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メルセデス・ベンツ、最新モデルに対応する板金塗装技術の説明会
「アルミハイブリッドボディー」や「レーダーセーフティ」などを正しく修復
(2015/8/4 00:00)
- 2015年7月31日開催
メルセデス・ベンツ日本は7月31日、千葉県習志野市にあるメルセデス・ベンツ日本 習志野トレーニングセンターで、報道向けの「板金塗装(Body&Paint)技術メディア説明会」を実施した。
近年のメルセデス・ベンツのモデルでは、5月に発表した「メルセデスAMG GT」で採用する90%以上にアルミニウムを使うシャシー技術の「アルミニウムスペースフレーム」や、2014年7月から販売を開始した「Cクラス」で採用するアルミニウムと高張力鋼板などを組み合わせた「アルミニウムハイブリッドボディー」など、鉄以外の材料を外装パーツやシャシーに多用。軽量化によって車両の運動性能や環境対応力を向上させている。
また、将来的な「クルマの自動運転」に向けた要素技術の開発と合わせ、各メーカーでブレーキの自動制御やレーンキープ技術などの市販化が進んでおり、メルセデス・ベンツモデルでもレーダーとカメラを組み合わせて使う「レーダーセーフティパッケージ」を採用。ほかの車両や歩行者などとの衝突の危険性を低下させる「PRE-SAFEブレーキ」、補正ブレーキを働かせて車両を車線内に戻そうとする「アクティブレーンキーピングアシスト」などの先進安全装備を導入している。
こうした新しい技術の採用により、クルマの商品性は大きく高められているが、一方で事故などのトラブルで板金塗装(BP)などの修理が必要になったときにはこれまでと異なる技術などが必要になる。また、とくに先進安全装備については、正しく修理が行われないとシステムが誤作動してしまう危険性もある。そのため同社では、自社におけるBP技術に対する考え方や採用している技術、指定BP工場の基準などを紹介し、ユーザーに適切な修理の重要性をアピールしている。
説明会は2部構成となっており、はじめに行われたプレゼンテーションでは、まずメルセデス・ベンツ日本 代表取締役副社長 サービス・パーツ部門担当の荒垣信賢氏が登壇。荒垣氏は「おかげさまで新車販売は大変好調に推移しております。昨年は初めて6万台の大台に乗る新記録でありました。今年の上期につきましても対前年比で19%増となっており、これも新記録です。新しいモデルを続々と投入したり、MBコネクションでの活動や豊橋VPC(新車整備センター)に併設した『デリバリーコーナー』など、新しい斬新なマーケティング手法も台数増加に寄与しているものと思います。一方でこれだけ新車販売が伸びてきますと、市場を走る保有台数もどんどん増えます。現在でも約63万台のメルセデス・ベンツ車が国内を走っていますが、現在のペース、あるいはそれ以上の新車販売のペースになると、これがさらに増えていくことになります」と語り、好調に伸びている同社の販売について解説。
これをふまえ「最新のモデルでは、例えば『レーダーセーフティパッケージ』が新車の90%ぐらいに付いている状態で、こういった車両が不幸にして事故などに遭ってしまった場合、その修理はきちんとしたものでなければなりません。センサー1つの取り付け方、角度や位置といったものが少しでも間違っているだけで、必要なタイミングで作動しなかったり、あるいは本来は作動してはいけないところで警報が鳴ってしまうようなことが起きます。一般の修理工場のみなさんもいろいろな努力はされていると思いますが、最終的な検証作業なしということでは、どこかで車両が危険な状態に陥る可能性があります」
「また、車両の軽量化や剛性強化などを目的に、アルミや超高張力鋼板といった新しい部材が使われるようになっています。昨年発表した新型Cクラスでは、アルミニウムハイブリッドボディーを採用しており、発表会ではアルミとスチールという異なる素材の結合技術について説明させていただきました。この点でも、(生産する)工場ではできても、市場に出たあとのクルマには対応できないということでは、私どもの安全に対する責務が果たし得ません。そこについてもきちんとした知識と技術、そしてツールを完備している正規販売店ネットワークに来ていただく必要があります」
