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東海大、車載も見据えた波動エンジン(熱音響機関)を開発
300度以下でエネルギー回生を実現。発電や冷却が可能
2012年5月28日 19:02
東海大学は5月28日、工学部動力機械工学科 助教 長谷川真也氏を中心とするグループが開発した波動エンジン(熱音響機関)の報道陣向け説明会を開催した。この波動エンジンは、従来よりも高効率なものとなっており、数値計算を基に長谷川助教らが装置を構築した.
説明会では、冒頭に東海大学 副学長(研究担当) 教授 橋本巨氏が挨拶。「東海大学は生徒数3万人ほどとなる大規模私立大学ではあるが、文系よりも理系の色が濃い」とし、長距離電話などに使われている無装荷ケーブルの発明者でもある松前重義が同大学の創設者でもあることから、社会に役に立つ実用的な研究が特徴であると言う。「本学で話題となったソーラーカーも応用研究。応用研究をしながら基礎研究につなげ、最終的には役に立つものであることを目指している」と語り、この波動エンジンも「利活用の実現性の極めて高いものだと思っている」と、実用化への期待を述べた。
波動エンジンそのものについては、長谷川助教が解説。波動エンジンは、現在、産業界で捨てられている廃熱を高効率に回収できるものであり、「実現すれば産業界、経済界に大きなインパクトがある」ものであると言う。
波動エンジンの仕組みは、自然界にもあり、雷の「バリバリッ」という雷鳴がその現れで、大きな温度差が音(波)になる現象を利用している。高効率なエンジンとして成立したのは近年のことであり、米国のロスアラモス研究所が1999年に発表した論文によるものと言う。
波動エンジンは、熱による気体の膨張・収縮が波動として現れる現象を利用しており、気体の共振を利用するため「可動部分がない」こと、熱力学の上限となる理論上カルノーサイクルで動作するために「高効率」なこと、パイプを使った簡単な構造から「ローコスト」であることを特徴としている。
波動の発生にはフィルター使用。材質としては0.2mm程度の小さな穴の空いた金属製のステンレスフィルターや、セラミックフィルターを使うことで、急激な温度差を波動に変換する。このフィルターによって発生した波動はパイプを伝わり、逆現象を使用して熱音響冷却や加熱ができたり、発電ができたりすると言う。
発電は、スピーカーの逆現象を使用する。スピーカーは電気エネルギーを空気の振動(音、波動)に変換するものだが、空気の振動を与えることで電気が発生するのはよく知られているところ。この原理を利用した製品としてマイクがあるが、「永久磁石式のモーターを展開したようなものを使えば、高い(エネルギー)変換効率が可能」(長谷川助教)と言う。
今回展示されたシステムは、300度の以下の熱源温度で-100度以下の冷熱発生を実現している。中に入っている気体はヘリウムガスで気圧は10気圧。ヘリウムガスを利用した理由としては「伝熱特性がよいため」で、10気圧であるのは「大学では10気圧以上の実験ができないため」と言う。理論上、気圧が高ければ高いほど効率は上昇するそうだ。
廃熱を利用するシステムは、一般的に多く用いられているが、そのほとんどは熱を熱として利用するもの。クルマで言えば、エンジンの熱を利用したヒーターなどが代表的な例だろう。熱を電気エネルギーに変換できるシステムは少なく、長谷川助教はその代表的な例としてゼーベック効果を利用した「熱電変換素子」を挙げた。
長谷川助教は、この高効率なエネルギー変換を波動エンジンで達成するには、これまで2つの問題点があったと言う。その1つは、高効率な波動を発生させるためには300度~600度温度が必要であること、もう1つは可動部分がないため「作ってみないと分からない」ことだ。
これを解決するために、数値計算の可能性を模索。一般的に物理現象の数値シミュレーション方法としては有限要素法があるが、「フィルター部にある0.2mm以下の流路に対して計算メッシュを作成することは現実的に困難。たとえ可能だとしても膨大な計算量になり、極めて多大な計算時間が必要」と言う。そのため、熱力学、流体力学、非平衡物理などを利用して、数値計算モデルを構築し、計算した結果と実験した結果が、「ほぼ合致することができた」と言う。
これにより、コンピューター上でトライ&エラーが可能な波動エンジンの設計が可能となり、現実的な予算と時間で装置を最適化することが可能になった。最適化ポイントとしては、蓄熱機の流路や配置、装置形状、動作温度、周波数、効率などを挙げており、関連特許も出願しているとのことだ。
数値計算上ではあるが波動エンジンは、非常に少ない温度差があれば作動し、装置のサイズも波動の伝達パイプをスパイラル化することで小型化が可能。応用範囲としては、自動車の廃熱を利用しての発電や冷却、電気がなくても太陽の集熱で冷却可能なことからモバイル冷蔵庫などを挙げており、大型プラントから小型の装置まで可能とのこと。
長谷川助教は、「今後は産学連携による開発を進め、5年後の実用化を目指す」と語った。
【お詫びと訂正】記事初出時、「理論モデルを構築」としておりましたが、正しくは「数値計算モデルを構築」となります。お詫びして訂正いたします。