AT International 2009リポート 電気自動車向けの充電ソリューションや、Atomプロセッサー向けカーナビOSなどが展示 |
カーエレクトロニクスの展示会である「AT(Automotive Technology)International 2009」がパシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい)で7月15日~17日の3日間に渡り開催されている。近年、自動車の電装系の技術の進歩はめざましく、ハイブリッド、電気自動車、さらにはIT(Information Technology)の自動車への応用などさまざまな取り組みが行われている。今回のAT International 2009でもそうした電装系の技術を中心とした展示が行われ注目を集めた。
■プラグインハイブリッドのほか、充電ステーションも展示
今自動車業界でもっともホットな車と言えば、トヨタ自動車の「プリウス」、本田技研工業の「インサイト」というハイブリッド車であることは論を待たないだろう。ガソリンエンジンとバッテリー駆動のモーターの両方を利用するハイブリッド車だが、ハイブリッドという名前が示しているように、今の時点では入手性に優れたガソリンと環境に優しいバッテリー駆動のモーターという、それぞれの特徴のいいとこ取りの技術であって、環境への影響を考えるのであればモーターのみで動く自動車、つまり電気自動車に移行してしまうのが合理的であるのは言うまでもない(電気を発電するために結局は石油を燃やしているという現状に関しては別の議論として)。
しかし、どのようにバッテリーを充電するのかというのが問題になる。ハイブリッド車はブレーキ時の回生エネルギーにより充電する仕組みをとっているが、それだけでは短い時間しか走れないので結局はガソリンエンジンによる駆動が必要になってしまう。であれば、電気だけで走る自動車を作るためには十分な容量のバッテリーと、それをどのように充電するのかということが鍵になる。今回のAT Internationalではそうした充電ステーションのソリューションが多数展示されており、15分で最大容量の80%を充電できる急速充電ステーションなどが注目を集めていた。
ただし、15分では現状のガソリン給油(50Lで数分程度)に比べると長すぎで、例えば満充電で100km走れたとしても、80km走るたびに15分程度は充電ステーションで停車しなければならない。街乗り程度では問題ないだろうが、長距離を走るにはまだまだ十分ではない。
そこで、ベタープレイス・ジャパンでは、交換式バッテリーのソリューションを展示していた。自動車の下部からバッテリーを交換できる仕組みにしておいて、バッテリーの電気がなくなると交換ステーションに行き、全自動で充電済みのバッテリーに交換することで再び走れるようにする仕組みだ。
ベタープレイス・ジャパンの関係者によれば、バッテリー交換にかかるのは5分程度とのことなので、今のガソリンの給油と同じ感覚で利用できるほか、現在のガソリンスタンドをそのままバッテリー交換スタンドに転換することができ、ガソリンスタンドの業態転換対策にもなるというメリットもある。
現在自動車メーカーや、ガソリンスタンドを運営する石油会社などに提案を行っている段階ということだが、実際に実現することになれば、電気自動車普及への障害が1つ取り除かれることになり、興味深い取り組みと言えるだろう。
■昭和飛行機工業が非接触給電技術のデモを
昭和飛行機工業は、非接触給電技術の開発に積極的に取り組んでいるメーカーだが、AT Internationalでは、同社の非接触給電技術を展示している。前述のように、電気自動車普及の鍵は、どのように自動車のバッテリーを充電するかだが、非接触で充電できるようになれば、その問題の多くを解決できる。
例えば、駐車場に非接触給電の仕組みを組み込んでおけば、自動車を駐車場に止めておくだけで充電が行われ、次に走り出すときには充電が終わっているという使い方が可能だ。あるいは、道路自体に給電の仕組みを埋め込んでおけば、道を走りながら充電するという使い方も不可能ではなくなる。そうした意味で、非接触給電技術は大いに注目されているのだ。
今回昭和飛行機工業が展示した非接触給電システムは、電磁誘導現象を利用したもので、送電側で高周波の交流電流によって電磁エネルギーを発生させ、それを受電側で電気エネルギーに変換して利用するという仕組みになっている。今回のデモでは、受電側に接続された10個の100W電球(合計1kW)を点灯させるデモが行われた。ケーブルが何もないのに電球が点灯している様子は、手品を見ているようでとても不思議な光景だった。
昭和飛行機工業の非接触給電システムの受電部。ケーブルでの接続は行われていない | 上が受電部、下が給電部となる。昭和飛行機工業によれば、人体への影響はなく、ペースメーカーを入れた人が近づいても問題ないとのこと | 非接触給電で電球が光っている様子。何も線がないので手品を見るようだった |
■進むx86プロセッサーのカーナビへの進出
3月にドイツで行われたCeBITでは、半導体メーカーのインテルが自動車向けのx86プロセッサーとなるAtomプロセッサーを発表したが、今回のAT Internationalでもそれに対応したソリューションの展示などが行われている。
インテルは、自動車メーカーや部品メーカーなどとGENIVIアライアンスを組んでおり、オープンソースでソフトウェア開発を行い、Atomプロセッサーベースのカーナビなどの開発期間を短くしていくという取り組みを行っている。AT InternationalではこのGENIVIアライアンスがブースを出展しており、特に展示物などはないものの、GENIVIアライアンスに参加している企業の担当者がアライアンスに関する説明などを行っていた。
なお、17日に会場で14時から行われるワークショップには、GENIVIアライアンスのセッションが用意されており、そこにはゲストとして国内自動車メーカーの関係者も登場する予定となっている。もしかすると、そこでGENIVIアライアンスへの国内メーカーの参加が表明される可能性もあり、こちらも要注目だ。
また、欧米ではカーナビ用のOSとして普及しているQNXを展開するQNXソフトウェアシステムズは、同社のブースでAtomプロセッサーを搭載するリファレンスキットなどの展示を行った。QNXの説明員によれば、すでにハードウェアは完成しており、QNX自体のx86への最適化などもすんでいるため、カーナビベンダーはユーザーインターフェースの部分だけを改良することで簡単にカーナビを作ることができるのだと言う。通常カーナビの開発には数年というレンジが必要になるが、その開発にかかる時間を大幅に短縮することが可能であるとQNXソフトウェアシステムズでは説明している。
これまでのカーナビではインターネットの機能はほとんど使われてこなかったのが現状だった。携帯電話を接続してデータ通信が可能になっているモデルでも、渋滞情報をやり取りするだけとか、CDの曲情報をCDDBにアクセスするだけに使っていたりとか、あまり積極的には利用されてこなかった。
しかし、今後はカーナビ自体にHSDPAやWiMAXなど定額のモバイルブロードバンドの通信モジュールが統合されていき、車の中でもインターネットの常時接続が実現していく方向になっていく。そうしたときに、インターネットの世界では事実上の標準となるx86プロセッサーを採用していることはソフトウェア開発の時間の削減という意味でもカーナビメーカーにも大きなメリットがあり、今後もその動向は要注目だ。
■会場では電気自動車などの体験試乗も
このほか、ルネサス テクノロジや富士通マイクロエレクトロニクスといった半導体メーカーが車載用半導体などの展示を行っていた。また、会場では電気自動車やセグウェイなど、電気で動く乗り物の試乗会が行われている。抽選になるので実際に乗れるかどうかは運次第だが、申し込みは当日に行うので、興味がある方は実際に会場にいって申し込んでみるのもよいのではないだろうか。
(笠原一輝)
2009年 7月 16日