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ブリヂストンがタイヤメンテナンス技能の競技会を開催する意味とは?

「第15回技能グランプリ全国大会」「第3回ソリューションエンジニアコンテスト全国大会」を見学

2025年9月4日 開催
「第15回技能グランプリ全国大会」「第3回ソリューションエンジニアコンテスト全国大会」が北九州国際会議場で行なわれた

トラック・バス向けのソリューション活動を強化

 ブリヂストンのグループ会社であるブリヂストンタイヤソリューションジャパンは9月4日、北九州国際会議場(福岡県北九州市小倉北区)においてタイヤメンテナンス技能の競技会「第15回技能グランプリ全国大会」と、輸送事業者へのソリューションビジネス提案・営業力の競技会「第3回ソリューションエンジニアコンテスト全国大会」を開催した。

 この取り組みはトラック・バス向けのソリューション活動を強化するための人財育成を目的に開かれているもので、技能グランプリとしては15回目、ソリューションエンジニアコンテストとしては3回目を数える。

 技能グランプリはタイヤメンテナンスに携わるメンテナンススタッフの育成活動の1つ。2025年は全国のブリヂストングループおよび関連のトラック・バス用タイヤ販売店から344名が5月ごろからスタートした地区予選に出場。予選を勝ち抜いた代表選手40名が、全国大会でタイヤメンテナンスの作業スキルやユーザーへのアドバイス力を実作業形式で競い合った。

 この技能グランプリでは高い技能を有するメンテナンススタッフを「技能エキスパート」に認定し、その中で技術および知識の観点から特に優れたスタッフを「技能マイスター」として認定する役割もあり、今大会では新たに14名が技能エキスパートに、うち10名が技能マイスターに認定された。2010年の第1回大会から本大会までの参加者はのべ5000名以上に上り、技能エキスパート・技能マイスターの認定数は総勢139名まで増えたという。

技能グランプリのようす。344名が地区予選に出場し、予選を勝ち抜いた代表選手40名が今回の全国大会に出場した

 一方のソリューションエンジニアコンテストは販売現場における営業品質の向上と裾野拡大を図るため、このコンテストを通じて高いソリューションビジネスの提案・営業力をもつセールススタッフの育成を目的としたもの。

 全国大会では、市場環境の変化や事業者の困りごとを適切に捉える分析力と顧客毎にカスタマイズした「Tire Solution」(安全・安心につながる高品質な製品とサービスを提供すること)を組み立てるスキル、ソリューション提案内容の価値や効果を適切に伝えるコミュニケーションスキルをロールプレイング形式で競い合った。

 地区予選にはブリヂストングループおよび関連のトラック・バス用タイヤ販売店のセールススタッフ339名が出場し、全国大会では代表16名がソリューションを活用した商談スキルを披露。最優秀1名、優秀者2名が表彰された。

ソリューションエンジニアコンテストの地区予選には339名が出場し、全国大会では代表16名が参加した

車輪脱落事故が近年高止まり

ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社 ソリューション事業担当の仲村克則氏

 大会に先立ち技能グランプリとソリューションエンジニアコンテストの説明会が行なわれ、ブリヂストンタイヤソリューションジャパン ソリューション事業担当の仲村克則氏、常務執行役員 技術サービス本部長の菊地俊夫氏、TB・LTソリューション事業本部長 安田裕樹氏が登壇。

 仲村氏は冒頭、ブリヂストンの企業理念「最高の品質で社会に貢献」について説明し、この理念が時代の変化に対応しながらも変わらず受け継がれていることを強調するとともに、2050年に向けたビジョン「サステナブルなソリューションカンパニー」として、社会価値と顧客価値を持続的に提供する会社を目指していると述べた。

