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ソニーセミコンダクタソリューションズ、イメージセンサー事業が好調 「車載カメラはさらに多眼化が進む」と指田慎二社長

2025年6月13日 発表
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 代表取締役社長 CEO 指田慎二(さしだ しんじ)氏

 ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は6月13日、同社の事業戦略について説明会を開き、車載用イメージセンサー事業が2026年度に黒字化する見通しであることを改めて強調。2026年度までにグローバルOEMトップ20社に対して、90%を占める見通しにも自信をみせた。市場全体でも金額ベースでシェア43%の獲得を目指す。

 2025年4月にソニーセミコンダクタソリューションズの社長 CEOに就任した指田慎二氏は、「車載領域での事業化から10年以上経過し、ようやく収益貢献が見えてきた。2026年度は第5次中期経営計画の最終年度になる。黒字化は必達の目標として強く意識し、事業運営を進める」と宣言。「車載用イメージセンサーは中期経営計画で掲げた売上、シェアの目標を上まわる形で進捗している」と報告した。

車載用イメージセンサー金額シェア(ソニー調べ)では、2026年度までにシェア43%達成を目指す

 指田社長 CEOによると、「2026年度に向けたデザインインは済んでおり、世界中のOEMに対するアクセスもできている。あとはフォーキャスト次第であり、いかに利益を積み上げるかということになる」としており、「2026年度の黒字化の計画に変更はなく、その後も安定した収益を見込める」とも述べた。

 車載用イメージセンサー事業は同社の戦略事業の1つで、今後も大幅な成長を見込んでいる。

 指田社長 CEOは、「車載用モバイルセンター事業における成長ドライバーは多眼化である。車両の販売台数は、2030年度に向けて2019年度比で9%増だが、車載カメラの数量は7倍以上(約720%)を見込んでいる。2024年度時点の予測に比べても増加している。EVをはじめとした自動車業界全体の動向は注視していく必要があるが、クルマの知能化に伴い、車載カメラの認識性能の重要性は増している」とし、「多眼化により、前方向のセンシング、横方向のセンシング、リアビューモニターなどにも採用が進んでいる。いまは1台あたり平均3.5個のカメラが搭載されているが、2030年には6.5個にまで増加すると見ている」と、車載用モバイルセンターの力強い市場成長への期待を語った。

自動車市場におけるさらなる「多眼化」の進展予想

 車載カメラで求められているのは、動く被写体を認識することであり、そこにはイメージセンサーの動画性能が直結することになる。とくに、白飛びや黒つぶれをなくすダイナミックレンジの拡大と、信号機や標識を撮像する際に発生するLFM(LED Flicker Mitigation=フリッカー抑制)の両立が鍵になり、そこにソニーセミコンダクタソリューションズの強みが生かせるという。

 指田社長 CEOは、「自動運転の高度化に伴って長距離を認識するニーズが高まっている。イメージセンサーの画素サイズを小さくすることで、単位面積あたりの画素数を増やす多画素化によって解像度を向上させるとともに、画素が小さくなることで犠牲になる感度やノイズの再強化も重要になる。さらにダイナミックレンジを強化するために、複数のフレームを合成する手法が採用されており、そのためには読み出し速度が重要になる。だが、これは消費電力の増加にもつながるため、センサーの高温特性や発熱対策が求められる。それぞれの特性のトレードオフを解消し、総合的に進化させなくてはならない。センサー特性を総合力によって一層強化していく」と次なる技術発展の方向性を述べた。

車載カメラの性能進化

 また、EV市場の停滞やトランプ関税の影響などによって、自動車産業全体に先行きの不透明感があるものの、「クルマの知能化によって、ADAS(先進運転支援システム)およびAD(自動運転)が進化している。搭載されるセンサーの1つひとつが高性能化し、スマホのように多眼化が進むのは間違いない。EV市場の停滞感はあるが、イメージセンサーの市場には大きな影響はない。グローバルのお客さまとのコミュニケーションをしっかりと取っており、市場でのプレゼンスも高まっている。車載用イメージセンサービジネスの状況はわるくはない」と改めて強調。「関税の影響を直接受けることはない。だが、自動車の売上げが停滞する可能性がある。そこに注視する必要がある」と述べた。

 EVの進展が先行している中国市場については、「他の地域よりもEV化が進展しているものの、地場OEMが強く、ローカルのイメージセンサー企業もあるし、地政学的な変化にも感度を高める必要がある。それでもSSSが持つ技術的な実力を評価してもらい、中国でもビジネスができている状況だ。車載用イメージセンサーに求められる性能レンジは、モバイル向けイメージセンサーよりも狭い。動画性能の高さを継続的に訴求していく」と中国市場での発展性についても言及した。

