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トヨタ、「エージェントAI」「インフラ協調」「アリーン」などあらゆる手段で「交通事故ゼロ社会」を実現へ

トヨタのSDVが目指すべきものを皿田明弘センター長が解説

トヨタ自動車株式会社 デジタルソフト開発センター センター長 皿田明弘氏。「交通事故ゼロ社会」への取り組みを紹介した

トヨタはクルマのSDV化で何を目指していくのか?

 トヨタ自動車は東富士研究所において、トヨタがクルマの知能化、SDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義車両)化によって何を目指していくのか、どのような開発を行なっているのかを報道向けに公開した。

 トヨタは2023年10月1日に、ソフトウェアに関する事業・開発を一体で推進する組織として「デジタルソフト開発センター」を新設。これまでの「クルマ開発センター」「コネクティッドカンパニー」の一部を集約し、商品企画・事業、アプリケーション開発、ソフトウェアプラットフォーム開発、電子プラットフォーム開発を担当するものとし、コネクティッドカンパニーを廃止した。

ソフトウェア開発プラットフォームと位置付けられたアリーンの概念模型。共通ミドルウェアとして、各ECUをつないでいく

 デジタルソフト開発センターの設立によりソフトウェアの開発の方向性を集約、ソフトウェア開発プラットフォームと位置付けられた「Arene(アリーン)」を筆頭に、トヨタの知能化を進めていく組織として注目が集まっていた。ソフトウェア開発ではウーブン・バイ・トヨタが、ハードウェア開発などを伴う実装部分ではデンソーが協力していくものとなっており、この3組織で具体的な社会実装・商品化に向けて取り組んでいる。

 デジタルソフト開発センターの初代センター長である皿田明弘氏は、トヨタが知能化によって何を目指していくのかを説明。現在、クルマの世界ではソフトウェアによってアップデート可能なSDVへの流れが進んでいるが、SDVに取り組む多くのメーカーから聞こえてくるのは、「クルマのスマートフォン化」という話になる。クルマがスマートフォンのようになることでアプリが販売可能になり、そこで映画や音楽などのエンタテイメントコンテンツが購入できるようになるというものだ。このコンテンツやソフトウェアアップデートの販売により自動車会社は新たな収益源を得て、利益率なども向上していくという。そんな話を聞いたことがある人は多いだろう。

 皿田センター長が語るのは、ソフトウェアアップデート可能というSDVにより、トヨタは「交通事故ゼロ社会を実現すること」に本気で取り組んでいくということだ。「『トヨタらしいSDV』で目指すことは、何か?(what do we aim for with this "Toyota-style SDV")と投げかけ、安全・安心を一丁目一番地とし、「交通事故ゼロ社会を実現すること」と語る。

 2024年の交通事故死者数は2663人。前年比15人減となったものの、1日あたり7人以上の人が亡くなっている。大きな事故はニュースにはなるが、毎日どこかで誰かが亡くなっているのが現実で、年間の交通事故件数は29万792件、負傷者は34万3756人(1日あたり930人以上)と膨大な数となっている。

 皿田センター長は、トヨタはこの膨大な数の交通事故をゼロにすることに本気で取り組んでいくという。

ヒトとクルマとインフラ、三位一体の取り組みで「交通事故ゼロ社会を実現」

三位一体の取り組み

 現在数多く発生している交通事故をゼロにするというのは、とても高い目標になる。この目標を実現するためにトヨタが掲げるのは、ヒトとクルマとインフラ、三位一体の取り組みになる。

 事故ゼロ社会を実現するために「インフラとの協調」「行動予測」を行なっていくという。

 インフラとの協調の例として展示されていたのは、カメラやLiDARなどのセンサーを多数設置したスマートポールになる。このスマートポールを交通事故の起きがちな交差点に設置することで交通流をリアルタイムに分析、交通事故抑制につなげていく。

交差点に取り付けられるスマートポールの例。エッジコンピュータなどの装備も想定
スマートポールで行動予測を行なっていく

 また、もう一つのインフラ協調として「管制システム」をデモンストレーション。高速道路の合流など、個々のドライバーの判断ではうまくいかない場所に管制システムを導入することで、スムーズな合流を実現し、結果的に事故を防ごうとしている。

 サッカー選手の能力の一つとしてバードアイというものが語られることがあるが、この俯瞰的視野からの判断をシステムとして各車に提供する仕組みを導入。5台のクルマを使って、合流の失敗例、合流の成功例のデモが行なわれたほか、エージェントAIを使ってのドライバーアドバイスの実演を行なった。

5台のクルマを同時に走らせて、管制システムによる合流をデモ
それぞれの自律AIのほか、交通状況を俯瞰で見ている管制システムにより合流を行なう
AIエージェントの判断を俯瞰で見る

 行動予測については、前述のスマートポールなどによってより多くの範囲を見ることで次に起こる事象を予測。例えば、ボールを追いかけての子供の飛び出しを予測することで、近くを通るクルマへ警告を送り、事故を未然に防ぐなどの考えを示した。

 現状のクルマに備わっている予測機能としてはレベル2のADAS(Advanced Driver Assistance Systems)があり、将来の衝突を予測(衝突時間を計算)することで自動ブレーキシステムを作動させている。これは同一車線上の予測のみで、言わば一次元の予測。トヨタはそれをインフラ協調も使って二次元的に広げることで、市街地などで対応できる範囲を広げようとしている。

 皿田センター長は、そのために欠かせないのは「リアルタイムで最適な通信」だとし、その基盤作りも進めていると語った。

遅れのない通信の概念。将来的にはMECなどを挟み、仮想化の方向性もあるとした
途切れない通信の概念図。広帯域通信、優先通信などを使い途切れない通信を実現していく。QoSなどを実装していくものと思われる

 トヨタは、今後発売する新型RAV4からアリーンを導入していくが、アリーンの目的は、ヒトとクルマとインフラ、三位一体の開発を加速していくものだと説明。アリーンはOSではなく、ソフトウェアプラットフォーム開発と新たに位置付けられており、ミドルウェアとしてヒトとのインターフェース、インフラとのインターフェースを担っていくものになることを示唆していた。

アリーンの位置付け
アリーン実装について
アリーンの構成

 トヨタは、クルマのSDV化に加え、「エージェントAI」「インフラ協調」「アリーン」などあらゆる手段で「交通事故ゼロ社会」を実現していくことをこのイベントで宣言したことになる。