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ミシュラン、新オールシーズンタイヤ「クロスクライメート2」発表会 夏冬の相反性能を向上させた技術とは
2021年8月19日 05:00
- 2021年8月18日 実施
ユーザーの利益につながる全天候型タイヤ
日本ミシュランタイヤは8月18日、オールシーズンタイヤの「クロスクライメート+(プラス)」を進化させた新製品「クロスクライメート2」の発表会をオンラインにて行なった。発表会には日本ミシュランタイヤ代表取締役社長の須藤元氏、乗用車・商用車タイヤ事業部 ブランド戦略マネージャーの黒谷繁希氏、製品開発本部 新製品開発部 シニアエンジニアの稲葉和範氏、さらにスペシャルゲストとしてモータージャーナリストの佐藤久実氏が参加。
冒頭で須藤社長は、クロスクライメートシリーズを発売した2019年当時は、まだ日本の市場ではオールシーズンタイヤがどのような製品なのか情報が少なかったため、「どっちつかずの中途半端な性能なのでは?」といった印象を持ったユーザーもいるかもしれないが、それでも「夏タイヤの性能と雪上性能が両立できるタイヤであれば消費者に受け入れられる。高い利便性と安全性は必ずユーザーの利益につながる」と考えて販売に至ったと振り返った。
続けて「ミシュランでは常にユーザーの使用環境の確認からはじめ、次にそこでの課題の洗い出し、最後にその課題を解決できるタイヤの性能を考える」とミシュランの製品開発の理念を紹介。もちろん今回発売するクロスクライメート2も同様で、「安全性と利便性の向上を目指して開発した製品であり、多くのユーザーが豊かなモビリティライフを送れるように願っている」とあいさつした。
ミシュラン、新オールシーズンタイヤ「クロスクライメート2」 雪も走れる夏タイヤが全方位で進化
ニーズは今後も増加が予想される
続いてブランド戦略マネージャーの黒谷氏が登場し、クロスクライメート2が誕生するまでの歴史や背景を解説。そもそもこのクロスクライメートは2015年にヨーロッパで誕生し、「雪でも走れる夏タイヤ」というまったく新しいジャンルを切り拓いたと解説するとともに、発売後にはユーザーの96%が満足したという高評価を得たことも紹介。続いて2017年には「クロスクライメート+(プラス)」をヨーロッパで発売し、ここでも多くの雑誌で受賞するなど高い評価を獲得。その実績をもとに、2019年に日本市場への導入が決まったという。
その日本市場での実績について黒谷氏は、「初年度は販売目標達成率が293%、翌年も対前年比で成長率が156%、さらに今シーズンも7月末時点で対前年比137%の成長率を達成していて、いまも勢いは堅調である」とアピール。また、その勢いが衰えない要因としては消費者からの信頼と支持があると言い、具体的にはインターネットのユーザーレビューサイトなとでの支持率で連続1位を獲得していることや、ユーザー満足度90%、リピート支持率91%などを挙げた。
さらにオールシーズンタイヤを求める消費者ニーズについては、短期間での大雪はピンポイントで何度か発生しているものの、ここ30年間における日本の降雪量の推移は減少傾向にあり、加えて東京、大阪、名古屋、福岡といったいわゆる非降雪地域の平均積雪日数も、過去10シーズンでは3.0日あったが、過去5シーズンで1.8日、過去3シーズンでは0.8日と、こちらも年々減少傾向にあると紹介。これらの結果から365日の中で雪と接する機会が極めて減っている消費者は「しっかりした夏タイヤ性能はマストでありながら、万が一の積雪でも安心して走れる付加価値を求めている」とニーズについて解説した。
実際にミシュランの独自調査でも、クロスクライメートシリーズを購入したユーザーの6割は「夏タイヤの代わりに購入した」と回答しているとの結果もあり、「夏タイヤの性能は絶対にキープしつつ、突然の雪に慌てない走行性能の確保」という消費者マインドと製品コンセプトの一致を裏付けているとし、これらのニーズは今後も増加が予想されると強調した。
クロスクライメート2を完成させた新たな技術
