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シンガーとコーンズ、「ポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガー」日本初公開

世界限定100台はすでに完売状態

2025年10月19日 開催
「Porsche 911 Carrera Coupe Reimagined by Singer」を日本初公開(写真はシンガー・ヴィークル・デザイン創業者兼会長のロブ・ディキンソン氏)

レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズやコスワースが協力

「ポルシェ911」をベースにしたビスポークのレストア専門ブランドとして知られるSinger Vehicle Design(シンガー ヴィークル デザイン。本社:米カリフォルニア州)は10月19日、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で行なわれた「CORNES Day 2025 in Fuji Speedway」において「Porsche 911 Carrera Coupe Reimagined by Singer(ポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガー)」を日本初公開した。

 今回のモデルは7月に行なわれたイギリス グッドウッド フェスティバル オブ スピード、8月に行なわれたアメリカ モントレー カー ウィークに続いてのお披露目となり、その公開の場は2024年5月にパートナーシップ契約を締結した輸入車正規販売店のコーンズ・モータースが主催するイベント会場となった。

 シンガーは2009年に設立され、ポルシェ911のレストアおよびリイマジン(再構築)を、964型シャシーをベースにして行なっている企業として知られる。企業理念としてポルシェへの敬意が根底にあり、シンガーが再構築した車両はいかなる場合においても「シンガー」「シンガー911」「シンガー・ポルシェ911」「ポルシェ・シンガー911」などと表記することはないという。

 そのシンガーがコーンズとともに日本のビジネス展開を本格スタートしたのが2024年。日本でレストアおよびリイマジンを依頼する際、コーンズがサポートを行ない、シンガーが展開するレストアサービスについて理解を深めるとともに、要望について話し合いができるようにしている。また、コーンズとしてはサポートを行なうだけにとどまらず、納車後のメンテナンスサービスも展開している。

 そして今回のポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガーだが、オリジナルのタイプ964モノコックをベースにレッドブル・アドバンスド・テクノロジーズと共同でシャシーを強化するとともに、1980年代の911カレラのワイドボディモデルにインスパイアされたデザインが与えられた。

 エンジンはコスワース協力によって開発された自然吸気フラット6エンジンを用いており、この最新空冷エンジンは排気量4.0リッターで、可変バルブタイミングとともに自然吸気エンジンとしては異例という水冷シリンダーヘッドと空冷シリンダーのハイブリッド構造を採用した。これらの技術により、パフォーマンスや出力に妥協することなく、世界各国の厳しい規制に対応できる高い効率性を実現。その最高出力は420PSを発揮するという。

 また、ボッシュと共同開発した最新世代のABS、トラクションコントロール、エレクトロニック・スタビリティ・コントロールに加え、選択可能なドライブモード、6速MT、後輪駆動によってピュアなドライビングの喜びを提供する。

オリジナルのタイプ964モノコックをベースに、レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズと共同でシャシーを強化
1980年代の911カレラのワイドボディモデルにインスパイアされたデザインが与えられた
足まわりには電子制御ダンピングコントロールを備えた4ウェイ・リモート調整式ダンパーを採用
最新空冷エンジンは可変バルブタイミングとともに、水冷シリンダーヘッドと空冷シリンダーのハイブリッド構造を採用。ファンの位置は従来から変更され、電子制御式にすることでより効率的な冷却を実現したという

 インテリアパーツは、1つひとつ熟練の職人によって手作業で仕上げられたもので、シートは一流のラグジュアリーブランドが培ってきたレザー加工技術を使った、レザーとベルベットコーデュロイを組み合わせたもの。ダッシュボードトリムは24金バッヂをあしらったピアノブラック仕上げとなるが、これらのパーツに加えて細部までオーナーと作り上げていくことから1つとして同じ仕様にはならないという。

インテリアでは洗練されたスポーツラグジュアリーの世界観を表現した

 なお、ポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガーの価格は138万5000米ドル(日本円にして約2億775万円)とされているものの、ベース車両の価格や内装仕様などによって異なってくる。世界限定100台とアナウンスされているが、すでに完売状態にあるとのこと。

