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鈴鹿8耐で19連覇を目指すブリヂストンによる新たなサステナビリティへの挑戦

2026年7月3日〜5日 開催
鈴鹿8耐に参戦するマシンをタイヤ開発で支えるブリヂストン担当者に話を聞いた

 鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開幕した「2026 FIM世界耐久選手権 "コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第47回大会」(以降、鈴鹿8耐)。

 鈴鹿8耐ではブリヂストンタイヤ装着車が18連覇を達成しており、2026年は19連覇が期待されている。そんな中でブリヂストンは、サステナブルパーツを全面採用した0号車Team SUZUKI CN CHALLENGE(津田拓也/水野涼/エティエンヌ・マッソン、GSX-R1000R、BS)に対して、他チームとは異なるスペックの再生資源・再生可能資源比率を向上させたタイヤ(サステナブルタイヤ)を供給している。

 今回、ブリヂストンから、国内モータースポーツオペレーション部の栃元奈月氏、先端技術総合研究所 サステナブル技術戦略・研究部の川又崇弘氏、モータースポーツタイヤ開発部の若林朋之氏に、環境に配慮したレースタイヤ開発に取り組む理由と目指す先は何なのかを伺うとともに、雨予報となっている2026年の鈴鹿8耐の見どころ、そして19連覇に向けての意気込みを語ってもらった。

進化し続けるマシン・戦略に適応していけるタイヤに

鈴鹿8耐をはじめとするレース現場のハンドリングを担う株式会社ブリヂストン 国内モータースポーツオペレーション部の栃元奈月氏

──初めに昨年2025年の振り返りをお願いします。鈴鹿8耐18連覇達成についての感想もいただければ。

栃元氏:18まで数が積み重なってくると、すごく普通のルーティンのように見えるかもしれません。けれども、私たちにとって鈴鹿サーキット、夏の耐久レースというのは決して簡単なものではなくて、2025年は、まず1つしっかりやり遂げられた、という気持ちが強いです。

 その意味で耐久レースを毎年勝ち続けているのは大きなことですが、タイヤメーカーとしては各チームの足下をしっかり支えるのが一番重要なミッションです。勝てたのはライダーやチームスタッフの方々が極限の環境の中でベストを尽くしたからこそであって、そこで私たちが一緒に成果を出せたことは本当にありがたいな、と感じていました。

──鈴鹿8耐にタイヤメーカーとして参戦する意義を改めてお聞かせください。

若林氏:ブリヂストンでは、モータースポーツを「走る実験室」と捉えてタイヤの技術・性能を底上げすることを推進しています。このスタンスは従来から変わっていません。ご存知の通り我々は二輪のレースにおいてEWC世界選手権、全日本ロードレース選手権など幅広くタイヤを供給し、レースを通じて得られた知見や技術を一般のユーザーのみなさんが手にする市販タイヤにフィードバックしています。

 今年も25チームほどに我々のタイヤを使っていただいています。チーム数が増えるにつれオペレーション面やロジスティクス面では大変になってきているところもありますが、性能を高く評価していただき、チームの勝利にも貢献できている、といったところで我々スタッフ一同やりがいを感じていますので、引き続き頑張っていきたいと思っています。

──タイヤスペックに関して、2025年シーズンからの違いはありますか。

株式会社ブリヂストン モータースポーツタイヤ開発部 MSタイヤ設計第2課 若林朋之氏

若林氏:いくつかの進化ポイントがあります。前提として、耐久レース用ですので暑い時、寒い時など、あらゆるコンディションに対応するロバストな性能がタイヤに求められます。その中で安全性は最優先しつつ、予選のような一発タイムを出すためのピーク性能に加えて、長時間走行時にもグリップを維持できることが重要になってきます。

 近年は車両も進化していますし、各チームのセットアップ、戦略も進化しているため、タイヤにかかる負担は年々間違いなく高まっています。そうした中でピーク性能と持続性の両立を図れるよう日々取り組み、2026年は周囲の進化に合わせながらそれらを底上げするような最適化を施しています。

──タイヤの開発・製造におけるAI活用の広がりがあれば、可能な範囲で教えてください。

若林氏:まさにこれから取り組もうとしているところです。長くレース活動を続けてきたこともあって膨大なノウハウやデータが蓄積されていますので、それをタイヤの開発サイクルの中で活かしていこうという動きが始まっています。

