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HRC、2026年モータースポーツ体制発表 「SUPER GT王者奪還を目指しテクニカルディレクターを新設」と渡辺康治社長

2025年12月23日 実施
左から株式会社ホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長 武内伊久雄氏、代表取締役社長 渡辺康治氏、SUPER GTテクニカルディレクター長谷川彰大氏、レース開発室レース運営室室長 桒田哲宏氏

SUPER GTにテクニカルディレクターを新設

 HRC(ホンダ・レーシング)は12月23日、都内にて2026年の全日本スーパーフォーミュラ選手権およびSUPER GT GT500クラスについて参戦体制発表会を実施した。

 HRC代表取締役社長の渡辺康治氏は2025年の活動について、「スーパーフォーミュラではホンダ勢がシリーズを通して安定的な強さを示し、最終戦では岩佐歩夢選手が逆転で自身初のドライバータイトルを獲得。HRCとしても3年ぶりのシリーズタイトルを獲得できました。一方SUPER GTは、シビックTYPE R-GTでタイトルが取れなかったことは、素直に悔しく受け止めると同時に、チーム、ドライバー、エンジニアが全力を尽くしての結果ということで、結果の重さを非常に痛感しています」と振り返った。

株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏

 2026年シーズンに向けては、「勝利とチャンピオンシップ奪還を目標に掲げ、車両開発、レースオペレーション、各チームとの連携を、これまで以上に高い次元へと引き上げます。また、新マシンであるプレリュードGTを投入するので、しっかりとマシンの戦闘力が高められるように開発を行ないます。ただし、マシンを開発して供給するだけでは限界があり、今まで以上に現場の声を吸い上げ、双方向の関与を強めることで、より強いマシンを作り上げたいと考えています」と言及。

 続けて、「そのため2026年シーズンからSUPER GTに“テクニカルディレクター”を新設します。このポジションは、レース現場に張り付いて5台のプレリュードGTを担当する、各チームやドライバーとの連携を深め、HRCサクラの開発部門へのフィードバッククオリティを上げる役割を担います。さらにエンジニアを数名配置して5台のプレリュード GT全てのパフォーマンスサポートを担います」と新ポストの役割を説明した。

2025年9月に公開された新型マシン「プレリュードGT(プロトタイプ)」

 今回のテクニカルディレクターの新設は、体制強化の第一歩としていて、長期的には四輪レースでもワークス体制を確立することを目指すといい、そのため2026年シーズンは、SUPER GTでのレース運営を学ぶため、専任のエンジニアを配置するなどHRCとして8号車の運営に深く関与し、チーム名も新たに「TEAM HRC ARTA MUGEN」とすると明かした。マシンのカラーリングもARTAカラーにHRCのアイデンティティを融合させたデザインにするという。

 またプレリュードGTが、シビックTYPE R-GTに対してどのくらいのポテンシャルを秘めているかについては、開発中のため現段階ではまだ言及できないとのことだった。

北米IMSAに参戦しているHRC USのノウハウも活用していく

 続いてHRCレース開発室レース運営室室長 桒田哲宏氏は、SUPER GTの活動内容に関して、「現在のSUPER GTは非常にコンペティティブなチャンピオンシップとなっています。競争が激しいからこそ、勝つためにはいろいろな領域で非常に細かいところまで突き詰めていく取り組みが必要になります。われわれは絶えず将来を見据えて何が必要かを考えながらレース活動を行なっていますので、来シーズンからの取り組みの1つとして、ホンダ全体の総合力を上げるべく、SUPER GTの現場運営体制の強化を進めます」と説明。

 新設するテクニカルディレクターは、現場の技術責任者として「マシンの性能を出し切ること」「各チームのドライバーとの連携を強めていくこと」「現場での課題に対してスピーディに開発部隊と共に対応していくこと」が主な役割という。

 合わせて5チームの横通しも非常に重要となるため、その横通しを担うエンジニアも配置することで横連携を強化。ホンダのマシン全体のパフォーマンスアップを狙うとしている。

株式会社ホンダ・レーシング レース開発室レース運営室室長 桒田哲宏氏

 また、マシン開発について桒田氏は、「レース運営をより深く理解することも重要と考えており、今までも同じような取り組みはやっているものの、運営形態の変化や進化もあるので、2026年シーズンは学びの場として4チームで唯一2台体制のARTAに協力を仰ぎました」と説明した。

 その結果、今シーズンから8号車の運営にHRCが深く関わり、テクニカルディレクターと専任エンジニアが張り付いて、タイヤやマシンのセットアップを一緒に考え、提案もしながらピット戦略にも関与するという。勝てるセットアップをどのように素早く決めるかなど、現場で学びながら開発に生かしていく方針とのこと。

