レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】横浜ゴムの「アイスガード7」と「アイスガードSUV」を乗り比べ SUVに履くならどっち?

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード7」と「アイスガードSUV」の違いを体感してきた

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード」シリーズ

 2021年9月に登場した横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD 7(アイスガード セブン)」は、4シーズン目に突入することもあってサイズがかなり充実してきた。つまり、街乗りや氷上性能に特化した性能があらゆるクルマで使えるようになってきたわけだ。

 結果としてSUVを考え、冬季レジャーや雪上性能を重視した「ice GUARD SUV G075(アイスガード エスユーブイ ジーゼロナナゴ)」とサイズ的にバッティングする状況が出てきた。その数は全10サイズ。これがいま売れているSUV市場だから話は厄介だ。一体どう違い、どう選ぶべきなのか? 北海道のテストコースでその違いを確認してみることになった。

 旭川空港から程近いところに存在する横浜ゴムの北海道テストセンター「Tire Test Center of Hokkaido」は、元競馬場という敷地にいくつものコースが存在。高速走行テストからワインディングコース、氷上まであらゆる路面状況が体感可能だ。そこでまず案内されたのは屋内氷板路。日光や雪の影響を受けることなく、氷の状況を一定に保つことができるその建屋は増築が行なわれ、屋内ながらも旋回性能が試せる場所がある。まずはそこで2つのスタッドレスタイヤを試してみる。

屋内で氷上路面の旋回性能を試せる

 アイスガード7の225/65R17を装着したRAV4で走り出すと、氷をきっちりとつかんでグリップを発揮していることがステアリングから手応えで伝わってくる。旋回時はステアリングをそれほど切らなくても曲がってくれる感覚にあふれている。さすがは氷上性能にこだわったタイヤだ。たとえ滑り出したとしてもジワッと動く感じでコントロールしやすく、ライントレース性能もなかなか。ラップタイムは18秒25を記録した。

アイスガード7を履いたトヨタのRAV4
アイスガード7は氷をきっちりとつかんでいる感触がしっかり伝わってくる

 続いて、アイスガードSUVで走り出す。当然ながら同じサイズ、同じクルマでのトライだ。走り出すとまず感じるのはステアリングインフォメーションの少なさ。すなわち、とっても軽く、すぐにグリップが抜けてしまう感覚があるのだ。走れないわけじゃないが、氷に食いついている感覚は薄く、滑り出しも一気に始まってしまう。結果として旋回スピードは先ほどより2km/hほど遅く、ラップタイムも20秒15と、およそ1割のダウンとなった。

アイスガードSUVを履いたトヨタのRAV4
アイスガードSUVはすぐにグリップが抜けてしまう感覚があった

 その後、直線制動コースで30km/hからの制動を試す。制動開始からABSをフルに作動させるようにして比較してみると、制動距離はアイスガード7がおよそ平均14m、アイスガードSUVはおよそ平均17mだった。

氷上路面での制動テストも実施
【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード7」「アイスガードSUV」氷上制動

 この結果を見るとアイスガードSUV G075のよさがないようにも思えてくるが、場所を屋外の雪上コースに移動すると話はやや変わってくる。雪深いところになればなるほど制動も旋回もよさが出てくる感覚があるのだ。実際のところ今回のコースではアイスガードSUVとアイスガード7は同等というイメージだったが、深雪になればなるほどアイスガードSUV のよさが際立ってくるらしい。

深雪になればなるほどアイスガードSUVのよさが際立つ
雪上でのハンドリング性能も十分な性能を持つアイスガード7
【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード7」「アイスガードSUV」雪上制動

接地面積の多いアイスガード7、溝が深く溝面積が多いアイスガードSUV G075

 では、その違いが出る要因は何なのかを見てみる。まず、決定的な違いとして挙げられるのは溝深さと溝面積だ。アイスガードSUVは溝深さは10.5mm、対してアイスガード7は8.8mmである。溝面積はアイスガードSUVを100%とした場合、アイスガード7は84%しかない。結果として踏み固めた雪の柱を排出する雪柱せん断力がアイスガードSUVのほうが勝り、深雪やシャーベット路面に優れるという結果になるとのこと。

