レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤの「ガリット GIZ」「ウインタートランパス MK4α」をあらためて試す

「ガリット GIZ」をあらためて試す

 自動車メーカーの4WD関連やスタッドレスタイヤの試乗のため、筆者らはひと冬に何度も北海道に足を運ぶわけだが、今回向かったのは北海道の北東部に位置する佐呂間町にある、トーヨータイヤ(東洋ゴム工業)のサロマテストコースだ。

 今年は雪が少ないそうだが、女満別空港へと向かう往路の飛行機の窓からは、流氷の到来を目の当たりにすることができた。試乗した日の天候は晴れで、気温も高め。氷が溶けるとより滑りやすくなるため、スタッドレスタイヤにとっては少々厳しい条件となるかもしれない。

トーヨータイヤ(東洋ゴム工業)のサロマテストコースにやってきた!

 今回の試乗会では新商品の用意はなく、既存のラインアップを代表する「オブザーブ ガリット GIZ(以下:GIZ)」と「ウインタートランパス MK4α(以下:MK4α)」という2製品を、あらためて試した。

 まずGIZについて。外周路でGIZを装着したトヨタ自動車「クラウン」とアウディ「A4」をドライブした。むろんアウディはクワトロモデルで、クラウンも北海道では大半を占める4WDモデルである。路面状況は概ね圧雪で、ところどころアイスバーンになっているコーナーもあるし、途中には轍路や、左右輪でミューの異なる路面も設定されている。

オブザーブ ガリット GIZ
試乗車はトヨタ自動車「クラウン」とアウディ「A4」の4WDモデル

 優れたスノーおよびアイス性能のおかげで、終始、安心して走ることができたわけだが、この2台ではクルマの挙動に意外と違いがあったことも興味深かった。たとえば、左右輪でミューの異なる路面でフル制動を試すと、グリップの低い側の制動距離がやや伸びてスピンモーメントが出たほか、いくつかの違いがあった。

 詳しくはタイヤというよりもクルマの評価の話になるので割愛するとして、こうした滑りやすい路面でも、タイヤのグリップが出ているからこそ、違いが明確に出たように思う。

新品タイヤと摩耗したタイヤでは大違い

新品時より溝の深さが55%摩耗したタイヤ。プラットフォームとブロックがつながっており冬用タイヤとしては使用できない

 また、GIZに関しては、同じ車種で新品タイヤと新品時より溝の深さが55%摩耗したタイヤを装着した状態で比較することができたのも収穫だった。冬用タイヤとして使用限界は50%なので、55%というのは、さらに摩耗が進んだ状態である。

新品時より溝の深さが55%摩耗したタイヤと新品タイヤをそれぞれ装着したアクアを用意して乗り比べ

 今回の乗り比べでは、圧雪路でスラロームと円旋回を、氷盤路で円旋回と直線制動を試した。円旋回では圧雪路と氷盤路のいずれでも、摩耗したタイヤではやはり2割ぐらい新品タイヤより限界の旋回速度が低かった。

 一方、圧雪路でのスラロームでは走り方をいろいろ変えてみたところ、摩耗したタイヤのほうが初期応答性がよいことが印象的だった。これは摩耗してブロックの溝が浅くなったことで、むしろ剛性としては上がったからだと考えられる。そして、摩耗したタイヤでもある程度は舵が利く。ところが、ひとたび限界速度を超えて滑り出てしまうと、なかなかグリップが回復しなくなってしまう。

 これは危ない。少しは舵が利くことで“まだ大丈夫”と勘違いするユーザーが少なくないようだが、それが大きな落とし穴ということだ。その点、新品タイヤは全体的に安定している。切れば曲がるし、限界を超えても少し待っていればグリップが回復する。

新品タイヤを履いた「アクア」

 直線制動も、昼間で気温が上昇して氷が溶け出し、とても滑りやすい状態になっていたこともあって、摩耗したタイヤのほうがかなり制動距離は長かった。正確に計測できたわけではないが、感覚としては、約20km/h程度の低速からの制動でもだいぶ差があり、約40km/hではほぼ5割増しで距離が伸びる印象となる。

 Car Watch読者なら、冬用タイヤとしての使用限界を示す「プラットフォーム」のことはもちろんご存知だろうが、とくに首都圏で、冬用タイヤとしての使用限界を超えても履き続けている人も少なくないとか。そういう人のことを考慮に入れて、トーヨータイヤの開発陣としては、限界を超えてもできるだけ性能低下がなだらかになるような設計を心がけているとのこと。

 ただし、タイヤの使用年数や保管状況によっては性能が大きく落ち込む要素があることを心しておくべきで、その上でプラットフォームのことを気にしてほしいと力説していた。筆者もあらためてその重要性を痛感した次第である。

ミニバンに最適な「MK4α」

 さらに、MK4αを装着したアルファードの4WDをドライブした。MK4αは、車両重量が大きく、重心高の高いミニバンのふらつきを抑えるため、タイヤとして高いボディ剛性を確保するとともに、1つのタイヤで3つのコンパウンドを使い分けたトリプルトレッド構造を採用するほか、非対称のショルダー形状とするなど、専用設計を施しているのが特徴だ。その上で、グリップの強化を図るべくクルミを増量している。

ウインタートランパス MK4α
試乗車はアルファードの4WDモデル

 外周路を何周か走ったのだが、十分なグリップとクセのなさで、いたって走りやすかった。上で述べたとおりの設計が効いてか、ステアリングを切ってからあまり遅れることなくクルマが曲がり始め、タイヤが不要に変形することなくしっかり接地している感覚があるし、ブレーキングでの姿勢も安定している。

 アイスバーン状になったコーナーでも、車速に気をつけていれば不意に外にふくらむことはない。独自のクルミも効いていることに違いない。おかげでこちらも終始、安心して走ることができた。

 ほかにはない目の付けどころで、ユニークな商品をいち早くラインアップしているトーヨータイヤ。今回はその主力モデルである「GIZ」と「MK4α」のポテンシャルを再確認することができた。また、摩耗タイヤと新品タイヤの性能には大きな差があることをあらためて痛感した次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。