 一方で、「LiDARに対する需要は中国に集中している。LiDARはお客さまごとにコンセプトが異なっており、それに沿って提供していくことになる」としながらも、「だが、自動運転がさらに広がった時代には、LiDARに対する要求が高まると見込んでいる」と指田社長 CEO。

 ソニーセミコンダクタソリューションズでは、2025年6月に高解像度および高速性を同時に両立する車載LiDAR向け積層型直接Time of Flight(dToF)方式のSPAD距離センサー「IMX479」を発表している。

車載LiDAR向け積層型dToF方式のSPAD距離センサー「IMX479」

 ラインスキャン方式の精度を高めるために、最小3×3(水平×垂直)のSPAD画素の組み合わせを、1dToF画素として用いているのが特徴で、独自のデバイス構造によって、520dToF画素の高解像度のSPAD距離センサーとしては最速となる20fpsのフレームレートを実現しているという。ADASやADの普及に求められる車載LiDARの高解像度と、高速な測距性能を実現することで、安心安全なモビリティの未来に貢献できるとしている。

 一方、指田社長 CEOは、「SSSのミッションで掲げている『テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす』という方向性は今後も変わらない」と、新社長としての経営方針について言及。「ミッションを実現するのがテクノロジーであり、すべての価値を創出するベースになる。現在はモバイルをはじめとしたイメージセンサービジネスが中心となっているが、第2、第3の柱を作りたい。CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)を新たに設置し、新規ビジネスを生み出すこともリードしていく」。

「事業環境は激しく変化している。変化への感度を高く持ち、それに対応すべく、複数のシナリオを持ち、自らコントロールすることに集中する」と抱負を述べ、「ソニーグループは、映像の文化を創ってきた企業である。イメージセンサーというデバイスの切り口で、新たなイメージングの世界をクリエイトし、世の中に感動をもたらしてきた。これは今後も期待されていることである。イメージングとセンシングの技術を極めて、新たな市場を創出していくことがソニーグループへの貢献になる」と述べた。

 ソニーセミコンダクタソリューションズでは、主力となるモバイル用イメージセンサーにおいて、多眼化による機能向上、大判化による画質向上によって差別化を図ってきたが、新たな取り組みとして、高密度化に取り組む方針を打ち出している。

 指田社長 CEOは、「次の進化のドライバーは高密度化だと考えている。これによってリアルタイムクリエイションを実現できる」と位置づけ、「高密度化を実現するのは、プロセスノードの適合化によって平面方向に高密度化を図る技術と、多層化による垂直方向への高密度化になる。センサーの限られたスペースのなかで、縦と横の方向に高密度に素子を実装し、センサーの特性を高めることができる」と説明した。

高密度化を実現する2つのテクノロジー

 プロセスノードの適合化により、感度やノイズ、ダイナミックレンジが改善し、低照度でも明るく、ノイズ悪化がなくなるため、明るいシーンでも白飛びがないというメリットが生まれる。また、多層化によって、RGB画素と被写体の変化のみを捉えるEVS(イベントベースビジョンセンサー)の搭載や、ロジック回路の組み合わせを3層にすることで、高精細で、高フレームレートでの動画撮影が可能になるという。

 また、高密度化は、ソニーセミコンダクタソリューションズが、中長期技術戦略として推進しているイメージングとセンシングの融合にも寄与し、2Dイメージングだけでなく、3D(深度)、4D(時間)、5D(スペクトル)をワンチップで実現することにもつながる。

 これは、将来的にはモバイル用イメージセンサー以外のアプリケーションにも展開が可能であり、高密度化で培った技術は、車載用を含むイメージセンサー全体にも貢献するという。

 また、高密度化の追求により、AIが付加価値を生み出しやすい情報の収集が可能になるというメリットも生まれると述べた。

プロセスノードの適合化・多層化による特性強化の一例

 最後に、ソニーセミコンダクタソリューションズでは、2024年度~2026年度までの3か年の設備投資計画において、高密度化のための先端プロセス投資として、全体の約50%を占める計画を打ち出しており、それを前倒しで進めることを明らかにした。高密度化への投資については、現中期経営計画では開発への投資が中心となり、量産設備への投資は、次期中期経営計画以降になるとしている。

イメージセンサー設備投資 3か年計画の推移