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ミシュランが環境対応についてワークショップ開催 “年間約50万t”を段階的に削減するタイヤメーカーの取り組みとは
「製造」「物流」「使用段階」「回収と再資源化」「設計・材料」、環境負荷がもっとも高いのはどれ?
2026年7月6日 08:00
年間約50万t。タイヤに関する数字として、これが何を表しているか分かるだろうか?
それはヨーロッパにおいて、1年間で道路に排出されるタイヤの摩耗粒子の量だ。そして2028年から、EUがこの摩耗粒子を初めて規制することになり、いまタイヤメーカーはこの対応を急いでいる。
ちなみにEUが定めた環境規制「ユーロ7」では、これを段階的に削減する目標を立てている。具体的には2028年に第1段階として現行レベルで10%、より厳しい基準導入後は約14%の削減を行なうとしているのだ。
10t積みのトラックで、実に5万台分。この粉塵を削減するためにタイヤメーカーは一体何をするべきか? こうした問題を理解し、その問題意識を持つために、このたび日本ミシュランタイヤは報道陣向けにワークショップを開催した。
前述のように厳しい削減を達成するには、まずタイヤの構成素材が大きく変わることになる。具体的には、再生可能な素材でタイヤを作る必要性が高まる。興味深いのは国際連合欧州経済委員会(UNECE)の市場評価で、現状では現行タイヤの約29%が、第一段階の摩耗規制値に不適合になると予測。そして現行タイヤの42%が第2段階で不適合となると予測していることだ。
またEUが既成する「欧州森林破壊防止規制」(EUDR)では、タイヤの原材料として使われる天然ゴムを採取する際に、森林破壊を伴わない証明を求めている。これに対してミシュランは、すでに2015年の時点でタイヤメーカーとしては初となる森林破壊ZEROのコミットメントを宣言。そして2024年には、タイヤ及び製品において森林伐採のないゴムのみを使用し、これを示す証拠を提出している。
さらにEUは「エコデザイン規則」(ESPR)を発効し、リトレッドや再生材利用といったライフサイクルアセスメント(LCA)の義務化を予定。これに対してもミシュランの対策はすでに始まっている。
そもそもこうした規制が始まる前から、ミシュランはサスティナビリティへの提案をし続けている。1946年にタイヤの構造をバイアスからラジアルへと進化させたことは、その象徴的な技術だ。1992年に発表された世界初のエコタイヤ「ミシュラン エナジー」の技術は、いまや全てのタイヤに応用されており、ミシュランにとっては特別なことではない。そして2020年から2030年までの間にミシュランは、全タイヤの摩耗性能を10%向上させるというコミットメントを発表している。
ワークショップで理解するサスティナビリティとLCA
今回開催されたワークショップは、日本ミシュランタイヤとしては初めての試み。そしてこれをベースとして今後は日本ミシュランの社員や、カスタマーに向けて展開されていく予定だという。
各班ごとに分かれて行なうワークショップは、全員参加が約束。目的はチームが「勝つこと」ではなく、「学ぶこと」だ。その内容は決して専門的なものではなく、正解・不正解もない。知識を共有して理解を深めることが目的であり、終始和やかな雰囲気で行なわれた。
ワークショップではまず、タイヤに関する基礎知識が書かれたカードが5枚配られ、各班ごとにこれを読み上げていった。
走行中、タイヤは摩耗する
ゴムを主成分とするタイヤは、路面とこすれてトレッドが必ず摩耗する。そこで発生するのが先に話題となった摩耗粒子(TRWP:Tire and Road Wear Particles)だが、ここには路面側の粒子も含まれている。
そう、意外なことに思われるかもしれないがクルマが走行すると、タイヤだけでなくその路面も削れるのだ。そしてその割合はなんと50:50だという。
ちなみにこのデータはTIP(タイヤインダストリープロジェクト)と呼ばれる組織によって算出されている。TIPはマーケットの60~65%を生産する、グローバルなタイヤメーカー10社が集まってできた研究組織だ。
工場ではタイヤの成形・加硫工程において資源を消費
10kgの乗用車用タイヤ1本を製造・加硫するためには、まず30kWh以上のエネルギーが必要になる。これは冷蔵庫で約1か月分、洗濯機だと約30回分の電力使用量に相当する。またこの際の水の使用量は100L以上で、浴槽1回分に相当。さらに約15gの溶剤が必要となる。
こうした条件に対してミシュランは、水の循環と再利用を行ない、水不足など環境の条件に左右されずにタイヤ製造ができる取り組みを進めている。また工場建設や従業員用駐車場の用地を作る際は、環境破壊に対して配慮をしなければならないとしている。
タイヤの輸送では「陸・海・空」各手段を使用
