ニュース

写真展「F1 ART SCENE」で、鈴木亜久里氏、佐藤琢磨氏のトークショーを開催

「俺たちは3位にしかなれなかったが、いつの日にかF1の表彰台で日本の国歌を聞きたい」

2015年1月8日開催

終始和やかなムードで行われたトークショ-。タキシード姿の鈴木亜久里氏(右)と佐藤琢磨氏(左)。両氏とも日本でタキシードを着るのは珍しいとのこと

 1月8日、西武渋谷店A館7F(東京渋谷区)で開催中の写真展「F1 ART SCENE」(1月18日まで)に元F1レーサー鈴木亜久里氏(以下、亜久里氏)とレーシングドライバー佐藤琢磨氏(以下、琢磨氏)が登場。約30分のトークショーが行われた。この写真展はF1をニュースや報道としてではなく、アートとして捉えるフォトグラファー集団「Team ZEROBORDER」の2014年の作品を展示しているもので、さらに会場には1964年にホンダがF1初参戦した当時の写真なども展示されており「新旧F1の世界」というコンセプトが掲げられている。2015年はホンダが7年ぶりにパワーユニットサプライヤーとしてF1に再チャレンジすることから、これを契機に新たなF1のファンを増やしたいという思いから開催されたものだ。なお、写真のプリントには、プリンターメーカーのキヤノンマーケティングジャパンが協力しているとのこと。

 西武渋谷店B館の1Fには、2006年にハンガリーGPでジェンソン・バトンが通算72勝目を達成したF1マシン「RA106」が展示されている(19日まで)。

写真展は18日まで西武渋谷店7Fの催事場で行われている。入場は無料
「Team ZEROBORDER」が2014年に撮影した写真など約100点弱が展示されている
「新旧F1の世界」というコンセプトで1964年~68年のホンダがGPに参加している様子の写真も飾られた
F1の聖地モナコGPの絶景ポイントにいるような、記念撮影コーナーもあった
ホンダのF1参戦の歴史なども展示されている

 一般観覧客は200名前後。17時30分からトークショーは開始されたが、一番最初の観客は15時前後から並んでいたとのこと。身動きできないぐらい詰めかけた観客が見守る中、タキシード姿で爽やかな笑顔とともに亜久里氏と琢磨氏が登場。和やかな雰囲気でトークショーが始まった。話題はF1を知らない人にも配慮してF1とモナコとの関わりなどライトな内容となった。

ファンの拍手を浴びながら爽やかに登場した両氏
鈴木亜久里氏
佐藤琢磨氏

 まず、司会者の「タキシードはどうですか?」という問いに対し、琢磨氏は「F1はレースの前後では社交パーティが多いので、タキシードを着る機会があるが、日本で着たのは初めて」。亜久里氏は「昔のモナコではタバコメーカーやシャンペンなどを作る酒造メーカーが主催するパーティが多かったのでよく着ていた」と語った。

