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鈴鹿8耐、優勝チームを支え17連覇に挑戦するブリヂストンに聞く サステナブルなタイヤ開発を目指す新たな挑戦も

株式会社ブリヂストン 国内モータースポーツオペレーション部 国内モータースポーツオペレーション課主幹 東雅雄氏と株式会社ブリヂストン タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第3課 課長 時任泰史氏

 鈴鹿8耐「2024 FIM世界耐久選手権 "コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第45回大会」の決勝レースが7月21日にスタートする。2024年は、現役MotoGPライダーのヨハン・ザルコ選手が加わった30号車「Team HRC with Japan Post」や、サステナブル燃料とパーツを搭載した0号車「Team SUZUKI CN CHALLENGE」の参戦など、例年通り話題の多いイベントとなっている。

 そんななか、鈴鹿8耐17連覇に挑むのがタイヤサプライヤーの1社であるブリヂストンだ。2024年の決勝レース当日も酷暑が予想され、タイヤに厳しいコンディションになりそうだが、果たしてどのようなレース展開になりそうなのか。鈴鹿8耐仕様のタイヤやサステナブルなマシンとの関わりも含めて、担当者に話を伺った。

2024年のレースタイヤはどう変わった?

──昨季2023年と比較して、レース活動やタイヤ開発における体制・環境に変化はありますか。

時任氏:当社では2023年末に発表した「Passion to Turn the World」(世界を変えていく情熱)という新しいメッセージのもと、引き続きサステナブルなモータースポーツ活動をグローバルで強化し、展開しています。

 2輪レースの体制面については特に大きな変化はなく、ロードレースについては主に国内が全日本ロードレース選手権、グローバルは鈴鹿8耐を含むEWC(世界耐久選手権)にタイヤ供給しています。

 結果にもこだわりつつ、レースには「走る実験室」という側面もありますので、その極限環境下で技術を磨き、「From Circuit to Street」というコンセプトで、レースで得られた技術を市販タイヤに繋げていく開発も行っているところです。

株式会社ブリヂストン タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第3課 課長 時任泰史氏

──タイヤの性能面で2023年シーズンとの違いはあるでしょうか。

時任氏:ベースとなるスペックは変わっていません。今回の鈴鹿8耐に向けては、昨年のベーススペックをもとに、全日本ロードレース選手権で得られたデータやノウハウを活用しながら、少しずつ改良を重ねてきたタイヤを持ち込みました。どんどんスピードが速くなってきていることから、タイヤ構造については変えているところがあります。

 国内と欧州では使用環境が異なります。鈴鹿8耐は暑いですし路面ミュー(摩擦力)も高い。反対に欧州の方は24時間レースで寒いコンディションのなか走る場合もありますし、路面ミューは低めです。鈴鹿8耐と欧州ラウンドでスペックは使い分けていて、どちらかというと鈴鹿8耐のタイヤは全日本ロードレース選手権のタイヤの考え方に近いと言えます。

──他メーカーと比べたときのブリヂストンならではの強みという点ではいかがですか。

時任氏:暑いためにタイヤ温度が高くなりやすく、路面ミューが高くてタイヤの入力も大きい、シビアなコンディションの日本国内でわれわれは開発しています。それによって約1時間の1スティント、高いグリップをコンスタントに持続できるようにしているところがわれわれの強みだと思っています。

──ここ1~2年の、レースから市販タイヤへのフィードバックがあれば教えてください。

時任氏:低温、低ミューの欧州ラウンドに向けては、環境変化に対してロバストな、あらゆる環境でしっかり機能するタイヤを開発してきました。そこで得られた技術は市販スリックタイヤの「RACING BATTLAX V02」や、公道向けスポーツタイヤの「BATTLAX HYPERSPORT S23」などに展開しています。例えばコンパウンドの配合技術、トレッドゴムの分割構造、タイヤの骨格部材であるスチールベルトの巻き方といったところに反映しています。

──最近のスポーツバイクはウィングレットの装着でダウンフォースが強くなったとも言われていますが、それがタイヤに影響を及ぼしているようなところはありますか。

時任氏:荷重は増える方向にあると思いますが、今のところタイヤへの影響はない、というのが率直なところです。おそらくバイクメーカー各社さんは「どこのコーナリングスピードを上げよう」というようにある程度目的をもって、現在のタイヤ特性も含めた車両パッケージとしてウイングレット装着しているのだと思います。