タイヤメーカーは天然ゴム・合成ゴム、金属補強材、繊維補強材などの原材料調達のために、大量の輸送を必要とする。参考としてミシュランは毎年、長さ20フィート(約6m強)の輸送用コンテナ約20万本分に相当する海上輸送と、満載トラック約70万台分に相当する陸上輸送を利用。
これに伴うCO2の排出量をいかに減らすか、そして輸送距離そのものをいかに縮めるかも、タイヤのLCAを考える上で大切な要素になる。
走行時、タイヤはエネルギーを消費する
クルマを走らせる上でその燃料消費の約5分の1が、タイヤの転がり抵抗(路面接触時のタイヤの変形)によって消費される。また電気自動車においてもタイヤは、通常走行中に転がり抵抗によって電力を消費し、さらに蓄電作用のある回生ブレーキを作動させたときでさえ、本来バッテリに戻るはずのエネルギーの一部を奪っている。
このことからも分かるとおり、走行中にCO2を排出しない電気自動車においても、転がり抵抗を低減することが重要になる。
ニーズを満たすタイヤを設計する
タイヤ設計者はその専門知識を活かしながら、マーケティングチームと協力してユーザーが求める性能を実現するタイヤ開発を行なっている。とくに昨今は環境に対する高いレベルのニーズが社外からも求められており、開発には技術革新やブレイクスルーが多く求められている。
さまざまな原材料の選定と調達
丸くて黒いゴムの塊に見えるタイヤには、なんと200種類を超える原材料が使用されている。その材料を紐解くと、エラストマー(天然ゴム・合成ゴム)、補強用充填剤(カーボンブラック、シリカ)、可塑剤、繊維素材、スチール、およびその他の化学物質となる。
ミシュラングループだけでもその原材料の量は、毎年約330万tにも上る。余談だがその総量は、地球上の全ての象(エレファント)の総重量と同じ。ボーイング 787型機1万1000機台以上、エッフェル塔約300棟分! それだけ多くの材料を使ってタイヤは生産されており、これをいかに再生可能な資源で循環させるかが重要となってくる。
使用後タイヤは回収され、廃棄物として管理される
世界では毎年10億本以上のタイヤが寿命を迎える。そしてこれは、年間約3000万tの廃棄物に相当する。世界全体ではこうした使用済みタイヤの約88%が回収され、再利用・再資源化されている。
こうしたタイヤの回収率は、多くの製品と比べても高い水準であり、廃棄されたタイヤがいかに資源として高い価値を持っているかを表している。
この数字は前述したTIPによって発表されたデータだ。ちなみにその回収率は、欧州が95%以上で、アメリカが70~80%となる。日本は日本自動車タイヤ協会(JATMA)がそのリサイクル率を99.2%と発表している。
グループワークでは各班のテーブルに、タイヤが製造されてから回収されるまでの循環を示すサークルシートを配布。ここに「製造」「物流」「使用段階」「回収と再資源化」「設計・材料」のカードを置いて、さらに各項目における環境フットプリントの割合がどれくらいかを話し合いながら、配られた5枚のカード(1%、1%、1.5%、13%、84%)を当てはめていくレクリエーションが行なわれた。
ちなみに環境フットプリントとは、いわゆるカーボンフットプリント(CO2排出量)を含みながら、より広義な環境負荷要素を加えた環境負荷指数だ。ミシュランではISOルールにもとづく評価項目として、16項目の環境因子をフットプリントとして用いている。
ということで読者のみなさんも、いったいどの項目がどれだけ、環境への負荷割合を占めているかを考えてみて欲しい。
その答えは、「製造」(1.5%)、「物流」(1%)、「使用段階」(84%)、「回収と再資源化」(1%)、「設計・材料」(13%)となった。
覚えておきたいのはやはり、クルマは走っているときが一番、そして圧倒的に環境負荷が高い(84%)ということだ。興味深いのは物流の割合が意外にも1%と低く、設計と材料調達段階が13%と高いことである。
だからこの「使用段階」での環境フットプリントを減らす手段として、ミシュランは「低転がり抵抗」と「ロングライフ・耐摩耗性能」の向上を第一に掲げている。さらに二番目に大きな「設計・材料」に対しては、「リサイクル材・再生可能材」「タイヤの軽量化」「材料の選定」という3つの項目を打ち立てている。
リサイクル材・再生可能素材の例
タイヤは200種類を超える素材で構成されているという話をした。そしてミシュランは2030年までに、その素材の40%を再生可能素材と置き換え、さらに2050年までにはこれを100%にするのを目標にしている。ちなみに2023年には28%、2024年には31%、そして2025年には32%と、着実に再生可能素材の使用率は上がってきている。
その代表的な素材の例を挙げると、合成ゴム(25%)と天然ゴム(24%)が挙げられるが、これらエラストマーは全体の半分に過ぎない。この他にはカーボンブラックやシリカといった補強素材(20%)、金属(10%)、添加剤(14%)、繊維(7%)が挙げられる。