「そこで私どもでは、しっかりした技術を伴い、道具や設備が整った『認定板金塗装工場』という制度の拡充を進めています。単純にボディーを叩き出す、ペイントするといった技術を持つ町の工場は実際に多いのですが、その先にある、仕上がったあとに校正を実施して検証されるためには、正規のツールや知識などが必要になります」と解説。先進的な安全装備やスチール以外の部材が多用されるようになった最新のメルセデス・ベンツモデルの魅力を維持するため、万が一の事故のときには指定BP工場を利用することが重要であるとアピールした。
荒垣氏に続き、指定BP工場における技術の概要などについて、メルセデス・ベンツ日本 技術部 技術フィールド課 マネージャーの寺島友義氏が解説。「ボディー修理によるカメラやレーダーセンサーへの影響」「軽量ボディー構造、及びその修理時注意すべきこと」「塗装の際注意すべきこと(クリアコートについて)」「メルセデス・ベンツ正規販売店指定板金塗装工場」の4点に分けてそれぞれ内容を紹介した。
「ボディー修理によるカメラやレーダーセンサーへの影響」では、最新のメルセデス・ベンツモデルに採用が進んでいるレーダーセーフティを取りあげ、この装備を採用する車両では、修理にあたってセンサー類を正しい位置に取り付けることが必要であり、カメラは専用の車両診断機やスペシャルツールによるキャリブレーション(校正)を行う必要があると紹介。また、正しく修理されなかった場合の例として、フロントバンパー内に設置されている短距離レーダーセンサーの取付不良についてムービーで解説。問題のない走行状況で隣のレーンを走る車両にセンサーが誤って反応し、車内に警報音が鳴る状況と、修理時にセンサーがわずかに間違って取り付けられていることを写真で紹介。本来と異なる取り付けでは機能が正しく働かないことに加え、このわずかなミスがセンサーの脱落に繋がった場合、不意に車両が急制動するおそれもあると語った。
「軽量ボディー構造、及びその修理時注意すべきこと」では、2010年の「SLS AMG」、2012年の「SLクラス」ではフルアルミニウム、2013年の「Sクラス」、2014年の「Cクラス」ではアルミニウムハイブリッドボディーを採用し、以前は限定的なモデルとなっていたアルミニウムなどの部材がCクラスのような生産台数の多い車両でも使われている現状を解説。Sクラスのボディー構造を例に挙げて、アルミとスチールを組み合わせた構造と事故発生時の応力分散、アルミを使っている部分は修理できないため交換が必要になることなどを解説し、この交換には特殊な技能と機材が必要になると明かした。また、Bピラーには「極超高張力鋼」という非常に硬い鋼材を使っており、事故後に交換するときには溶接ではなく、接着剤とリベットを使って接合することを紹介した。
このほか、新型のCクラスで採用された世界初の片面接合技術「ImpAcT(インパクト:Impulse Acclerated Tacking)」について解説し、このインパクトで構成されたボディーにも専用の補修方法が用意されていると語っている。
「塗装の際注意すべきこと(クリアコートについて)」では、メルセデス・ベンツモデルの指定塗料となっているクリアコートが高い耐擦り傷性を持ち、さらに熱によって復元する能力も採用していることから、修理時に一般的なクリアコートを使ってしまうと、経年変化で傷の付き方に差が出てしまうと解説している。
これらの理由から、正規販売店の指定BP工場で作業することが、修理後にもユーザーに安心して車両を使ってもらうために非常に大切で、指定BP工場の整備に注力しているとした。指定BP工場は1990年代に20個所存在していたが、ボディー構造の進化や先進安全装備の登場などを受けて2013年に基準の全面見直しを実施。現在ではレベル1~3の3段階で、全国に計38個所を展開している。