続いてシニアエンジニアである稲葉氏より、従来製品からクロスクライメート2がどのように進化したのか、進化の過程での課題やその解決技術の解説が行なわれた。設計指針はターゲットユーザーの求めているドライ性能、ウェット性能、雪上性能のすべてを進化させることで、そのためにはトレッドパターンとコンパウンドによる進化が基本となる。しかし、トレッドパターンの溝を広げれば、排雪と排水はよくなるが接地面積は減ってしまう。また、低温度で効果を発揮するコンパウンドを多く配合すれば、路面温度の高いドライでの効果が薄れると、どちらも相反要素が含まれていることが課題だと明かす。
そこでまず排雪と排水性能に関しては、従来品よりも溝の幅をタイヤの外側へいくほど広くすることで、タイヤの中心部の接地面積の減少を最小限にとどめたという。もちろん、溝の幅が広い外側部分は従来品よりも接地面積が減少し、ブロック剛性も低下してしまうため、新たにブロックエッジに面取り加工を施すことで、ブレーキング時でも接地面を確保する「V-Ramp Edge」や、隣り合うブロック同士がお互いに支えあうことで剛性を確保してグリップ力を維持する「LEVサイプ」といったドライ性能に効果のあるテクノロジを開発・採用している。もちろん、雪上でもしっかりと雪を掻く性能が必要となるため、ある程度のブロックの倒れ込みは必要となるが、新技術によりドライ性能と高次元で両立させられたという。
また、一般的にタイヤが摩耗していき溝が減っていけば排水性能は低下するが、最初から溝を広げてしまうとブロック剛性が弱くなりドライ性能が低下してしまう。そこでミシュランでは、摩耗時に溝が広がるようになる「P-Edge」を開発。この技術により摩耗時でもある程度ブロックが倒れ込めるようになり雪上性能を維持しつつ、溝が増えることで排水・排雪性能も確保。「結果的に新品時のブロック剛性の低下を最小限に抑えられた」と稲葉氏。
新しいトレッドコンパウンド「サーマル・アダプティブ・コンパウンド」は、従来品よりも低温度で効果を発揮するように開発されていて、このコンパウンドと新Vシェイプトレッドパターンによりウェット性能と雪上性能を向上。対して、先述した「V-Ramp Edge」「LEVサイプ」といった新技術によりドライ性能を向上。加えて摩耗時は「P-Edge」により性能を維持させられるようになり、全方向での性能向上を達成している。
【オールシーズンタイヤレビュー】ミシュランの新製品「クロスクライメート2」の進化を北海道の雪上で確認
モータージャーナリスト佐藤久美氏も驚いた性能の進化
最後は特別ゲストであるモータージャーナリストの佐藤久美氏が登場し、テストドライブの動画を交えて感想をコメント。佐藤氏は「クロスクライメート+が発売されたとき、『これを履いて北海道に行ってきて』という突然のオファーに驚いたけれど、実際に北海道へ行って雪上を走ったら普通に走れるし、ドライ路面でも性能が高くて何度も驚かされました」と回顧。
今回“正当進化”したということで、雪上、ドライ、ウェット、ハンドリング、ブレーキング、高速道路と、1年を通して使えるとうたっている以上あらゆる路面で試乗してきたと報告。
動画では雪上で40Km/hからの急制動テストからスタート。ブレーキング開始時からしっかりと減速感が得られていると解説。同じく定常円とスラロームテストでは、思わず「こんなに違うとは思わなかった」とコメントしつつ、リアタイヤのグリップの高さと安定感、ステアリングの応答性のよさと安心感を高く評価した。
ドライ路面では80km/hから急制動を行ない、従来品よりもブレーキを踏んだ瞬間から最後まで、特に「後半のピタッと止まるまでの制動力が従来品よりも高まっている」とコメント。制動距離も短くなっていて、車体半分以上手前で止まっていた。また、80km/hでの3回連続のレーンチェンジ走行テストでは「グリップ力がないと最後の方で破綻してしまうが、クロスクライメート2は最後まで安定して舵が利き、リアタイヤもしっかり追従してくるので、行きたい方向にスッといける安心感の高いステアリング特性だった」と紹介した。ウェット路面でも80km/hからの急制動を行ない「初期制動の立ち上がりが従来品とは明らかに違う」と佐藤氏はいう。
最後は高速道路での試乗。「雪上性能は高いけれどスタッドレスタイヤのような乗り心地ではなく、夏タイヤと同じようにすごくしっかり感があって乗り心地とのバランスが絶妙。パターンノイズも気にならないほど静粛性があり、快適性も高い」とコメントした佐藤氏は、「雪上性能を上げつつ夏タイヤとしての性能もしっかり上げていることが実感できたので驚いた。また、雨の日の安心感を実感できるのも嬉しい」とまとめた。