──これまでに行われた鈴鹿8耐の公式テストなどから、本戦で役に立ちそうなデータは得られたでしょうか。

時任氏:6月頭にメーカーテストがあり、中旬から後半にかけて合同テストがあって、今回7月中旬のレースとなります。開催が例年より半月ほど早まったことで、6月のテストも2023年に比べれば涼しいコンディションでした。

 天候が安定していたこともあって各チームとも決勝を見据えたタイヤを使い、しっかり走り込んでいるおかげでしっかりデータを取れています。レース想定のスペックで1スティント分、1時間走ってのラップタイムやその時のタイヤ内圧、外観の摩耗肌の状態など、さまざまなデータが得られていますので、ここまでは順調です。

 準備期間という意味でも影響はありません。梅雨が明けるかどうか、というところが気にはなっていましたが、先日明けましたし、結果的にすごい暑さです。去年と同じく本戦も暑いなかで行なわれると思いますが、想定温度域から外れることはなさそうです。

サステナブルなレースタイヤ、その性能は?

ブリヂストンタイヤを装着するGSX-R1000R ヨシムラSERT MOTUL EWC仕様をベースとしたCN(カーボンニュートラル)仕様

──0号車Team SUZUKI CN CHALLENGEが40%バイオ由来の燃料やサステナブルなパーツでレース参戦しますね。

時任氏:6月のテストから、スズキさんが当社の提供したサステナブルなタイヤを利用して走行を重ねています。EWC向けの通常タイヤとは別スペックになっていまして、主にビードワイヤーと、トレッドゴムに補強材として入れるカーボンブラックの部分で異なります。ビードワイヤーには再生スチールを使用し、カーボンブラックはサステナブルなものに置換しています。

 もう少し詳しくお話ししますと、通常は石油由来の油を燃やして煤として出てきたものをカーボンブラックとして使っていますが、サステナブルなタイヤでは廃タイヤを熱分解して、そこで得られた油を原料に新たにカーボンブラックを作っています。

 タイヤを熱分解するだけでもカーボンブラックは得られますが、今回は熱分解して得られた油の方から作っているという点で新しい取り組みになります。その方がよりレースに適した構造のカーボンブラックが得られるとわれわれは考えています。

──通常のタイヤと比べて性能面での違いはありますか。

時任氏:廃タイヤから得られた油には不純物が入りやすいので、従来と全く同じようなカーボンブラックが得られるようにするのは技術的に大きなハードルでした。また、カーボンブラックを変えるとピークグリップやグリップの持続性、摩耗肌の状態などが変わってきますので、従来品とその点での性能差をなくすことも課題でした。

 しかし、当社の原材料開発グループと協力して仕上げていったことで、結果的には従来のタイヤと遜色ない性能に仕上がっています。

ブリヂストンは再生資源・再生可能資源比率を向上したタイヤを供給する

──サステナブルなタイヤの今後の展開について教えてください

時任氏:今回はスズキさんからお声がけいただき、パートナーの1社として参画させていただいて、最初の一歩を踏み出せました。大量生産するとなるとコスト面や供給面でもハードルがあるなど、材料以外にも解決すべきところは多く出てきますので、そのあたりは今後の検討課題です。

 全社的には2050年に100%サスナブルなマテリアル化を目指して開発をしています。たとえば米国のインディカーレース向けにファイアストンブランドで供給しているタイヤでは、ゴムの木ではないグアユールという植物由来のゴムを一部原材料として使う取り組みも行なっています。

 それに似た取り組みを今回二輪でもスタートしたということで、今後もさまざまな検討課題を解決していきながら、サステナブルなタイヤを継続的に開発していきたいと考えています。

2号車のドゥカティが面白い存在に?

