フォルクスワーゲン、中国でEVワークショップ開催 2013年に量産するゴルフ ブルーeモーション試乗リポート |
6月9日、中国上海の上海国際サーキット(上海國際賽車場)で、フォルクスワーゲンが電気自動車(EV)の戦略について発表するワークショップを実施した。サーキットには開発中のEV「ゴルフ ブルーeモーション」と「ラヴィーダ ブルーeモーション」および「トゥアレグ・ハイブリッド」が試乗車として用意されたほか、コンセプトカーの「Up! ブルーeモーション」が展示された。ここではワークショップで試乗したモデルについてお伝えする。
展示されたコンセプトカー「Up! ブルーeモーション」。座席構成は3+1というユニークな配置。最高出力60kW、最大トルク210Nm。車両重量は1085kg |
フォルクスワーゲンは昨年のフランクフルトショーで「E-Up!コンセプト」を発表し、将来の量産を目指すという現実的な形でEVに取り組むことを表明していた。今回の上海では、E-Up!コンセプトをUp! ブルーeモーションとして展示し、2013年に「生産仕様」を発売することを明言した。同時に、ワークショップで実際に試乗ができたゴルフ ブルーeモーションと、ラヴィーダ ブルーeモーションの2車種についても、2013年から量産すると言う。こうした情報を小出しにするのではなく量産時期を表明するのは、いかにも実直なドイツメーカーらしい態度と言えるだろう。
ではクルマの完成度はどうなのかというと、まだ試作車の段階とはいえ、基本的な動力性能、制御に関しては2台ともまったく問題ないレベルに仕上がっている。これには試乗会に参加した日本人ジャーナリストらも少なからず驚いていた様子だった。
まずゴルフ ブルーeモーション。基本スペックは、最高出力85kW/115PSながらも最大トルク270Nmという、いかにもEVらしいもの。走り出しは非常にスムーズで、極低速域でもモーター特有の“カクカク”する挙動はほとんど感じない。アクセルを踏んでいくと息継ぎなしでどこまでも加速していく感覚は、最高速が135km/h前後(0-100km/h加速は11.8秒)とはいえ、いかにもEVらしい気持ちよさだ。
回生量コントロールは、効率と走る楽しさの二兎を追ったものだ。D~D3までの4段階で、徐々に回生力が強くなっていく。コントロールはハンドル裏のパドルシフトでシフトチェンジをするように切り替える。これが、慣れるとなかなか楽しい。減速時にパドルシフトで切り替えていくと、シフトダウンをするように速度をコントロールできるのだ。回生量が最大になるD3モードでは、やや強めにブレーキを踏んだくらいのGを感じるくらい減速する。最後は、回生ブレーキだけで停止することもできる。
バッテリーはリチウムイオン電池で、30個のバッテリーモジュールで構成。これはフロントシート間のセンタートンネルのほか、リアシート下、ラゲッジルームに分散して搭載され、総重量は315kgとしている。ちなみに車両重量はTDIエンジンにDSGを組み合わせたゴルフ ブルーモーションより205kg増の1545kgとなる。
そんなゴルフ ブルーeモーションの制御で特徴的なのは、回生量コントロールのほか、走行時にアクセルを緩めたときに慣性だけで走行する「セーリング」(無動力巡航)というコントロールをしていることだろう。
セーリングは言葉のとおり、アクセルを緩めたときに慣性だけで走ること。EVやハイブリッド車では、アクセルを緩めると回生ブレーキが作動し、減速時のエネルギーを回収する。ところが実際の走行では、例えば高速道路などで、惰性で走る状況がけっこうある。ここで回生が効いてしまうと必要以上に減速してしまう。
そこでセーリングではモーターの回転トルクをゼロになるように制御し、無用な減速を避け慣性走行を多用できるようになっている。実際の効果は実車が登場するまで確認できないが、考え方は非常に現実的だと思える。現状のモード燃費では効果が見えないかもしれないが、リアルワールドを考えれば、他社が追随する可能性のある制御だ。
ゴルフ ブルーeモーション。駆動系メカニズムはエンジンルームに納められる | ||
カーナビ画面はエネルギーモニターを兼ねている | バッテリーの充電はVWエンブレムの後部にあるプラグコネクターを介して行う | iPhoneでバッテリー状態やエアコン操作ができる |
もう1台のEV、ラヴィーダ ブルーeモーションは、フォルクスワーゲンが中国で共同開発したセダンをベースにしている。最高出力や最大トルクといった動力系やバッテリーなどの基本スペックはゴルフと同じだが、最高速は130km/h、0-100km/h加速は11.0秒となる。車両重量は1498kg。また、回生量をコントロールするパドルシフトがないなど、システムが一部簡略化されている。中国市場専用モデルのラヴィーダでEVを量産するというのは、環境・エネルギー対策の面から効果が大きい。常にエネルギー問題に悩まされている中国政府にとっても、魅力的な提案だと映るに違いない。
ちなみに使用している電池はどちらのモデルも、エネルギー容量が26.5kWhのリチウムイオン電池だが、メーカーや形状などは未発表。航続距離は最大150kmというが、電気容量から考えるとかなり控えめな数値かもしれない。欧州のドライブモードは、EVには非常に厳しい走行パターンなので、使用する国によってはもっと距離が伸びる可能性もある。
ラヴィーダ ブルーeモーション |
化石燃料が有限であるという認識をベースに、今後は排ガスを出さないエミッションフリーのパワーユニットが必要だと考えているフォルクスワーゲンは、「Eモビリティでもマーケットリーダーでありたい」(技術広報担当マネジャーのハートムス・ホフマン氏)という目標を掲げている。その第一歩が、2013年のEV量産化だ。世界でもっとも売れているクルマの1つであるゴルフや、自動車大国となった中国で量産されているラヴィーダの電動化計画が現実味を増したことは、環境・エネルギー問題を軸にした自動車社会の構造変革に大きな影響を与えることになる。これからの一挙手一投足に注目したい。
(木野龍逸)
2010年 6月 25日