レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】横浜ゴムの最新「アイスガード8」登場 進化した“より氷に効く、雪に効く”性能をチェック

2025年9月1日 順次発売
オープンプライス
185/70R14~225/45R21(全71サイズ)
横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試乗する機会を得た

スタッドレスタイヤ「アイスガード」シリーズが第8世代へと進化した

 横浜ゴムの乗用車用スタッドレスタイヤの第8世代となる新商品「iceGUARD 8(アイスガード エイト)」が登場した。正しい製品名は「iceGUARD iG80(アイスガード アイジー ハチジュウ)」で、9月1日より順次発売される。サイズは185/70R14 88Q~225/45R21 95Qの全71サイズ。

 第8世代となる「アイスガード8」のコンセプトは、さらなる氷上性能の向上だ!

 これを同社のテストコース「TTCH(Tire Test Center of Hokkaido)」で、先行試乗する機会を得た。

第8世代となる「アイスガード8」が登場
新スタッドレスタイヤ「アイスガード8(iG80)」
235幅以上はトレッドセンター部にリブを1列追加することで、ブロック剛性を最適化したモデル「iG80A」となる

 そのイメージグラフを見れば、全方位的に先代モデルであるアイスガード7(iG70)を上まわりながらも、特に氷上路面における旋回性能をテストフィールドでのラップタイム計測で13%、凍結路面での制動距離を14%縮めてきた。

アイスガード8はより氷に効くようになった

 このように横浜ゴムが氷上性能にこだわる理由は、ユーザーのニーズにある。

 同社が北海道/東北/北陸/甲信越/中京/関西/山陰/福岡のアイスガードユーザー680人から集計したアンケートでは、スタッドレスタイヤに求める性能で一番高かったのが「凍結路でのブレーキ性能」だった。

 さらに2位は「雪上路でのブレーキ性能」で、3位が「シャーベット路でのブレーキ性能」と、そのニーズは雪上・氷上路面できちんと「止まれること」だ。また4位は「効きが長持ちする性能」で、アンケートではユーザーの実に79%が、降雪圏・非降雪圏に限らず「4年以内に買い替えを検討」しているというデータも得られたという。

iG70の発売からちょうど4年後の2025年9月1日にiG80が誕生。折しも今年は、横浜ゴムのスタッドレスタイヤ第一世代にあたる「GUARDEX」(ガーデックス)が発売されてから、40年目となる節目の年

 ちなみにアイスガード7のユーザーは、現状でもその氷上性能に高い満足感を示していたが、その上で「さらなる氷上ブレーキ性能の向上」を望む声が、最も多かったのだという。

 そこでまずは、アイスガード8が最も力を入れたという“氷上性能”からレポートしていこう。

サイドウォールには第8世代を示す「八」と「8」があしらわれている

屋内氷盤試験路で制動距離と旋回速度を比較

 一番最初は、屋内氷盤試験路での「氷上制動比較」だ。比較対象は、先代モデル「アイスガード7」で、屋内氷盤路の気温はマイナス0.2度、氷温はマイナス1度だった。車両はトヨタ「カローラ」の5ドアハッチバック(4WD)で、タイヤサイズおよび速度レンジは195/65R15 91Qだ。

氷上での制動性能を確認
温度管理が徹底されている屋内氷盤試験路で試乗

 速度30km/hからの制動距離は、アイスガード7のベストが18mだったのに対して、アイスガード8は15mをマークした。横浜ゴムの公式テストとは速度や気温条件がやや異なるものの、約16.7%の制動距離短縮は見事だ。

 ちなみに速度40km/hではアイスガード7の32.33mに対し、アイスガード8は30mで停止できた。

 だが、数値以上に違いを感じたのは、氷をつかむフィーリングだった。

 氷上での速度コントロールは、アイスガード7もかなりしやすかったが、アイスガード8はその上をいく扱いやすさだ。アクセルの踏み始めから氷をつかむゴムの食いつき感が高く、ブレーキをかけた瞬間からより高い制動Gが立ち上がる。

【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード」シリーズ氷上制動比較 Dr 山田弘樹(56秒)

 氷をつかむグリップ感が高まった背景には、まず「冬ピタ吸水ゴム」と命名された新コンパウンドの採用が挙げられる。

 コンパウンドには、今回から「水膜バスター」と呼ばれる高密度マイクロ吸水素材が配合され、アイスガード7比で氷上でのコンパウンドの接触密度を63%も増やすことができたという。

より氷に効く吸水ゴムを開発
アイスガード8では新世代のコンパウンドが採用されている

 また、この吸水素材は親水性のある天然資源物質で作られており、環境負荷に対応しているのも現代的だ。そして吸水素材としては過去最小のサイズながら、高密度配合することで、今まで以上に吸水性を高められたそうだ。