──今回の鈴鹿8耐のチームにおけるブリヂストンタイヤの採用状況について教えてください。

東氏:われわれが契約を結んでいるチームとしては、EWCに年間参戦しているのが3チーム、スポット参戦しているのが14チームで、計17チームです。タイヤの販売会社のユーザーとしては5〜6チームとなりますので、トータルで20チーム以上となります。

 実際に参戦しているのが46チームで、そのうちSSTクラスは他社さんタイヤのワンメイクです。EWCクラス(とEXPクラス)全体で30チーム余りとなり、その多くがわれわれのタイヤを選んでくださったのは大変光栄です。

株式会社ブリヂストン 国内モータースポーツオペレーション部 国内モータースポーツオペレーション課主幹 東雅雄氏

──7月19日の予選結果を受けて、感想をいただければ。

東氏:2022年と2023年はホンダのファクトリーチームがずば抜けていました。ところが2024年の今年は他の世界耐久のチーム、特に1号車YART - YAMAHAが国内のトップチームより速く走っています。これは以前はあまり考えられなかったことで、今回は上位争いが接戦になるのでは、と感じています。

 耐久レースは何が起きるかわからないこともありますし、ますます予想しにくい状況で、裏を返せば大穴というか、ダークホースというか、そういうチームが出てきてもおかしくないのかなと思っています。

──決勝レースではどのあたりがポイントになりそうですか。

東氏:スプリントレースと耐久レースの大きな違いは、周回遅れをどうやって処理するか、という部分だと思っています。耐久レース慣れしたチームは、そうした処理やピット作業に加えて、レースの流れから次にどうするか、何をしなければいけないか、といった戦略を考えるところにおいて、スポット参戦のチームより長けていると思います。

 ですので、ファクトリーチームだから、タイムが速いから、といった要素で勝つかというと、少し違うかなと。先ほど申し上げた通り今回はいつも以上に予測しにくいレースで、言い方を変えれば面白いレースになるものと期待しています。

──例年に比べて年間参戦しているチームが強みを発揮しそうな感じですが、トップチームのレースペース、1スティントあたりの周回数はどれぐらいになりそうですか

東氏:近年は1スティントの時間が短くなっています。以前は7回ピットストップの8スティントがほとんど。ところが前戦のスパでの8時間耐久は、YART - YAMAHAが9ピットストップ10スティントだったんですね。

 ですから、ピットストップによるロスタイムを上回るラップタイム、ペースを出せるのであれば、ピットストップの回数を増やそうと考えるチームが出てくるのではないでしょうか。ただ、それにはかなりの下準備が必要で、圧倒的なペースで走れる自信がないと難しいでしょう。チームによって戦略はかなり分かれるんじゃないかなと個人的には考えています。

 レースラップとしては2分7秒台がアベレージになりそうです。7秒前半から中盤だとかなり速いですね。周回遅れが出る前、最初の30分くらいまでにどれだけ後ろを引き離すことができるか、あるいは先頭集団にどれだけ留まるかで戦略が変わってくるのではないでしょうか。

 1回のピットインでロスタイムがだいたい40〜45秒とのことですから、ゴール30分〜1時間前までに50秒以上引き離す自信があるのであれば、8ピットストップ9スティントもあり得ると思います。

──他に2024年の見どころはありますか。

東氏:ドゥカティ(2号車DUCATI Team KAGAYAMA)ですね。ラップタイムで言えば水野涼選手はかなり速いですし、決勝レースのアベレージタイムによってはダークホース的に、トップ争いの中でも面白い存在になるんじゃないかなと思います。

 ただ、ドゥカティだけ他と違って片持ちのスイングアームということもあるのか、ピットストップの練習では時々スムーズにいかないことがあるようにも見えました。耐久レースでの実績が少ないドゥカティというマシンで、そういったところがどう影響してくるか、というところも気になります。

──2024年にブリヂストンタイヤ装着車が優勝すれば、ブリヂストンとしては鈴鹿8耐17連覇になります。意気込みをいただければ。

東氏:近年は、特に鈴鹿に関してはブリヂストンタイヤを使っていただいているチームが強く、おこがましいですが、われわれが抜きん出ているところがあるのかなと思います。そういった状況が続いていることで、多くのチームから選んでいただいているところもあるかもしれません。

 その意味では、われわれとしては17連覇を狙うというより、最高のサポートを通じてタイヤ供給しているチームのみなさんが満足してレースを終えられるように足下を支えていければいいな、と思っています。

時任氏:東が言ったように、しっかり足下を支えていきたいですね。チームのみなさんとしっかりコミュニケーションを取りながら、8時間のレースを走り切って最後は思い切り喜べるように、しっかりサポートさせていただきます。