 写真展については「私たちのクルマが写ってないのは少し残念です。」と両氏。

──両氏が住居を構えているモナコに関しては?
亜久里氏:モナコのレースは見た目は華やかですが、ドライバーの頃は、華やかに楽しむという気分ではなかった。
琢磨氏::確かにモナコの一戦は特別なものですが、コクピットの中ではモナコも鈴鹿も同じ感覚です。ただ、モナコのコースはとても狭い。サーキットではそうでもないが、市街地の一般公道を時速300kmで走るというのは異常とも思える感じでした。
亜久里氏::確かに最初の1周目は、これで本当にレースできるのかすごく不安になる。
琢磨氏::最初にレースでモナコに訪れたときはこういうものだと思っていました。しかし、その後モナコに住んで、買い物とかで時速50~60km前後で走って、縁石の場所やマンホールの位置まで完璧に頭に入っている状態でレースに臨んだら、感覚がまるで違いました。こんなにも狭いんだと驚きました。買い物する町のパン屋がレースだとまるで見えません。普段のモナコを知っているとその差の違いに余計な驚きます。
亜久里氏::でもレーサーってスゴイもので10周も走れば慣れるよね。
琢磨氏::そうですね。最初の1、2周は怖いですけど。
──鈴木さんは、最初のコーナーを上がった途中のアパートに住んでいると伺いました。
亜久里氏:そうです。だから友達とかがみんな見てるんですよ。なのでピット出た最初の1周は手を振ったりしてますよ。
──一般観客がいる側壁すれすれを走るのがモナコならではのレースの醍醐味ですよね。
琢磨氏:ドライバーズパレードでコースを回りますが、他のコースでは観客が自分と同じ目線ですが、モナコは見上げながら手を振りますね。あと、エンジン音がビルに反響して聞こえてくるのがモナコならではです。他のサーキットではクルマが速すぎて聞こえません。
鈴木氏:乗っているとガーガーガーという音だけだね。
琢磨氏::観客の皆さんが聞いている音とドライバーの聞いている音はまるで違います。
──では、モナコの地中海の青い海や綺麗な景色も楽しんでいられませんね。
琢磨氏:クラッシュしたときには見られますよ。トボトボと歩いて帰ってきたときに(笑)。モナコはGP期間中は人口3万人の都市が20万人の観客で賑わいます。ホテルもGPの間だけは5泊150万円とかします。あと、世界中のお金持ちがクルーザーでやってきます。
亜久里氏::あれはレース見てないよね。
琢磨氏::クルーザーの上で寝転がってますから見てませんよね。しかし、普段のモナコは普通の田舎町です。夜は日本の自動販売機並の頻度で警官も立ってますし、監視カメラもあるので、女性でも一人で歩けるほど治安は良くて犯罪の発生率は片手で数えられるほどらしいです。立っている警官もフレンドリーですね。
亜久里氏::フランス語ができるともっと楽しいと思う。俺はフランス語が難しくて聞き取れないけど。
琢磨氏::僕もフランス語の勉強は挫折しました(笑)
──モナコに住んでいると他のドライバーとの交流があるのでは?
亜久里氏:ブラジル人のロベルト・モレノというドライバーが面白い人だった。「おいアグリ!俺、ボート買ったから14時に乗りに来いよ」といわれて乗りに行ったら、テンダーボートみたいなゴムボートだった。てっきりこのボートで大きなボートまで行くかと思ったら、このボートに家族4人乗せて近くのビーチで遊んだだけだったよ。
琢磨氏::モレノらしいですね。さすらいの浪人とも呼ばれてますよね。F1ドライバーはいろいろなことしてます。ゲルハルト・ベルガーはお父さんの運送会社を引き継いでますし。ティエリー・ブーツェンはプライベートジェットをモナコで売っていたり。
亜久里氏::ティエリー・ブーツェンは現役の頃から自分で飛行機を操縦してサーキット行っていたね。「一緒にモナコに帰る?」と聞かれて着いていったら、サブパイロット席に座らせてくれたよ。
琢磨氏::亜久里さんはパイロットライセンス取らないんですか?
亜久里氏::ヘリコプター取ろうと思ったけど、アレッサンドロ・ナニーニが事故を起こしてしまったから止めたよ。船は取ったけど。
琢磨氏::で、ゴムボートでしょ?
亜久里氏::バレては仕方ないな。でもモレノのよりは大きいよ。

同じチームで苦楽を共にした仲ということもあり、オーナーとドライバーというより、仲のよい先輩と後輩という感じで和やかに語り合っていた。

──モナコの観光についてはどうですか?
琢磨氏:モナコは皇居ほどの狭い国なので1日あれば回れます。
亜久里氏::よくモナコと紹介される映像は全てのエリアがモナコではないね。半分ぐらいしかモナコじゃない。
琢磨氏::モナコは駐車場が最初の1時間がタダなのが嬉しいですね。
──モナコは国民の平均所得額が世界でダントツでトップですが。
琢磨氏:僕が平均下げましたね(笑)
亜久里氏::モナコは所得税がないから世界中からお金持ちが移住して住んでいる。ただ、消費税は20%ぐらい取られる。お金持ちは高い買い物をするから、それで国家財政が保っている。カジノで財政を賄っている国もあるがモナコはそうではない。モナコにもカジノはあるようだが、僕は行ったことない。なんせ人生が博打みたいなものだから。
琢磨氏::僕も銀行の人に危ない職業だから金融はリスクの少ないものにしなさいといわれたことがあります。

