レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】ブリヂストンの新タイヤ「ブリザックWZ-1」を氷上と一般道で試す

従来製品からICEブレーキ11%、氷上旋回のラップタイム4%短縮の実力やいかに?

4年ぶりのブリザック新製品「WZ-1」に試乗

新製品「ブリザックWZ-1」をチェック

 35年を超える歴史を持つブリヂストンのスタッドレスタイヤ・ブリザック。その乗用車用の新商品が2025年にいよいよ発売となる。2021年に登場した「VRX3」以来、4年ぶりとなる新作は名称もがらりと変更し「WZ-1」となった。これは次なるステージへと進化したということなのか!? コンセプトを見ればブリザック史上「断トツ」のICEコントロール性がもたらす安心感ある走りとある。キーワードには止まる、曲がるはもちろん、粘るという言葉が加わったことも印象的。さらに性能長持ちといったことも謳っている。果たしてどんな仕上がりなのだろう?

 トレッドパターンを見てみればリブ基調に作られ、これまで通り接地面積をとにかく意識した作りであることがうかがえる。その上で細かく変化してきたのはサイプとブロックの形状だ。氷板路における引っ掻き効果を狙い、「WZ-1」では端止めサイプやL字ブロックを採用。氷の表面の水を取り除きグリップを出すために、今回はL字タンクサイプも採用している。これはサイプに溜まった水を太い縦溝にうまく流す「水を導く」機能を持つほか、L字部分が水を貯水する機能まで持っているという。

 ゴムは「Wコンタクト発泡ゴム」を採用。これは滑りの原因となる水をゴムが吸収するだけでなく、ゴムが水に触れた瞬間に覚醒する親水性向上ポリマーを採用することで、ゴムのグリップ力を高めるというものだ。このゴムには性能が長持ちするという「ロングステイブルポリマー」も採用されており、4年後でも旧製品「VRX3」の新品時のグリップを上回るグリップを確保するそうだ。近年は長く使う人も多くなってきたというスタッドレスタイヤなだけに、これはありがたい性能向上といえるだろう。

 最後は「WZ Motionライン」という接地形状の変化だ。従来の構造や形状ではタイヤへの負荷の偏りが存在していたが、「WZ-1」ではタイヤの張りを均一化。今まで以上にコーナリング時の接地圧分布が一極集中せず綺麗に分散するように仕立てられたようだ。これで粘りがどう出るのかが楽しみだ。

 結果として旧製品に対してICEブレーキでは11%短縮。氷上旋回のラップタイムも4%短縮しているという。

2025年9月1日に発売となる乗用車用プレミアムスタッドレスタイヤ「BLIZZAK WZ-1」。サイズ数は119と軽自動車からミニバン、輸入車、EV(電気自動車)まで幅広く対応する
トレッドパターンはブロックまわりへの水の回り込みを抑制するL字ブロック、ブロック面への水の侵入を抑えるL字タンクサイプを採用するとともに、独自技術「発泡ゴム」に業界初の新技術「親水性向上ポリマー」を配合した「Wコンタクト発泡ゴム」を搭載。ゴムの気泡による水の除去に加え、親水性向上ポリマーとわずかに残った水の分子間力により、滑る原因となっていた水をもグリップ力へと変換することに成功。これにより、従来品「VRX3」と比べて氷上でのブレーキ制動距離を11%短縮し、氷上旋回時のラップタイムは4%短縮、さらに氷上での車両挙動の安定性も向上させたという

氷上、一般道で乗った感想は?

新製品の「WZ-1」と旧製品の「VRX3」を氷上で乗り比べ

 今回はそんな「WZ-1」をスケートリンクで試すことに。氷上制動とちょっとした旋回くらいを試すという限定的なものだが、「VRX3」と比べることでどんな印象が得られるのかを見てみたい。

 旧製品を試乗したのちに「WZ-1」を走らせてみると、たしかに先ほどよりはしっかりとグリップする感覚に溢れている。フル制動はしっかりと止まる感覚が得られているから安心感が高い。また、旋回でもわずかに速く走っていることがうかがえる。

 そんな中でも最も感心したのは滑り出す瞬間の動き方だった。旧製品は滑り出しの感覚が分かりにくく、一気に流れていくイメージがある。だが、「WZ-1」は最後の最後でグググッと滑り出す瞬間を教えてくれる領域があるのだ。限界が訪れていることが理解しやすく、そこからドライバーが元のグリップ状態に引き戻しやすいところ、これが新生ブリヂストンといった感覚に溢れている。“粘り”というキーワードをわざわざ入れたのはこの動きがあったからこそなのだろう。トレッドパターンの改良やゴムの改良、そしてケースの作り方を根本から見直したところがかなり効いているようだ。これは冬にもう一度じっくりと試してみたいものだ。

最も分かりやすかったのは滑り出す瞬間の動き方。“粘り”というキーワードを「WZ-1」に盛り込んだ理由がよく分かった

 最後にSUVに装着して一般道を走ってほしいと言われ走ってみた。真夏にスタッドレスタイヤというのはなかなかオススメしたくない状況だが、近年はオールシーズンタイヤも多くなってきているだけに、スタッドレスタイヤでも大丈夫だと言いたいのだろう。

 たしかに街乗りすればリブ基調で作られているために走らせればゴツゴツとした印象もなく、音もそこそこ我慢できるレベルで走ってくれるところはある。だが、ステアリングの応答性には軟弱な部分が多く、狙ったラインには行きにくい。特に高速走行になると不安定な要素は多くなり、緊急回避的な動きを少しでもやろうと思うとどこに飛んでいくのか予測しにくいシーンもある。

 試乗車の車重が2t近いクルマであり、今回のタイヤは速度レンジQである。動くことはできるけれど、真夏にスタッドレスタイヤはオススメできるもんじゃない。よい子の皆さまはやはりサマータイヤを装着しましょうというお話でありました。

真夏にスタッドレスタイヤの組み合わせは少々厳しかったところ。改めて雪上でその性能を確かめたい
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