 なおかつコンパウンドには、「マイクロエッジスティック」が配合されており、氷上・雪上ともにトラクション性能を向上させている。

 さらに「オレンジオイルS+」を配合して凍結路面での柔らかさを維持しながら、スタッドレスタイヤの交換サイクルと言われる4年後の性能低下を最小限に抑制。シリカを増量して、背反するシャーベット/ウェット/ドライ路面でのグリップ性能を確保した。

 続く氷上旋回路では、円旋回路を約20km/hで走り比べた。電子制御は、オンのままだ。

氷上旋回路。速度を上げていくと走行ラインが外側へと膨らんでいく
アイスガード8のほうが、よりしっかりと氷をつかんでいる感覚だ

 ここではアイスガード7のベストタイム22秒57に対して、アイスガード8は20秒25をマークした。結果的には約10%強のタイムアップとなったが、アイスガード7を先に走らせたことや、出走順で路面が磨かれてしまった状況を考えると、それでもタイムを短縮できたことは大きく評価できるだろう。

 アイスガード8が氷に強い理由としては、トレッド面の拡大も見逃せない。

 アイスガード8は今回タイヤの総幅は変えずに、中央に3本配置されたイン側リブ、中央ブロック、アウト側ブロックを大型化して、接地面積をアイスガード7比で8%増加した。またこれによって、トレッド剛性も6%引き上げられた。

「より氷に効く」トレッドパターンへと進化している

 こうしたトレッド面積の拡大はトレッドパターンにおけるピッチ数増加をも可能とし、溝エッジ量も4%増えた。また、排雪/排水性と旋回時のエッジ効果を高めるために、周方向溝の溝容量をアイスガード7よりも増やしている。

【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード」シリーズ氷上旋回比較 Dr 山田弘樹(3分57秒)

屋外コースで雪上性能をチェック

 雪上性能については、まずパイロンスラロームと直線制動で新旧比較を行なった。クルマとタイヤの組み合わせは、氷盤路面と同じだ。気温はマイナス5度、雪質も雪上性能を見るにはまずまずのコンディションだった。

まずはアイスガード7を試乗。十分な性能を持ち合わせている感触

 ここでアイスガード7は、実に頼もしい走りを見せた。アクセルを踏み始めたときのトラクションはしっかりと雪を噛み込む印象。ハンドルを切り込んだときのインフォメーションもはっきりしており、アクセルとの連携で速度30km/hのアベレージ速度が持続しやすい。結果的に操舵量が少なくて済み、スラロームをテンポよく切り返せた。

 また速度40km/hからの制動は、15mパイロンと20mパイロンの間で、これを目安とした。

アイスガード8は、アイスガード7よりもっちりと路面に食いつく感覚

 印象的にはまだまだ十分、現役感があるアイスガード7。これに対して新作アイスガード8は、氷上性能でも感じたコンパウンドの柔らかさが、さらに際立っていた。

 エッジで雪をかきながら走るアイスガード7に比べて、アイスガード8はもっちりと路面に食いついて、リニアに曲がり、スムーズに加速していく。スラロームではアイスガード7より、5km/h近く高い旋回速度を安定して保てた。

【横浜ゴム】新スタッドレスタイヤ 「アイスガード8」×トヨタ「カローラ」スラロームDr 山田弘樹(58秒)

 アイスガード7が力強いトラクション性能を発揮するタイプだとすれば、アイスガード8にはその上をいく包容力がある。

 とはいえ旋回速度が上がれば、それだけ慣性も大きくなる。アイスガード8は、滑り出しも穏やかだが、進化で得たアドバンテージは、速度を抑えてマージンとするのが賢い選択だ。

アイスガード8では「より雪に効く」トレッドパターンを採用している

 そして速度40km/hからの目標制動は、15mパイロンと20mパイロンの間で、アイスガード8のほうがわずかに短く止まった。厳密な計測は行なっていないが、10%ほどの短縮ができた印象だ。雪上でもトラクションがいい分だけ空転せず、きちんと速度を出せている感覚があり、制動Gもより高く安心感があった。

「雪上ハンドリング体験」では、フロント255/35R19、リア275/35R19サイズのアイスガード8を「GRスープラ」に履かせて、圧雪路を走った。

ハイパワーなGRスープラとの相性もとてもよかった

 ここで感心させられたのは、速度こそ遅いが極めて自然に、ハイパワーFRのGRスープラが雪道を走りきったことだ。扁平タイヤがもたらす操舵フィールの確かさ、ハンドルを切ったあとの曲がりやすさ。これに対してアクセルを入れたときの、VSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)の協調性がとても高い。極端に言えばアクセルを全開にしても、必要なトラクションを素早く確保して、前へ前へと進んでくれる。

