFOは、「各セグメントの構造改革費用の大きさと、人員削減の規模はほぼ比例している」と述べており、エナジーセグメントでの大規模な人員削減はないと見られる。
今回発表したグループ経営改革の取り組みについて楠見グループCEOは、「2024年度を最終年度として取り組んできた中期計画が大幅な未達に終わったことが、グループ経営改革の発端になっている。他社に比べて5%程度高い固定費構造に大きくメスを入れなくては、利益を上げ、そこから再投資し、再び成長に転じるといったことができない」と指摘。さらに「これだけの規模の人員適正化に及ばざるを得ず、雇用に手をつけなくてはならないことは忸怩たる思いである。中期計画未達の経営責任はグループCEOである私にある。だが、10年後、20年後も、これまで以上にお客さまや社会へのお役立ちを果たし続けるために、2028年度に向けた経営改革を完遂することが私自身の経営責任の果たし方である」と述べた。
楠見グループCEOは、2025年度の総報酬の40%を返上することも明らかにした。また、楠見グループCEOは「経営改革により収益改善を進め、環境変化に強い体質を構築する。2028年度にROEで10%以上、調整後営業利益率で10%以上を必達する」と宣言。2026年度には、調整後営業利益で6000億円以上を目指す計画も打ち出した。これは、2024年度比1500億円以上の収益改善効果であり、2028年度にはこの水準をさらに加速させ、累計3000億円以上の収益改善を目指すという。
グループ経営改革では、車載電池を含む「デバイス領域」を収益基盤と位置づけ、高収益事業への絞り込みによって、調整後営業利益率で15%以上を目指す方針も明らかにしている。今後2年間は大胆な構造改革が推進されることになる。