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1周年を迎えた麻布台ヒルズのブランドストア「FREUDE by BMW」について、長谷川正敏社長に聞く

「FREUDE by BMW」についてビー・エム・ダブリュー株式会社 代表取締役社長の長谷川正敏氏がインタビューに応じた

 ビー・エム・ダブリューが麻布台ヒルズ(港区麻布台)にオープンしたブランドストア「FREUDE by BMW(フロイデ・バイ・ビーエムダブリュー)」が1周年を迎えた。

 FREUDE by BMWは「人生に、駆けぬける歓びを。」をコンセプトに、ブランドをより身近に感じてもらうことを目的に作られたブランドエクスペリエンスセンターという位置付けで、現在ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、東京の4か所にしかない施設。世界的に希少価値が高いコンセプトモデルや最新モデルの展示はもとより、日本とドイツの食文化を融合させたカフェバー、8席限定の日本料理レストラン「無題」、BMWブランドの世界観に合ったインテリアやアートを展示する特別な顧客向けのラウンジエリアなどを用意するのが特徴になる。

 この1年を振り返ると、FREUDE by BMWではM5、1シリーズ、X3、2シリーズ グランクーペといった新型モデルの発表会を実施するとともに、その新型車両から着想を得たフードメニューの提供、さらに世界の名だたるアーティストとのコラボレーションによって生み出されてきた「BMWアート・カー」の展示、日本専用限定車「X7 BLACK-α」の購入検討者を招いてトークショー形式の製品説明会を行なうなど、さまざまな角度からBMWの魅力を発信してきた。その効果もあり、年間で7万人以上の来場者があったという。

 同社は東京 お台場に「BMW GROUP Tokyo Bay」という施設を持ち、こちらはBMW&MINIのブランド体験型販売拠点という位置付けだが、FREUDE by BMWでは販売を行なわない。そんなFREUDE by BMWが1周年を迎えたタイミングで、ビー・エム・ダブリュー 代表取締役社長の長谷川正敏氏と、同社営業部 ビジネス・ディベロップメント BMWラグジュアリー・クラス/BMW M シニア・マネージャーの巻波浩之氏がグループインタビューに応じた。なお、巻波氏はモータースポーツの分野に加え、ラグジュアリーセグメントやブランドエクスペリエンスセンターなどにおけるサービスの質の向上を目的としたトレーニングの責任者になる。

ビー・エム・ダブリュー株式会社 営業部 ビジネス・ディベロップメント BMWラグジュアリー・クラス/BMW M シニア・マネージャーの巻波浩之氏

 インタビューの冒頭、長谷川社長はBMWとして今後8シリーズや7シリーズ、X7といった高級セグメントの車両の拡販を目指すことがアナウンスされ、「今後ワンノッチスピードを上げていく」と述べた。

 また、巻波氏は「どうやったらプレミアムセグメントでナンバーワンになれるか、ということを深く考えて取り組んでいます。BMWは世界的なプレミアムのクルマブランドではトップクラスだと思いますが、果たして日本でトップクラスにいるかどうかと考えたときに、もっと頑張っていかないといけないと思っています。ドイツ本社のオリバー・ツィプセ会長(BMW AGの取締役会会長)は『われわれは、他社と比べて明らかに違うサービスや品質を提供しなければならない。さらに、提供するだけでなく、それをお客さまに感じ取っていただくことが重要である』とおっしゃっていて、それを日本のお客さまに感じ取っていただけるようにしていくことが私たちの課題」という。

 その解決策の1つがFREUDE by BMWとなるが、それにとどまらずディーラーのトレーニングや新しいショールームコンセプト「リテール・ネクスト」の導入なども進めているという。リテール・ネクストとは顧客のニーズや思考を第一に考えるカスタマー・セントリック(顧客中心主義)をテーマに、魅力的なショールームでの体験を提供する新しい販売のコンセプトであり、持続可能な環境に優しいデザイン設計を特徴としている。

新しいショールームコンセプト「リテール・ネクスト」に基づいたショールーム(イメージ)

 また、課題解決においてもっとも重要だと位置付けているホスピタリティトレーニングについても販社に加えビー・エム・ダブリューでも進めているところだといい、「ラグジュアリーセグメントにふさわしいホスピタリティを提供できるよう、トレーニングしています。私たちの最終的な目標はセールスコンサルタントやサービスアドバイザーにコンシェルジュのようになってもらいたい。お客さまがなんでも相談できるような体制をきちんと整えていきたい」と抱負を語った。

 以下、インタビューの内容を記す。

リテール・ネクストとブランドエクスペリエンスセンターのハイブリッド型を検討

1周年を迎えたFREUDE by BMW

――FREUDE by BMWは世界に4店舗しかないが、そのコンセプトは世界共通なのか、それぞれの地域で独自に展開しているものになるのでしょうか?