 VSCの制御が段付きがなく滑らかなのは、制御の緻密さはもちろんだが、アイスガード8のトレッドが路面を捉え続けているからだろう。

 その証拠にVSCをオフにしても、ドリフト時の挙動が穏やかだ。もちろん無造作にアクセルを踏み込めばすぐさまスピンモードに突入するが、トルク変動を滑らかに調整すれば、実に楽しくドリフトできる。

VSCをオフにすれば楽しくドリフトも可能。雪上での運転トレーニングにも最適

 もし自分がGRスープラのオーナーだったら雪の日に出かけようとはしないけれど、扁平スタッドレスタイヤには、横浜ゴムがそれをラインアップしようと思えるだけの、一定のニーズはあるという。たとえば氷上・雪上トレーニングでドライビングを鍛えたいというオーナーには、挙動が穏やかなアイスガード8はおすすめだ。

【横浜ゴム】新スタッドレスタイヤ 「アイスガード8」×トヨタ「GRスープラ」Dr 山田弘樹(2分)

「雪上ハンドリング体験」は、MINI「カントリーマンS ALL4」と、BMW「120」にアイスガード8を履かせてハンドリングコースを2周した。

 コースは路面の多くが磨かれた厳しい状況で、その印象は圧雪路とはかなり異なるものとなった。カントリーマンSは車高が高く足まわりも硬めだから、アイスガード8(225/55R18)のコンパウンドの柔らかさをもってしても、ハンドルを切っただけでは横方向のグリップが立ち上がりにくかった。

MINI「カントリーマンS ALL4」でハンドリング性能を確認

 対して4WDということもあり、縦方向のグリップは高く確保されていたから、曲がるためには適切なブレーキで、フロントタイヤに荷重を与えてやることが必要。

 FFとなるBMW 120(ガソリンモデル)とアイスガード8(225/45R18)の組み合わせは、重心が低い分だけ操舵レスポンスは良好だった。フロント荷重を与えられない場面では、ハンドルをゆっくり切り込んだ抵抗で曲げてやることで旋回を始めることも可能で、その際リアタイヤのグリップの抜け方も穏やかだったが、やはりBMWのようにしっかりした足まわりだと、磨かれた路面でのインフォメーションは希薄になる。

BMW「120」でもハンドリング性能を確認

 予想以上に相性がよかったのは、後輪駆動のテスラ「モデル3」とアイスガード8(235/45R18)の組み合わせだった。

 車重の重さと重心の低さから、まず圧倒的に接地感が高い。そして電動パワステの精度のよさからだろう、操舵インフォメーションもきちんと出ている。

 アクセルオンではEVならではのリニアなトルクをタイヤがうまく受け止めており、4輪の接地バランスがいいため縦から横方向へのグリップの移り変わりがとても把握しやすい。

重いバッテリを床下に備えることで低重心なBEV(バッテリ電気自動車)との相性はかなりよかった
厳しい路面環境ではBEVのほうがよりリラックスして走行できた

 快適な分だけ飛ばし過ぎるのを気をつけさえすれば、こうした厳しい路面だとEVのほうが、よりリラックスして運転できると感じた。

 そういう意味で言うと、ハイトワゴンながらも低重心な日産サクラは運転しやすかった。冬場のバッテリ問題はあるが、こと走りだけを見ればEVは雪道との相性がかなりいい。

 またLサイズのミニバンであるアルファードとも、アイスガード8はいい感じだ。そのしなやかなサスペンション剛性に対してタイヤもマッチングがよく、ブレーキングからターンインにかけての接地感が高い。ロールしてからの挙動もマイルドだから、大きなボディでも安心してコーナリングできる。

重量級ミニバン「アルファード」とアイスガード8のマッチングも良好だった

 個人的にはもう少し縦と横のグリップバランスを近づけたほうが、クルマの動きは自然になると思う。しかし縦方向のグリップ性能向上の高さが「止まること」への安心感を高めるのは事実であり、横浜ゴムはユーザーが一番望んでいる性能に対して、きちんとそのリクエストに応えた。少しコンサバな考え方だが、旋回スピードを抑えることも、雪道では安全につながるとも言えるかもしれない。

 総じてアイスガード8は、より幅広いユーザーが安心して走れる、分かりやすいスタッドレスタイヤへと進化したと言えるだろう。

【横浜ゴム】新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」試乗 Dr 山田弘樹(4分5秒)
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学
動画:編集部