 原材料を配合してコンパウンドを作るところからAIが役に立ちそうですし、開発の一連の流れにおいて少しずつAI活用を進め、より早く、より正確にレースのコンディションに合わせた形で最適なタイヤを投入できるようになれば、と思っています。

コンパウンドやワイヤーなど、サステナブル材料の割合を年々拡大

0号車「Team SUZUKI CN CHALLENGE」に装着されるサステナブルタイヤ

──0号車Team SUZUKI CN CHALLENGEにサステナブルなレースタイヤを供給しています。なぜそうしたタイヤを開発しようと考えたのでしょうか。

川又氏:背景にあるのは、やはり地球環境を大切にしていくという考え方ですね。製造業を担うグローバル企業として、資源を大事に使う、循環型社会を目指す、といったことが社会的に期待されるようになってきています。そうしたこともあり、2050年に100%サステナブル化およびカーボンニュートラルを目指し、事業全体としてサステナブルなタイヤ開発を推進しているところです。

 その中で、なぜモータースポーツの現場でレース用の再生資源・再生可能資源比率を向上させたタイヤを開発しているのか、というところで言えば、さきほど「走る実験室」という言葉が出たように、レース現場だとクイックにデータ収集して、すぐに良し悪しが分かることが1つメリットとして挙げられるからです。

 明確に技術課題を抽出でき、それに対して課題解決のアプローチを早く試して回していけるのが「走る実験室」の大きな意義と言えます。モータースポーツを活用して、サステナブルなタイヤ開発を効率よく進められるんです。

株式会社ブリヂストン 先端技術総合研究所 サステナブル技術戦略・研究部の川又崇弘氏

栃元氏:性能とサステナブルとは相反する部分が多くあり、再生資源・再生可能資源を適用した材料を使ってパフォーマンスの高いタイヤを作るのは容易なことではありません。だからといって速いタイヤを作っているだけでモータースポーツをこの先ずっと持続できるのか、というと、そういうわけでもないはずです。

 環境もそうですが、各チームの経済事情も含めて持続性を考えた取り組みを始めないと、この先モータースポーツを発展させるのは難しいかもしれません。モータースポーツは一般に環境に良くないというマイナスイメージをもたれやすかったりもしますので、そうではないということを知っていただく必要もあります。

 そういった意味で、これはまさにチャレンジです。Team SUZUKI CN CHALLENGEさんのプロジェクトは私たちにとって大変ありがたい機会で、一緒にチャレンジさせていただきたいと思って取り組んでいくことになりました。

 もちろん「サステナブルだから速いタイヤを作れない」みたいなことはないようにしたいですし、単にタイヤ材料だけサステナブルにするのではなく、レース活動全体をサステナブル化するにはどうすればいいか、という視点でオペレーションしていくことも意識しています。

 開発においては材料調達から生産までのエンジニアリングチェーンのすべてを、その先は使用後のタイヤの輸送からリサイクルまで、サステナブルな取り組みを進めていきます。

──Team SUZUKI CN CHALLENGEへのタイヤ供給は2024年からスタートして3年目になりますが、これまでのタイヤに関する取り組みの具体的な中身について教えてください。

川又氏:スタートした2024年は、タイヤを熱分解して作った油からカーボンブラックを再生成して、トレッド部に適用しました。2025年はリサイクルした鉄から作ったスチールコードを投入しています。

 そのうえで、今年2026年は原材料の一部を再生可能資源に置き換えています。松の木から収集した松ヤニを樹脂にして使っているのと、松の端材、間伐材がパルプになる過程で残った油をグリップ力に関わる素材として使用しています。また、ヤシの実から取れるココナッツオイルを硫黄と合わせて作り出した加硫促進剤も配合しています。

 このように二酸化炭素排出量を抑えてカーボンニュートラルに向けたタイヤ開発をしてきたのが2026年における大きな変更点であり、開発のポイントになっているかと思います。

栃元氏:サステナブルな素材は、引き出しとしてはまだまだ他にもたくさん持っているのですが、それによってレース用タイヤとしての性能が犠牲になってはいけません。求められるパフォーマンスを発揮しつつ、かつ再生資源・再生可能資源比率を向上させたタイヤを作る。その両立を前提として、2024年から少しずつ幅を広げてきている段階です。

──サステナブルなタイヤ開発で得たノウハウは、市販タイヤにはどういった形でフィードバックされているのでしょうか。

川又氏:グローバルで見ると、モータースポーツで検証した材料の一部はすでに市販タイヤにも少しずつ投入し始めています。単純にサステナビリティだけを考えるのではなく、コストと性能と環境面の総合的なバランスから少しずつ進化させていくことを意識しながら進めているところです。

