日産リーフを1カ月間借りて使ってみた(後編)
いよいよ白川郷に到着!! 往復1000kmで使った電気代は900円なり


日産リーフで片道約500km走って世界遺産の白川郷に訪れてみた

 日産リーフを借りての1カ月生活。前編では近所での使い勝手、中編では2泊3日旅行の1日目の模様をお届けした。そして最終回となる今回は、長距離旅行の2日目からスタートする。

災いは慣れた頃にやってくる
 リーフの長距離旅行2日目は、世界遺産の白川郷に向かう。あいにく白川郷にはまだEVの充電施設がないが、ひとつ手前、荘川ICのすぐそばにある道の駅「桜の郷 荘川」には急速充電器がある。

 宿から道の駅までは55km程度、メーターでは残り104km走れる表示。昨日までの経験でも、上り坂で一時的に電費が悪化することはあっても、結局急速充電で100km程度は走れている。これならこのまま目的地を目指しても余裕だろう。ということで特に充電はせずにまっすぐ郡上八幡ICから荘川ICを目指した。

 しかし高速を走り初めてしばらくして、とてもイヤな状況に気がついた。どうにも高速に乗ってからずっと上り坂が続いているのである。目で見ていてもあまりよく分からないが、結構な急坂らしくアクセルペダルをいつもより多く踏み込んでおかないとスピードが落ちてしまう。さらにメーターの航続可能距離も目に見えて減っていく。

 電費を稼ぐテクニックとしては、上り坂では速度が落ちてもできるだけアクセルは開けず、下り坂でスピードに乗せるという走り方をしたい。しかしずっと上りが続いているためそうもいかない。さらに途中から片側1車線になる。こうなると後ろにクルマが詰まってしまうので、ますますゆっくり走っていられなくなった。

 とにかく初めて走る道なので、この上り坂がどこまで続くのか見当が付かないし、この辺りに他に充電設備はない。道の駅まで残り4kmの時点で航続可能距離は10kmの表示。これだけ見れば余裕だと思われるかもしれないが、この先もっと大変な坂になる可能性もあるわけで、運転している本人にとっては危機的な状況である。

 もうできることはすべてやった。エアコンもオーディオもオフ。さすがにやばそうな雰囲気を感じたのか、奧さんはリーフのUSB端子から充電中だったiPhoneまで外した。iPhoneを外したところで航続距離は1mも伸びないだろうが、それぐらい緊迫した雰囲気だったということだ。

 結果的にどうにか無事道の駅に到着。この時点で残りバッテリー1目盛り、航続可能距離は最後の下りで少し回復して12kmという表示。それでも出発前に出ていた航続距離の6割程度しか走れなかったことになる。

宿を出発する時点での表示。充電後11.6km走ったがまだ104km走れる予定のどかな田園風景を抜け、郡上八幡ICを目指す東海北陸道で荘川ICを目指すと途中で渋滞。EVは渋滞は苦手ではないが、この先1車線になるというのが問題だ
宿から約50km走った時点で残りの航続可能距離は10km目的地まではあと4.2km。もう上り坂がないことを願うばかりついに荘川ICまで到着
荘川ICを出るとすぐ左手眼下に目的地が見えた。ここまでくれば何とかなりそうだ道の駅 桜の郷 荘川に到着。急速充電器はここにある日帰り温泉「桜花の湯」が管理している到着時点の表示は12km。しかし落ち着いて見ると、これまで残り15kmくらいで出ていた給電の催促は出ていない。まだ電気の量には余裕があったということか?

 これまでの道では、上り坂があってもそのすぐ後に下りがあったのであまり気にならなかったが、50kmも上りが続くような道だと、こんなにも電費が悪くなるというのは驚かされた。

 実は現在日産では、リーフオーナー向けのWebサイトやスマートフォンアプリで、こうした標高差も踏まえたバッテリー残量予測サービスを行っている。しかし今回は“借りもの”という状況ゆえ、そうしたオーナー向けサービスは利用できなかった。今後はリーフのナビ自体でこのサービスを提供できるようにするとのことなので、1日も早くの対応を期待したい。

いよいよ世界遺産の白川郷へ
 道の駅「桜の郷 荘川」の急速充電器は最新のタイプで、SAにあったタイプよりもかなりコンパクトだ。しかしそれ以上によいと思ったのが、急速充電器を挟んで2台分の駐車スペースがあったことだ。SAの急速充電器は殆どがクルマ1台分しか置くスペースがなかったが、これだと先客がいた場合に道路上で待たなければならなくなる。さらに先客の充電が終わっていても、オーナーが戻ってきてクルマをどけてくれるまで充電ができない。これは逆に充電している側にとってもプレッシャーだ。これが2台駐車スペースがあると、先客の充電が終わった時点で勝手にコネクターを外して充電を始めることができる

