ブリヂストンの市販ランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT」説明&試乗会【前編】 「バイアスがラジアルに変わったように、タイヤはランフラットに」 |
ブリヂストンは6月17日、ランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT(ポテンザ エスゼロゼロワン アールエフティー)」を発表した。POTENZA S001 RFTは、夏タイヤとして同社初の市販用ランフラットタイヤとなり、非ランフラットタイヤ装着車へのリプレース需要も見込んだものとなっている。
サイズは、195/55 RF16~245/40 RF18の全4サイズを設定し、価格は3万6540円~7万3290円。発売は7月1日からとなる。
タイヤサイズ | 価格 | 転がり抵抗性能 | ウェットグリップ性能 |
195/55 RF16 87V | 3万6540円 | C | b |
205/55 RF16 91V | 3万7170円 | C | b |
225/45 RF17 91W | 5万2920円 | C | b |
245/40 RF18 93W | 7万3290円 | B | b |
同社は発表日である6月17日に、S001 RFTの説明会&試乗会を栃木県那須塩原市にあるブリヂストンプルービンググランドで開催。本記事では説明会の模様を前編として、モータージャーナリスト岡本幸一郎氏による試乗記を後編としてお届けする。
説明会場に展示されていたPOTENZA S001 RFT | トレッドパターンは、POTENZA S001と同様 |
■より安全で環境に優しい車社会を築くランフラットタイヤ
ランフラットタイヤは、空気圧がゼロになっても所定の速度で一定の距離を走り続けられるタイヤで、ISO技術基準により、80km/hで80kmの走行が可能なものと定められている。タイヤが構造的に破壊されるようなパンク状態でない限り、パンクをしてもある程度の走行ができる。
ランフラットタイヤと一般タイヤの構造の違い。ランフラットタイヤには、サイド補強ゴムが入り、パンクした際でも走行可能となっている | POTENZA S001 RFTのパターンテクノロジー | 内部構造 |
ブリヂストン 執行役員 総務・コーポレートコミュニケーション モータースポーツ担当 江藤尚美氏 |
ブリヂストン 執行役員 総務・コーポレートコミュニケーション モータースポーツ担当の江藤尚美氏は、このランフラットタイヤに対する取り組みの歴史から語り始めた。「当社のランフラットタイヤの取り組みは、1980年代の前半に、身障者用の車両向けに空気圧が失われた場合でも安全に走行可能なタイヤとして製造したのが始まり。その後1987年からは、量産車両へ新車装着車両用タイヤとして納入を開始。昨年末までの状況で、累計の出荷本数は1860万本になる」と言う。
ランフラットタイヤのメリットして、「パンクしても所定のスピードで一定の距離を走ることができる」「スペアタイヤを積まなくてよいため車両の軽量化につながる」「使わなかったスペアタイヤの廃棄が不要」なことから、安全性が高く、環境面においても優れ、またスペアタイヤが不要となるため車両のデザイン上の自由度が上がり、多くのメーカーに採用されてきたと言う。
その一方で、一部のユーザーからは、一般のタイヤと比べて乗り心地が硬いと言う声があり、同社では乗り心地問題の解決に取り組んできた。その問題を解決するのが、2009年3月3日に技術概要発表を行った次世代のランフラットタイヤテクノロジーになる。
この次世代ランフラットタイヤテクノロジーを採用したPOTENZA S001 RFTは一般市販も行われるが、新車装着用のタイヤとしてグローバル展開も行っていく。「より安全で環境に優しい車社会の実現に向けて、タイヤの領域から提案できる最適解がランフラットタイヤであると考えている」(江藤氏)と言い、「かつてバイアスタイヤがラジアルタイヤに変わってきたように、タイヤと言えばランフラットタイヤと言われる商品に成長していくことができれば」と、同社がこの商品にかける意欲を語った。
