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マツダ、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」でマツダデザインの魅力を語る

「美を追究するための仕込み」と「匠の集団」の存在が強み

東京ミッドタウンのプラザ キャノピー・スクエアにあるマツダブース
2014年10月20日開催

 マツダは10月20日、東京ミッドタウン(東京都港区)で開催中の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」において、報道陣向けにプレゼンテーションおよびクレイモデルの製作実演会を実施した。

マツダブースでは同社のクレイモデラーによる実演が行われた

 Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014は「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトとしたイベントだ。会期は11月3日までとなっているが、マツダはその前半となる10月17日~26日に出展している。ブースには新型「デミオ XD Touring」と「デミオ XD Touring L Package」の2台のほか、デザインをテーマとしたイベントらしくクレイオブジェや製作に使われるツールなども展示する。

 また、同社のモデラーによるクレイモデルの製作、実演および来場者による体験会が10月25日~26日の13時、15時に予定されている。天候にもよるが、混雑が予想されるので早めの来場をオススメしたい。場所は1階にあるプラザ キャノピー・スクエア。

マツダ、新型「デミオ」を「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」に出展、クレイオブジェ製作体験会も
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141015_671327.html

ブースには2台の新型デミオXDを展示
先日受賞が決まったばかりの日本カー・オブ・ザ・イヤーのプレートも飾られている
片側にはデザインをフィーチャーした展示スペースが設けられている
中央に鎮座するクレイモデル
表面には削った際にできる模様が浮かび上がる
魂動デザインのオブジェ
クレイモデラーが使うツール類
表面を削る鉄板はモデラー自身が使いやすいように作ったモノ。モデラーのサインが入っている
ステッチの数々。色だけでなくパターンでも受ける印象が異なることがよく分かる
こちらもモデラーのツール類。ナイフや彫刻刀、カンナまでさまざまだ

骨格から考え直したマツダデザイン

マツダ デザイン本部 アドバンスデザインスタジオ 部長 中牟田泰氏

 この日、行われたプレゼンテーションにはマツダ デザイン本部 アドバンスデザインスタジオ 部長 中牟田泰氏が登壇。同氏は3代目ロードスターのチーフデザイナーを務めたほか、「流雅(りゅうが)」「風舞(かざまい)」「靱(しなり)」などのコンセプトカーのチーフデザイナーでもある。つまり、現在のマツダデザインをまとめ上げている中心的な人物といえる。ちなみにデザイナーを志したのは小学校2年の時に父から贈られたミニカーがきっかけ。その後「人の心をワクワクさせる、ドキドキさせるクルマを作ってみたい!」と、マツダに入社。デザイン課に配属されると「こんなにクルマが好きで、こんなにエモーショナルな会社はない」と思ったそうだ。

 これまでずっとデザイン畑を歩んできた中牟田氏は、今の日本のカーデザインについて「元気がよいもののなぜか表面的でコスメティック」だと感じるという。「もっとクルマとしての本質的なデザインをやってみたい」ということから、マツダのデザインは「命あるアートであり、心昂ぶるマシンでありたい」「我々の手で工芸品のように作り上げたい」と、考えるようになったそうだ。

 そして今、同社が取り組んでいるデザインテーマが「魂動」になる。もともとマツダは「動くものの表現」をベースとするデザインDNAを持っており、魂動デザインはそこから一歩進んで「動きの究極の美しさ」を目指した。それが最初に形になったのが2010年に発表されたコンセプトカー「靱」で、このクルマで表現したかったのは「野生の動物が獲物を狙う時に見せる美しい動き」だ。注目したのは「どのようなスピードからでも顔がブレず、1本の軸がしっかり通っている」点。そこでボディーにしっかりとした骨格を持たせ、フロント&リアのデザインで安定感を表現する、という基本デザインがまとまった。スケッチを描いてから10カ月。この間、動きを表現しながらクルマのデザインに置き換えていく、そんな作業が続いたという。そうして生み出された靱のアイデンティティも、コンセプトカーの枠で留まってしまっては意味がない。「マツダはスモールプレーヤーなので“群”で戦っていかなければならない。この考え方をすべてのクルマに入れていく必要がある」として、しっかりと「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」という市販車へと受け継がれていったのだ。

 これらのクルマに共通するのは骨格から考え直した点だ。「キャビンを後ろにひいてリアタイヤに荷重が乗ったスタンスのよいデザインとした。Bセグメントカーでもなかなかこうしたデザインを採用した例はないが、あえてチャレンジしている。今までのデザインの枠にとらわれない新しい発想で、スモールサイズの中にも力強い、そして立体感あるデザインに仕上がった」(中牟田氏)という。

 その結果、アテンザが2013年のワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーのベスト3を獲得したのに続き、アクセラも2014年の同賞ベスト3に。そしてデミオは2014-2015年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。中牟田氏は「クルマ自体の性能はもちろん、デザインも貢献しているのではないか」と、デザイン面でも優位性があることをアピールした。

 快進撃中ともいえるマツダが放つ次の一手が次期「ロードスター」だ。「これまでのデザインをさらに進化させている。これまではラインをベースに動きの表現をしてきたが、こちらは3次元。立体的な動き、光と影による動きによって、よりシンプルにしながらもユニークな強い魂動デザインに進化した。外で見ると動きのダイナミックさ、美しさ、色気が分かってもらえるのではないか」と、そのデザインの魅力について語った。

