マツダ、次世代技術「SKYACTIV」説明会 エンジン、トランスミッション、シャシー、ボディーを2011年から順次刷新 |
マツダは10月21日、次世代技術「SKYACTIV(スカイアクティブ)」の中核を成すガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、AT、MT、ボディー、シャシーの説明会を都内で開催した。SKYACTIV技術は、2011年から順次市場に投入される。
始めに代表取締役会長 社長兼CEOの山内孝氏が登壇し、2020年に向けた「ビルディングブロック戦略」の概要を説明した。
代表取締役会長 社長兼CEO 山内孝氏 |
ビルディングブロック戦略は、内燃機関、トランスミッション、ボディー、シャシーといった自動車のベース技術を優先的に改良し、その上で段階的に減速エネルギー回生システムやハイブリッドシステムといった電気デバイスを投入していくという考えに則った戦略。このベース技術をブラッシュアップした上でアイドリングストップ技術「i-stop」、減速エネルギー回生ブレーキ技術、モーター駆動技術を2020年までに段階的に投入していくとともに、2015年までに全モデルの平均燃費をグローバルで約30%向上(2008年比)させる。
この戦略の屋台骨となるのが、今回発表された次世代技術「SKYACTIV」であり、山内氏はSKYACTIVの第1弾として、来年前半に日本市場へ導入するデミオに搭載することを明らかにした。新型デミオの燃費は電気デバイスのサポートなしで30km/L(10・15モード)に達すると言う。
山内氏は、ビルディングブロック戦略は一部の環境対応車に依存することなく、マツダ車ユーザーすべてが「走る歓び」「優れた環境安全性能」を体感できることを目標にしているとし、こうした戦略によって「規模は小さいかもしれないが、顧客にとってなくてはならない“one and only”ブランドを目指す」と述べるとともに、このような技術革新は長引く不況から脱却する突破口にもなるとの見方を示した。
取締役 専務執行役員 研究開発・プログラム開発推進担当 金井誠太氏 |
同社の内燃機関への取り組みなどについては、取締役 専務執行役員 研究開発・プログラム開発推進担当 金井誠太氏から紹介された。
これまで内燃機関が発生するエネルギーは、排気損失、冷却損失、ポンピング損失、機械損失などの主要損失によって捨てられており、燃料の熱量を100%としたら、実際に仕事をしているのは約30%程度なのだと言う。
そのため、圧縮比、空燃比、燃焼期間、燃焼タイミング、ポンピング損失、機械抵抗といった制御因子を改善し、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンともに「高効率」で「クリーン」で「信頼性」の高い理想の燃焼を目指していると言う。
金井氏は「70%損失しているということで、内燃機関は効率がわるいとも言えるが、マツダのエンジニアはここに改善点を見い出した」とし、改善点は今回発表したSKYACTIVエンジンに活かされていることを紹介したほか、「SKYACTIVはロータリーエンジンが登場したときのように革新的」と自信を覗かせる。
環境技術の採用拡大予測。2020年においても内燃機関が中心になるとの見方を示した | ビルディングブロック戦略の紹介 | SKYACTIVエンジンはガソリンとディーゼルの2種類 |
従来の内燃機関では70%の熱量を損失していると言う | ガソリン、ディーゼルともに理想の燃焼を目指す | SKYACTIV-Dの特徴 |
各技術については、高効率直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G(スカイアクティブ ジー)」、次世代クリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D(スカイアクティブ ディー)」をパワートレイン開発本部副本部長兼パワートレイン技術開発部長 人見光夫氏が、次世代高効率AT「SKYACTIV-Drive(スカイアクティブ ドライブ)」、次世代MT「SKYACTIV-MT(スカイアクティブ エムティー)」をパワートレイン開発本部主査 菊池敏之氏が、「SKYACTIV-Body(スカイアクティブ ボディー)」および「SKYACTIV-Chassis(スカイアクティブ シャシー)」を車両開発本部 本部長 素利孝久氏が説明を行った。