 また、材料だけでなくタイヤを作る時のエネルギーについても、再生可能エネルギーを適材適所で利用しています。すでに量産タイヤの工場で利用し始めていますし、エンジニアリングチェーン、バリューチェーン全体でカーボンニュートラルに近づけていく活動はかなり広がっている状況です。

 そして使用済みタイヤについても、現在国内では製紙工場などの燃料として使われている率がおよそ8割となっていますが、我々がタイヤ製造に使うための資源にもするべく、リサイクル事業が今まさに始まろうとしているところです。2027年には岐阜県にタイヤを精密熱分解するパイロットプラントが建設される予定です。

ウェットレースであらゆるチームにチャンスがある

──前日までのプラクティスや予選の結果を受けての所感をお願いします

栃元氏:見どころみたいな話にもつながると思うのですが、鈴鹿8耐はかつてスポット参戦する国内チームが強く、年間参戦しているチームはなかなか上位に進出できない、というような状況が続いてきました。しかし、近年は年間参戦チームが表彰台を獲得することも増えてきたように思います。

 フリー走行や予選を見ると、昨年優勝の30号車Honda HRCが今年も強いことは間違いないものの、欧州から来ている年間参戦チームの37号車BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMと99号車Elf Marc VDS Racing Team/KM99も上位に食い込んできています。

 地の利を活かせるスポット参戦の国内チームと、耐久レースの戦い方を熟知している年間参戦チーム。今年はお互いの強みを生かしながら面白いレース展開をしてくれるのではないかと期待しています。

──今朝まではドライでしたが、明日の決勝レースは雨予報となっています。

栃元氏:ドライのセッションでは全般的にタイムが上がっています。おそらくはタイヤとして進化している部分もあれば、マシンやチームが進化している部分もあるでしょうし、路面の張り替えの影響も小さくなさそうです。

 ドライのレースになると、そのペースのまま走り続けたときにタイヤの摩耗や燃費の面でマネジメントが難しくなるかもしれません。そういった意味でレースペースがどうなるか、というのは気になるところです。

 しかし今の予報では雨天となりそうです。雨がずっと降り続けるのであればシンプルな気はしますが、降り具合や路面状況が変化するとタイヤに何を選択するのか、どのタイミングでピットインするのか、という点が鍵になってくるだろうと思います。我々もエンジニアが各チームとしっかりコミュニケーションを取って最大限にサポートしていきます。

若林氏:ドライタイヤに関しては、事前テストを踏まえつつ、今年は開催時期が真夏ではないため例年より気温が低くなりそうだという予想もしていました。ですので、我々としてはそれにアジャストしたスペックのタイヤを持ち込んでいます。

 一方で、梅雨時期でウェットレースも大いに考えられましたから、ウェットタイヤについても雨天時の想定気温やトラックの路面の張り替えなどを考慮したものとしています。今年はそうしたいろいろな要素が絡み、チームごとの戦略にも違いがはっきり出てきそうなので、楽しめる要素がたくさんあるのかなと思います。

 どのチームがどのタイヤを選択するのか、スリックでいくのかウェットでいくのか、1つの判断でレース展開が変わってくるでしょうし、30号車Honda HRCの牙城を崩したい他のチームにとっては大きなチャンスかもしれません。

──最後に、19連覇に向けての意気込みを。

川又氏:再生資源・再生可能資源比率を向上させたタイヤを含め、常に最高のパフォーマンスを発揮できるようにしっかり足下から支えていく、というところは変わりません。チームのみなさんとともに力を尽くして、19連覇を達成できればと思っています。

栃元氏:今ここにいる3人だけでなく、それぞれが担当している業務のメンバーが鈴鹿に集結しています。全員がワンチームとして動かないと成果につながらない、というのが鈴鹿8耐ですので、しっかりワンチームになってチャレンジし続けたいですね。

 ウェットコンディションになるのかならないのか、不安定な状況ではありますが、どんな状況でも全てのチームに公平に、最高のパフォーマンスを提供していきます。私たち自身がみなさんの足下を固めて、現場の声を大切にしながら成果を出す。そして最終的に市販タイヤに還元して良い商品をお届けする。そういう流れをモータースポーツを通じて作っていけたらなと思います。