レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤ「ウインタートランパス TX」

 専用タイヤ設計思想が古くから浸透しているトーヨータイヤ。馴染み深いところでいえばミニバン専用の「トランパス」ブランドが挙げられるだろう。背が高いミニバンでもシッカリと支え、乗用車と変わらぬ走りを展開してくれるトランパス。そこにファンは確実についてきている。この状況はウインターシーズンでも変わらない。スタッドレスタイヤに対してもトーヨータイヤはトランパスを20年近く前から投入している。今年、その「ウインタートランパス」が6世代目に突入する。新たに「ウインタートランパス TX」と名付けられたそれは、どのような考えで設計されたのかをまずは探ってみる。

 いま新車販売の動向は確実に変化しており、ミニバンは安定しているが、一方でSUVが確実にシェアを伸ばしている。新車販売台数のトップ30を見れば一目瞭然だが、約半数がミニバンかSUVであり背が高いクルマが非常に多い。そのようなハイト系車両であったとしても、シッカリとしたウインター性能を持たせようと考えられたのがウインタートランパス TXというわけだ。シッカリ止まるアイス性能、アイス路面から乾燥路までレーンチェンジにおけるフラつきの低減、そしてシッカリ長持ちする耐摩耗性についても視野に入れている。

写真左手前が8月1日に発売された「ウインタートランパス TX」、右奥が従来品の「ウインタートランパス MK4α」
左から乗用車用スタッドレスタイヤ「オブザーブ・ガリット GIZ」、SUVやミニバンなどハイト系車両専用のスタッドレスタイヤ「ウインタートランパス TX」、ミニバン専用スタッドレスタイヤ「ウインタートランパス MK4α」

 トレッドパターンは旧製品となる「ウインタートランパス MK4α」と同様に非対称パターンを採用しているが、OUT側のショルダーブロックを以前よりもワイド化。コーナリングフォースを稼ぐと同時にフラつきの低減にも寄与。溝底補強ブロックや3Dグリップサイプ、高剛性ショルダーブロックを採用することで、アイスでもドライでも性能を両立する思想が盛り込まれている。一方でIN側に対しては「3Dダブルウェーブグリップサイプ」という新たな技術を投入。これはサイプの中にたこ焼きとたこ焼き器のような凹凸を作り、縦方向の入力が入った際にブロックの倒れ込みを抑制。アイス制動を向上させたという。また、インターミディエイト部には同様の考え方をするコンビネーションブロックや、除水効果が見込める新吸着3Dサイプを投入している。

新開発の「3Dダブルウェ-ブグリップサイプ」をトレッドパターンのインサイド部分に採用。サイプ内に凹凸を設け、制動時に凹凸部分が支え合うことでブロックの倒れ込みを防ぎ、アイス制動性を向上させる
新商品の「ウインタートランパス TX」

 さらにトーヨータイヤの特徴として挙げられるのは、IN側とOUT側に対して異なるコンパウンドを採用している点だ。IN側にはスーパーソフトコンパウンド(乗用車用のオブザーブ・ガリット GIZと同様)を与えることでアイス制動を重視。OUT側にはソフトコンパウンドを取り入れることでコーナリング性能を向上。これらの技術は接地圧分布の均一化にも寄与し、ハイト系車両であってもトレッド全面が効果的に機能するようになったようだ。

 また、そのトレッドのベースとなる部分には、ソフトキープコンパウンドと呼ばれる土台を備えた。これによりトレッド面の油分がタイヤ内部に下がることを抑制することで、経年変化を抑制。長持ちするための対策も行なわれている。コンパウンドにはNEO吸水カーボニックセルやカーボニックパウダー、ナノゲルによって吸水と密着を確保。トーヨータイヤの十八番ともいえるクルミの殻も配合することでひっかき効果も持たせている。

ウインタートランパス TXはプライコードの巻き上げを高くすることで剛性を高める「スーパーハイターンアップ構造」を採用

 さらに夏タイヤの「トランパス mpZ」や「トランパス ML」で採用した「スーパーハイターンアップ構造」をTXに対しても投入した。これはタイヤの骨組みであるプライ&カーカスは、トレッド面から一度ビード部を覆うようにして折り返し、タイヤの最大部分で止めるのが一般的なのだが、スーパーハイターンアップ構造では、それをトレッド下部にあるベルト付近まで巻き上げている。これにより横剛性を高めたのだ。

試乗会が開催された東洋ゴム工業のサロマテストコースで、高速域での特性や中低速域でのハンドリング特性を確かめた

 テストコースを走り始めてみると、ステアリングの手応えがかなり高いことが印象的だった。以前のMK4αもその傾向があったが、それ以上にシッカリとした感覚が高い。小舵角からきちんと反応し、切り込んでみてもその剛性感がきちんと展開されている。タイヤが倒れ込む感覚はとにかく薄い。おかげでレーンチェンジをしてみてもフラつくことなく駆け抜けてくれる。

試乗会では背の高いハイト系車両として国産ミニバンのトヨタ自動車「エスクァイア」が用意されたほか、乗用車ライクな輸入車ミニバンのフォルクスワーゲン「トゥーラン」などと乗り比べもできた
試乗車として「ウインタートランパス TX」を装着したトヨタ自動車「ヴェルファイア」「エスクァイア」、フォルクスワーゲン「トゥーラン」を用意。そのほか、比較用として「ガリット GIZ」を装着した「プリウス」、従来モデルの「ウインタートランパス MK4α」を装着した「ヴェルファイア」が用意された

 また、グリップ限界もなだらかに滑り出す。タイヤが倒れ込み瞬間的に流れ出すことがないところがTXの魅力と言っていい。コントロール性とインフォメーションをきちんと備えているところが光っている。ハイト系車両であったとしてもクルマを支配下に置くことが可能な頼りがいのあるタイヤの造りは、夏タイヤのトランパスシリーズと何ら変わらないイメージがある。

 だが、ここまでシッカリ感が高いとアイス性能が心配になるところだが、アイス路面でも制動感を初期からきちんと生み出し、確実に止めてくれる印象があったのだ。

テストコースにはハンドリングの特性を確かめるパイロンスラロームやアイス性能を確かめるアイス路面が用意される

 このようにウインタートランパス TXは、ハイト系車両を考えた造り込みによってかなり走れるスタッドレスタイヤだと思えた。トーヨータイヤならではの専用タイヤ思想が存分に盛り込まれたことで、ミニバンやSUVに乗るユーザーに確実なメリットを与えてくれるだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。