長谷川正敏社長:こういったブランドエクスペリエンスセンターというのはそれぞれの国に特殊性がありますので、実はブランドを体験していただくというコンセプトは共通ですが、作りは若干それぞれで違います。広さも異なり、実は東京が一番大きいです。東京では全体の価値観をしっかりとお客さまに伝えていこうということで、カフェバーや日本料理の高級店が入るのは実は東京だけになります。そういった意味で、ブランドをお伝えする、体感するという観点は同じですが、その在り方というのはそれぞれの国の文化に合わせていっているのが実態です。

――FREUDE by BMWに訪れた方の反響はいかがでしたか?

長谷川正敏社長:実は正直に申し上げますと、もっと刺さってほしいなというのがあります。やはり最初の1年目になりますので、われわれも大々的に宣伝していないということもあります。こういったものは静かにクチコミで「実はBMWにはこういう施設がある」というのが伝わっていくという形にしたいのが根底にあります。もう少し使用頻度を高めたいなというのはあるのですが、今後どうやってそれをやっていくか、今の形のままでいいのか。われわれも社内で話し合っています。

――先ほどプレミアムセグメントにおいてBMWが日本でトップクラスにいるかどうか、というお話がありました。そのあたり課題というのはあるのでしょうか。

巻波浩之氏:例えば、販売台数で見ると、JAIA発表のとおりナンバーワンでないというのがあります。われわれとしては、販売台数だけでなく、他社と異なるサービスや品質を提供していくことでトップクラスを目指す、つまり、台数を上げるための戦略だけでなくソフトウェアはどうなのか、といったことを改めて見ています。個人的に思うのは、営業マンとお客さまの関係が重要だと思います。展示会やイベントなどに伺うと、まだまだサービスの質を高めていくことは可能だと思います。私自身、BMWのクルマが好きで、誇りをもっています。なので、よりそのサービスの質を高めていきたいと感じています。例えば、小さなことですが道にゴミが落ちていたら拾う、当たり前だけどそういう小さいことも含めてやっていかないとプレミアムなブランドとして成り立たないのではないか。そんなところに違いを感じています。

――日本での立ち位置というのは、日本のお客さまが販売店にそういうのを求めているのか、そのあたりはいかがでしょう?

長谷川正敏社長:たぶん、世界の中でお客さまの要求度というのは日本が世界一だと思います。BMW 日本法人としては、これまでそこにあまり力を入れてきていなかったなというのが反省点でして、われわれとしてそこに突っ込んでやっていきたい。お客さまの要求度にしっかりお応えする、そういう体制にしないとダメだと思います。いろいろな評価基準があるのですが、(BMWが展開する)ほかの国と比べると相当高いレベルのことを(日本法人は)やっている。たとえば代車がしっかり出てくるのは日本であって、ほかの国に聞きますと代車なんて用意しているの? というほどレベルの違いがある。日本では何かあればお客さまのところへ行って不具合があれば誠意を持って対応する。小さなことですが、そういった点は日本では非常に細かく要求されますので、ジャパンとしてのオペレーションには相当気を使っています。

――FREUDE by BMWへの来場者が7万人以上だったとのことですが、当初の見込みと比べていかがでしたでしょうか。

長谷川正敏社長:当初の想定よりは若干上まわっており、興味を持ってきていただいたお客さまが住まれている地域の販売店がしっかりとフォローアップする。このフォローアップ率が高く推移しており、おかげさまで徐々にそういった動きが加速し始めているのが現状です。われわれとしてはもう一段階レベルを上げたいということで、そのベストな方法を社内で検討しているところです。

FREUDE by BMWでは最新のコンセプトカーから歴史的なモデルまで、さまざまな車両を見ることができる(定期的に車両入替が行なわれる)

