インプレッション

ポルシェ「718 ボクスター」(ポルトガル試乗)

ポルトガルで「718 ボクスター」を試乗

 スバル(富士重工業)技術者たちからの注目度がハンパではない――そんな噂(!?)も耳にする、ポルシェ「718 ボクスター」をテストドライブした。

 実車のローンチに先駆けて開催されたワークショップでの、本社テストドライバー氏が駆るテスト車への同乗体験記はすでにCar Watchでお伝え済み。一方、今回は正真正銘、自身の手によるテストドライブでの印象だ。

 国際試乗会の舞台となったのは、ユーラシア大陸最西端に近いポルトガルはリスボン近郊。当初は荒天の予報が出ていたものの、実際のテストルートは降雨が激しい地域をわずかに外れ、幸いにも路面はほとんどドライの状況下で走行することができた。

ポルトガルのリスボン近郊で行なわれた「718 ボクスター」国際試乗会

 冒頭述べた、「スバルの技術者も大注目!」の理由はもちろん、このモデルが搭載する新開発の心臓部にある。従来のボクスター・シリーズに搭載されてきたのは、911譲りとも言えるポルシェ伝統の自然吸気式水平対向6気筒ユニット。一方、これまで同様に6速MT、もしくは7速DCTとの組み合わせで718 ボクスターに積まれたのは、ターボ付きの水平対向4気筒ユニットだ。

 完全新開発が行なわれたこのエンジンのそうした基本ディメンションは、これまでスバルが得意としてきた心臓部とまさに同様。加えて、その排気量が2.0リッターと2.5リッターとなれば、先輩格に当たる4気筒ユニットを世に送り出してきたスバルの技術者たちが色めき立つのも、当然無理はないわけだ。

718 ボクスターは水平対向4気筒 2.0リッターターボエンジンを搭載し、最高出力220kW(300PS)/6500rpm、最大トルク380Nm/1950ー4500rpmを発生。ボディサイズは4379×1801×1281mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2475mm

 1950~1960年代にかけて活躍したミッドシップ・レーシングモデル「718」。それも水平対向4気筒ユニットを搭載していたことを引き合いにして、同じ3桁数字を冒頭に加えた新しい名称を語るのが、今回テストドライブを行なった718 ボクスターだ。

 軽量化狙いでアルミニウム材を大量に用いたボディ骨格や、基本となるスタイリングについては、2012年に発表された981型のそれを踏襲。ただし、そんなこのモデルに与えられた社内開発コードは、実は「982」と新たなものに改められている。

 ちょっとばかり勘ぐると、それは981型の単なる後期モデルには当たらないという、開発陣からのメッセージにも感じられる。実際、トランクリッドとソフトトップ、ガラス部分を除いて、スタイリング面でもすべての部分に手が加えられたと紹介されるのが718 ボクスターでもある。

 インテリアの基本的な造形は981型を踏襲する一方、ダッシュボード上の空調吹き出し口の突出量が増したり、新デザインのステアリング・ホイールが採用されたりして、確かにそれなりに新鮮な雰囲気が演じられている。

 918 スパイダーでの初採用以降、最新モデルでこぞって使われるステアリング・ホイール上のドライブモード切り替えダイヤルは、当然のように718 ボクスターにも採用されている。それは単に見た目の新規性だけでなく、実は安全性向上にも寄与するアイテム。従来は、どうしても大きく視線を落とす必要のあったセンターコンソール上の複数のスイッチがこのダイヤルに集約され、慣れればブラインド操作も可能であるからだ。

718 ボクスターのインテリア

「ツインターボ方式もシミュレーション段階までは行なったものの、点火順序の関係から効率がいま1つ」。あるいは「より小さな排気量も考えたものの、行き過ぎたダウンサイズはリアルワールドでの燃費削減にはよい結果はもたらさないことが判明」等々と、さまざまな検証の末にベーシッググレードには2.0リッター、よりハイパワーを狙うSグレードには2.5リッターのシングルターボ付きというスペックに決定されたのが、718 ボクスターに積まれる4気筒の水平対向ユニットとなる。

 2.0リッター・ユニットのボア×ストローク値は、先行してターボ化が図られた最新の911カレラ用3.0リッター・ユニットのそれとまったくの同数値で、それよりも11mmのアップが図られた2.5リッター・ユニットのボアは、今でも911ターボ系に残る3.8リッター・ユニットの値と同一。すなわち、そんな最新の4気筒ユニットは、いずれも綿密な計画に基づく“モジュラー・ユニット”であるということ。「効率の高さ」を謳うそんな新しいパワーユニットたちは、ポルシェ自身にとっても“高効率”であるわけなのだ。

 ちなみに、自然吸気時代よりも排気量を落とす一方で、気筒数は維持された911 カレラ系の心臓に対して、ボクスター用では排気量と気筒数をともに削減したことが大きな相違点。その理由はひとえに、ミッドシップ・パッケージゆえ制約がより厳しいエンジンルーム内にターボ付きユニットを搭載するためには、4気筒化を図る以外に方策がなかったため。