消費財タイヤ商品開発本部長 吉森裕氏 |
■非ランフラットユーザーが交換しやすい環境を整備
POTENZA S001 RFTの商品概要については、消費財タイヤ商品開発本部長の吉森裕氏から説明が行われた。吉森氏は、「タイヤは1800年代に空気入りタイヤが発明され、それ以前のタイヤから性能は大きく向上した。しかしながら、パンクという宿命を背負った」とし、これまでその対応策としてスペアタイヤの標準搭載という手段が採られてきたが、環境の重視の流れなどもあり、スペアタイヤレス化の流れは今後本格化すると言う。
実際、スペアタイヤレスの流れは最近の新車では顕著になっており、パンク応急修理キットを搭載する車両も増えている。吉森氏は「ランフラットタイヤはパンクした際も走り続けることができ、路上作業をせずに安全な場所まで移動できる」「トレッド部だけでなくサイド部の損傷においても有効」ことから、スペアタイヤレス化の最適解だと語る。
ランフラットタイヤのメリット | 一般タイヤと比べ、パンク時の不安を解消できる | パンク応急修理キットや、シーラントタイヤと比較した際の優位点 |
環境への貢献としては、すべてのクルマがランフラットタイヤになったとすると、年間約5900万本のスペアタイヤが不必要となり、その製造材料から廃棄に至る過程を考慮するとCO2排出量約200万tの削減になると言う。
同社としてはそのような観点から技術開発を進め、新車装着用タイヤとしては1987年に量産を開始し、ポルシェ959へランフラットタイヤを標準装着。2005年には乗り心地を改善したランフラットタイヤがBMW 3シリーズに標準装着されている。2009年には「熱をコントロールする技術」を開発したことで、さらなる乗り心地の改善を実現。この次世代のランフラットタイヤでは、新車装着用としてはもちろん、非ランフラットタイヤユーザーのリプレースタイヤとしても展開してく。
その第1弾として4月に北米でオールシーズンタイヤ「POTENZA RE960 RFT」発売し、7月にPOTENZA S001 RFTを日本で4サイズ、8月に欧州で4サイズ、11月にアジアで2サイズ発売することで、グローバルなランフラットタイヤの普及を目指していく。
とくに、日本市場においては、市販用タイヤ購入年齢層の高齢化と女性の免許保有率の増加もあってか、タイヤそのものに関する関心の低い低関心層が52%となる一方、パンクは5人に1人が経験し「ハンドルが効かなくなる」「夜道での交換作業」ことへの不安があると言う。そのため、タイヤメーカーとして今まで以上に安全・安心のサポートを拡充し、乗り心地をさらに改善したランフラットタイヤを提供していく。
環境への貢献度の高いランフラットタイヤ | ブリヂストン ランフラットタイヤの歴史 | POTENZA S001 RFTはグローバル展開を行う |
日本市場のユーザー動向 | パンク時の不安について |
ランフラットタイヤは、パンクしたことが分かりにくいことから、TPMS(Tire Pressure Monitoring System)の同時装着が必須となっている。同社は非ランフラットタイヤ装着車への普及も目指し、空気圧警告の可能な「TPMS B-01」、TPMS B-01の装着可能なアルミホイール「Prodrive GC-014i」「Prodrive GC-012L」を用意する。タイヤ館やコクピット店舗では、TPMS B-01とのセット、TPMS B-01とアルミホイールとのセット販売を行うことで、非ランフラットタイヤユーザーが、安心してランフラットタイヤへ交換できる環境を整えていく。
とくにTPMS B-01は、空気圧の表示を「正常」「注意」「異常」の3段階でLED表示。初心者に分かりやすく、また1台分のセンサー(4つ)込みで1万5120円(取付工賃別)と低価格が図られたものとなっている。