パワートレイン開発本部副本部長兼パワートレイン技術開発部長 人見光夫氏 | パワートレイン開発本部主査 菊池敏之氏 | 車両開発本部 本部長 素利孝久氏 |
■SKYACTIV-G
ガソリンエンジンのSKYACTIV-Gは、14という高い圧縮比を実現し、現行の2.0リッターガソリンエンジンと比較して約15%の燃費改善するとともに、低中速トルクを約15%高めることに成功した。
一般的なガソリンエンジン車の圧縮比は10~12程度だが、圧縮比を高めることで混合気が高温・高圧となってしまい、正常な燃焼が終わる前に自己着火を引き起こす異常燃焼、いわゆるノッキングが発生してしまう。これはとくに圧縮上死点付近の温度が高くなることから引き起こるのだと言う。
そこで、同社では圧縮上死点温度を低減させるため、排気されずに燃焼室内に残る高温の残留ガスを低減させることを目的に、排気経路の長い4-2-1集合の排気システムを採用した。
これは排気経路が短いと、排気バルブが開いた直後に発生する高圧の排気圧力波が吸気行程を始めようとする気筒に到達してしまい、一度排出された排出ガスが再度燃焼室に送り込まれることで高温の残留ガスが増大するのだと言う。そこで排気経路を長くとり、高圧波が他気筒へ伝わる時間を伸ばす設計とした。
また、ノッキングが発生するとエンジントルクが低下してしまうが、研究を進めるうちにあるレベル以上に圧縮比を上げると、低温酸化反応と呼ばれる現象が発生し、トルク低下が起こりにくくなることが分かったと言う。この低温酸化反応を活用するため、中~高負荷領域の点火タイミングを上死点後に設定することでエンジントルクを増加させることに成功した。
そのほか、ノッキング回避を目的にキャビティー付きピストンの採用したことや、エンジンレスポンス向上を目的に、エンジン新設計にともないピストン&ピストンピンの軽量化(20%軽減)、コンロッド軽量化(15%軽減)、ピストンリング張力低減(37%低減)、電子制御式可変油圧小型オイルポンプの採用(オイル圧送時損失約45%低減)などを採用したことなどが紹介された。
■SKYACTIV-D
近年のディーゼルエンジンは、高価なNOx後処理装置を用いて日米欧の排出ガス規制に適合させてきた。しかし、それでは車両の価格が上がってしまうため、SKYACTIV-Dは同装置に頼らず圧縮比を従来の16~18程度だった圧縮比を14に下げ、燃焼タイミングを最適化することで排気ガスのクリーン化と効率向上に成功した。
また、大小2個のターボチャージャーを運転領域によって使い分ける2ステージターボチャージャーを採用して低速から高速までリニアなレスポンスを実現するとともに、燃費を従来比で20%改善したと言う。
そのほか、従来のディーゼルエンジンより最大筒内燃焼圧力が下がったことで大幅な軽量化にも成功した。具体的にはブロックをアルミ化し、従来より25kgの軽減、さらにシリンダーヘッドは肉厚低減、エキマニ一体構造として3kgの軽量化できたと言う。
なお、ディーゼルエンジンの搭載車種などは明らかになっていないが、日本市場にも導入される見込み。
SKYACTIV-D |
SKYACTIV-Drive |
■SKYACTIV-Drive
SKYACTIV-Driveは、「理想の駆動系への挑戦」として4~7%の燃費改善、MTのようなダイレクト感とクイックシフト、スムーズで力強い発進性能となめらかな変速を開発目標に掲げた。
ATに求められる性能は、「燃費のよさ」「発進のしやすさ」「ダイレクト感」「なめらかな変速」で、SKYACTIV-Driveは一般的なATをベースにCVT(無段変速式)とDCT(デュアルクラッチ式)の利点の集約を目指した。
SKYACTIV-Driveは駆動ロスの少ないロックアップ領域を拡大しながら、振動・騒音を抑えるために「小型トーラス内蔵フルレンジロックアップクラッチ」を新たに開発した。また、油圧制御機構とECUを一体化した「機電一体制御モジュール」を採用し、作動油圧の精度を高めたと言う。
SKYACTIV-MT |
■SKYACTIV-MT
SKYACTIV-MTは、ロードスターのように軽快で節度感のあるシフトフィールの実現を目指したほか、軽量かつコンパクト、燃費に貢献できることを開発目標とした。
MTは日本市場では少数派となるが、欧州市場ではMTが大半を占めていると言う。そのグローバルなニーズに応えるため、高トルク対応型(Large)と中トルク対応型(Mid)の2種類を新たに設計した。
