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ソニーの車載用イメージセンサー事業について ソニーセミコンダクタソリューションズの清水CEOに聞く
2023年6月26日 16:46
- 2023年6月23日 発表
ソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長兼CEOは6月23日、共同インタビューに応じ、車載用イメージセンサー事業が、前年比約2倍の成長を遂げていることに言及。2025年度の目標に掲げている車載用イメージセンサー市場における金額シェア39%の獲得に向けても、「現時点で、2025年度の商談はほぼ確定しており、大丈夫である」と、目標達成に強い自信をみせた。
車載用イメージセンサー市場におけるソニーの金額シェアは、2021年度には9%だったが、2022年度には25%に拡大。「ソニーは、この分野では後発であり、売上げが立つまでに時間がかかったが、2021年度から2022年度、そして2023年度と、売上げは倍々で増えている。とくに、2022年度は売上高を大きく伸ばすことができ、飛躍の年となった。業界におけるプレゼンスを高めることができた」とする一方、「まだ先行投資が続いている領域ではあるが、収益貢献は2024~2025年度に始まることになる」との見方も示した。
ADASや自動運転の普及に伴い、安心安全を支える車載カメラの需要が今後も増加すると予測。2030年度までの車載カメラ市場の年平均成長率は約13%になると見ており、とくに、ソニーの注力市場である高付加価値領域が今後の成長を牽引すると推測している。
また、ソニーがターゲットとしているのは、グローバルトップ20社の自動車OEMとの商談であり、2022年度には55%だった取り引きが、2023年度には65%に増加している。2025年度には75%に拡大する計画を打ち出していたが、これを85%にまで拡大する計画を新たに打ち出している。
「成長機会を確実なものにするため、世界中の自動車OEMや、パートナーとのエンゲージメントを強化している。世界の自動車市場は、上位20社で80%のシェアを占めている。この市場において、いかにして商談を獲得していくかを事業戦略のメインに置いている。2022年度も順調に商談を獲得できたことから、2025年度の計画を上方修正した」という。
ソニーの車載用イメージセンサーが急成長を遂げている要因は、技術的優位性が発揮できている点だと自己分析する。
「ソニーセミコンダクタソリューションズが提供するADAS向けセンサーや、リアカメラ向けセンサーなどは、画素数が大きいものが需要の中心となっており、ダイナミックレンジが高い製品が求められていたり、フリッカー対策が必要になったりしている。その観点から見ると、選択できる製品はソニーに限られてくる。自動車OEMから技術的な差異化が認められており、これが売上げ増加の背景にある」と、清水社長兼CEOは胸を張る。
さらに、イメージセンサー本体の優位性に加えて、ソフトウェアにおいても付加価値を提供しており、これが新たな価値提案につながっていることも強調する。
「独自のソフトウェア技術により、車外環境を高精度に認識して、その認識結果をもとに、自動で地図を生成することができるため、スムーズな駐車支援を行える環境が提案できる」と語る。2023年4月に、日産自動車が発売したセレナ e-POWERに搭載しているプロパイロットパーキング機能は、ソニーセミコンダクタソリューションズのソフトウェア技術を採用して実現したものだという。
一方、ソニーセミコンダクタソリューションズでは、スマホ向けモバイルイメージセンサーの進化についてロードマップを公表しているが、この成果を車載用イメージセンサーにも展開する考えを示した。同社では、モバイル向けイメージセンサーでは、4Dおよび5Dへの技術進化を打ち出しており、これらの技術が車載用としても差別化できるものになるという。2Dは二次元情報であり、3Dは深度方向(Depth)であるのに対して、今後、技術進化を進める4Dは時間を指し、5Dは波長を意味することになる。
清水社長兼CEOは「モバイルイメージングの技術進化は、まだ余地がある。ソニーは、それを実現するための手段も数多く有している。競争軸となる解像度や感度、ダイナミックレンジといった画素における基礎特性で圧倒的ナンバーワンを実現するとともに、ToFイメージセンサーやEvent-based Vision Sensor(EVS)、近赤外領域センサーなどの進化にも取り組み、新たな価値を提供することになる。4Dは、2年後にはサンプル出荷をしたい」とする。
たとえば、EVSでは、レイテンシーがない高速読み出しや、ブレの除去ができ、動画特性をさらに高めることができるという。
「RGBセンサーから得た2Dの画像情報に加えて、深度、時間、スペクトルといった別次元の情報を付加することで、モバイルイメージングの提供価値をさらに高めることができる。これだけ多種多様なセンサー技術を持つ企業はほかにはない。センサー技術としての総合力は圧倒的な強みになる」とする。その上で、「5Dでは、偏光イメージセンサーや低照度RGB、NIR(Near-Infrared)などによって、暗いところでも、よりよい撮影ができるようになる。これは、クルマにも応用でき、カメラと車載LiDARなどと組み合わせて、雨天時や夜、暗がりなどにおいて、正確にまわりを認識したいというニーズに対応できる」と語った。
なお、ソニーグループでは、現在取り組んでいる2023年度を最終年度とする第4次中期経営計画において、イメージセンサー分野に対して、3年累計で9000億円の投資を見込んでいるほか、2024年度からスタートする次期中期経営計画においても、同等規模の投資を計画。ソニーグループの十時裕樹社長COO兼CFOは、これを、「これまでとは次元が異なる投資」と表現している。
同社では、熊本県合志市に、27万平方メートルの土地を取得する計画を発表しており、このほど、2023年中には取得手続きを完了することを明らかにした。取得金額は非公表だが、次期イメージセンサーの生産を行なう新工場の建設を想定している。また、工場建設時期については、「いまは景気状況が悪いため、市場動向を見ながら、タイミングを判断したい」とするに留めている。
ソニーセミコンダクタソリューションズの清水社長は、今後の投資の内訳について、「2024年度からの投資は、長崎Fab5への追加投資と、熊本に新たに取得した土地での新工場への投資準備が基本になる。工場投資がメインとなるが、R&Dにも継続投資し、M&Aについて規模は大きくないものの、検討も進めていく」と語っている。