こうした素材を再生可能素材に置き換える例を挙げると、まず天然ゴムはカーボンニュートラル素材だからそのまま。シリカも同じく天然由来とするために、なんとお米の籾殻から抽出していたりする。
コンパウンドに混ぜられるポリマーやベースオイルは、バイオベースとすることで石油の使用量を削減。スチールやプラスチック繊維にはリサイクル材を使い、カーボンブラックには石炭を使わず、回収したタイヤを熱処理してできたオイルから再生カーボンブラックを抽出する。そしてゴムパウダーは、回収したタイヤを細かく粉砕して再利用する。
こうしたサスティナビリティ戦略を、ミシュランは「3P」という考え方で表現している。それはPeople(ピープル)×Planet(プラネット:地球)×Profit(プロフィット:利益)の頭文字を取った企業理念だ。ピープルでいうとミシュランは「最低賃金ではなく、生活賃金を約束する」と宣言。いくら環境のために最善を尽くしても、ミシュランで働く人々が生活できなければ意味がなく、利益もバランスしていなければならないと強く声に出しているあたりは、実にフランスらしい考え方だ。
BTタイヤのサスティナビリティ
そして座学の最後には、BtoB用に展開されるトラック用タイヤ(BTタイヤ)の「マルチライフ」に対する講義と、すり減ったタイヤを用いての「リグループ体験」が行なわれた。
タイヤのライフサイクルにおいて一番環境フットプリントの割合が高くなるのは、走行中だという話をした。そして乗用車タイヤで84%だったその環境フットプリントは、トラック・バス用タイヤでは90%以上にまで上昇するのだという。
そこでミシュランは、BTタイヤに対して「転がり抵抗の改善」「耐摩耗性の向上」というタイヤそのものの技術向上に加え、「マルチライフ」という戦略を採っている。
このマルチライフの内訳が、「リグルーブ」と「リトレッド」の2つだ。リグルーブとは、一度摩耗したタイヤに再び溝を掘り直すこと。これによって摩耗したタイヤは、グリップ性能及び駆動力を約10%回復することが可能になるという。また走行距離も最大で25%まで延長できるようになり、100kmあたり約1.6Lの燃料が節約されるという。
さらにリトレッドされたタイヤは、このトレッドが減ったあと、新たにトレッド貼り直すことで(リトレッド)、新品時に対して約90%の性能を回復することができる。リトレッドは新品タイヤ装着に対して原材料を約70%節約し、約30~40%のコストを最適化することができるという。
講義が終わると屋外では、実際にすり減ったタイヤのリグルーブが実演された。現場では予め3mmのインジケーターが確保されていたリグルーブ可能なタイヤを用意。一番浅い溝に対して、5.7mmの長さに調整されたヒートカッターが当てられ、再び溝が掘られた。
タイヤによってリトレッドのパターンは指定されており、今回は周方向の縦溝、ショルダー方向へ向かう横溝ともに直線基調。もともとはジグザグなパターンを真っ直ぐに掘り直すようすは、見ていてちょっと不思議な感じだった。
そして筆者もリトレッドを体験してみた。その手応えは、“にゅ~っ”と柔らか。ぐずぐずしていると煙が“モワッ”と立ち上がって、余計に削れてしまったりする。うまくいくときれいに溝が掘られて、ちょっとクセになりそうだった。
レクリエーションでは合わせてフォークリフト用タイヤのリグルーブも行なわれた。フォークリフト用のタイヤは「ソリッドタイヤ」と呼ばれており、剛性やトラクションのバランスを考えて、新品時には半分まで溝を切ってある。そして溝が浅くなったときに、その溝に対してリグルーブを行なう。
ユーザーのなかにはこのタイヤを、セーフティラインと呼ばれる使用限界ぎりぎりまでそのまま使うケースもあるが、ミシュランとしては排水性およびトラクション性能を確保するためにリグルーブを推奨。リグルーブを行なうことで、タイヤの寿命は約50%残存できる。推奨する1回の溝の深さは最大約15mmで、セーフティラインより上にゴムが残っている場合は、複数回のリグルーブも可能だという。
世代によってタイヤに求めるものが異なる
ミシュランが行なったタイヤに関する消費社調査では、実におもしろい結果が現れた。
全体を通して一番高いニーズは、「ウェットグリップ性能」の高さだ。そして2番目に高いのは30~60代までが「静粛性」。しかし20~29歳までの若い世代では「環境へ配慮された製品であること」がこれを逆転していたのだ。
興味深いのは、年齢層が上がるほどに環境への意識が低くなること。特に60~64歳までの層は、パーセンテージこそ示されていないがひどいものだった。
Z世代はエシカル意識が高いと言われているが、それは当然のことだ。なぜなら彼らは、これからの時代を生きていかねばならないのだから。
対して筆者を含むX世代は、極端に言えば逃げ切りを図れる世代だ。世のお父さんやおじいさんたちには、子供や孫たちの世代を守るためにも、もっと環境への意識を高めて欲しいと思った次第である。
















