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GRヘリテージパーツで復刻する「カローラレビン」「スプリンタートレノ」用4A-GE型エンジン部品は、トヨタの最新加工技術を採り入れた優れもの

ヘッドの考え方はAE86のスワールではなく、AE92後期のタンブル

GRヘリテージパーツを使って組み立てられた4A-GE型エンジン。シリンダーヘッド、シリンダーブロックの2つのパーツが使われている

 TOYOTA GAZOO Racingが9月10日に発表した、AE86型「カローラレビン」「スプリンタートレノ」の「4A-GE型」エンジン部品2点が大きな話題を呼んでいる。このエンジン部品は、シリンダーヘッドSUB-ASSY、シリンダーブロックSUB-ASSYの2点で、9月13日~14日に富士スピードウェイで開催される“頭文字D 30th Anniversary 2days”において展示。先行予約を開始する。

 このシリンダーヘッド、シリンダーブロック、そしてこの部品を組み込んでレストアしたAE86を取材する機会があり、ここにお届けする。

4A-GE型エンジンが搭載されたスプリンタートレノ。このトレノのレストアはGRガレージ 水戸けやき台が担当。右がレストアを担当した水戸けやき台の田中宏紀店長、中央が作業を担当した同店のGRコンサルタント 田村優氏、左がGRヘリテージパーツを手がけるトヨタ自動車株式会社 ICE開発部基盤開発室 大嶋智也氏

 トヨタが再生産に踏み切ったシリンダーヘッド、シリンダーブロックは、TOYOTA GAZOO Racingが取り組んでいるGRヘリテージパーツプロジェクトの一環として企画された。

 大嶋氏によると、GRヘリテージパーツとして何を復刻していくかという検討になったときに、「トヨタでなければできないことをしよう」との方向性があるという。チューニングパーツなどが多数出ているAE86、4A-GE型エンジンだが、エンジンの基幹部品であるシリンダーヘッド、シリンダーブロックは一度オイルまわりや水路が壊れてしまうと応急処置が難しい。しかも一発で型抜きされている鋳造部品だけに、ある程度の数がまとまらないと製造工程でのコストが高くなり、一般には作り出すことが不可能な部品だ。

 トヨタが今回この部品類を再生産するにあたりユーザーの要望も確認しており、事前に3Dプリンタで製造予定のシリンダーヘッド部品、シリンダーブロック部品を再現。86関連のイベントで聞いた要望が反映されているという。

 その一つがシリンダーブロックに対してFF車(エンジン横置き)にも乗るようにボスやリブが追加されていること。また、シリンダーヘッドに関しても吸排気ポートの肉厚を一部アップすることで、加工する余地を増やしてある。

 本来、復刻パーツであればオリジナルを忠実に再現という方向性もあるのだが、実はトヨタ社内に図面がなく、実物をベースに新たに作り上げているという。その新たに作り上げる過程で、トヨタの最新の加工技術、生産技術が採り入れられており、ある意味チューニングヘッド、チューニングブロックというものになっている。

企画段階の検討部品。3Dプリンタで出力してあり、この部品をもとにユーザーの意見をくみ上げていった
シリンダーヘッドの横断面。バルブガイドやバルブシートが分かりやすい

 ヘッドまわりでは、元になったのはAE92後期に搭載されていた4A-GELU型エンジンとのこと。よく知られているように、AE86型に当初搭載された4A-GE型エンジンには、可変吸気システムであるT-VIS(Toyota Variable Induction System)が採用されていた。これは低回転で2バルブある吸気バルブの片方を閉じることで、横方向の渦を作り出してエンジンの熱効率をアップしようというもの。その仕組みから吸気側に2バルブ必要で、最初に6気筒エンジンである1G-GE型に採用され、4A-GE型、3S-GE型にも採用を広げたものだ。

 記者の記憶では、当時のトヨタはこのスワール燃焼を展開しており、カリーナにおいてはスワールコントロールバルブを使ったT-LCS(Toyota Lean Combustion System)を装備した4A-ELU型エンジンを搭載。同じ4A型ながら、世界初の希薄燃焼制御システムとして、燃費向上をねらったエンジンを成立させていた。

シリンダーヘッド。現代の技術で復刻されており、時を超えたチューニングが施された部品になる
燃焼室。直噴エンジンではないためセンターはスパークプラグ。NCの加工跡が分かる
NCが走った跡を見れば、一度にどのくらい削り取っているのか分かるだろう。せっかくなので手に入れたら鏡面仕上げをしたいところ

 ただ、トヨタはAE92の時代になると燃焼の概念を転換。現在に通じる縦方向の渦で燃焼効率向上を狙うタンブル燃焼を採り入れている。今回のシリンダーヘッド開発スタッフによると、このGRヘリテージパーツでは4バルブ4A-GE型エンジンの最後のヘッドである、AE92後期のものを再現し、タンブル流による燃焼を採り入れているとのことだった。

 さらに鋳造ヘッドにおいても、燃焼室を鋳造したままではなくNC旋盤によって平滑化。一般にはレーシングチューンで用いられるきれいな燃焼室を作り出そうとしている。本物のレーシングエンジンであれば鏡面仕上げとなるのだろうが、少量生産であるため鋳造肌ではなく、フライス肌となっていた。

 そして吸気ポートにおいても、単なる鋳造肌ではなく元となる砂型のほうに塗型(とがた)処理を実施。砂型の平滑化を図ることで、鋳造部品の鋳肌の平滑化を実現しており、ワークスならではのチューニング部品とも言える。

 実際、この鋳造部品の開発はトヨタのレーシングエンジンの鋳造なども行なっているトヨタ 明知工場の協力によって作られている。製造は協力会社となるが、復刻パーツ開発段階では鋳造技術に優れる明知工場スタッフも加わっていたとのことだ。

こちらは吸気ポート部。ほかの場所との鋳造肌の違いが分かるだろうか? 気になる方は富士スピードウェイで開催される“頭文字D 30th Anniversary 2days”の展示品を確認していただきたい

 そのほかシリンダーヘッドには、カムシャフトを固定するカムキャップの全箇所に取り付け位置を規制するノックピン(ダボ)を追加。オリジナルでは前側のカムキャップだけであったのに対し、全箇所に取り付けることでカムシャフトをぶれなく取り付けることができるようになっている。大嶋氏は、「せっかく取り付けたカムシャフトがぶれて回って焼き付いたらもったいないです」とにこやかに語ってくれた(エンジンが好きな人に間違いないと確信)。

こちらはシリンダーブロック
シリンダーのホーニングも、トヨタの最新工程で行なわれている

 一応、念のために確認したのだが、複雑な形状を持つ鋳造部品のため、鋳造に使用する砂型は1部品の製造ごとに作り上げており、実質的には手作りに近い製造工程と思って構わないだろう。現代のトヨタの加工・生産技術によって復刻された4A-GE型エンジンのシリンダーヘッドとシリンダーブロック。その内容はワークスチューニングと言ってもよく、4A-GE型エンジンを利用している人であれば、とりあえず購入しておいたほうがよいと言えるものだろう。今回は300セットほどを製造しており、大嶋氏はどのくらい売れるのか分からないと語っていたが、結構売れそうな予感がする部品であった。

シリンダーヘッドの説明
シリンダーブロックの説明