アイスガード7
トレッドが非対称パターンのアイスガード7。溝の深さは新品時で8.8mm。13インチ~21インチまで全128サイズをラインアップ

 一方で氷上性能については接地面積が多いほうが有利であり、アイスガードSUVを100%とした場合、アイスガード7は109%もあり、エッジ量も103%となるため、ゴム表面が路面と密着する力である凝着摩擦力が増え、氷でグリップするという状況が生まれたわけだ。また、使われているコンパウンドもアイスガード7は吸水バルーン「ウルトラ吸水ゴム」や「新マイクロ吸水バルーン」に加え、新採用の「吸水スーパーゲル」を採用。氷に強い仕様となっているという特徴がある。

アイスガードSUV G075
SUV向けのアイスガードSUV G075。トレッドは左右対称、溝の深さは新品時で10.5mm。サイズは15インチ~23インチまで全101サイズを取りそろえる

 つまり、アイスガード7は雪上性能を落とすことなく、氷上性能を特化させているところが特徴といえるだろう。アイスガードSUVは雪深いところに行くことが多い人にオススメ。都市部の交差点よりも深雪に遭遇した時に役立つことを求めるならコチラというわけだ。いずれにしてもスタッドレスタイヤでもサマータイヤと同じように、ステージに合わせてタイヤ選択ができる状況ななかなか興味深い。サイズラインアップが充実してくるとこんな面白さも出てくるのかと感心するばかりだ。

SUVでも街乗りがメインならアイスガード7、雪深いところに行くことが多い人ならアイスガードSUVがオススメかも

アイスガード7の懐の深さを再確認

 こうした特徴を理解したのちに、BMWの「X1」「iX1」、さらにポルシェ「マカン」でハンドリング路を走ってみる。BMWはバッテリEV(電気自動車)モデルの重い車両と、軽いけれど前後重量配分は悪いICE(内燃機関)モデルとの比較。ポルシェはスポーツSUVに対応できているかが見どころだ。

バッテリEVモデルのBMW「iX1」
ICE(内燃機関)モデルのBMW「X1」でも試す

 BMWの比較は2tオーバーのEVであっても安心して雪上を走破できるところがマル。ICEモデルは重心が高いクルマであっても、それにきちんと対応できるグリップがあったところが面白い。ポルシェのマカンはバランスのよさとコントロール性の高さがそもそもあるが、それとアイスガード7との組み合わせがあれば、どうにでもコントロールできそうな世界観が生まれていた。ヨレなどを感じずスッキリとした走りが際立つ。

ポルシェのマカンで雪上を試す
車両の素性のよさもあり、雪上でもコントロール性は高い
【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード7」ハンドリング比較(EV&ICE)
【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード7」 ポルシェ「マカン」スラローム試乗

 最後はFRスポーツカーのフェアレディZが装着する、幅広低扁平サイズのアイスガード7を試してみる。パターンはセンターリブが1本加えられたもので、パターンナンバー「IG70A」というものだ。サイズはフロント255/40R19、リア275/35R19である。この手のサイズになると接地面は前後方向に短くなる傾向になり、発進時のトラクションがどうなるかが心配だったが、実際のところは問題なくスタート。旋回時には大パワー大トルクもあって、簡単に滑り出す状況だったが、その際のコントロール性はかなり優れており、容易にドリフトコントロール可能だったところがなかなか面白かった。

チューニングメーカーのHKSにカスタマイズされた日産の「フェアレディZ」
幅広で薄いスタッドレスタイヤでもしっかり性能を発揮する
アイスガードSUVを履いたトヨタ「ハイエース」。圧雪路でもぐいぐいとしっかり走る。仕事現場が降雪地帯であればスタッドレスタイヤは必需品だろう
【横浜ゴム】スタッドレスタイヤ「アイスガード7」フェアレディZ&ハイエース ハンドリング性能

 このように、アイスガード7は全方位にバランスよく仕立てられた感覚が強いタイヤであることが改めて理解できた。状況を選ばず、クルマを選ばず、いざ滑った時にもドライバーのコントロール下に置きやすい、そんな仕上がりのスタッドレスタイヤだと思えた。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学