ショートストロークかつ操作力を軽くするため、内部レバー比を拡大するとともに、節度感を出すためにシフト開始時は適度な重さを、その後は自らギアインするような吸い込み感を演出したと言う。
また、軽量コンパクト、低操作力、高効率、ワイドギア比レンジの視点から高トルク対応型は2速/3速インプットギアを共用とした。また、1速用ギアとリバースギアを兼用する新構造を採用し、セカンダリー軸長を従来比で約20%短縮したほか、1速とリバースアイドル軸を共用とし、リバースアイドル専用軸を廃止。こうした構造変更により、重量は約3kg軽くすることができたと言う。
SKYACTIV-MTの開発目標 | ロードスターのような軽快で節度感のあるシフトフィールを目指した | 小型シンクロでショートストロークながら、そのシフトフィールは軽快と言う |
シフトリンク機構の構造および構成の改善により、小気味よいシフトフィールを実現 | ギアの共用でコンパクト化を実現した | |
現行比で約30%の軽量化を達成 | ユニット抵抗を減らして現行比1%の燃費改善に成功した |
■SKYACTIV-Body
剛性の大幅向上、世界トップクラスの衝突安全性能、軽量化に主眼を置いて開発されたSKYACTIV-Bodyは、工法(接合方法)から最適な材料と板厚まで、徹底的に見直したと言う。
ボディー構造は、基本骨格を極力直線で構成する「ストレート化」と、各部の骨格を協調して機能させる「連続フレームワーク」からなる。
アンダーボディーはストレート形状のフレームを採用し、屈折が入る部分は横方向のフレームと連続接合するとともに、可能な限り閉断面構造にすることで軽量化と高い剛性を確保したと言う。
アッパーボディーでは前後サスペンション取付位置をアンダーボディーの骨格に直接結合した「デュアルブレース」を採用したほか、4つの環状構造を形成してボディー全体の剛性を向上させている。そのほか、クロスメンバー部の構造も一新した。
一方、衝突安全性能を向上を目的に「マルチロードパス構造」を採用した。この構造により、前面衝突時の入力エネルギーは「アッパーパス」「ミッドパス」「ロアーパス」の3つの経路に分散させることができると言う。
そのほか、材料面では軽量かつ剛性に優れるハイテン鋼板の使用部位を従来の40%から60%に拡大。特に590MPa材を積極的に適用した。
こうした改善により、北米市場や欧州市場、日本市場、中国市場のNCAPを網羅的に対応し、安全性能は各市場でトップランクに位置するとし、ボディー全体で従来比8%の軽量化、30%の剛性アップに成功している。
■SKYACTIV-Chassis
SKYACTIV-Chassisでの技術的課題は3つ。
1つ目は「中低速域の軽快感と高速安定性の両立」。一般的に中低速域でのステアリング操作に対するクルマの動きが軽快感として挙げられると言う。しかし、中低速域の軽快感を高めると高速域でのクルマの動きが過敏になってしまう。
そこで、リアサスペンションのジオメトリーを再検討し、高速域でのクルマの挙動を穏やかにするためリンク類の配置を最適化して後輪のグリップ力が高められた。その上で、中低速域でのクルマの動きをシャープにするため、ステアリングギアレシオを高速化。こうした設定により従来よりを上まわる軽快感と安定感を出すことができたと言う。
2つ目は「中低速域の軽快感と乗り心地の両立」。スプリングやダンパーの硬さは変更せず、サスペンションの構造自体を見直したと言う。具体的にはトレーリングアームの車体取付ポイントを43mm上方に移動(アテンザクラスとの比較)し、リアサスペンションの前後入力や前後方向の不快な振動を低減させることに成功した。
3つ目は「軽量化とダイナミクス性能の両立」。特にクロスメンバーの構造と工法の最適化を図り、フロントクロスメンバーは2kgの軽量化と剛性40%向上、リアクロスメンバーは4.5kgの軽量化した。シャシー全体では14%(アテンザクラスとの比較)の軽量化に成功している。
SKYACTIV-Chassis | ||
技術課題は3つ | サスペンションリンクの配置とブッシュ剛性配分を見直すとともに、タイヤ横入力に対するトーイン変化量を拡大したことで、後輪のグリップを増加させた |
高速域の手応えと中低速域の軽快感を高めた |
軽量化とダイナミクス性能の両立 | 人馬一体のドライビングプレジャー、走りの質の向上、従来モデル(アテンザクラス)より14%の軽量化に成功した |
(編集部:小林 隆)
2010年 10月 22日