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パナソニック、頭をすっきりさせる車室空間など「WELL Cabin」の研究開発内容公開

トヨタ アルファードを活用して実証実験を行っている

 パナソニックホールディングス技術部門は、自動車による移動時間を有効に活用する「WELL Cabin」の研究開発内容を公開した。パナソニックグループが持つ「光」「音」「振動」「香り」に関する技術を組み合わせることで、社用車を利用するビジネスエグゼクティブの移動時間の効率化と、くつろぎを実現することをコンセプトに開発を進めており、これらの技術を活用したソリューション提案は、早ければ2026年にも、パナソニックオートモーティブシステムズを通じて、一部実用化していく考えも示した。

 今回公開したWELL Cabinは、パナソニックホールディングス技術部門の拠点がある大阪府門真市の敷地内で、研究開発が進められているものだ。

 トヨタ自動車「アルファード」を用いて、後部座席をカスタマイズし、同社が持つ各種技術を組み合わせることで、移動時間の体験価値向上を目指した実証実験を行っている。

 具体的には、運転席と後部座席の間に、55型の透過型ディスプレイを配置するとともに、覚醒用カラー照明、ハイレゾ音響スピーカー、振動用アクチュエータ、アロマディフューザー、電動遮光カーテンなどを後部座席に配置。これによって、移動中の車内で仮眠ができ、頭をすっきりさせることを目指しているという。

座席の様子。ビジネスエグゼクティブの利用を想定している
シートの間にアロマディフューザーを設置している
ハイレゾ音響スピーカーはヘッドレストの中にも組み込んでいる
背中部分には振動用アクチュエータが組み込まれ、音にあわせて振動する

 同社が、社用車を利用する107人のビジネスエグゼクティブを対象に調査したところ、車内での移動時間には、「頭をすっきりさせたい」が55.3%と過半数に達し、次いで、「短時間で寝不足解消」が21%、「集中力を高める」が7%、「気持ちをリフレッシュ」が7%になったという。

社用車を利用するビジネスエグゼクティブのニーズ

「日々忙しく移動しているビジネスエグゼクティブにとっては、社用車の中で頭をすっきりさせたいというニーズが圧倒的に高い。これまでの移動時間は、目的地までの時間をつぶすという受動的な時間であったが、これを次の仕事に向けてパフォーマンスを最大化する能動的な時間に変えていける。WELL Cabinを通じて、移動時間を頭、心、身体をすっきりさせる起動時間に変えることができる」と語る。

「移動時間」から「起動時間」に変えるのが今回の研究開発の狙い

 今回の研究開発は、「移動時間」から「起動時間」に変えるのが狙いとなる。今回公開した成果として、「Power Reset Mode」の実装例を紹介した。ビジネスエグゼクティブが使用している社用車が、次の目的地まで、約30分間の移動時間があると想定。

車内に55型の透過型ディスプレイを設置。運転席がうっすら見えており、透過型ディスプレイであることが分かる
実証実験を行っているサービスメニュー

 最初の3分間の「リラックス」フェーズでは、カーテンが自動的に閉まるとともに、透過型で前方まで見ることができていたディスプレイが切り替わり、映像を表示。昼から夜にかけて変化する深い森を巡るような映像コンテンツが流される。照明や音、香りとも組み合わせることで、リラックスに適した環境を提供。心と身体を落ち着かせることができる。続いて、20分間の「スリープ」フェーズでは、湖畔の静かな波をイメージした抽象的な映像と、波や水の音によって、短時間の眠りを誘うことになる。

「リラックス」フェーズでは森を巡る映像が流れる
「スリープ」フェーズでは抽象的な映像が流れている

 最後の3分間は、「アウェイク」フェーズとして、朝から昼にかけての生命感がある森の映像を使用するとともに、リズミカルなBGMや少しにぎやかな小鳥の声を流し、音にあわせてシートが振動して、カーテンが開き、快適な目覚めを誘導。頭をすっきりさせることができるという。

