レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤ「オブザーブ・ガリットギズ」(スノー編)

性能が向上した新型コンパウンドにより、前作「ガリットG5」から大幅モデルチェンジ

 鬼クルミの殻を配合したスタッドレスタイヤでおなじみのトーヨータイヤ(東洋ゴム工業)が、2014-2015年シーズンに新たに乗用車向けのスタッドレスタイヤ「OBSERVE GARIT GIZ(オブザーブ・ガリットギズ)」を投入する。このタイヤは、ユーザーが求めているアイス性能やシャーベット路面でのグリップを引き伸ばそうと考えられたもの。名称のGIZが意味するのはG:グリップ、I:アイス、Z:究極、とのこと。これは1991年にオブザーブシリーズが登場して以来、8世代目のスタッドレスタイヤとなる。ちなみに前作のGARIT G5(ガリット・ジーファイブ)は2009年登場。すなわち、およそ5年ぶりのフルモデルチェンジである。

5年振りにモデルチェンジしたトーヨータイヤの「ガリットギズ」
ガリットギズのタイヤパターン。多くのメーカーは左右非対称パターンへと移行したが、トーヨータイヤは対称パターンを採用。メーカーの考え方が表れる部分
主力商品のため、全64サイズをラインアップ

 ガリットギズの最大の特徴は、コンパウンドが大幅に変更されたことだ。内部に鬼クルミの殻が採用されていることはもちろん、氷の表面にある水膜を除去するための「NEO吸水カーボニックセル」が、より多くの水を吸収することに成功している。また、氷に密着するナノゲルも盛り込んでいる。

ガリットギズへの道
消費者ニーズ調査
ガリットギズの概略
商品特徴
採用技術
新コンパウンドイメージ
拡大写真
タイヤパターン
パターン特徴

 この改良によりトレッドパターンや内部構造は、今まで以上に剛性を高める方向でセットアップされたようだ。採用されるサイプにはエッジ効果を発揮するための工夫が随所に見られるが、それ以上に見所なのはサイプの倒れ込みを防止するための設計がかなり多く盛り込まれていることだ。センター付近両側のメディエイト部に備えられたコンビネーションブロックは、ブロック同士が支えあうよう設計。ショルダー部についても動いた時にしなり過ぎないように形状を工夫している。

新3D吸着サイプ
接地面シミュレーション
パターン特徴
構造特徴

 スタッドレスタイヤは氷に食い付かせることを重視した結果、柔らかくなり過ぎ、剛性感や安定性が得られにくいところがあるが、ガリットギズはゴム自体のグリップを高めた結果、剛性を高めてシッカリとさせることも可能になったということなのだろう。もちろん、スタッドレスタイヤらしく、排水や排雪についても考えられたトレッドパターンであることはたしか。センターに備わる新吸水3Dサイプは、サイプ自体の閉じ込みを防ぎ、より多くの吸水を行うように設計されている一方、エッジ効果も狙っている。さらに、メディエイト部からショルダー部に排水や排雪効果を狙った連通スリットを設けていることも特徴のひとつだ。だが、やはりガリットギズの最大の特徴は剛性を高めたところだと見受けられるのだ。

 実は旧製品となるガリットG5は、氷上性能は高いが剛性感が感じられないタイヤだった。今回もガリットギズを試走する前にそれを乗る機会に恵まれたが、やはりその印象は変わらず。ステアリングの応答には遅れがあり、ヨレが大きく、結果として必要以上にステアリングを切り込んでしまう場合もあった。また、それに追従するかのようにリアタイヤも遅れて反応することで腰砕けになり、リアが発散してしまうシーンがあった。つまりは、アンダーオーバーが出やすい感覚なのだ。

 ガリットギズはそれとはまるで逆の性格だ。ステアリングの剛性感は高く、ガリットG5で感じられたヨレを一切感じない。手応えだけを見れば、違うメーカーのスタッドレスタイヤかと疑うほどの違いがある。また、切り始めから素直にクルマが反応するため、余計な操舵を必要とせず、結果としてアンダーオーバーを出しにくい。とても素直にスノー路面を駆け抜けている感覚が得られる。

とても素直にスノー路面を駆け抜けていく

 ここまでスノー性能が高められていると、気になるのはアイス性能だ。残念ながら今回の試走時はテストコースのアイス路面が、気温が高すぎて解けてしまい、走ることができなかった。アイス性能のインプレッションは、後日スケートリンクでの試走が予定されているので、そちらでお伝えしたい。

 ちなみに、トーヨータイヤが示したアイスのテスト結果によれば、ガリットギズはガリットG5に比べて制動性能で10%短縮。旋回Gを比較してみても14%の向上が見られたというから期待が高まる。剛性感は高い、なのに氷もこなせる。ガリットギズはそんなスタッドレスタイヤということのようだ。近日行われる氷上試走の結果がどう出るのかが楽しみだ。

ガリットG5とガリットギズの比較

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。