――BEV(バッテリ電気自動車)について、輸入車の中で値下げするメーカーも出てきていますが、価格戦略についてどのように見ていらっしゃるでしょうか。

長谷川正敏社長:価格戦略という観点よりも、BEVに関してはいろいろな国を見ていただくと分かると思うのですが、競合メーカーが近年増えています。1つの例として中国を見ていただくと分かるとおり、中国メーカーが相当力をつけてきており、中国国内市場は中国メーカー以外の自動車メーカーが大変になっているのが実態です。少しずつ価格戦争に入ってしまっているところもありますが、幸いにして、日本市場でのBEVの需要はきわめて小さいので、価格戦争に入るつもりはまったくありません。われわれはいつも申し上げているとおり360度方位でいろいろなパワートレーンを持ち、需要に合わせていこうということでBEVに戦略的な価格をつけていくというのはいっさいないです。

 今後、次世代のBEVを来年導入する予定でございまして、パフォーマンスも相当上がってきています。そういった意味で内燃機関モデルとほとんど差がないものを提供し始められるであろうということで、BMWとしてはしっかりブランドと価格戦略の軸は曲げずにやっていきます。

――販売台数としては1シリーズやX1、X3が大きいと思いますが、富裕層の取り込みについてどのような戦略を立てていくのでしょうか。

長谷川正敏社長:われわれは富裕層を意識するというよりも、富裕層の方々もしっかりと対応できる体制をとり、同じサービスを1シリーズのお客さまにも提供していく戦略なので、必ずしも富裕層を狙っているわけではありません。BMWとして非常に質の高いサービスを上のクラスから下のクラスまで、われわれとしてはお客さまを絶対に差別化したくないのです。

――他のブランドが展開するブランドストアと比べ、FREUDE by BMWの強みとはなんでしょう?

長谷川正敏社長:じつはFREUDE by BMWを開く前にポップアップストアなどもやってきたのですが、まだいろいろと吸収しているというのが実態です。FREUDE by BMWを開いたからといって納得しているわけではなく、FREUDE by BMWの発展型についても社内で話しておりまして、できればこの1~2年くらいで違うコンセプトのものができればいいなと思っています。まだまだ検討段階ですが、将来的にリテール・ネクストとブランドエクスペリエンスセンターのハイブリッドみたいなものができるとおもしろいのではないかというコンセプトがあります。

1階のカフェバー(左)と特別な顧客向けのラウンジエリア(右)

――FREUDE by BMWの来場者が7万人を超えたもののちょっと数字が足りていないというお話もありました。たとえば何万人を目指しているとかあるのでしょうか。

長谷川正敏社長:おそらく勝負はこれからと思っていまして、そこでどれだけの成長が出てくるかというのが1つの指標かなと感じています。それをベースにして先ほど申し上げたとおり、次のステップをどうやって決めていくか、もうちょっと具体的に戦略を考えていきたいと思います。

――たとえばFREUDE by BMWを東京以外のエリアでも展開するということも考えていらっしゃいますか?

長谷川正敏社長:FREUDE by BMW規模のものを作るとなると多大な投資が必要になります。日本国内で何店舗か持つのは無理なので、われわれ社内でよく“ライトハウス”と呼んでいるのですが、1つのものを作ってそれを各地域におけるリテール・ネクストで展開するというのをコンセプトにして検討しています。リテール・ネクストは主にハードウェアの部分です。そして、いま力を入れているのはソフトウェアの部分で、ホスピタリティなどのスタッフのトレーニングを行ないます。ブランドとの接点となる、販売店だからこそ、リテール・ネクストに合うホスピタリティをご提供すべく、サービスの向上に努めています。

――たとえば小型モデルなどの販売台数が増えていくとブランド価値が下がっていく形になるかと思いますが、BMWは販売台数を追わず収益性を高める方向性という理解でよろしいでしょうか。

長谷川正敏社長:台数の拡販を行なうことで、収益も高められると思います。1シリーズ、2シリーズ、3シリーズという小型車はBMWでは人気が高いです。だからこそ、1シリーズから3シリーズまでの土台作りをしっかり強化しながら、5シリーズから上のセグメントもさらに伸ばしていきたいと思います。もちろん、BMWならではの質も提供していくことは重要だと思います。

――最近コーンズさんやポルシェさんが木更津付近で走りに特化した体験施設も日本にはありますが、BMWでそういう方向性の施設を検討されたりはしていますか?

長谷川正敏社長:個人的にはやりたいのですが、BMWを本気で走らせるのであれば本物のサーキットに行かないと難しいかなと思います。そうすると全日本級のサーキットである、富士スピードウェイなどを貸し切るようなイベントで走っていただくのがベストということで考えています。