レビュー

【タイヤレビュー】ミシュランの最新タイヤ「クロスクライメート3」、新ジャンル「SPORT」は走りも楽しいオールシーズンタイヤ!

ミシュランの新オールシーズンタイヤ「クロスクライメート 3」と新ジャンルの「クロスクライメート 3 SPORT」を試した

正常進化モデル「クロスクライメート 3」とともに「SPORT」新設定

 ミシュランのオールシーズンタイヤ「CROSSCLIMATE(クロスクライメート)」シリーズが3世代目に進化し、10月より順次発売となることが決定した。サイズラインアップは「クロスクライメート 3」が16~20インチ、タイヤ幅は195~285、扁平率は35~65。新ジャンルの「クロスクライメート 3 SPORT」が18~21インチ、タイヤ幅は205~285、扁平率は35~55となる。

 そもそもこの「クロスクライメート」は2015年にヨーロッパで誕生。2019年に「クロスクライメート +」に進化した段階になって日本において発売を開始。2021年には「クロスクライメート 2」、そして「クロスクライメート 2 SUV」へと進化して今に至る。すなわち、2025年は誕生から10年目の節目を迎える。

 そこで打ち出してきた新製品はなかなかアツい。まずは正常進化モデルである「クロスクライメート 3」は予想通りの展開。だが、それに加えて高速安定性やハンドリングといった性能を求めたスポーツ×オールシーズンという全く新しいジャンルの「クロスクライメート 3 SPORT」もラインアップするというからおどろきだ。

 新作となる2銘柄ともに共通しているのは、これまで「クロスクライメート」シリーズが採用してきたVシェイプトレッドパターンは踏襲しているということだった。高いウエット性能やスノーブレーキ性能を実現するには、やはりこのパターンが必要ということなのだろう。ブロック幅は今まで以上に細かくなった。サイズの異なるブロックを最適に配置することで、不快な周波帯の音を効果的に削減する「ピアノ アコースティック チューニングテクノロジー」も採用。音の周波数帯を分散させ、音圧レベルを全体的に下げることに成功している。

 だが、根本的に違っている部分がある。それはVシェイプトレッドパターンの中央部にセンターグルーブを新採用していることだ。排水性や排雪性向上のために設けたというこの縦溝が、ドライ路面においてどう影響してくるのかは見どころの1つ。初期応答に効いてくると言われるセンターリブの存在が全くないのだから心配だ。

「クロスクライメート 3」にのみ採用されている技術としては、均一な接地圧分布を実現する「マックスタッチコンストラクション」なるものだ。近年のユーザーニーズにはより長く使える耐摩耗性が上位にランクインしており、それに応えた格好だ。使い切るまでできるだけ同じ性能を届けたいというミシュランらしさが光っている。

正常進化モデルとして登場した「クロスクライメート 3」。サイズラインアップは「クロスクライメート 3」が16~20インチ、タイヤ幅は195~285、扁平率は35~65
「クロスクライメート 3」「クロスクライメート 3 SPORT」ともに排水性・排雪性向上のためVシェイプトレッドパターンにセンターグルーブを新採用するとともに、サイズの異なるブロックを最適配置して不快な周波数帯の音を効果的に削減する「ピアノ アコースティック チューニングテクノロジー」などを採用。「クロスクライメート 3」ではさらに「マックスタッチコンストラクション」を用い、均一な接地圧分布を実現した

 一方の「クロスクライメート 3 SPORT」にのみ採用されているのが「サーマル アダプティブ コンパウンド2.0」だ。新開発されたそのオールシーズン専用トレッドコンパウンドは、優れたスノー性能に加え高いドライ&ウエットグリップを展開。低燃費タイヤのグレーディングでは、転がり抵抗ラベリング「A」を維持しながら、ウエットラベリングはシリーズとして初めて「a」を獲得している。

 さらに「クロスクライメート 3 SPORT」には「PILOT SPORT」シリーズにも使われている「ダイナミック レスポンス テクノロジー」を採用。これはアラミドとナイロンを組み合わせたハイブリッドキャッププライのことで、これによりあらゆる路面に密着し、スポーツタイヤらしいハンドリングを実現。ウエット路のハンドリングテストでは旧製品の「クロスクライメート 2」に対して2.4%のタイム短縮を達成したという。

新ジャンルのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート 3 SPORT」も登場。サイズラインアップは18~21インチ、タイヤ幅は205~285、扁平率は35~55
「クロスクライメート 3 SPORT」ではオールシーズン専用トレッドコンパウンド「サーマル アダプティブ コンパウンド2.0」を用い、優れた雪性能に加えて高いドライ・ウェットグリップを実現。低燃費タイヤのグレーディングでは、転がり抵抗ラベリングが「A」、ウエットラベリングが「a」。なお、サイドウォール部のデザインは「クロスクライメート 3」では18インチ以上のサイズにプレミアムタッチを、「クロスクライメート 3 SPORT」では全サイズにフルリングプレミアムタッチを採用している

頼り甲斐のある剛性感やグリップ感はスポーツしている

「クロスクライメート 3 SPORT」を装着したゴルフ eTSIでウエットハンドリング路を走った

 まずは大注目の「クロスクライメート 3 SPORT」をテストコースのウエットハンドリング路で試す。旧製品を体感した後に走ってみれば、とにかく軽快な身のこなしが可能になったところに感心する。ケース剛性が引き上げられている感覚で、ヨレも少なくロール角もわずかに収まっている。ステアリングの操舵角は少なくコーナーを駆け抜けていく。ゴムもよく食いついている。

 グリップはなかなかで、ステアする切り始めの軽さはあるものの、よく路面に食いついている感覚は高い。たしかにこれはこれまでになかったオールシーズンタイヤ! ヨレ感もなく頼り甲斐のある剛性感やグリップ感はスポーツしている。ワインディングが楽しくなり、ついついペースが上がってしまうくらいだ。「これで雪も走れるなんて、誰が想像する?」といった感覚だ。

 ウイークポイントはやはり転舵した時に起きるゴロゴロ感だ。V字パターンだから路面に対してピタリとブロックの角度が真横になった時、そのゴロゴロを感じてしまうのは仕方ないところ。ストレートに戻りハンドルを真っ直ぐにすれば収まってくる。

ワインディングが楽しくなり、ついついペースが上がってしまうオールシーズンタイヤはこれまでになかった

 一方の「クロスクライメート 3」はテストコースの外周路で乗った。ストレートを走っている限りは静粛性にも優れ、イヤな感覚はない。ダンピングも良くなかなか快適な感覚だ。スラロームをすれば操舵角も少なく駆け抜ける感覚で、クルマが軽く感じる。

 また、ダブルレーンチェンジを行なったとしても、揺れ返しも少なく、ヨレも少なく狙ったところに行ける感覚がある。感覚はまさにサマータイヤ。高速コーナーリングだって怖さがない。ウイークポイントは「クロスクライメート 3 SPORT」と同じくコーナーリング時の音くらいなものだ。

「クロスクライメート 3」はカローラ ツーリングに装着してテストコースの外周路で試した

 さらに今回は新品と残溝2mmのタイヤを80km/hからのフル制動で比較してみた。結果としては新品が33.58m、残溝2mmが40.46mだった。もちろん新品が一番なのは間違いないが、残溝2mmでも制動感は良かった。

 光っていたのはともにリアタイヤが不安定になることがなかったこと。このタイヤは水を縦に排出するのではなく、フェンダーから横に飛ばすように水が散っていく。それが良かったのか、フロントからは派手に横に水が流れていることが外からも伺えた。ということは、リアタイヤが通過する時には水のない路面が出現するということか!? 真偽の程は分からないが、他のタイヤではリアが一瞬不安になるような環境で、それがないのはおもしろい現象だった。

 ただ、残溝2mmはABSが効き始める初期の制動で減速Gが感じられないくらい止まっていない印象があった。制動距離の差はその差が最も大きい。長く使えることは使えるけれど、やはり溝は潤沢にあったほうが良いのは紛れもない事実である。

新品と残溝2mmのタイヤを80km/hからのフル制動で比較
左が新品、右が残溝2mmのタイヤ

 というわけで、一長一短が見えてきた「クロスクライメート 3」シリーズではあるが、正直に言えばサマータイヤとして見た時には気になるところがあるという話であり、これが雪も走れるとなれば話は別。基本的にはこれで不満を言う人はほとんどいないだろう。あとは雪でどんな走りをするのか。次はそんな状況も見てみたいところだ。

雪の上でもじっくり試したい、「クロスクライメート 3」シリーズはそう思わせてくれる仕上がりを見せてくれた
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。