シムドライブ、EV開発プロジェクト1号車「SIM-LEI」発表会
第2期はシトロエンDS3の改造EV

EV開発プロジェクト1号車「SIM-LEI」

2011年5月18日開催



 シムドライブは5月18日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催中の「N+(エヌプラス)~新たな価値をプラスする材料と技術の複合展~」において、電気自動車(EV)開発プロジェクトの成果であるEV「SIM-LEI(シム・レイ)」の報道発表会を開催した。SIM-LEI自体はすでに3月29日に発表されているものだが、東日本大震災の影響で発表会の開催を見合わせた経緯がある。

 発表会ではSIM-LEIの実車を公開するとともに、駆動、制御、ボディー、シャシーのぞれぞれの担当者から説明が行われた。なお、SIM-LEIはN+の開催期間である19日と20日も展示され、一般来場者が見学できる。

左からシムドライブの藤原洋取締役、清水浩社長、福武總一郎会長SIM-LEIはシムドライブの若手スタッフによってアンベールされた前輪からボディー先端までの距離が短いが、衝突安全性が確保されていると言う
空気抵抗の観点から魚をイメージしたボディー形状リアゲートのウインドーは上面にもあるドアハンドルを組み込んだアウターサイドインパクトモール
ヘッドライトワイパーステアリングを切ると、インホイールモーターとケーブルや機器類がわずかに見える
ホイール内にあるのはインホイールモーターリアタイヤは空気抵抗軽減のためにリアスパッツに隠されている
インホイールモーターなので、小さいボンネット内はエアコン、ブレーキ、パワステポンプ、電気の冷却系などがあるのみ

すべての自動車をEVにしても発電所は増やさなくてよい
 発表会ではシムドライブの役員があいさつを行った。「大学の卒論がスポーツカーの設計」と明かす会長の福武總一郎氏は「クルマ120年の歴史の中で、最高のクルマができた」とSIM-LEIを評価、地球温暖化の対策のために、最も効率のよい電気自動車を普及させるべきと訴えた。

 社長の清水浩氏はSIM-LEIのスペックを紹介し、1回の充電で後続距離が333kmとの試算を発表。「すべての自動車が電気自動車になっても、必要な発電量はわずか10%のアップ。夜間に充電すればまったく発電所を増やさなくてもよい」とEVが電力需要に与える懸念に答えた。

 清水氏はさらに「すべての自動車がEVになれば原油消費が27%減、2.7兆円の石油輸入が減らせる」と述べ、SIM-LEIの充電池の容量は一般家庭の2日分の消費をまかなえるとして、計画停電のような場合があれば、EVのバッテリーから電力を供給してもらうこともでき、エネルギー対策にも有効と訴えた。

 また、これまで携帯電話やデジタルカメラなど、社会に存在していた技術は7年で普及してきたことを例にあげ、EVについても、普及が始まれば7年で置き換わると強調した。

 一方、取締役の藤原洋氏は、社長を務めるナノオプトニクス・エナジーの鳥取県米子市の工場を紹介、「開発成果を量産に持っていきたい」と話した。すでに工場には太陽光発電機、風力発電機を設置しており、地域と連携した実験を開始していると言う。

SIM-LEIの基本仕様すべての車が電気自動車に変わったときの発電量の増加は10%すべての車が電気自動車に変われば原油消費が27%減
SIM-LEIに技術を提供した参加機関SIM-LEIの開発に参加した企業シムドライブは技術を移転する事業
参加機関に持ち帰っていただきたいこと現在進行中の2号事業について普及が始まれば7年で置き換わる

流れを身に纏う川魚のデザイン
 SIM-LEIの各部門別の開発担当者からも、開発の概要が説明された。

 ボディーデザインを担当したジェネラルマネージャーの畑山氏は「1充電あたり300キロ走行に必要なボディーデザインは空気抵抗の削減。CD値は低いほどよく、SIM-LEIは0.15が社長の命題。少なくとも0.19を達成しないと難しい」と振り返った。

 「前面投影面積を小さくするために、ボディーの幅を狭くし、ドアの断面をさらに小さくした。通常はドアの内側に入っているサイドインパクトビームを外側に出した」と言う。ただ、それだけではCD値は0.24までしか下がらず、デザインのコンセプトを変更。「従来の自動車の形は陸上動物を骨格に範を求めた傾向があると気づき、後ろにタメを持った獲物を狙う身構えでは、空気抵抗削減に限界がある。そこで、流れを身に纏う川魚のデザインを採用してCD値を減らした」と、デザイン背景を語った。

