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鈴鹿8耐、16連覇に挑戦するブリヂストンのタイヤ開発担当者に聞く

2023年8月4日〜6日 開催

決勝レースでは右のウェットタイヤが使われることになるのか

 鈴鹿サーキットで開催されている鈴鹿8耐「2023 FIM世界耐久選手権 "コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第44回大会」は8月6日に決勝レースがスタートする。それに先立ち、約30チームがレースタイヤに採用するブリヂストンの担当者にインタビューした。

 同社は現在のところ鈴鹿8耐で15連勝中。ブリヂストン モータースポーツ企画・推進部 モータースポーツオペレーション課主幹 東雅雄氏と、タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第3課 課長 時任泰史氏に、連覇記録更新に向けた意気込み、鈴鹿8耐で使われるタイヤの特徴、今後のタイヤ開発などについて聞いた。

グリップの持続性にフォーカスして開発、AI活用も開始

株式会社ブリヂストン タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第3課 課長 時任泰史氏

──2023年はコロナの影響がほぼなくなったと言ってよいかと思いますが、レース活動やタイヤ開発における環境・体制に変化はありますか。

時任氏:2022年の鈴鹿8耐ではコロナは完全には収束していなかったため、ある程度制限がある中でのサポートになっていました。しかし2023年はコロナ以前とほぼ同じようなフルサポートができています。

 コロナ禍ではテスト機会が限られ、その中でもタイヤ開発を進めないといけないので、現地の人間だけでテストできる体制を構築しました。そのうえでコロナ後には日本のエンジニアが海外を行き来しやすくなったことで、開発やテストの体制はコロナ以前より強化できていると思います。

 たとえばエンジニアの体制、現地でテストするときのファシリティですね。テストバイクや、それにまつわる設備がかなり活かせるようになっています。

──タイヤ性能に関して、2022年シーズンからの違いがあれば教えてください。

時任氏:タイヤのベースのスペックは、昨年から特に変わってはいません。鈴鹿8耐は、われわれがタイヤ供給している全日本ロードレース選手権の延長と考えているところもありますので、その実戦で鍛えつつ熟成を重ねた実績のあるタイヤで今年の鈴鹿8耐に挑んでいる、ということになります。

──鈴鹿8耐に持ち込んだタイヤの特性について、他サーキットで使用しているものと違っているところはあるでしょうか。

時任氏:鈴鹿8耐は欧州ラウンドのサーキットと比べるとタイヤにかかる入力は大きくなります。気温も路面μも高いですし、トラックのレイアウトとしてもタイヤにシビアなサーキットです。全日本ロードのタイヤと比べて鈴鹿8耐だけスペシャルにしている、ということはありませんが、シビアな状況で使われますから、タイヤとしては最もハード側のスペックを持ち込んでいます。

──2023年の鈴鹿4耐は7月に開催されました。そこで得られたデータを8耐に活かせそうなところはありますか。

時任氏:4耐ではわれわれのBATTLAX RACING R11という溝付きのレーシングタイヤを使っています。実は今年ようやく、初めて4時間ずっとドライで走り切れたレースになりました。これまではコロナ禍でレースがキャンセルになったり、ウェットが絡んでドライで使われた時間が少なかったりしたのですが、走り切ったことで4時間もつタイヤであることをきちんと実証できたわけです。

 4耐も8耐も、タイヤについてはグリップの持続性、耐久性が共通しているテーマです。4耐のデータを8耐にダイレクトに活用できるわけではありませんが、基本的にはグリップ持続性をいかに高いレベルでキープできるか、という考え方で開発していますので、想定通りの結果が4耐で得られたことは、8耐に向けてもいい材料になったと思います。

──耐久レース用タイヤで得られた知見が、最近の市販タイヤにフィードバックされているところはありますか。

時任氏:やはりグリップの持続性というところですね。新品の走り出しから高いグリップを発揮しつつ、それを長く維持するために、コンパウンドや構造の技術開発を進めています。それは一般の公道用タイヤの性能にもつながるものです。レースタイヤのコンパウンドそのものを使うことはありませんが、レースでのデータに加えて「ULTIMET EYE(アルティメット アイ)」のような解析技術も用いて公道用タイヤを開発しています。

──レース現場でも合成燃料を使用するなど環境意識が高まっていますが、タイヤ開発においてはどのような状況でしょうか。

時任氏:サステナビリティを意識した開発ももちろん進めています。まず2030年までに再生資源や再生可能資源に由来する原材料の比率を40%まで高めることを目標にしています。さらにその先、2050年には100%サステナブルな材料を使ったタイヤを提供する計画です。

 タイヤの極限環境を再現することになる鈴鹿8耐などのレースは、その意味でもいい実験場であると考えています。サステナブルな材料を使ったタイヤで実際のレースを行ない、極限環境下でも高い性能を発揮できるか、といったところにも取り組み始めているところです。

──昨今のAI技術の進展はタイヤ開発にどんな影響を与えていますか。

時任氏:タイヤ開発の現場にもデジタル、AIの波が来ています。たとえばわれわれにはこれまでのタイヤ開発における膨大なデータがあります。それをデジタル情報に一元化し、AIも用いることでタイヤのグリップや剛性、摩耗などの性能予測につなげていくことも考えられます。ULTIMET EYEにもAIを活用することで、シミュレーション技術をさらに発展させられるかもしれません。