 次々とヒットを生み出す理由について、中牟田氏はマツダが独自のプロセスを持っていることを挙げた。一般的にはスケッチを描き、スケールモデルを作り、そしてレイアウトに合わせてフルサイズを作るという流れになる。だが、マツダは「前段階に独自の仕込みを行う。料理人でもプロフェッショナルは仕込みを大事にするという。マツダのデザインでも、まずその前にどうありたいか理想を作るための仕込みを考える」そうだ。

 例えばクレイモデラーは日々、アートオブジェなどを製作。表現、艶めきとか溜めとかスピードとかを立体的に置き換えてアート的に表現すると、どのような形になるかを独自に作り上げていく。デザイナーは単なるクルマのデザインをするのではなく、フォルムとしてのデザインをイメージして一気に書き上げ、クルマのデザインに徐々に置き換えていくといったプロセスを辿る。縫製などを担当するパブリケーターも技を持っており、ステッチの縫い方1つとっても次々と新しい手法で出してくる。デミオでもそれをうまく取り入れているという。

 そうした「美を追究するための仕込み」と「匠の集団」の存在。これが今のマツダの強みだという。最後に「魂動デザインはさらに進化を続けている。今後出てくるクルマはもっと驚かせるデザインになっていると思うのでご期待ください」と締めくくった。

「マツダデザインが目指すもの」などテーマに沿ったプレゼンテーションが行われた
現在のデザインテーマは「魂動」
魂動以前にも動きの表現を追求したデザインを追い求めてきた
魂動デザインを具現化したオブジェ
オブジェを経て昇華したのがコンセプトカー「靱」のデザイン
野生の動物が獲物を狙う時に見せる美しい動きがベース
いかなる時でも顔がブレず、1本の軸がしっかり通っている点に注目
クルマのカタチに置き換えていく
スケッチから靱のカタチになるまで10カ月を要した
一般的なクルマのデザインプロセス
マツダの場合は美を追究するために仕込みの段階がある
空間や現象などさまざまな事象をオブジェに置き換えていく
クレイモデラーは0.3mmの違いを手の感触だけで生み出す
デザイナーは一瞬のイメージを大事にしてフォルムへと繋げていく
“クラフトの匠”がデザインを実際のカタチへと質を高めながら落とし込んでいく
マツダの強みは「美を追究するための仕込み」と「匠の集団」の存在
デザインを示す試みとして製作した魂動チェア
お披露目の場となった2013年のミラノサロンでは大きな反響があったという
作品をブランドに繋げるデザイン戦略も重要
靱から始まった魂動デザインのロードマップ
アテンザ
アクセラ
デミオ
ロードスターでは動きの表現を2次元から3次元に。強い魂動デザインへと進化を遂げた
アテンザ、アクセラがワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーのベスト3を獲得
デミオは2014-2015年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞

マツダ独自のデザイナーとクレイモデラーの関係

マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ部長 呉羽博史氏

 続いて行われたクレイモデルの実演会では、マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ部長 呉羽博史氏がマイクを握った。同氏は「ロードスター」「RX-7」などのエクステリアモデリングのほか、ショーカーやアドバンデザインの全車種モデリングを担当。現在はクレイモデルをはじめハードモデル、デジタルデザインのグループマネージャーを務めている。

 呉羽氏はマツダの場合、「カタチを早く統合するためにモデラーがクリエイションをしていく」のが特長であるとした。通常、クルマを作る場合はまずデザイナーが絵を描き、モデラーがそのスケッチを元にカタチを作る。そして、できたものに対してデザイナーとモデラーが喧喧諤諤を繰り返す、という流れが世界のセオリー。だが、マツダではモデラーが率先していろいろなオブジェを作ることから始まる。例えば炎や空気などカタチのないものでも表現することで、次にくるであろうクルマの美しさのジェネレーションを模索していく。「魂動デザインオブジェのようなものを作って、デザイナーと対話をしていく。モノがあって、自分たちが目指したいモノをカタチにする。そうすることで思いが深くなっていく」のだという。

 今回の実演で使うクレイはマツダの中では一番柔らかいクレイだが、オブジェを作るクレイはものすごく硬く、固まったら崩れなくなるぐらいのモノを使っている。これはクレイメーカーと共同開発したオリジナルレシピのモノで、モデラーに「覚悟を決めて貰う」ために採用しているそうだ。「しごき」のような世界だが、昔ながらのモノづくりの世界を踏襲しており、それがマツダのデザインの特長でもある無垢感を演出しているという。

 そうして作り上げたクレイモデルを計測し、鉄板に置き換えることでクルマを形作っていくが、クレイモデルは収縮するため1mm~5mmのブレがあるがあるのが一般的。たとえ5mm違っていたとしても「カタチは分かる」ためOKという考え方もあるが、0.1mmと5mmでは面の角度が変わってしまう。マツダの中では「作ったモノが答え」であるためそうした精度にはこだわっており、収縮の少ない新しいクレイを製作したほどだという。そのため、今では0.1mm~0.3mmの範囲で最終的な美しさを保証することができるそうだ。

 そうして生まれたのが魂動デザインであり、CX-5から始まる一連の魂動デザインモデルというわけだ。

カタチを作るにはまずはクレイを盛り上げていく。彫刻ではなく彫塑的な作り方だ
グランド整備に使うトンボのような道具で大まかなカタチを作っていく
形状や厚さの異なる鉄板で仕上げていく
テープを使いカッチリとした線を出す
モデラーが使うツールの数々。多い人だと100枚以上の鉄板を使い分けるという

(安田 剛)