POTENZA S001 RFTの商品概要 | TPMS B-01や、アルミホイールとのセット販売を行うことで、非ランフラットタイヤ装着車への普及を図る | TPMS B-01の梱包物。センサーも1台分付属する |
表示部。初めてTPMSを使う人を意識し、漢字かつ3段階表示としている | アルミホイールへのセンサー装着イメージ | アルミホイールの販売も行い、誰もが容易にランフラットタイヤを導入できる環境を構築する |
タイヤ開発第2本部 PSタイヤ開発第1部長 山岸直人 |
■タイヤサイズによってクーリングファン形状を使い分け
POTENZA S001 RFTの技術特徴については、タイヤ開発第2本部 PSタイヤ開発第1部長 山岸直人から説明が行われた。山岸氏は、コーナリング時に突然パンクした場合、一般タイヤ装着車とランフラットタイヤ装着車ではどう異なるのかという比較ビデオを紹介。一般タイヤでは、クルマがスピン状態に移行にするのに対してランフラットタイヤ装着車は問題なくコーナリングを終えていた。
一般タイヤに比べパンクに関して安全な性能を持つランフラットタイヤだが、パンク時もタイヤ形状を保つためサイド部を補強してあり、通常走行時はバネとして考えると硬くなり、その結果乗り心地が悪化していたと言う。次世代ランフラットタイヤでは、サイドの補強ゴムを薄くすることで乗り心地を改善し、パンク時のランフラット(走行)性能も確保することを目指した。
ランフラットタイヤでは、コーナリング時にパンクが起きても急激にスピンしない | これまでのランフラットタイヤでは乗り心地が硬かったので、その改善を開発目標とした |
パンク時のタイヤの状況をFEM(Finite Element Method)歪計算したところ、サイドの補強ゴム部で歪が増大しており、この歪の増大によって熱が発生し、タイヤの破壊につながっていくと言う。そのような状況を防ぐため“熱のコントロール”技術を開発。サイド補強ゴムに「ナノプロ・テック」ポリマーを採用することで、変形による熱の発生を抑制。タイヤのサイドウォールに乱流を発生させるクーリングフィンを刻むことで、サイドウォールに乱流を発生させ、発熱したタイヤ表層を流れる空気より温度の低い上層の空気をサイドウォール部へ導くことで、冷却効率をアップする。
パンク時のタイヤ故障メカニズムを分析。熱のコントロールが必要という結論に | ナノプロ・テックで素材面から発熱を抑制 | タイヤのサイドウォールにクーリングフィンを設けることで発熱を抑制 |
これらのテクノロジーにより、より薄いサイド補強ゴムの採用が可能になり、乗り心地を改善。一般タイヤを100とした場合の従来のランフラットタイヤ「POTENZA RE050A RFT」の縦バネ指数が126であったのに対し、S001 RFTでは106と大幅に低減することに成功した。また、重量に関してもタイヤサイズより異なるものの、従来のランフラットタイヤが一般タイヤと比べ1.3kg増となったのに対し、1.0kg増と約300g軽量化できている。
なお、クーリングフィンは、タイヤサイズにより「デザインタイプA」と「デザインタイプB」が使い分けられているが、これはサイドウォール幅が異なるため。POTENZA S001 RFTは発売当初4サイズのみとなるが、この4サイズでランフラットタイヤ標準装着車のリプレース需要を約60%カバーし、販売状況を見つつタイヤサイズを拡大していくことになる。
従来の一般タイヤ比126%から106%に、たわみにくさを改善。乗り心地がよくなる | クーリングフィンはタイヤサイズによって、形状の使い分けを行う |
ランフラットタイヤ標準装着車だけでなく、非ランフラットタイヤ装着車へのリプレース需要も見据えた一般市販用タイヤとしてラインアップした背景には、「2009年の技術発表後、ユーザーの使いたいという反響が大きかったことがある」(江藤氏)と言い、乗り心地を改善した次世代ランフラットタイヤとして、そして安全・安心なタイヤとしての普及を図っていく。
後編では、あいにくの雨となったものの、ブリヂストンプルービンググランドで開催された試乗会の模様をお届けする。
(編集部:谷川 潔)
2011年 6月 21日