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【インタビュー】トーヨータイヤの北海道スペシャルスタッドレス「GARIT G0(ガリット・ジーゼロ)」について聞く

札幌市内のミラーバーンを想定し、アイス性能をとびきり強化

GARIT G0(ガリット・ジーゼロ)

 トーヨータイヤ(東洋ゴム工業)は11月14日から、スタッドレスタイヤ「GARIT G0(ガリット・ジーゼロ)」を北海道地区500本限定で発売した。ガリットG0は、乗用車用スタッドレスタイヤ「ガリットG5」と併売される製品で、アイス性能を強化したスタッドレスタイヤだ。販売店の数も限られ、トーヨータイヤのWebサイトに販売店一覧が掲載(http://toyotires.jp/catalog/grg0.html)されている。

 このジャンルの製品としては、2012年にブリヂストンが「BLIZZAK SI-12(ブリザック エスアイジュウニ)」を発売、2013年シーズンはヨコハマタイヤ(横浜ゴム)が「iceGUARD Evolution iG01(アイスガード エボリューション アイジーゼロイチ)」と、トーヨータイヤのガリットG0が登場したことになる。

 サイズはいずれも195/65 R15の1サイズで、プリウスをはじめとして数多くのクルマに採用されているスペック。ミラーバーンが数多く発生する北海道という土地に、スペシャルスタッドレスが多数登場する時代に突入しつつある。

 この興味深いジャンルの最新作となるガリットG0について、東洋ゴム工業 タイヤ技術本部 タイヤ技術第一部 商品開発グループ 担当リーダー 朝山佳則氏と、トーヨータイヤジャパン 営業本部 消費財販売部 課長 澤野正彦氏に聞いてみた。トーヨータイヤは製販別会社となっており、東洋ゴム工業が開発・製造を、トーヨータイヤジャパンがマーケティング・販売を担う会社となる。

アイス制動距離で23%短縮、アイス加速タイムで31%短縮

 トーヨータイヤのスタッドレスタイヤと言えば、詳しい人であれば「クルミを使ったタイヤ」というイメージがあるほど、鬼クルミ配合がウリとなっている。その鬼クルミ配合のガリットも現在は第5世代のG5へと進化。ガリットG5では、鬼クルミの殻のほか、竹炭ベースの「吸水カーボニックパウダー」、ナノゲル採用の「吸着ナノゲルゴム」などで前世代から性能を引き上げている。

 今回、トーヨータイヤが北海道地区限定で投入したスタッドレスタイヤ ガリットG0は、そのガリットG5とは異なる位置づけのタイヤで、アイス性能をG5比で大幅に強化。アイス制動距離で23%短縮、アイス加速タイムで31%短縮、アイス旋回タイムで5%短縮という性能を誇っている。このタイヤを開発した背景にはなにがあるのだろうか。

アイス制動距離で23%短縮
アイス加速タイムで31%短縮
アイス旋回タイムで5%短縮

 トーヨータイヤジャパン 澤野氏は「ガリットG0の発売は、販売店からの要望というより、トーヨータイヤとしてよい技術が開発できたので、いち早くマーケットに投入したいということがありました。サイズは195/65 R15の1サイズのみですが、このサイズはプリウスやミニバンで採用されており、最も多くの販売本数が見込めるサイズとなります。北海道というと4WDのイメージが強いのですが、実際にはプリウスもよく売れており、そうした2WDユーザーへ、よりアイス性能の優れたスタッドレスタイヤを提供したかったのです」と語る。実際、北海道を旅していると、札幌ナンバーや旭川ナンバーのプリウスはよく見かけたし、レンタカーでさえプリウスは夏も冬も用意されている。ハイブリッド車で4WDという存在は少ないだけに、タイヤにはより高性能が期待される面もあるのだろう。

 ガリットG0のスペックを見てすぐに気がつくのは、性能向上が異様に大きいこと。通常、一世代で10%程度の性能向上が一般的なスタッドレスタイヤだが、アイス制動距離で23%短縮、アイス加速タイムで31%短縮している。アイス旋回タイムで5%短縮というのは、やや小さめかと思うが、とくに縦方向の性能が強化された結果となっている。

東洋ゴム工業 タイヤ技術本部 タイヤ技術第一部 商品開発グループ 担当リーダー 朝山佳則氏

「ガリットG0は、とくにアイス性能の向上を図ったタイヤですが、そのポイントとして水膜除去の性能向上があります。氷結路面とタイヤのトレッド面との間にできる水膜を除去し、ゴムの擬着摩擦でグリップしています。トーヨーの場合は、クルミで引っかくことによる効果も加わります」(朝山氏)といい、水膜のさらなる除去のためゴムの配合を変更。ガリットG5では、竹炭をベースとした吸水カーボニックパウダーを使用していたが、G0では同じ天然素材ながら別のものをベースとした新しい吸水カーボニックパウダーを採用することで吸水性能を引き上げている。その別のものについては、「現段階では秘密です」(朝山氏)とのこと。

