トヨタ、医療・介護支援用「パートナーロボット」開発、2013年実用化目指す

自立歩行アシストロボットを装着した才藤教授

2011年11月1日発表



 トヨタ自動車は11月1日、医療・介護支援のための「パートナーロボット」を開発したと発表した。今後は医療・介護現場でのモニター運用を拡大し、2013年の実用化を目指す。

 なお発表されたパートナーロボットは、11月3日~6日に東京 青海の「MEGA WEB トヨタ ユニバーサルデザイン ショウケース」で開催される「トヨタ・パートナーロボットウィーク」で、デモンストレーションされる。デモは13時、14時30分、16時の3回行われる。入場は無料。

井上 常務役員

人の役に立つロボット
 同社は2000年代に入って「人との共生」を目指したロボット「パートナーロボット」の開発を開始しており、中核事業の1つに成長させることを目論んでいる。

 同社生産技術本部の井上洋一 常務役員は発表会で「パートナーロボットの開発は、未来のモビリティ社会をリードする新しいライフスタイルの提案。パートナーロボットは、“人の役に立つパートナーとしてのロボット”を目指している」と述べている。

 その目的は、少子高齢化社会をロボットの力で補完しようというもの。井上常務役員は「高齢化は日本だけでなく世界中で進展している課題。これにともない、疾病や要介護人口の増大、介護負担の増加、労働人口の減少が起こり、社会活力の低下を招く。少子高齢化社会におけるクオリティ・オブ・ライフの向上として、2010年代早期にパートナーロボットを実用化することを、パートナーロボット開発ビジョンとして掲げている」と述べている。

 同社が手がけるパートナーロボットの領域は「医療・介護・福祉」「移動支援」「生活支援」「仕事支援」の4つ。このうち仕事支援は同社の自動車生産ラインで「スペアタイヤ搭載ロボット」などとして実現。また「移動支援」はパーソナルモビリティの「ウィングレット」などとして実証実験を進めている。

 「生活支援」は物を拾う、テーブルの上のものを取るといった動作を支援するロボットで、現在研究中。また理化学研究所と共同で、脳波だけで前左右への移動を制御する技術も研究している。

トヨタのグローバルビジョンの一環としてパートナーロボットを開発グローバルで進行する少子高齢化対策としてのパートナーロボット実用化介護・医療以外の分野でもパートナーロボットの開発が進んでいる
パートナーロボット開発のロードマップ脳波で移動を制御できる車椅子(左)と家事支援ロボット

 

トヨタ パートナーロボット部の玉置章文 部長(左)と才藤教授

医工連携で開発
 今回発表された医療・介護分野のパートナーロボットは「自立歩行アシスト」「移乗ケアアシスト」「歩行練習アシスト」「バランス練習アシスト」の4種類。愛知県の藤田保健衛生大学やトヨタ記念病院と連携し、現場のニーズを汲み上げることで、この4つのロボットが選ばれた。開発には藤田保健衛生大学の才藤栄一 教授が参加。ご自身もポリオで右足が不自由であり、自立歩行アシストを自ら装着して開発に参加した。

現場へのヒアリングから、4つのロボットが開発された

 「自立歩行アシスト」は、足の不自由な人の歩行をサポートする「補装具」の代わりとなるもの。従来の補装具を装着すると膝が曲がらず、歩幅が小さくなって歩きにくかった。自立歩行アシストロボットは、センサーで足の角度や足裏の荷重を検知し、歩行者の意図を推定して、足の振り出しをアシストすることで、自然な歩行に近づけた。坂道や階段の登り下り、腰掛けなどの動作も可能となっているほか、CFRPを使うことで重量を3.5kgに抑えた。

自立歩行アシストロボットを装着して会場に登場した斉藤教授。階段やスロープの登り下り、腰掛けもこなす
左肩のスイッチは、階段や腰掛け時のモード切り替えに使う背中にはバッテリーとコントローラーを背負う。現在は3kgほどあるが、来年にはより小型化されるめどが付いているとのこと。ちなみに脚部も3.5kgほどあるが、補装具も3kgほどあるので、問題にならないと言う
従来の補装具は歩きにくかったが、自立歩行アシストロボットはセンサーで歩行者の意図を推定し、足の振り出しを制御することで、装着した足の膝を曲げ、歩幅を広げて歩きやすくした

 「歩行練習アシスト」は、下肢が麻痺した人の歩行練習に使うロボット。これまでは補装具を装着して練習していたが、歩きにくかった。歩行練習アシストは、自立歩行アシストロボットとハーネス、トレッドミルを組み合わせ、より効率的に歩行練習ができる。アシスト量は回復に合わせて変更でき、また歩行データをモニタリングすることで、練習の成果を分かりやすく表示することができる。

歩行練習アシストは映像のみで紹介従来の歩行練習は歩きにくかった歩行練習アシストロボットは自然な歩行ができ、回復に合わせてサポート力を変えられるうえ、歩行データをモニタリングできる
モニタリングしたデータ。練習後期は歩行速度が上がり、力強く歩いている開発途中段階で得られた症例(黄色い線)。従来の練習(緑の線)よりも速く回復しているのが分かる

 「移乗ケアアシスト」は、ベッドから車椅子やトイレに移乗するのを助けるロボット。これまでは介護者が患者の体重をささえる必要があったため、腰を痛めるなどのリスクがあり、またトイレなどは2人がかりで介助する必要があった。移乗ケアアシストロボットは介護者の代わりに患者を支え、車椅子の代わりの移動手段にもなる。患者を支えるパワーアシストは、センサーで患者を検知してアシスト量を自動で調整する。比較的小回りがきき、トイレなどの狭い場所でも利用できる。

従来は介護者が患者の体重を支えていた(左)ため、介助者が腰を痛めるなどの弊害があった。移乗ケアアシストロボットが代わりに患者の体重を支える

 「バランス練習アシスト」は高齢や病気で足腰が弱くなり、歩いて転ぶ可能性がある人がバランスをとる練習をするためのロボット。従来は立つだけの易しい代わりに退屈な練習か、片足立ちや継ぎ脚歩行のような難しい練習しかなかったが、「易し過ぎず難し過ぎない練習」を提供する。

 具体的にはウィングレット風の立ち乗りロボットの上で前後左右に体重移動することで、サッカーやテニス、バスケットのゲームを楽しみつつ、バランスをとる練習ができる。

 才藤教授は「未来は予測しがたいものだが、かならず来る未来がある。それは超高齢社会だ。超高齢社会を豊かな長寿社会に変えるためにはパートナーロボットが必要。移動は人間の重心を移す難儀な作業だが、できるとうれしい。それをアシストする移動アシストが今生まれようとしている。トヨタの粘り強い開発の姿勢を見ていると、必ず成功すると信じている」と、パートナーロボットへの期待を語った。

従来のバランス練習は易し過ぎるか難し過ぎた
バランス練習アシストロボット。立ち乗りロボットの上でバランスを取り、サッカーゲームなどを楽しむ。ゲームの履歴も見ることができる

(編集部:田中真一郎)
2011年 11月 1日