桜花の湯が急速充電器を管理。充電器を挟んで2台分の駐車スペースがあるのはありがたいこの道の駅には温泉の他、地元野菜なども販売しておりなかなか楽しめる道の駅の裏にはきれいな川が流れていて、水着で遊んでいる子供達もいた
急速充電を終えて航続可能距離は89km。白川郷まで往復74kmなのであまり安心できる数字ではないちなみに借りたリーフのナビにはこの道の駅の急速充電器は登録されていなかったのだが……一度充電したら自動で登録された。さっきまでなかった急速充電器のアイコンが追加されている

 道の駅を出発してからは、一般道で白川郷を目指す。まずは途中にある巨大な水車のある「そばの里」で昼食。直径13mの水車は、山の中腹から流れる水を使って回していて、直径2.2mの石臼を動かしそば粉をひいているのだとか。

 道の駅から白川郷までは37km程度。この付近では荘川以外に充電設備はないので、往復74kmを走れなければならない。通常は急速充電1回で100km程度は走れるので余裕のハズだが、荘川までの上り坂で苦労しているのでやたらと不安だ。

道の駅からさほど離れていないところにある「そばの里」で昼食そばの里には実際に水力で動いている5連水車がある。リーフと比べるとその巨大さが分かるだろう白川郷に向かう国道156号沿いでは巨大な御母衣ダムを見ることができる。水力発電施設だが、EVの充電はできない。残念

 道は山道でアップダウンが続く。先がどうなっているのか分からないので、とにかく省電費運転に徹する。結果白川郷までたどり着き、少し戻った位置にある宿に到着した時点の状況は、48.8km走行して航続可能距離が64km。山道でアップダウンはあったものの、荘川から白川郷までの標高差はあまりなかったようで、往路での心配は杞憂に終わったようだ。

 初めて訪れた白川郷は、合掌造りの家が予想以上にたくさんあることに驚かされた。ただ、夏休み期間のみかも知れないが、中にはクルマで入ることはできなかった。しかしこれは正しい判断だと思う。白川郷では写真撮影を楽しみにしていたのだが、地元住民のものなのか、クルマが入れないはずの中心地にも所々にクルマが止まっている。これがせっかくの雰囲気を台無しにしてしまう。また、お盆中ということで観光客もとても多く、写真を撮るのには苦労した。しかし、奧さんは楽しんでくれたようでなにより。中には泊まれる宿もあって、今回はすでに満室だったが、いずれ合掌造りの家に泊まってみたい。とはいえ今回泊まった宿も、料理がとてもおいしくてとてもよい宿だった。

いよいよ白川郷に到着。丁度稲穂も伸び、ひまわりも咲いてきて季節的にはよい時期だった
奥の山の上から白川郷を見下ろすこともできるのだが、到着時間が遅かったため断念せっかくの記念撮影スポットだが、クルマが見切れてしまうのが残念。などと思っていたらやはり問題になっているようで。改善されることを願います多くの建物がお土産屋や食事処、宿などを営んでおり、中に入ることもできる
宿泊したのは白川郷のそばの平瀬温泉にある湯乃里部屋に入ると十二単が用意されているというサプライズ。これには奧さんも大喜びけいちゃん焼きを始め、地のものをふんだんに使った料理が満喫できた

充電施設があれば安心!? 高速道路の長距離移動の問題点
 迎えた3日目。荘川の道の駅までの道のりは、バッテリーに余裕があることもわかり、気分的にもだいぶ余裕だ。一度走ったルートだと、目的地までどれくらいかも、どれくらい電気を使いそうかも予想ができるので、気分的にラクになる。こんなところもEVならではかもしれない。

 出発前は帰路では少し違うルートを考えていたが、そんなわけで来たときと同じ郡上八幡や岐阜のディーラーで充電して帰ることにした。また、高速道路ではどうせ充電設備の間隔は60km程度しかないので、往路よりもペースを上げて走ってみることにした。それで少しは時間を短縮できるかもしれないからだ。

最終日出発前の状況は航続可能距離が64kmちなみにこれをECOモードにすると70kmに伸びたさらにエアコンを切ると88kmまで伸びる
結果的に荘川の道の駅まで戻って残り35km。行きにがんばってエコ運転したせいもあるが、結構余裕だった帰りも郡上と岐阜のディーラーで充電して帰ったついでに郡上八幡で食品サンプルのお土産を購入