レースペースは2分8〜9秒あたり、8スティントか

──今回の鈴鹿8耐では、ブリヂストンとしてサポートするチームは2022年と同じ19チーム。全体ではおよそ30チームがブリヂストンのタイヤを採用しました。

時任氏:われわれブリヂストンのタイヤを選んでいただけたこと、非常にうれしく思っています。各チームのみなさまは「結果を出せる」ということに期待してタイヤを選ばれたと思っていますので、しっかりその期待に応えられるように、現場でエンジニアとともにチームに寄り添って、いい結果につなげていきたいと思います。

──公式予選2回目までの結果を見ていかがでしょうか。

時任氏:想定通りか、それよりも少しよい結果になったと思っています。最初は33号車(Team HRC with Japan Post)が速いのかと思っていたら、7号車(7号車YART YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC)がライダー3人とも速く、他のチームもよいタイムをマークしていますね。

──7号車が特に速いというのには何か理由があるのでしょうか。

時任氏:7号車にスペシャルなタイヤを提供している、というようなことはなく、全チームイコールコンディションです。いくつかあるタイヤスペックからチームのみなさんに選択して使っていただいていますので。ただ、タイヤに合わせて車体のセッティングをうまく詰めつつ、加えてライダーが3人とも速いということで結果につながっているのかなと思います。

──他のタイヤメーカーと比較して、今シーズンもしくは鈴鹿において強みと感じているところは?

時任氏:スリックタイヤもウェットタイヤも、先ほど申し上げたグリップの持続性がわれわれの強みだと思っています。鈴鹿8耐は暑く、路面温度が60度近くになっている中でグリップをキープするのは技術的に難しいのですが、そこを意識して開発してきていますので。

──明日の決勝レースは今のところ雨の予報です。懸念点はありますか。

時任氏:予報ではほぼ終日雨ですよね。ただ、7月の合同テストでもウェットで走る時間帯があって、各チームのみなさんウェット走行もできているでしょうから、雨が降ったとしても特に慌てることなくレースできるのかなと思います。もちろんそれに向けてわれわれもきちんとサポートしていきます。

──トップチームのレースペース、1スティントあたりの周回数はどれくらいになりそうでしょう。

時任氏:ドライですとレースペースは1周あたり2分8〜9秒くらい、1スティントの周回数はピットインの回数にもよりますが、25〜28周になるだろうと考えています。7号車と33号車の2チームが速いので、そこに12号車(Yoshimura SERT Motul)などがどこまでくらいついていくのかな、と。3位争いは熾烈になりそうです。

東氏:終始雨のレースは経験がないので、その場合の周回数は予測がつかないですね。雨だとアクセルを開けにくいので燃費が良くなる傾向はありますが、それでもせいぜい1周か2周多く周回できるくらいだと思うので、8スティントあたりが基本であることには変わりないと思います。

──鈴鹿8耐16連覇に向けての意気込みをお願いします。

時任氏:ここまで非常によい準備ができていますし、このレースウィークもよい感じで進められています。ブリヂストンの16連覇は2006年から続いている連勝記録で、実はその2006年は私が入社した年でもありました。とにかく連勝記録を途絶えさせないように、しっかりチームをサポートして結果につなげていきたいですね。

株式会社ブリヂストン モータースポーツ企画・推進部 モータースポーツオペレーション課主幹 東雅雄氏

東氏:2023年、ブリヂストンのモータースポーツ活動は60周年、二輪タイヤのBATTLAXというブランドは40周年になります。この節目の年にブリヂストンはタイヤメーカーとして、モータースポーツの文化を、そして技術を構築しつなげていく場であるレースを支える活動をしっかりやっていこうと決意を新たにしています。

 現在、ブリヂストンはグローバルのモータースポーツからは少し身を引いたような形になっていますが、この世界耐久選手権は複数のタイヤメーカーが参戦するレースで、二輪では唯一われわれが参戦しているグローバルのシリーズ戦ですから、まずそこに対してしっかり足元を支えていきたいと考えています。

 一方で、モータースポーツ人口が少しずつ減っているという問題があります。レース活動にお金がかかりすぎるのもあるかと思いますが、そういった点についてもタイヤメーカーとして考えていかなければなりません。そのためには少しでも多くの人に公平に、高性能で品質の高いタイヤを提供する。こういったレースから技術を生み出し、なるべく短いスパンで製品開発して商品をお客さまに提供し、引いてはレースにも挑戦してもらえるような、そういったことができるといいなと思っています。

──2027年以降、MotoGPに再参戦することも1レースファンとしては期待しています。

東氏:担当者の間では「やりたいよね」みたいな話はよく出ます。ただ、そういう世界的なレース活動は当然のことながら担当者レベルでは動けない話です。会社としての考え方や市場環境、いろいろなタイミングもあります。さきほど申し上げたように、ブリヂストンとしてはモータースポーツの原点に立ち返って足元を支える、文化を支えるという方向に動いていますので、さまざまにある選択肢の中の1つとして、グローバルなレースへの参戦を考えていくことになるのかなと思います。