──3月からF1の日程が開幕するが、各国で雰囲気は違うものですか?
亜久里氏:ドライバーとしては殆ど変わらない。空港からホテルとサーキットに行きまた空港に行くから。一緒に同行する人も変わらないから。
琢磨氏::お客さんの雰囲気は違いますね。イタリアの応援はフェラーリの赤一色です。ドイツはミハエル・シューマッハやセバスチャン・ベッテルなど人しか応援しないですね。日本はホンダとか企業の応援のイメージが強いです。鈴鹿は雰囲気がいいサーキットです。モナコは市街地レースが好きな人ととりあえずF1を見ようという人に分かれますね。
亜久里氏::今年からホンダがF1に再チャレンジしてくれるのは嬉しいよね。F1からは日本の色が一時期なくなってしまったから。新たに世界を相手にチャレンジをしてくれると期待している。
琢磨氏::ホンダのいないF1は寂しいです。僕はF1イコールホンダというイメージがあります。
亜久里氏::琢磨にはホンダのワークスからウチのチームに来たときに「去年まではお金持ちの家の子だったけど、今年から貧乏だけど頼むなと」といったんです。
琢磨氏::僕は庶民はドライバーですから(笑)
亜久里氏::よく我慢して琢磨はやってくれたよ。最初はクルマを突貫工事で作ってバーレーンに行ったが、走らせたら7秒ぐらい遅くて。
琢磨氏::当時は走りさえすれば満足というコンディションだったんですが、亜久里さんはバーレーンに来て試走する前までは笑顔だったのに走ってみたら死にそうな顔してました。
亜久里氏::あのときはこのタイムだとレースにならないなって思った。でも、あのクルマがモルジブのときはよく10に入ったものだよ。
琢磨氏::あれはいいクルマになりました。
亜久里氏::しかも、4カ月でよくチームが立ち上がったものだ。オーストラリアの空港に飾ってあったモノコック使ったり、飾られていたクルマを呼び寄せて作り直したもののよく走った。
琢磨氏::これがF1のよさですね。各チームはレギュレーションがあるものの、そのなかでクルマを作り上げられる楽しさがある。もちろんホンダさんの尽力によるところも大きかったです。
──ぜひスーパーアグリの夢をもう一度!
亜久里氏:それは無理。次は琢磨がやってくれる。
琢磨氏::亜久里さんが会長なら……。
亜久里氏::またホンダさんに頼みに行こうか?
琢磨氏::そうですね。
亜久里氏::今考えると、チームオーナーは無茶な仕事だった。いまでもよく出来たと思う。本当に綱渡りだった。いつダメになってもおかしくないことの連続だったよ。
琢磨氏::確かに5人からはじめて、よく90日後にバーレーンにいれたものでした。
亜久里氏::ホンダさんのおかげだ。俺は今でも青山に通るたびに頭を下げる。またホンダのパワーユニットを積んだクルマが走り出すのはワクワクする。ここに居るみなさんともぜひ鈴鹿でまたお会いして一緒に応援したいね。

──2015年は9月27日に日本GPが行われるますが、両氏の今年の予定はどうですか?
琢磨氏:僕はインディ500が終わっているので、リポーターの仕事で日本GPに応援に行くと思います。今月末にはアメリカに渡り、来月にはテスト、3月はブラジルに始まって8月まで走ってきます。数年前までギリギリで優勝できなかったので、今年は優勝したいです。
亜久里氏::琢磨に何歳までやるの?と聞いたら勝つまでやりますといってた。みんな勝つまで応援しようね。終わって帰ってきたら俺とGTやろう。
──なんとここでオファーが!
琢磨氏:体力勝負になるから長くは続けられないですが、50代まで乗っているドライバーも居るので続けて行きたいと思ってます。亜久里さんもまだ行けますよ。
亜久里氏::俺は不摂生しているからダメだな。もう無理かな。今シーズンはGTとフォーミュラEをやる。今年はいい1年だったと思えるものにしたい。みなさんには日本のGTも応援にきてほしい。
──最後にひとこと。
琢磨氏:ホンダの新たなF1の挑戦にワクワクします。まずは鈴鹿、次にモナコ、アメリカのレース、ぜひ皆さんに生観戦に来てほしいです。もちろん応援に来て頂いた皆さんをガッカリさせないように最高のリザルトを残したいです。
亜久里氏::レースは生で見るのが面白い。日本にはいいサーキットがいっぱいある。今日はモータースポーツ初めての人もいると思うが、一人でもファンになってほしい。皆さんを魅了できるようなものにしたい。

 このあと、記者の質問に答えて琢磨氏は今年のレースについて「今年は念願の2台体制になります。新しいパッケージは3月上旬以降に投入されるので、開幕戦は14年のスペックでいきます。2台体制だと取れるデータが倍になるため、質の向上が期待できます」と語り、ホンダのF1再チャレンジに関しては「現在のパワーユニットは複雑なので初戦から一気に行くのは難しいですが、後半から盛り返してくるのではないかと思います」と予想していた。

 日本人ドライバーへの期待に関しての質問に亜久里氏は「ドライバーができあがるのはエンジンを作るよりも難しいかも知れない。ここ最近はF1から日本色が消えてしまって、レースに来る子供たちもF1レーサーよりもGTレーサーになりたという。琢磨みたいなレーサーが出てきてレースを引っ張ってくれると盛り上がるだろう」と答え、琢磨氏は「ホンダは若手ドライバーの育成にも力をいれており、いろいろな可能性があります。最初のうちホンダはF1の調整で手一杯になると思いますが、日本人のドライバーがF1に出てきてほしいです」と答えた。最後に亜久里氏は「俺たちは3位にしかなれなかったが、いつの日にかF1の表彰台で日本の国歌を聞きたい」と語り、トークショーを終えた。

西武渋谷店B館の1Fで19日まで展示されているF1マシン「RA106」。2006年にハンガリーGPでジェンソン・バトンが通算72勝目を達成した実車

(シバタススム)