ガリットG0のトレッドパターン
徹底的に横方向のサイプが増量され、トーヨータイヤ史上最多の4000本となった

 G5では、吸着ナノゲルゴムも吸水素材として使っていたが、これについては同量とのこと。新しい素材の吸水カーボニックパウダーと、G5比同量のナノゲル、15%増量した鬼クルミの殻で、まずは水膜除去性能を引き上げている。

トーヨータイヤジャパン 営業本部 消費財販売部 課長 澤野正彦氏

 その上で、「トレッドパターンを見直し、接地面積を増大しました。さらに、アイス路面の凹凸に対するゴムの接地の追従性も向上しています。スタッドレスタイヤの性能向上のポイントとなるサイプに関しても、G5比で33%増の4000本となっています。これにより除水効果と引っかき効果も増しています」(澤野氏)という。

 この接地面積の増大量は9%になるという。「一般的にアイス性能の向上のためには、接地面積の増大が効果的です。水を吸うエリアを増やす、引っかく能力を増やすなどが期待できます。また、接地面積が増えることで接地圧は低くなるのですが、接地圧のポイントはいかに均一に圧がかかるかにあります。ガリットG0では、新たなトレッドパターンの解析を行い、より均一に接地圧がかかるよう工夫しています」「ガリットG0では、アイス性能の向上のため、接地面積を増やすよう溝の部分をG5比で減らしています。これで、吸水や引っかき性能が向上し、アイス性能は向上しました。ただ、溝が減っていますので、排水・排シャーベット性能・スノートラクション性能を向上させるために、回転方向指定のトレッドパターンを採用しました」(朝山氏)。

新カーボニックパウダーを配合し、クルミも増量した
排水性向上のため、回転方向指定パターンを採用

 ガリットG0のトレッドパターンは、G5とは大きく異なったものとなっている。G5では用いられた360度パターンも廃され、横方向のサイプが刻まれたシンプルな長方形のブロックが周方向に並ぶものとなっている。

「アイス制動距離で23%短縮、アイス加速タイムで31%短縮していますが、これはお客様の“アイス路面で止まってほしい”という希望に添って開発したためです。この性能を追求するために、横方向のサイプを増やしました。旋回タイムは5%短縮となり、縦方向との向上幅に差があります。両方とも大幅に引き上げるのが理想的ではありますが、トーヨータイヤのスタッドレスは元々アイス旋回性能も高いレベルにありますので、今回はお客様が何よりも“怖い”と言われている不安を少しでも解消するため、アイス制動性能の大幅な引き上げを主眼に開発しました」(朝山氏)。

 他社の北海道スペシャルタイヤも同様だが、従来製品と極端に異なるトレッドパターンには、アイス制動性能を極端に重視するという姿勢が現れている。また、タイヤの断面形状であるプロファイルも変更しており、新しいトレッドパターンの採用、クルミの増量とともに、高い領域でバランス(但し、アイス路面重視)するようG0は開発された。

 一見先祖返りに見えるG0という名称も、「『氷が解けやすく、一番滑りやすい0℃付近の路面で効く』という意味が込められている」(澤野氏)とのことだ。

プロファイルも、できるだけ接地面積を増やすよう変更

 ガリットG5との比較では、アイス路面はG0の圧勝、排水性は同等ながら、深い雪での性能とライフ性能はG5のほうがやや優れるという。「圧雪路面ですと、正直なところそれほど差はありません。深い雪となってしまいますと、溝の部分が減っていることもあり、G5のほうがやや優れています。また、タイヤのライフに関しても、若干G5のほうが上回ります。ただ、G5もロングライフのタイヤであり、G0でも十分な性能を有していると考えています。とくに北海道のお客様は、夏と冬できっちりタイヤを履き替えていると販売店のほうから聞いており、問題はないものと考えています。確かに若干、深雪での性能低下、ライフの性能低下はありますが、札幌市内でのミラーバーンなどを想定し、アイス路面での性能を飛び抜けて強化してあります。その飛び抜けたアイス性能がどうお客様に評価されるかも知りたいと思い、500本の限定販売となっています」(朝山氏)とし、限定した店舗で、限定した本数販売することによって、スタッドレスタイヤに関して厳しい目を持つユーザーの意見を集めていく。価格は、生産本数が少ないことから、G5よりやや高くなるかも知れないが、アイス特化型のスタッドレスタイヤに興味のある人は、上記販売店まで問い合わせてみてほしい。

(編集部:谷川 潔)