 端的に言って、「従来の6気筒ユニットの車両前方側2気筒分を削り、そこにできた空間部分にターボチャージャーなどを収めた」というのがこの新エンジン。なお、ターボ化のアイデアが具体化したのは2011年で、その時点ではすでに981型ボディのパッケージングは決定済み。6気筒+ターボというデザインをそこに搭載することは不可能であったという。

718 ボクスター Sは最高出力257kW(350PS)/6500rpm、最大トルク420Nm/1900ー4500rpmの水平対向4気筒 2.5リッターターボエンジンを搭載する
718 ボクスター Sのインテリア

Sグレードの圧倒的なトルクの太さ

 まずはハイパフォーマンス版のSグレードに乗り込み、最高出力350PSを発するエンジンに火を入れる。

 オプション装着されていたスポーツエグゾーストシステムから吐き出されるのは、6気筒時代とは異なる重低音が強調されたサウンド。これはこれで新たな魅力、と受け取る人ももちろん存在すると思える一方で、不等長排気系時代のスバル車を彷彿とさせるその音色に、違和感を抱く長年のポルシェファンも現れる可能性は否定できない。

 MT仕様、DCT仕様ともに、スタートの瞬間から十二分な力強さが得られ、特に1500rpm付近からアクセルペダルを踏み加えると、圧倒的なトルクの太さを味わえるという印象は共通。このあたりが、動力性能上で従来の自然吸気6気筒モデルとは最も大きな違いを実感できるポイントでもある。

 ターボチャージャー付きとなり、アクセル操作に対するレスポンスや高回転域にかけてのパワーの伸び感を心配する人がいるかも知れない。確かに、ピークパワーの発生回転数は従来型の7400rpmに対して6500rpmと、大きく下げられている。

 だが、実際にはそんな“頂点”を過ぎてもパワーの頭打ち感はほとんどなく、レブリミットの7500rpmまでパワフルに回り切ってくれるし、アクセル操作に対するタイムラグを意識させられることもない。このあたりの印象には、排ガスエネルギーが小さな領域での高いレスポンスと、逆の領域での大パワーを両立させる、ガソリンエンジンとしては稀有な可変ジオメトリー・ターボが、Sグレードに限って採用されている効果も小さくないはずだ。

 ただし、「回せば回すほどに澄んでいく」という従来型のサウンドに感じられた飛び切りの好印象は、さすがに影を潜めてしまっている。長時間に渡りクルージングを続けて行くと、時に「濁音系の音がちょっと耳障り」と、そんな印象を抱く場面も皆無ではなかった。絶対的なパフォーマンスは上昇していても、サウンド面では明確に異質な新エンジン。ここだけは、やはり賛否両論が渦巻きそうなポイントだ。

1900-4500rpmで最大トルク380Nmを発生

 そんなSグレードから、2.0リッター・ユニット搭載のベースグレードに乗り換える。加速とサウンドの迫力は確かにややダウンした印象。もちろん、こちらも街乗りシーンから十分なスピード性能の持ち主であることは明らかな一方、クルージング・シーンでのDCTの変速頻度は明らかにより多くなるなど、「余裕は多少小さくなったナ」と、そんな印象を意識させられることになる。

 こちらの最高出力は300PSと、Sグレードとピタリ50PS差であるのは、多分に昨今のポルシェが得意とする巧みなマーケティング戦略の結果をも感じさせられる部分。最大トルク値の380Nmは、従来型Sグレードの360Nmを上回るもの。自然吸気6気筒だった従来型がその値を発揮したのは4500-5800rpmだったのに対して、新型では1900-4500rpmという範囲で、これもまた新型のパフォーマンスの高さが強くアピールされるものだ。

 ところで、ベースグレード/Sグレードともに718 ボクスターをドライブしていると、そもそも“6気筒時代”にも十二分に軽快そのものと言えた走りの感覚が、さらに全般的に軽やかさを増していることも印象的だった。

 実は新型では、エンジン換装に加えて足まわり関係も全面的に見直したと発表されている。スプリング/ダンパーやスタビライザーといったサスペンション関係をはじめ、ステアリング・ギヤ比の見直しや、サブフレームの強化を筆頭としたリアサス横剛性の向上などが、その主なメニューとして挙げられている。

 実際、これまでも文句ナシのレベルにあったハンドリングの自在度や敏捷性をさらにアップさせ、なるほど“後ろ足の位置決め”もさらに精度が高まったことを実感。一方で、こちらも従来型レベルでまったく不満ナシだった快適性が犠牲になっていないどころか、よりしなやかさを増したことにも、率直に感心せざるを得なかった。

 エンジン換装に関しての議論は、きっとこの先も続いて行くに違いない事柄。特に、「6気筒エンジンを積んでいるから」という思いを少しでも抱いていた従来型ユーザーには、新型への進化はなかなか納得し難い部分であるかも知れない。

 一方で、フットワーク部分を含めて全体の完成度が確実に向上したことは間違いナシ。そうした点では、かつてなく罪深く、だからこそ意義深くもある最新ボクスターと言えるのかも知れない。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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