トヨタ、「プリウス」のリコールに関する記者会見 問題の詳細を解説、新型プリウスから採用のブレーキシステムに穴 |
トヨタ自動車は2月9日、日米でクレームが相次いでいる「プリウス」のブレーキ問題について、リコールを行い、同社の東京本社ビルにて記者会見を行った。リコールしたのは問題になっていたプリウスに加え、同様のブレーキシステムを使っている「SAI」「プリウス PHV(プラグイン ハイブリッド)」、レクサス「HS250h」の4車種計22万3068台。北米、欧州、その他の国でも同様の措置を行うとし、その数は全世界で43万台になると言う。
プリウスに関しては、会見の翌日となる2月10日より全国のディーラーで回収修理を行う。改修を行うのはABSのプログラム制御で、実質の書き換え作業時間は10分ほどだが、あわせてほかに不具合がないかチェックも行うため、40分程度の時間をいただくとした。
また、プリウス以外の3車種については、まだ具体的な対策を講じる段階にないとして、改修方法が確立するまで、車両の販売、製造を一時中断すると言う。具体的なリコール対象モデルについては関連記事を参照いただきたい。
記者会見には、同社代表取締役社長の豊田章男氏と、副社長の佐々木眞一氏が出席し、今回の経緯について説明した。
トヨタ自動車代表取締役社長 豊田章男氏 | 同副社長の佐々木眞一氏 |
豊田社長は冒頭で「先日来、トヨタ車の品質や安全性に関しまして、多くの皆様にご迷惑をおかけし、また、ご心配をおかけしましたことに対し、この場をお借りしまして改めてお詫び申し上げます」と陳謝の言葉を述べた。さらに今回のリコールに対し、「対象になりました4車種におきましては、雪道などの非常に滑りやすい路面に、低速状態でさしかかりABSが作動する際に、大変表現をするのが難しいんですが、ほんの一瞬だけブレーキが抜けるという現象が発生いたします」と説明。リコールに至った経緯について「お客様から不安だ、と言うご意見をいただいていることを真摯に受け止め、お客様に安心してお乗りいただくことを最優先しリコールの実施を決定したしだい」と説明した。
プリウス以外の3車種については、改善措置に必要な準備を鋭意行っていると言い「準備が整うまでの間、お客様への販売や納車を停止させていただきます」とした。また、米国、欧州を始めその他の国や地域でも、できるだけ速やかにご案内できるよう対応すると述べた。
さらに、改善措置を行うまでの間に、問題となっているブレーキが抜けるような状態になった場合は、「ブレーキをしっかり踏み込んでいただければ、確実に停まることができますので、ご対応くださいますようお願い申し上げます」と説明を行った。
続いて、佐々木副社長が今回の不具合の原因とその対策について説明した。まず、全世界での今回のリコール対象となるのは、約43万7000台になると言う。その詳細は以下のとおり。
車名(生産期間) | 世界累計 | 国内 | 北米 | 欧州 | その他 |
プリウス (2009年4月~2010年1月) | 約39万7000台 | 約20万台 | 約13万9000台 | 約5万3000台 | 約5000台 |
HS250h (2009年6月~2010年2月) | 約2万8000台 | 約1万2000台 | 約1万6000台 | - | - |
SAI (2009年10月~2010年2月) | 約1万1000台 | 約1万1000台 | - | - | - |
プリウスPHV (2009年12月~2010年2月) | 約270台 | 約160台 | 約30台 | 約80台 | - |
計 | 約43万7000台 | 約22万3000台 | 約15万5000台 | 約5万3000台 | 約5000台 |
不具合はABSの制御のコンピューターのプログラムにあったと言い、典型的な事例として、20km/h程度からの緩やかな減速で、途中1mほどの凍結路面を通過する状態を例に説明を行った。この場合、減速中に凍結路に乗ることでタイヤがスリップし、ABSが作動するが、この時、通常のABSとの変化が現れると言う。
不具合内容の具体的な検証結果。今回の症例にあわせてテストしたもの |
具体的には、仮にブレーキペダルの踏力をそのまま維持した場合で、制動力が回復するまでの時間が通常のABSが0.4秒のところ、プリウスの場合0.46秒掛かると言う。もし仮に12.3mのところで停まろうと操作した場合、この制動の遅れ分を取り戻すためにはブレーキをより強く踏み増す必要があるが、この踏み増す量が通常のABSでは10N(ニュートン)のところ、プリウスではさらに5N強い15Nほどの踏み増し力が必要となる。
また、そのまま踏み増しをしないでいた場合、通常のABSでは60cmオーバーランするのに対し、プリウスではさらに70cmの距離が必要になると言う。
さらに、プリウスは、回生ブレーキと油圧ブレーキを統合的に制御する必要があるため、通常の油圧ブレーキも、一般的なクルマのように、ペダルを踏むことで発生した油圧によってメカニカルにそのままブレーキを作動させるのではなく、フライバイワイヤー、つまりペダルが踏まれた圧力を一度センシングし、それを元に電気式のポンプによって発生した油圧を使って制動力をコントロールしている。
