日本EVクラブ、EVの航続距離について討論
EVはシティーコミューターにあらず

2010年6月20日開催



 日本EVクラブは6月20日、都内で総会とオープンフォーラムを開催した。同クラブは、EVを製作し使用する人などが集まり、次世代モータリゼーションの創造をめざす市民団体。

 「EVの航続距離を考える」と題されたオープンフォーラムは、同クラブが2009年11月に行った電気自動車(EV)による「東京~大阪途中無充電走行」の成果を受け、EVの適性な航続距離について考察するもの。

 このところ自動車メーカーやコンサルタント会社から、EVについての実証実験結果や消費者意識の調査結果が相次いで報告されているが、いずれの調査においても「航続距離の短さ」がEV導入の障壁となっている。一方で、EVに300km以上の航続距離を求めつつ、日常の自動車使用は10~40km程度であり、現実には航続距離160km程度の現状のEVでも、日常使用には困らないという乖離が見えている。

舘内端氏

人は旅に出たいもの
 フォーラム冒頭に東京~大阪途中無充電走行の報告をした同クラブの舘内端代表は「EVを使ってみた側には航続距離はあまり問題にならない。これから使おうという人には大きな障壁になる」「EVの航続距離(の短さ)のことは十数年言われてきた。そこで、EVの航続距離が短いというのは一面的な見方であることを訴えるため、東京~大阪無充電走行をやってみた」と、EVの航続距離は現状でも十分であることを訴えた。

 また航続距離を不満とする人に、実情を考慮すればEVの航続距離は十分と説明すると「分かってもらえるが、それでもちょっと納得しない」と言う。「その理由が、この旅(無充電走行)をやってよく分かった。EVを運転するのは楽しく、500kmくらい走っても飽きない。騒音と振動がほとんどなく、これらが(従来のクルマで)どのくらい運転を大変にしていたか分かった」。

 続けて、「車が好きな人は運転してどこまでも走りたいもの。それがEVだろうとエンジン車だろうと、どこまでも行きたいという気持ちが人間の中にある。そこで航続距離160kmと言われるガクっとくる。日常で使えることは分かっていても、遠くに行きたいという気持ちが叶えられないのは実は不満足」「自動車雑誌のテストではロング(長距離試乗)を必ずやる。日常使うには意味のないテストだが、楽しさを演出するには大切なもの。これを“機能”と履き違えて評論するのが間違い。人間は旅に出たいものだが、そういういこととEVの航続距離が変な接点を持ってしまっている」という解釈を披露した。

東京~大阪途中無充電走行の様子東京~大阪途中無充電走行はギネスブックに認定された

 

雨堤徹氏

合体型レンジエクステンダーを提案
 続いてAmazアメイズ技術コンサルティング代表で、雨堤徹氏が、「EV用電池の開発動向」と題した基調講演を行った。雨堤氏は、この春まで三洋電機研究開発本部でリチウムイオン電池を開発しており、東京~大阪無充電走行に使われたミラEVのバッテリーにも協力している。

 雨堤氏は、電池の歴史から様々な電池の比較を通し、エネルギー密度や安全性などの点で現状ではリチウムイオン充電池がEVに最適であることを説明。

 また、充電池の寿命は、毎回満充電にするよりも、充電量を50%に抑えて充放電したほうが寿命が伸び、生涯トータルのエネルギー量も満充電よりも増えることを説明。これは、バッテリーの寿命を伸ばすには充電量を抑えて1充電あたりの走行距離を減らすか、大きな電池を積んで充放電回数を減らすの2つの方法があることを意味し、これを踏まえてEVの使われ方によって搭載する電池を決める必要があるとした。

 さらにEVの航続距離を考えるにあたっては、ガソリンスタンドに行かなくても家庭で充電可能であることも考慮すべきとした。

 最後に、日常使用に最適なEVと、航続距離への要求の双方を満たす解として、「アドオンタイプのシリーズハイブリッド」を提案した。シリーズハイブリッドは、内燃機関は発電のみ行い、直接車輪を駆動しないタイプのハイブリッド車で、内燃機関は必要なときだけ効率のいい回転数で動作すればよいため、小型で高効率の運転が可能となる。この内燃機関と発電機をモジュール化して着脱可能とし、通常はバッテリーのみのEVとして走行し、長距離走行時には発電機を積み込むというアイデアだ。

様々な電池のエネルギー密度比較。リチウムイオン電池がもっとも優れているより安全性が高いと期待されているオリビン電池。しかし、エネルギー密度が低く、高品質な製法が確立されていない東芝のSCiB電池。エネルギー密度の低さが課題
ハイブリッド用電池は出力、EV用電池は容量が重要鉛電池は質量が大きすぎ、大量に積んでも航続距離が伸びない
50%程度の充電で充放電を繰り返したほうが、100%充電よりも寿命が延びる
EVはエンジン車よりも安価になる可能性があるアドオンタイプのシリーズハイブリッドを提案

 最後に、舘内氏、雨堤氏に、日本EVクラブ会報の編集長である田口雅典氏が加わり、ディスカッションが行われた。

 この中で「実際のところ、EVはどの程度走れればいいのか」という質問に対し、舘内氏は「基本は、“使えるようにしか使えない”。自動車か人間の体力に合わせて使うしかない。160kmしか走れないなら、160km走るように使えばいい」と答えた。

 また、「EVの航続距離はガソリン車のそれとは違う尺度で考えるべきことを、一般の人にどう分かってもらうか」という質問に舘内氏は「まだEVがないから、分かりようがない。実際にEVを使う体験を、多くの人と共有するのが大事」とした。

(編集部:田中真一郎)
2010年 6月 21日