 駆動・制御を担当したインホイールモーター開発部 制御開発室長の新井氏はインホイールモーターのスペックを紹介。通常のハイブリッドカーと同程度の65kWのモーターを4つ搭載するSIM-LEIは、「モーターの銅損が極めて少ない」「ダイレクトドライブであるため、ギアによる損失がない」「回生能力が圧倒的に高い」などと特徴を挙げ、SIM-LEIなら走行直後にモーターを触れるほど発熱が小さく、効率の高いモーターを搭載していることを強調した。

 ボディー開発部長の小松氏はSIM-LEIが採用する「コンポーネントビルトイン式フレーム」は鋼板プレス加工と溶接接合によるフルモノコックと紹介。Aピラーの中にパイプが入り、細さと強度を両立、広い視界を実現したという特徴が説明された。

ジェネラルマネージャーの畑山氏CD値の目標は0.15~0.19従来の車のかたち
SIM-LEIのかたちSIM-LEIのボディ配置SIM-LEIのコクピット
駆動・制御を担当した新井氏駆動系システム図
駆動系の仕様長い航続距離の理由
ボディーを担当した小松氏新しく開発したモノコックボディーボディーで採用した技術
超ショートノーズのフレームSIM-LEIのパッケージングボディー開発のまとめ

ばね下重量が重いと乗り心地がわるいという“通説”は本当か?
 シャシー設計を担当した顧問の吉田氏からは、インホイールモーターのサスペンション構造について説明が行われるともに、宿命であるばね下重量の増加について、ばね下重量が重いと乗り心地がわるいという説は本当なのかと疑問が投げかけられた。

 吉田氏は、ばね下が重いという点について考察を行い、ばね下の慣性質量が大きいほど、路面からの入力に対してばね下が振動しにくいことを理由に、細かい波状路、高速道路の継ぎ目では「ばね下が重いほうが乗り心地がよい」との結論を発表した。

 一方で通説ができてしまった背景も分析。車軸式サスペンションが主流の時代で車軸が極端に重く、道路の舗装率が低かったなどという当時の条件が重なり、実際に乗り心地がわるかったと考えられるとまとめた。

シャシー設計を担当した吉田氏フロントサスペンションの概要リアサスペンションの概要
パワートレインはインホイールモーターなのでシンプルばね下重量と乗り心地の関係通説の背景を分析した

 このSIM-LEIは、EV開発計画に参加する計34社で取りまとめられた。シムドライブが電気自動車メーカーになるのではなく、参加した企業が開発で得られた技術、情報、ネットワークを持ち帰って活用することが狙いとなる。

 発表会では、第2弾のプロジェクトについても触れ、すでにSIM-LEIと同じ各ホイールにモーターを収める「インホイールモーター」などを採用したEVのほかに「コンバートEV」の研究を行うとしている。この「コンバートEV」については、フランスのプジョー・シトロエンが参加、シトロエン「DS3」ベースのものになることが明らかにされた。

 展示されたSIM-LEIには、パイオニアが開発したスマートフォンを活用したEV向け次世代ナビゲーションシステムが搭載されている。

コンポーネントビルトイン式フレームのため、床はフラットな運転席ステアリングホイールパワートレーンの電源ONはキーで行い、走行切り替えはプッシュボタン式。サイドミラーのほかに、ミラー下のカメラ映像もメーターパネル内に表示
ペダル類はアクセルとブレーキ、そしてパーキングブレーキサイドミラーは小型化された。下にカメラが付いている
シートは振動で低音を表現するパイオニアのMusicシートリアシートは2名乗車ラゲッジルーム。後ろにいくしたがって幅が狭くなっている
ラゲッジルームを後方から見るラゲッジルーム下にもスペースがあるが、フラットな空間を作るため、現在は空洞になっているリアゲートを開いたところ
メーターパネル内表示メーター内表示スマートフォンを利用して操作を行う
ナビゲーション画面ヘッドアップディスプレイに各種情報がフルカラーで鮮明に表示される天井の照明色は、スマートフォンで変更可能
リアのラゲッジスペース方向を見る

(正田拓也)
2011年 5月 18日