問題となっている4車種では、ABSが作動した際には、この電気式ポンプで発生していた油圧から、実際にペダルを踏んだ力で発生する油圧へと切り替える制御をしていると言う。これは、電動ポンプやソレノイドを使った場合、ノイズや振動が発生し、従来のモデルではそうした部分に対し不満の声があったためで、新たに採用した技術。
ここもブレーキがの効きが弱くなるという感覚に影響を与えている部分があると言う。問題になるのがブレーキペダルを踏んだ踏力に対する、実際に発生する制動力の関係。通常の油圧ブレーキの場合、踏んだ力と実際の油圧はリニアに変化するのに対し、電動ポンプの場合、軽い踏力の際には、若干発生する油圧を増したような設計になっている。これが問題で、緊急ブレーキのように踏力が強い場面では、電動ポンプより通常の油圧ブレーキのほうが油圧が強くなるため問題ないが、今回問題となっている軽いブレーキの際には、ABSが作動し、ブレーキの油圧が電動ポンプからメカニカルなものに切り替わると、同じ踏力であれば発生する制動力は下がってしまう。
佐々木氏が実際に北海道のテストコースでテストしたところ、そのまま滑りやすい路面が続く場合、通常のABSでは、ロックを解除するために一度油圧を下げた後、再び制動力を立ち上げると、また強い制動力が働くため、再度ロックしそうになり、油圧を下げるという作業を繰り返す。一般的なABS作動時の「ガッガッガッ」と断続的に効く状態だ。それに対し、プリウスでは復帰後の油圧が低いためロックはせず、ABS特有の断続的な制動が発生しないとのこと。それでも制動力自体は発生しているため、実際に停止した位置はあまり変わらなかったとこのことだが、そうした挙動の出方が、通常のABSに慣れたお客様にはそこが問題になったのだろうと述べた。
また、たとえば段差を乗り越えた瞬間などでも、一瞬タイヤが宙に浮くような形となり、ABSが作動することがあり、その場合、グリップが復活した後の制動力が、メカニカルの油圧による低いものに切り替わるため、ブレーキの効きが弱くなったと言う声につながったのだろうとした。
今回のリコール対策では、このABS作動時にメカニカルな油圧へと切り替えるシステムを廃し、従来のものと同様、ABS作動時も電動ポンプを使った油圧のままにすることで、こうした制動力の変化をなくすと述べた。
これまでの会見では、保安基準に触れるものではないとしていたところから、一転リコールに踏み切った背景について問われると、12月までは月に2~3件の事例が報告されていたと言い、それらを1件1件確認したところ、お客様の期待と違う動きをしたのは認めていたが、安全性に問題がないとは言い過ぎだがそれが低速域での問題であり、また特殊な条件でのみ発生するものだと認識していたと言う。しかし寒い季節になると、想定以上の様々な状況で同様の事例が発生することが分かり、今後、20万台のプリウスが、長ければ10年以上も走る上で、我々の想像以上の状況に遭遇するかもしれないと、リコールに踏み切ったと言う。豊田社長によれば、ETCレーンの塗装された舗装部分などでも同様の症例が発生したという報告もあったと言う。
豊田社長は「トヨタは絶対に失敗をしない全能の存在だとは思っていない。失敗したり欠陥を発見したり指摘をいただいたた時は、それらを改善し、より優れた商品をお届けしてきたし、これからもそう対応していくことに自信を感じている。問題があれば徹底的に事実を追求し、いい加減なごまかしはしない。お客様のことを第一に考える」と加えた。
保安基準に関しては佐々木氏が補足をした。佐々木氏によれば、保安基準は大きく2つの用件からなっていると言う。1つは試験の結果の数値がある基準以内に入っているかで、この点においてはプリウスは保安基準に合致しているとした。しかしもう1つ、安全を保証するという用件も含まれており、社長のお客様第一という言葉もあったが、この部分が至らなかったとして、今回リコールに踏み切ったと言う。
リコールの改善のめどについて聞かれると、豊田社長は「それもリコールにした理由の1つ」だと言い、リコールでは3カ月ごとに改修状況の報告義務があり、それは、改修状況が90%以上になるまで義務づけられるが、「3カ月以内に90%以上を修理するのが目標で、それ以上のスピードでやりたい」とした。
また、今回説明で行われた制動距離が伸びるという報告に対して、事前に分からなかったのか聞かれると、佐々木氏が、「最初から知っていたかというと、そういう試験はやっていない。保安基準ではある時速から何mで止まれるかという試験なので、今回のような試験はやっていない」とした。また、「ブレーキという性格上、開発時に一番気にするのは最大減速度や、コントロール性能、それも高い速度でのコントロールが気になるところ。今回そういった部分のテストは十分やったが、低速、低減速度での注目をしっかりできなかったので申し訳なかった」と述べた。
なお、今後豊田社長は訪米する方針だと述べ「アメリカの会社、販売店、そのひとりひとりが徹底して改善努力に努めている。彼らを激励するとともに、私自身の言葉で関係各位に説明させていただきたい」と述べた。
(瀬戸 学)
2010年 2月 10日