 帰路での充電の詳細は割愛するが、高速道路を走っていると、別のリーフを追い越す機会があった。このとき内心では、このまま追い越しておきたいという気持ちがあった。そして次のSAで充電を始めると、さっき追い越したリーフが到着した。先ほど追い越しておきたいと思った理由はそういうことである。とは言え、充電を始めた直後に来られたものだから、目が合ってしまってなんとも気が引ける。

 本当はそのSAで充電中に食事を済まそうと思っていたのだが、後ろが詰まっているのでそうもできない。結局15分くらいで十分な電気が蓄えられたので、早々に充電を切り上げ出発した。もしかしたら次の充電ポイントでも後ろに並ばれるのかと思ったが、途中で高速を降りたのか、あるいは前のSAで時間をつぶしてくれたのか、その後は顔を合わせることはなかった。

リーフのバッテリーがオーバーヒート
 そして帰路ではもう1つトラブルが起きた。リーフは急速充電と走行を繰り返していると、バッテリーの温度が上昇してしまう。往路でもその傾向は出ていたのだが、帰路ではペースを上げたためか足柄SAで充電したところでオーバーヒートし、出力制限通知というのが出てしまった。

 といっても走ること自体には問題がなく、やさしく走ればクールダウンできるらしい。ナビの案内によればモーターの出力を制限しているとのことだが、運転していてもそれほど出力が落ちたとは気づかない程度だ。さすがに80km/h程度まで意図的に落としたももの、高速道路の走行も問題ない。50km程のんびりペースで走ったら警告が消えて出力制御が解除された。

 結局帰宅してみると、高速道路でペースは上げたものの、その分充電に時間が掛かったのか、あるいは少し引っかかった渋滞の影響か、帰路も10時間程度の時間が掛かった。

 さすがに往復1070kmも走ったので疲れなかったとは言わないが、走行時間の1/3近くは休憩なので、掛かった時間ほどは疲れなかった。リーフは充電中にもエアコンを掛けることができる。ガソリン車のようにエンジンの騒音もなくエアコンが使えるので、途中の仮眠も結構快適だった。

最後の充電ポイントとなる足柄SA到着時点。メーター左のバッテリー温度ゲージがレッドゾーン手前まで来ている充電したらバッテリー温度がレッドゾーンに入ってしまった。見慣れないカメのマークが出たナビの画面にも出力制限通知の文字
ナビによれば優しい運転で回復するとのことブレが酷くて申し訳ないが、ゆっくり目で走って約50km。温度が下がり警告が消えたついに自宅到着。出発時のオドメーターから計算して1070km走ったことになる

 リーフでの長距離ドライブはもちろん大変ではある。しかしその要因の多くは、どこで充電するのか? その充電で本当にたどり着けるのか? そう言ったルート設計を立てる部分にある。だから往路より復路のほうがずっとラクだったし、たぶん次に白川郷に行くときはもっと気ラクに自由度を持って楽しめるハズだ。

 今回のルートを参考に関東圏のリーフオーナーに白川郷に行ってもらえたらと思うし、他にもリーフユーザー同士で、実際にいろいろな観光地に行った際のルートプランや、考えられる問題点などを情報交換できれば、ちょうどコマ図ラリーを楽しむような感覚で遠出も楽しめるのではないかと思った。

 1カ月という長期に渡ってリーフというEVをお借りし、試乗させていただいた。結論として、横浜市在住の筆者は自宅で充電ができない状況であっても日常生活から2泊3日の旅行までこなすことができた。苦労なくとはいかないが、これが自宅で充電できる環境であったとすれば、もっと全然余裕だったろう。

 リーフはクルマの形はしているが、全く新しい乗り物であり文化だ。乗用のEVという文化はまだ開花したばかりだから、足りないものがまだまだたくさんある。そうしたクルマをどのように使い、役立てていくのか? ユーザーがたくさん不満を感じてそれを声にしていく。あるいは新しい形での使い方を提案していく。そうすることでEVの文化ができあがっていくのだろう。

 今リーフに乗るということは、EV文化の発展に参加するということだ。今の時代においてこれほど新しくて革新的な文化の一端を担えるというのは、たぶん人生においても貴重な経験だろう。そうしたことを楽しめる人であれば、リーフは買ってみると結構人生が変わるかもしれない。

 リーフを返却して、久しぶりの愛車(もちろんガソリン車)の生活にもどった訳だが、ガソリンスタンドが実に頼もしく見えた。しかし6000円を超える請求にあ然。この1カ月でずいぶんガソリン代が上がったものだ。リーフなら白川郷まで1000km以上走って900円だったのに。ちょっとリーフが懐かしくなった。

(瀬戸 学)
2012年 10月 2日