コスワースが911のエンジン製作に関わるのは初

ポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガーについてのトークショーも開かれた

 富士スピードウェイでのジャパンプレミアでは、シンガー・ヴィークル・デザイン創業者兼会長のロブ・ディキンソン氏があいさつを行なうとともに、会の後半にはチーフドライバーのマリーノ・フランキッティ氏、そして日産自動車でデザインを統括し、現在はSNデザインプラットフォームでCEOを務める中村史郎氏が登壇してトークショーが開かれた。

シンガー・ヴィークル・デザイン創業者兼会長のロブ・ディキンソン氏

 ディキンソン氏は今回のポルシェ 911 カレラ クーペ リイマジンド・バイ・シンガーについて1980年代のポルシェ911に深くインスピレーションを受けたと述べるとともに、市場からの反応は非常に熱狂的でポジティブであり、特にターボではなく久しぶりのNA(自然吸気)エンジンであることが好評だったと説明。1980年代の「筋肉質なターボ型ボディー」にオマージュを込めて作られており、現代ならではの最適化を施していると紹介した。

 また、この特別サービスの特徴としてフロントバンパーとリアスポイラーが交換可能であり、ツアーバージョンとスポーツバージョンの2つのコンフィギュレーションを楽しめる設計になっていると紹介。展示されたのはツアーバージョンで、スポーツバージョンはよりエアロダイナミクスに特化し、ダウンフォースが得やすく、冷却も効率的な設計になっていることが報告された。

会場にはスポーツバージョンのエアロも展示された

 そしてエンジンについては「自然吸気(NA)の空冷フラットシックスエンジンが搭載されており、シンガーがこれまで蓄積してきたノウハウを最適化して作られています。特筆すべきはコスワースとのコラボレーションであり、コスワースが911のエンジン製作に関わるのは初めてのことです。このコラボレーションの目的は最高出力と最大馬力を引き出すことでした。高回転によって生じる熱を管理するため、冷却システムに工夫がされており、エンジンヘッドは水冷、メインブロックはファンによる冷却を採用しています。従来のファンの位置を変更し、電子制御式にすることでより効率的な冷却を実現しています。また、可変式バルブタイミングを採用することでドライバビリティが向上し、トルクの使用範囲が広がっています。このエンジンは420PSの出力が可能で、環境規制に適合するために出力を下げる必要がなく、世界中どこでも同じ性能を発揮できます」とアピールした。

 加えてシンガーの歴史についても触れ、2009年にカリフォルニアで設立された比較的新しい会社であること、ディキンソン氏が元々カーデザイナーであったことが紹介された。ディキンソン氏は自身の経験を語り、5歳の時に初めてポルシェ911を見て感銘を受け、後にイギリスのコヴェントリー大学で自動車デザインを学び、ロータスでデザイナーとして働いた経験があることを報告。その後、音楽のキャリアを経て2003年にロサンゼルスに移住し、自身のために911をカスタマイズしたことがシンガーの始まりとなったと紹介した。

SNデザインプラットフォームでCEOを務める中村史郎氏

 また、中村氏はシンガーとの出会いと印象について言及。中村氏は2015年ごろにシンガーの本を見て興味を持ち、2017年ごろに初めてロサンゼルス北部にある工場を訪れたといい、「工場は質素な環境でしたが、そこで製作されているクルマのクオリティとのコントラストにおどろいた。特に印象的だったのはディテールの細かさと、1台1台がビスポーク(オーダーメイド)で、エクステリアやインテリアのカラーコンビネーションが全て異なる点でした」とし、シンガーのデザインについてはポルシェのオリジナルデザインをリスペクトしつつも、ディキンソン氏が独自の解釈を加えている点を高く評価していると述べた。

 なお、トークショーの後半には、自動車業界が変化する中でアナログなMTの内燃機関車は将来どうなっていくかという議論に発展。中村氏はEV(電気自動車)の普及が進む中でも、アナログな内燃機関車とMTは残り続けるだろうと述べた。その例えとして、クルマが馬に取って代わった後も乗馬が残っているように、移動手段としての実用性だけでなく、人間の感情や情熱を感じられるものとして内燃機関車の価値は続くのではないかと説明。

 また、ディキンソン氏はEVを好んでいると述べつつ、シンガーのオーナーからは911 EVを望む声が全く上がっていないと指摘。また、展示会などで若い世代も内燃機関車に強い関心を示していることから、今後もその需要は続くだろうと予測した。