 仲村氏は続いて輸送業界を取り巻く環境の変化と課題の多様化について触れ、特に車輪脱落事故の社会問題化、カーボンニュートラルへの対応、ドライバーの時間外労働時間上限規制(物流2024年問題)などが喫緊の課題となっていることを指摘。これらの課題に対応するため、同社はタイヤの品質向上だけでなく、多様化する輸送業者の課題を解決する総合的かつ柔軟なソリューション提案を強化していると説明し、「それを実現するにはソリューションネットワーク、B selectの拡大強化および人材の育成が必須となります。具体的にはお客さまの課題に応じた最適なソリューション提案ができる人材の育成、および高品質メンテナンスを提供できる人材・店舗の拡大が必要だと考えております。今回の両競技会を通じ、顧客課題解決に貢献できるソリューションエンジニア、高品質メンテナンスサービスでお客さまの稼働を足下から支える技能マイスター・技能エキスパートの育成を行ないながら、当社として提供価値を最大化する活動を推進してまいります」と述べた。

各競技の概要と目的

 一方、菊地氏は技能グランプリについて説明する前に、車輪脱落事故が近年高止まりしている状況について報告。ここ10年で2023年度の142件が過去最多となっており、その事故が発生する直前にタイヤ脱着作業を行なったところを調べたところ、大型車を保有している事業者(大型車ユーザー)が56%、タイヤ専業店が23%、自動車整備事業者が14%、不明7%という内訳だったという。

 これを受けて国土交通省では貨物自動車運送事業者への行政処分を2023年10月1日に導入し、車輪脱落事故を起こした自動車運送業者に車両の使用停止(初違反:20日車、再違反:40日車。20日車とは1台の車両を20日間止めるか、20台の車両を1日止めるかという意味)を課す。菊地氏はこうした状況を踏まえ、安全な作業の重要性を強調するとともに、同社が10年以上にわたって作業標準の確立や人材育成に取り組んでおり、技能グランプリはその一環として実施されていることを紹介。「われわれのお客さまである事業者さまの方ではタイヤの脱落というのは喫緊の課題になっている」とし、事業者に対する安全啓発を行なっているとも話した。

ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社 常務執行役員 技術サービス本部長の菊地俊夫氏
車輪脱落事故の現状

技能グランプリにおける24分の意味

技能グランプリとソリューションエンジニアコンテストを見学

 こうした説明を受けたのち、技能グランプリとソリューションエンジニアコンテストを見学させてもらった。技能グランプリの会場へ行くと、出場者は1つひとつの点検内容を審査員に分かるよう大きな声で伝えながらとんでもないスピードで正確に作業を進めている。大型車用のタイヤとホイールはそれぞれ50kg、1輪あたり100kgもの重量があるといい、それをいとも簡単に車体側から外し、点検し、整備し、もとに戻していく。

 よくよく見ると、ジャッキアップでは車体を余計に持ち上げず、タイヤがギリギリ浮くあたりを見極めて作業していたことに気が付いた。作業効率を高めるということもあるのだろうが、余分なすき間を作らないことで怪我をするリスクを回避しているのだろう。とてもプロフェッショナルを感じる瞬間だった。

 聞いたところによると、技能グランプリでは24分という時間が設けられており、その時間内に終わらせるというのが1つの審査基準となっている。たまたま見学したミスタータイヤマン矢吹店から出場していた岩井洋太さんのタイムは23分47秒で、あのすさまじいスピードで作業をこなしていっても13秒しか余裕がないのかとおどろいた。

「24分という時間設定が絶妙なのです」とは運営サイドのスタッフ談。「グランプリだから時間設定があるほうが盛り上がりますよね」と言ったところ、そういう意味ではなかった。この24分という時間は、タイヤ交換の繁忙期に作業する際にかかる時間とほぼ同じなのだという。そして今回の技能グランプリ全国大会参加者のタイムはというと、全員が23分30秒~24分30秒の間に収まっていたとのこと。

 すべては安全運行確保のため。作業を終えた参加者たちの汗だくの姿を見て、とても頼もしく感じる次第だった。