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横浜ゴム、第7世代へと進化したスタッドレスタイヤ「アイスガード 7」に投入された新技術を技術統括の野呂政樹氏が解説
2021年7月29日 16:55
- 2021年7月29日 発表
これまでとは異なるアプローチで生み出した専用トレッドパターン
横浜ゴムは7月29日、乗用車用スタッドレスタイヤの新製品「iceGUARD 7(アイスガード セブン)」のオンライン発表会を実施し、取締役常務執行役員 兼 技術統括の野呂政樹氏が技術解説を行なった。開発コンセプトは「優れた氷上性能のさらなる向上」「消費者が実感できる永く効く性能」「氷上性能と雪上性能の両立」としている。
横浜ゴム、「新製品『アイスガード 7』は横浜スタッドレスタイヤ史上最高の氷上性能を持つ」と山石社長
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1340837.html
新スタッドレスタイヤのアイスガード 7は、氷上制動性能14%、氷上発進性能15%、氷上旋回性能7%向上と氷上性能を大きく進化させたのと同時に、異なる性能を求められる雪上性能についても、雪上制動性能3%向上、雪上発進性能3%向上、雪上旋回性能同等と向上させている。それを実現させている1つがトレッドパターン技術にあるという。
まず、これまで雪上性能を向上させるには、トレッドの溝面積を増やすことで排雪性を高めていたが、溝面積を増やすと氷上性能の要となる接地面積が減ってしまうため、今回は従来の技術アプローチではなく、エッジ効果の指標となる「溝エッジ」の量と、凝着摩擦力の指標となる「ブロック剛性」の2面からアプローチ。10種類以上のトレッドパターンを作成し、実走テストを行ないながら氷上で最大の性能を発揮できる溝面積の量とブロック剛性を追求することで、新たなトレッドパターンを完成させた。その結果、接地面積は従来品のアイスガード 6よりも3%増加しているとのこと。
また、トレッドのイン側には発進時や制動時にしっかりと接地する「パワーコンタクトリブEX」を、中央部には「マルチベルトブロックEX」を配置。アウト側には大型ブロックを採用しつつ、コーナリング時でもブロックが倒れ込みにくく路面に密着する「コレクティブビッグブロックEX」を配置。これにより、主に中央部分でブロック剛性は5%ほど増加。アイスガード史上最大の接地面積とブロック剛性を実現したことで、氷上性能を大幅に向上させている。
さらに雪上性能を両立させるために、ブロック剛性の低下を抑制しつつ、溝のエッジ量(ブロックの角の総距離)を最大化させるパターンを開発。イン側には傾きの角度が異なる複数のラグ溝から構成される「マルチダイアナゴナルグルーブ」を配置し、発進時や制動時のグリップ力を確保。センターからアウト側にかけては、タイヤの回転方向に伸びる3つの縦溝「トリプルライトニンググルーブ」を採用し、コーナリング時のスムーズは排雪を実現。中央部分ではアイスガード 6より溝エッジ量を30%増加させることに成功するなど、アイスガード史上最大の溝エッジ量を確保し、氷上性能を向上させながら、雪上性能も向上させた。
この溝エッジ量について横浜ゴム 消費財製品企画部の増渕栄男氏は「2020年1月に発売したオールシーズンタイヤ『ブルーアース 4S AW21』は、ブルーアースの夏タイヤ性能にアイスガードの雪上技術を融合させた製品で、その開発で溝エッジ量に着目した」と明かす。そして今回のアイスガード 7の開発では、そのブルーアース 4S AW21で得た溝エッジ量の知見を活用。「社内で技術循環がうまくできている」とした。
続いて野呂氏は「これまで永く効く性能については、トレッドコンパウンドで向上を図っていた」と言及。しかし、今回はユーザー調査の「見た目では性能が分からない」という声から、トレッドパターンからでも永く効く性能が分かるように、新たに「クワトロピラミッド グロウン サイプ」を開発。これは4つ折りになっているクワトロピラミッド グロウン サイプのジグザグが、50%摩耗時に太くなる新形状となっていて、ブロック剛性の増加による初期の氷上性能向上に寄与するだけでなく、摩耗時のエッジ効果をキープできるようになり、高いレベルの氷上性能を維持してくれるというもの。また、トレッドセンター部のマルチベルトブロックEXには、「クワトロピラミッド グロウン ディンプルサイプ」を採用することで、ブロック剛性を高めつつ、氷上での接地のしっかり感を向上させている。
トレッド部においては、各ブロックの中央部とエッジ部で異なる傾斜を採用する「ダブルエッジマイクログローブ」を新たに開発。中央部ではサイプの傾斜方向と交差させることで横方向のエッジ効果を向上させ、各ブロックのエッジ部では同じ方向にすることで、氷上路面の水膜を効率よく排水可能とした。
そのほかにも、タイヤサイズに合わせてパターンのチューニングを施し、タイヤ幅が235以上のサイズにはセンター部に縦長のベントブロックを1列追加した専用トレッドパターン「IG70A」を採用した。
新たな技術で進化したコンパウンド「ウルトラ吸水ゴム」
アイスガード 7に採用された専用コンパウンドもトレッドパターンと同様に、氷上、雪上、永持ちの3つの性能向上を目指し、新たな素材や新技術が開発・採用されている。アイスガード 7のコンパウンドは、アイスガード 6の「プレミアム吸水ゴム」から「ウルトラ吸水ゴム」へと進化。ポイントは、マイクロレベルでは従来モデルから採用している「新マイクロ吸水バルーン」に加え、エボ吸水ホワイトゲルから進化し、吸水効果が高いだけでなく低温でも柔らかくて接地性が高い新素材「吸水スーパーゲル」と、新たに引っかき効果を発揮する素材「マイクロエッジスティック」の採用にあり、氷上路面の水膜を素早く吸い込むことでタイヤが路面に密着し、氷上でも雪上でもしっかり路面をかいてクルマが進むという。
さらに小さいナノレベルでは、シリカ高反応ホワイトポリマーよりもシリカの分散性が向上し、より均一なシリカの分散を可能にした新素材「ホワイトポリマーII」を採用。また、継続採用のオレンジオイルSがコンパウンド劣化を防ぎ、ゴムのしなやかさを維持。ユーザーの求める永く効く性能に貢献しているという。これらの新技術の投入によりアイスガード 7に採用しているウルトラ吸水ゴムは、アイスガード 6に採用していたプレミアム吸水ゴムよりも、吸水効率が7%も向上したとしている。
こうした技術の採用により、新製品のアイスガード 7は、耐摩耗性能、ドライ性能、静粛性能、ウェット性能、ころがり抵抗などの基本性能を、従来品のアイスガード 6から落とすことなく、氷上性能、雪上性能、永く効く性能を向上させることに成功した。