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トヨタ、ル・マン24時間制覇に向けWEC向け新型マシンを予告 空力と制御をアップデート

TOYOTA GAZOO Racing WECの公式SNSが明らかにした新型マシンのシルエット。フロントまわりの空力が大幅に変更されたことを示唆している

ル・マン24時間制覇を狙うトヨタの新型WECマシン

 TOYOTA GAZOO Racingは10月1日、ル・マン24時間制覇を目指すべくSNSで新型のレーシングマシンのシルエットを公開した。公開されたのはシルエットのみとなるが、「the next chapter of our @FIAWEC」というコメントや「#PushingTheLimitsForBetter #WEC #WECjp #LeMans24 #LeMans24jp」というタグが並ぶことからFIA WEC(世界耐久選手権)向けの新型ハイパーカーであり、ル・マン24時間制覇を目指すものであることが予測される。

 TOYOTA GAZOO Racing WECチームは、WEC富士6時間レースの際にトヨタ自動車 代表取締役副社長でありTOYOTA GAZOO Racing Europe(以下、TGR-E)会長である中嶋裕樹氏ら首脳陣による会見を行なっており、そこでは現行のマシンであるGR010 HYBRIDをアップデートすること、アップデート内容は「空力」と「制御」であることを明らかにしている。

 現行マシンであるGR010は、トヨタに初のル・マン24時間勝利をもたらしたTS050 HYBRIDと同様の考え方をベースにパワートレーン関連を大幅に刷新。90度V型6気筒 3.5リッター直噴ツインターボエンジンを120度V型に変更するなど低重心化が図られている。導入初年度である2021年、そして次年度である2022年とル・マン連覇を成し遂げ、トヨタのル・マン24時間5連覇につながった。

 一方、2023年以降は新型マシンでル・マン24時間に参戦したフェラーリなど新規の考え方を軸にデザインされたハイパーカーに対して劣勢となっており、フェラーリの3連覇という結果になっている。先日のWEC富士6時間でも、最高速度の低さが指摘されていた。

空力デザインの変更も気になるが、新型マシンではヘッドライトデザインの変更も特徴的。このデザインアイコンがどう展開されていくのかにも注目
リアのデザイン。リアウィングとルーフの位置関係など見るべき点は多い。しかしながら空力的に最も大切なシャシー下面からの空力処理がまったく分からない。テールランプはGRヤリスにも通じる凹型デザイン。リアウィングと同様のデザインとなり、デザインテーマが感じられるところ

 そのためレギュレーションに従って、主に空力、制御をアップデートすると宣言していたわけだが、制御はともかくシルエットから空力アップデートの一端がうかがえる。

 現状のGR010 HYBRIDは、ヘッドライト部が急速に立ち上がっているのに対し、新型のシルエットはゆるやかに立ち上がっているように見える。どちらのマシンもCFD(Computational Fluid Dynamics)によって空力解析されていると思うが、空気流が最初にぶつかる部分をゆるやかにすることで空気抵抗の低減につながる渦流の制御を行なっていると思われる。

 最高速向上につながる空気流の制御はリアまわりが特に大切となるが、その辺りはシルエットにつつまれてまったく分からず。実車がデビューした際に確認してみたいところになる。

 また、特に印象的なのがヘッドライトのデザイン。これまでのGR010 HYBRIDは、TS050 HYBRIDの流れをくむデザインで強い主張はあまり感じられなかった。それに対し、今回公開された新型マシンではヘッドライトのデザインが特に強調されているように見える。これがGAZOO Racingの新しいアイコンとなるのかどうかは不明だが、近々デビューすると見られているトヨタのGT3マシンにつながるものなのかも注目したいところ。

新型マシンの右側面。制御もアップデートされると発表されているが、それがどのようなものか写真から読み取ることは不可能

 リアの凹型テールランプデザインも同様で、GRヤリスと共通点を感じる部分でもある。空力のアップデートとともにブランドアイコンの構築という統一デザインへ踏み出したものかどうかも正式発表時の見どころになるだろう。

 空力などは外観からある程度は推測できるものの、もう一つのポイントである制御はまったく推測不能。制御については今後の発表を待つしかないが、その際にお願いしたいのは制御についても名前を付けてほしいところ。制御というソフトウェアの力がレースの鍵を握っているのなら、そこに名前を付けることで(内部的にはコードネームや番号など名前はあると思われるので)、ソフトウェアの力を見える化することがSDV(Software Defined Vehicle)時代における自動車会社に求められているのではないだろうか。

 実際、スマートフォンのOSで言えばAppleのiOSは「iOS26」などが大きな話題になり、「26.0.1」というバージョン番号すら人々の口に上る時代だ。それはパソコンも同様で、「Windows 11」というOSそのものも話題になるが、「24H2」「25H2」といった年次改良的なアップデートもニュースとなっている。そのポイントは名前がしっかり付いていることで、今後自動車会社がSDV時代へ向け制御をウリにしていくのであれば、制御名を明らかにしていくことが必要になるだろう。大きなパワートレーンの変更はルール的に難しいと思われるが、トヨタの新型マシンがどのような制御ロジックを伴って現われるのか楽しみに待ちたい。