自工会の豊田新会長、「国内自動車産業を守り抜き、世界をリードする」
「日本の強みは、一定規模の国内生産があってこそ発揮される」

右から副会長の益子修、志賀俊之両氏、豊田章男会長、伊東孝紳、山内孝、名尾良泰の各副会長

2012年5月17日開催



 自工会(日本自動車工業会)は5月17日、第15代会長としてトヨタ自動車 社長の豊田章男氏を選出し、記者会見を開催した。

6重苦でも国内自動車産業を守り抜く
 志賀俊之前会長(日産自動車 副社長)から会長職を受け継いだ豊田会長は、自工会の運営にあたって「国内自動車産業を守りぬく気概」と「世界の自動車産業をリードする気概」の2つを持って取り組むとした。

 「国内自動車産業を守りぬく」とは、「6重苦」(円高、貿易自由化の遅れ、高い法人税、製造業への派遣禁止、CO2排出量削減、電力不足)の厳しい環境にあり、「日本でクルマを作り輸出するビジネスモデルは成り立たないと言われている」(山内孝 副会長、マツダ社長)中でも、国内のサプライチェーンや雇用を維持するという宣言。

 これについて豊田会長は「決して精神論ではない。日本の自動車産業の強みは、日本国内に集積した素材や部品、物流などのサプライチェーンの総合力であり、技術開発と生産や販売の現場が密接に連携することによって生み出されるイノベーション。これらの強みは、一定の規模の国内生産があってこそ、はじめて発揮される」からとしている。

「会長をやっていたとき、さまざまな面でサポートしていただいた。しっかり支えて恩返ししていきたい」(志賀副会長)、「(豊田会長には)全く大賛成だし、全面的に補佐して盛り上げていきたい」(伊東副会長)、「日本の自動車のものづくりを守りぬくことに貢献したい。120%サポートしていきたい」(山内副会長)と、幹部の結束は固い

 一方で今夏も予想される電力不足に対し、昨年のような輪番休業は今のところ考えていないと言う。「昨年の取り組みは、短期的な対応が必要ということでやったが、裾野の広い自動車産業では、2次、3次、4次メーカーとなると、自動車産業だけの仕事をしているわけではない。また従業員にとっても、共働きなどもあるのが現実。そんな中で、自動車業界の全員が努力の結果、なんとか乗り切ったと。それを2年続けてお願いすることは、今の段階では、私自身は考えていない」。

 「世界の自動車産業をリードする」とは、自動車産業が新興国を中心に拡大しており、また、環境への影響や安全へのニーズが高まっている中で、「日本もその発展をリードするという気概が求められている」という考え。

 副会長となった志賀前会長は「欧州は厳しい状況だが、米国は今年1200万台以上になると見込まれ、順調に回復しているし、新興国は依然として伸びている。2011年に比べると約400万台、世界の全需が増える。今の世界の全需の伸び、北米の伸びにしっかりついていかないと、日本の自動車産業が地盤沈下を起こしてしてしまう。2012年は各社強気のプランと言われているが、これくらいしっかりと台数を出して行かないと、世界の中での相対的なプレゼンスを失ってしまうのではないか。2012年は日本の自動車メーカーにとって勝負の年と感じている」と、

2011年の東京モーターショーでメーカートップが「思い出に残るクルマ」をテーマにトークショーをしたとき「私はスカイライン、NSX、コスモスポーツ、パジェロ、ベレットを挙げたが、誰にもトヨタのクルマを選んでいただけなかった。いまだにあれは悔しかったなぁと」と会場を沸かせた豊田会長

あきらめずに続けていくガッツが日本の自動車産業にはある
 具体的に取り組む事業の方針は「日本のものづくりの維持」「国内市場の活性化」「安全・安心で快適なクルマ社会」の3つ。

 とくに、消費税との2重課税になっている取得税・重量税の問題には、志賀前会長からも重点的に取組むよう申し送りがされており、豊田会長も引き続き、抜本的な見直しを訴える。「現在、税と社会福祉の一体改革ということで、国をあげて消費税増税に動いているが、改革の目的と方向性をより明確にしてほしいと思っている。国のため、みんなのために一生懸命努力している人や企業が報われる、健全な社会の実現をぜひともお願いしたい」。

 また、「大人の方や、クルマを知りつくしたシニアの方はもちろん、男性にも女性にも、将来ドライバーになる学生さんや、子供さんにも、多くの皆様にクルマに触れていただき、クルマの魅力、楽しさを感じていただけるような、取り組みを考えていきたい」と、2013年に予定されている東京モーターショーをはじめ、「クルマのファンづくり」にも取り組む。

 豊田会長は「このように厳しい時だからこそ、国内の自動車産業が、日本を元気にする、日本を笑顔にするんだ、という思いをもって、取り組まなければならない」と檄を飛ばす一方、「リーマン・ショックの時からいろいろな変化があった。その都度、変化に対し事実をしっかり押さえ、1つずつ全力で対処してきた。解決した話もあれば解決していない話もあるが、決してあきらめずやり続けていくこと、このガッツが日本の自動車産業にはある」と日本の自動車産業への信頼を語った。

(編集部:田中真一郎)
2012年 5月 18日