「アウェイク」フェーズに入ったところ、照明がつき、徐々に明るい映像が流れ、電動遮光カーテンも開き始める

「映像、音、振動、照明、香りといった五感に響く環境制御技術を活用することで、移動時間を使って、頭をすっきりさせ、効率よく疲れを取ったり、仕事に集中したり、リラックスしたいという要求にも応えられる空間になる」としている。

 検証においては、顔画像や心拍、脳波などセンシング技術を活用。パナソニックグループのエグゼクティブにも試乗してもらい、主観調査を実施したという。

「車内に一般的な大型ディスプレイを設置し、後部座席だけを区切ってしまうと車酔いしやすいという声があったため、通常は前方が見えるようにできる透過型ディスプレイを採用した。PCを接続すれば、大画面を使ったオンライン会議も可能になる。スピーカーは前方への配置とともに、ヘッドレスト内部にも設置しており、リラックス効果が高い包み込むような音を実現している」とし、「試乗してもらったビジネスエグゼクティブからは、社用車という閉ざされた空間で、移動中に頭をすっきりさせることができる体験に対して、高い評価があがっている。最終的には、個人ごとの特徴に合わせた環境提案も可能にしていきたい」としている。

 実用化した際の価格などについては未定だが、市販車として売り出すのではなく、カスタマイズサービスのような形で提供していく可能性が高いと説明した。

技術未来ビジョン

 パナソニックホールディングス技術部門では、2040年の「未来社会のありたい姿」とその実現に向けた研究開発の方向性として「技術未来ビジョン」を策定しており、エネルギーや資源がめぐる「資源価値最大化」、生きがいがめぐる「有意義な時間の創出」、思いやりがめぐる「自分らしさと人との寛容な関係性」の3点を、取り組むべき技術テーマ群に掲げている。

 今回の取り組みは、「有意義な時間の創出」の取り組みの1つであり、これにより、労働や仕事の効率化および質の向上を目指しているという。

「ひとの理解」技術の横断展開
「ひとの理解」技術の価値提供イメージ

 また、同テーマの実現に向けては、「ひとの理解」という領域からの研究開発を加速していることも強調する。ここでは、センシングとアクチュエーションを活用。1人ひとりの状態を理解し、よりよい状態へと導く技術と位置づけており、くらし、仕事、移動、公共空間など、さまざまな分野での活用を想定している。今回は車室空間の実証実験例を紹介したが、仮眠空間や瞑想空間などでも研究開発を行っているという。

「ひとの理解」技術で“ひと・場をよりよい状態”にしていく

 パナソニックホールディングス技術部門 DX・CPS本部デジタル・AI技術センター ヒューマンテックソリューション部の大林敬一郎部長は、「リアルな空間でセンシングをして、人に関するデータを取得し、人のメカニズムに基づいたモデルを構築。人の心身の状態を理解し、人の特性や関係性をもとにして、その人、その時、その場に応じて、五感への働き方によって、よりよい状態を実現することを目指している。ひとの理解が、仕事のウェルビーイング、健康寿命の延伸、心身関係性の理解といった価値の提供につながる」と説明する。

 同社技術部門では、心拍変化の違いだけで75%の精度で身体や精神、ストレスの違いを判別化したり、温度や照明、音環境に違いによって、眠気や集中状態への影響度を見える化したりといった研究開発成果があり、これらの技術も今回の車室空間の実現に活用している。

パナソニックホールディングス技術部門 DX・CPS本部デジタル・AI技術センター ヒューマンテックソリューション部の大林敬一郎部長

 大林部長は、「パナソニックグループが持つ音響、照明、映像、空間、空質といった技術を適切に融合させることで、人の五感に働きかけて、リラックスさせたり、作業に没頭させたり、好ましい気分になったりすることをサポートできる」とし、「心理実験室を設置し、ひとの理解に向けた基礎研究を行い、これを共通化した技術としてさまざまな事業、顧客、空間に展開するために、実証環境において特化したニーズへの研究開発を進めている。車室空間の実現もその1つであり、覚醒や集中といった共通技術を中心に活用していくことになる」と説明した。