レビュー
【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤ「ウインタートランパス TX」
2017年9月28日 06:00
専用タイヤ設計思想が古くから浸透しているトーヨータイヤ。馴染み深いところでいえばミニバン専用の「トランパス」ブランドが挙げられるだろう。背が高いミニバンでもシッカリと支え、乗用車と変わらぬ走りを展開してくれるトランパス。そこにファンは確実についてきている。この状況はウインターシーズンでも変わらない。スタッドレスタイヤに対してもトーヨータイヤはトランパスを20年近く前から投入している。今年、その「ウインタートランパス」が6世代目に突入する。新たに「ウインタートランパス TX」と名付けられたそれは、どのような考えで設計されたのかをまずは探ってみる。
いま新車販売の動向は確実に変化しており、ミニバンは安定しているが、一方でSUVが確実にシェアを伸ばしている。新車販売台数のトップ30を見れば一目瞭然だが、約半数がミニバンかSUVであり背が高いクルマが非常に多い。そのようなハイト系車両であったとしても、シッカリとしたウインター性能を持たせようと考えられたのがウインタートランパス TXというわけだ。シッカリ止まるアイス性能、アイス路面から乾燥路までレーンチェンジにおけるフラつきの低減、そしてシッカリ長持ちする耐摩耗性についても視野に入れている。
トレッドパターンは旧製品となる「ウインタートランパス MK4α」と同様に非対称パターンを採用しているが、OUT側のショルダーブロックを以前よりもワイド化。コーナリングフォースを稼ぐと同時にフラつきの低減にも寄与。溝底補強ブロックや3Dグリップサイプ、高剛性ショルダーブロックを採用することで、アイスでもドライでも性能を両立する思想が盛り込まれている。一方でIN側に対しては「3Dダブルウェーブグリップサイプ」という新たな技術を投入。これはサイプの中にたこ焼きとたこ焼き器のような凹凸を作り、縦方向の入力が入った際にブロックの倒れ込みを抑制。アイス制動を向上させたという。また、インターミディエイト部には同様の考え方をするコンビネーションブロックや、除水効果が見込める新吸着3Dサイプを投入している。
さらにトーヨータイヤの特徴として挙げられるのは、IN側とOUT側に対して異なるコンパウンドを採用している点だ。IN側にはスーパーソフトコンパウンド(乗用車用のオブザーブ・ガリット GIZと同様)を与えることでアイス制動を重視。OUT側にはソフトコンパウンドを取り入れることでコーナリング性能を向上。これらの技術は接地圧分布の均一化にも寄与し、ハイト系車両であってもトレッド全面が効果的に機能するようになったようだ。
また、そのトレッドのベースとなる部分には、ソフトキープコンパウンドと呼ばれる土台を備えた。これによりトレッド面の油分がタイヤ内部に下がることを抑制することで、経年変化を抑制。長持ちするための対策も行なわれている。コンパウンドにはNEO吸水カーボニックセルやカーボニックパウダー、ナノゲルによって吸水と密着を確保。トーヨータイヤの十八番ともいえるクルミの殻も配合することでひっかき効果も持たせている。
さらに夏タイヤの「トランパス mpZ」や「トランパス ML」で採用した「スーパーハイターンアップ構造」をTXに対しても投入した。これはタイヤの骨組みであるプライ&カーカスは、トレッド面から一度ビード部を覆うようにして折り返し、タイヤの最大部分で止めるのが一般的なのだが、スーパーハイターンアップ構造では、それをトレッド下部にあるベルト付近まで巻き上げている。これにより横剛性を高めたのだ。
テストコースを走り始めてみると、ステアリングの手応えがかなり高いことが印象的だった。以前のMK4αもその傾向があったが、それ以上にシッカリとした感覚が高い。小舵角からきちんと反応し、切り込んでみてもその剛性感がきちんと展開されている。タイヤが倒れ込む感覚はとにかく薄い。おかげでレーンチェンジをしてみてもフラつくことなく駆け抜けてくれる。
また、グリップ限界もなだらかに滑り出す。タイヤが倒れ込み瞬間的に流れ出すことがないところがTXの魅力と言っていい。コントロール性とインフォメーションをきちんと備えているところが光っている。ハイト系車両であったとしてもクルマを支配下に置くことが可能な頼りがいのあるタイヤの造りは、夏タイヤのトランパスシリーズと何ら変わらないイメージがある。
だが、ここまでシッカリ感が高いとアイス性能が心配になるところだが、アイス路面でも制動感を初期からきちんと生み出し、確実に止めてくれる印象があったのだ。
このようにウインタートランパス TXは、ハイト系車両を考えた造り込みによってかなり走れるスタッドレスタイヤだと思えた。トーヨータイヤならではの専用タイヤ思想が存分に盛り込まれたことで、ミニバンやSUVに乗るユーザーに確実なメリットを与えてくれるだろう。