レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴムのスタッドレス「アイスガード7」、同じコンパウンドの標準、氷上特化、スリックを氷上&雪上で試してみた

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD7」をお題目に3種類のタイヤを乗り比べた

 標高の高いところでは初冠雪があったとの便りが届き出した10月初旬。雪国ではそろそろスタッドレスタイヤの準備も視野に入れようかという時期ではないだろうか? そこで今回は横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD7(アイスガード7)」を取り上げてみる。

 このタイヤは2021年9月に登場したもので、今年で3シーズン目を迎える。だが、その仕上がりは相変わらずであり、結論から言ってしまえばしっかりと止まるし、しっかりと曲がるバランスのよさがポイント。さらに、それが雪上でも氷上でもキープできているところがさすがだ。縦グリップ、横グリップ共にクセのない扱いやすさはどのようにして達成したのか? それを知るため、2月に北海道のテストコースへと行ってきたので、今回はその模様をお伝えしたいと思う。

 横浜ゴムが所有する北海道タイヤテストセンター「Tire Test Center of Hokkaido」(TTCH)で、今回体験したのはスタッドレスタイヤのテスト品。その中にはアイスガード7と同じコンパウンドを与えながらも、トレッド面に溝のないスリックや、サブ溝がなく横サイプだけを増量したものも並べられている。それをあらゆる路面で体験する。

写真右からアイスガード7、サブ溝がなく横サイプだけを増量した氷上特化タイヤ、トレッド面に溝のないスリックタイヤ。いずれもアイスガード7と同じコンパウンドが与えられる。なお、アイスガード7は2021年9月に発売された乗用車用スタッドレスタイヤ。新開発の専用パターンと「ウルトラ吸水ゴム」の相乗効果により、従来品に比べて氷に効く「氷上性能」を14%、雪に効く「雪上性能」を3%向上させるなどしている

屋内氷盤試験場での3種類のフィーリングは?

 まず走ったのは屋内氷盤試験場。そこでは制動試験だけでなく、氷盤旋回路も新たに造られたことで、あらゆるシーンを安定した環境で試験できるようになったことがポイント。屋外の場合、路面が直射日光を受けて温度上昇してしまったり、雪が降って氷上の試験がやりにくくなったりする。だが、この屋内試験場があれば路面も路温も一定にすることが可能。制動テスト部にはスケートリンクのように地面に冷媒があり、路面温度をさらに下げることも可能だという。今回は全ての条件を一定にするため、外気温で自然に冷やされた状態で使っていた。路温は約-3℃となる。

 そこでアイスガード7、スリック、そして横サイプ増量の3タイプを比べてみる。まずは制動テストだが、そこでは明らかにサイプを増したバージョンの制動距離が短かった。30km/hで進入して約14mで停止。アイスガード7は約15.5m。そしてスリックはなんと26.5mを記録してしまった。いくらウルトラ吸水ゴムがあろうとも、引っかかりがなければ無理ということが伝わってくる。ただ、アイスガード7が一番じゃないからダメだというわけじゃない。テストを終えたのちにUターンをするのだが、横サイプ増量バージョンはその際になかなか曲がらない感覚。大したスピードでもないのに怖いのだ。果たして続く円旋回はどうなるのか?

アイスガード7
スリックタイヤ
氷上特化タイヤ

 氷盤旋回路でアイスガード7を走らせると、操舵角も少なくニュートラルに駆け抜けていく印象がある。ステアリングにはたしかな手応えもあり、たとえ滑り始めたとしてもインフォメーションは的確に行なわれる。旋回タイムは18秒49。

 横サイプ増量バージョンは縦グリップこそ強力で走り出しはいいが、横方向のグリップが明らかに減った感覚。操舵角は大きくなったことが感じられた。それはフロントもリアも同様で、アンダーオーバーが大きい。旋回タイムはドリフト状態に持ち込んだ時に18秒19。スイートスポットに入れるにはかなり難しい。

 スリックに至っては走れないかと思いきや、旋回スピードも20km/hくらいで走れている。ほかと比べて2km/hほど低いくらいだ。アンダーもオーバーもかなり大きくなり、フルカウンター近くではリアが堪えきれなくなる。タイムは21秒だった。ここでも当然のようにアイスガード7のバランスが光る。

 氷上性能における大切なことは接地面積の広さ、エッジ量、そして凝着摩擦力なのだそうだが、いずれにしてもバランスよく配置しなければまるで意味をなさなくなるのは言うまでもない。そのことを肌で感じることができた氷上の比較試乗だった。

アイスガード7は縦横のバランスがよく、どんなシーンでも安心感が高い

 続いてはステージを雪上にしたらどうなるのかを確認するために屋外試験場を走ってみる。すると、横サイプ増量バージョンはここでも横方向のグリップが感じられず操舵角が大きい感覚。直線制動はややよいところもあるが、縦横のバランスがかなり違いフィーリングはあまりよくない。スリックは無理だろうと思いきや、意外にも雪だと曲がれるし止まることができる。操舵角はかなり大きめだが、制動は氷ほどわるくはない。

 やはりアイスガード7は縦横のバランスがよく、どんなシーンでも安心感が高い。雪上性能は凝着摩擦力と雪中せん断力(溝で踏み固めた雪の柱を排出する力)が大切。それをバランスよく配したアイスガード7は、操舵角が少なく、リアが簡単には破綻しない動きで、公道を走るベストパートナーとなるに違いない。それがスポーツカーが装着する低扁平モデルでもキープできていたところはさすが。接地面積が横長になるようなモデルであっても、縦に横溝の入ったリブを入れることによって、うまくグリップバランスをキープしていた。

 試験場からの帰り道、空港までアイスガード7を堪能しながら走ったが、そこで得られるたしかな動きに不安を覚えるようなことはなかった。ワンダリングも少なく、ロングドライブでも疲れない動きもまた特徴の1つと言えるだろう。あらゆるシーンで緊張感を従わないバランスのよさは、アイスガード7の特徴と言っていいだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一