レビュー

SUV用にサイズ拡大されたブリヂストンの最新スタッドレス「ブリザックVRX3」の雪上性能を体感

SUVをターゲットにサイズラインアップが拡大されたブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」

最新のスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」で北海道を走る

 スタッドレスタイヤの国内シェアナンバー1を誇るブリヂストンのBLIZZAK(ブリザック)。その最新型となるVRX3で2021-2022シーズンから市場に投入され、さまざまな試乗がレポートされている。今回は最新型のVRX3による雪上走行を旭川市街地から郊外、そして北海道の最高峰、旭岳へ向かう道とバラエティに富んだコースで行なうことができた。

 VRX3の今シーズンのトピックは、ラインアップにクロスオーバーやSUVに適合するサイズ拡大が実施されたことだ。

しっかり雪を捉えるサイプが美しい。右側がアウト側になり、幅広いブロックでコーナリング時の荷重を支えていく
冬の北海道でブリザックVRX3を試乗してみました

 旭川市街地から旭岳へのコースは市内のアイスバーンと圧雪路。郊外の国道の圧雪路と乾いた道、そして旭岳への圧雪路だ。最初に試乗したのはSUVのアウディQ5。タイヤサイズは235/55 R19で従来からあるサイズだが、タイヤにはSUVにも適合できるキャパシティを持っているという。

 ちなみにブリヂストンにはクロカンタイプのSUV用にはブリザック DM-V3が用意されており、クロカン車など積雪地などでの使用が多いユーザーにはより排雪性能の高いDM-V3を勧めている。サイズラインアップもそのように揃えられている。

 朝の旭川市内は気温もマイナスで、交通量の多い交差点などは圧雪の中にアイスバーンも顔を出汁、路面を選びながら走る。気を付けて見ていると旭川ナンバーのクルマは巧みにアイスバーンに乗らないように走っている。こちらもグリップのよさそうな路面を選ぶが、マダラ路面ではアイスバーンでのブレーキも余儀なくされる。

 そんな場面でも安定して制動力がかかり、安心して町中を走れた。アイスバーンに強いのはアイスリンクでも経験済みだがリアルな世界でも氷上性能を体感することができた。もちろん、アイスバーンでは無理は禁物だが、路面にマダラに現れる氷と雪にも足を取られることなく市街地を抜けて郊外路に進む。

 冬の雪道といっても北海道のアベレージスピードは速く、交通の流れはスムーズだ。除雪作業は早いとはいうものの、降り続く雪は路面を覆ってしまう。圧雪路面を中心にところどころ雪がはがれた道が続く。ときおり現われる黒い路面はアイスバーンになっている可能性が高いので避けながら走るが直進定性は高い。まるで乾いた道を走る感じだ。

 SUVのアウディQ5は比較的重量もあるクルマだが、タイヤ剛性が高くてどっしりとした安定感があり頼もしい。しばらくは北海道らしい直線道路が続き、まっしぐらに旭岳を目指す。

 コースは徐々に標高を上げて、コーナーの数も多くなってきた。気持ちのよい圧雪路面だ。コーナーのRも大きい。ハンドルの応答性も素直でガッシリと雪を掴む感覚は手応え感があって好ましい。ハンドルを切り増すことなく一定のリズムで緩いコーナーをクリアしてゆく。交通量もそれほど多くないので路面は圧雪のまま。アイスバーンはほとんどなく轍もできにくい。
 標高が高くなるにつれ道幅は狭くなり、カーブも次第にきつくなってきた。気温はますます下がり、何台も通過したコーナーには轍の中にアイスバーンも顔を出すようになったが、VRX3のよいところは持ち前の氷上性能の高さでグリップ力に著しい変化がないことだ。オーバースピードは禁物だが、注意していれば突然ズルリとフロントタイヤが滑って慌てさせられることもない。

 AWDのアウディQ5との相性はよくターンインからアウトまで姿勢変化の乱れはほとんどなく、ニュートラルから弱いアンダーステアを維持したまま走り抜ける。

スタッドレスタイヤらしく、きっちり角張った感じのプロファイルを採用しているブリザック VRX3
ブリザックVRX3のトレッドパターン
つながっているサイプ、つながっていないサイプと、サイプデザインの妙を感じられる部分

 このルートの雪質はパウダースノーで気温が低いため極めて上質、常に圧雪状態を保っていられる好コンディションだ。

 タイトコーナーでは轍の外側にタイヤに押しのけられた雪の壁ができるようになる。その雪に乗るとスッとグリップが抜けることがあるが、少しハンドルを小さく戻すなどの操作をすると再びグリップを回復する。氷上特化したパターンから想像するよりも雪上グリップは高く、安心の性能だが過信は禁物でまず滑らさないことだ。

 目的地の旭岳の麓にあるホテルに到着して車両を変える。今回SUVに合わせてサイズ拡大されたトヨタ ハリアーに履いた225/65 R17で山岳ルートを往復する。

 ハリアーはQ5ほどの重量級ではないのでタイヤサイズも小さくなるが、氷と雪を掴む感触は大きくは変わりがない。少し操舵力は軽くなり応答性も穏やかになるが走りやすく、圧雪路を軽快に走る。

 旭岳の路面はパウダースノーでコンディションは最高だ。雪煙を上げて気持ちよく走る。タイヤとハリアーとのマッチングもよく、都会派のハリアーにもよき相棒になるだろう。

ヤリスクロス

 軽快と言えばヤリスクロスはコンパクトSUVらしくハリアーやQ5とは違った軽い動きを見せた。タイヤサイズは205/65 R16。純正サイズなのは他車と変わりがない。ハンドル応答性がシャープで舵の効きもよいのはヤリスクロスだが、雪の中でも硬めのサスペンションの特徴が出ており、早い操舵をすると圧雪の中でもフロントが応答し、相対的にリアがグリップしながらわずかにスライドする。ヤリスクロスらしい軽快さは雪の中でも発揮されるが、通常のペース、つまり小舵をゆっくりと切る時は4輪とも雪と氷を掴んで安心して走れる。

メルセデス・ベンツGLC

 メルセデス・ベンツGLCはQ5とライバル関係にあるがタイヤサイズもQ5と同じ235/55 R19。つまりタイヤの性能というよりもクルマとのマッチングになる。メルセデスらしいストロークのあるサスペンションでグリップ力が高い。Q5のトラクションを重視したな走りとは様相が違い、ジワリと路面を掴んで前後左右にバランスのよいグリップ力で、雪の中でもクルマの性格がさらに強く発揮された。このころになると轍のアウト側の雪が多くなり、これに乗ると滑り量が多くなるがジワリとグリップするGLCとの組み合わせでは気刻みな修正舵を与えるとすぐに元のラインに復帰する。

 圧雪路で強く感じたのは、ブリザック VRX3はクルマの性格の違いを完全に反映させることができる素直で質の高い性能を持っていたということだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