 なお、この取り組み自体は、北米でHRC USが参戦しているIMSAの耐久レースのセミワークス体制と呼ばれる93号車と近い考え方とのことで、HRC USのノウハウも取り入れていく考えだという。

 そのため93号車で養った経験を生かすべく、太田格之進選手が8号車のドライバーに加入。2026年シーズンはアメリカでの活動と同時進行で、HRC USとの橋渡し的な役目も担うとしている。

アキュラ ARX-06 93号車と太田格之進選手(写真は昨シーズンの参戦体制発表会)

SUPER GTテクニカルディレクターに就任した長谷川氏とは

 2026年シーズンから新たにSUPER GTテクニカルディレクターに就任する長谷川彰大氏は自身の生い立ちに触れ、「小学生のころロータスF1で走っていた中嶋悟さんに影響を受け、中学生ではホンダのエンジニアのインタビューを雑誌やTVで見たことから、将来はホンダのエンジニアになると決意しました」と回顧。

 大学時代はまだ「学生フォーミュラ(学生がマシンを制作して競い合う大会)」が開催されておらず、学校では機械工学や自動車工学を学んでいたという。しかし、レーシングカーのことをまったく学べなかったことから、「これはもう鈴鹿へ行くしかない!」と思い立ち、鈴鹿サーキット近隣のレーシングガレージを自ら訪問したという。

 そして大学卒業後は無事にホンダに入社。最初からレース部門を希望していたものの、まずは本田技術研究所で量産車のシャシー設計部門に配属。そこで量産車の開発に従事しつつも、モータースポーツへの情熱は冷めず、自からチームを立ち上げ、土日や夜に自分たちで作ったマシンでレースに参戦していたという。

株式会社ホンダ・レーシング SUPER GTテクニカルディレクター長谷川彰大氏

 転機が訪れたのは2006年で、社内公募に「モータースポーツ開発室」があった。これに迷わず立候補し、念願のHRC開発室に配属され、それから約20年にわたってほぼSUPER GTの開発業務に携わってきたという。

 モータースポーツ開発室での仕事は、2009年規定に向けたプロトタイプマシンの開発から始まり、フロントエンジンの「NSX-GT」の設計、実走現場でのデータ解析など多岐にわたり業務を経験。「HSV-010 GT」がデビューした2010年は、データ解析環境を一新したこともあり、1年間チームに帯同しつつチャンピオン争いに貢献。2012年には2014規定に向けての新たな設計・開発がスタートし、シャシー設計担当に就任したという。

 2017年からはSUPER GTを離れてWTCC(世界ツーリングカー選手権)を担当。2018年には設計から研究へステージを移し、シミュレーターなどを活用しながら再びSUPER GTの活動へ参加。2020年からは車体の設計と研究の両方を統括する担当になり、2023年からはシミレーション&シミュレーター領域のチーフエンジニアとしてSUPER GTをサポートするなど、長期にわたりSUPER GTの活動に関わってきたことから、今回のテクニカルディレクターに抜擢されたという。

株式会社ホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長 武内伊久雄氏

SUPER GT(GT500クラス)エントリーリスト

チーム名No.ドライバー年齢国籍2025年戦績
TEAM HRC ARTA MUGEN8太田格之進26日本(京都府)
大津弘樹31日本(埼玉県)GT500 8位
ARTA MUGEN16野尻智紀36日本(茨城県)GT500 9位
佐藤連24日本(神奈川県)GT500 8位
Astemo REAL RACING17塚越広大39日本(栃木県)GT500 11位
野村勇斗20日本(愛知県)GT300 11位
Modulo Nakajima Racing64大草りき25日本(神奈川県)GT500 13位
イゴール・オオムラ・フラガ27ブラジルGT300 18位
STANLEY TEAM KUNIMITSU100山本尚貴37日本(栃木県)GT500 2位
牧野任祐28日本(大阪府)GT500 2位

全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)エントリーリスト

チーム名No.ドライバー年齢国籍2025年戦績
TEAM MUGEN1岩佐歩夢24日本(大阪府)SF 1位
16野尻智紀36日本(茨城県)SF 5位
DOCOMO TEAM DANDELION RACING5牧野任祐28日本(大阪府)SF 4位
6太田格之進26日本(京都府)SF 3位
HAZAMA ANDO Triple Tree Racing10JUJU19日本(東京都)SF 出場
ThreeBond Racing12TBA
DELIGHTWORKS RACING22松下信治32日本(埼玉県)GT500 9位
San-Ei Gen with B-Max50野村勇斗20日本(愛知県)SFL 1位
PONOS NAKAJIMA RACING64佐藤蓮23日本(神奈川県)SF 7位
65イゴール・オオムラ・フラガ27ブラジルSF 6位