インプレッション

タミヤ「TA07 PROシャーシキット」

2016年7月2日 発売

3万1104円

 本誌読者諸兄にはお久しぶりの桂伸一です。今日はタミヤの新作RCカーのインプレレポートをお送りします。“RCカーの世界になんで?”と、実はわたくしRCカー業界が自動車業界よりも先の本職だったのです。

 どうでもいい話かと思いますが、編集からのオーダーなので一応RCカーに至る経緯を話すと、まず小学1年の誕生日に買い与えられた1/24スケール・ホンダ S600のスロットカーが、将来の職種を含むすべてのことの始まり。

 それを走らせる「サーキット」は当然お兄さん、オトナのたまり場。洋書のレース雑誌が山とあり、レーサーも出入りする。と、幼少カツラはレーシングカーの姿カタチに憧れ、オトナになったらアレを運転するヒト、レーシングドライバーになると心に誓う。

 しかし、今のように小学生からレーシングカートに乗れる環境はなく、でもレーシングカーのスモール版に触れていることが楽しくて、スロットカーを卒業するとRCカーへ。これまた、今のようにモーター=電動カー(1/12、1/10)はまだなく、3.5ccエンジン搭載の1/8スケール(かなりデカイ)レーシングカーに。100km/hのRCカーを操り、レースは世界選手権が始まり、第2回のスイス・ジュネーブ大会からアメリカ、フランス、日本、アメリカと参戦。

 しかしある時、“やはり実車だ!!”とRCカーで知り合いになった自動車雑誌編集者を頼り、路線変更して現在に至る。

 RCカーレースからはすでに数十年離れているが、操縦して何がどうか? 特性の違いを見分ける術は腐っていないハズ……。ということに目をつけた本誌編集部から久しぶりのインプレ業務、ということで、静岡のツインスター、タミヤサーキットに向かった。

「TA07 PROシャーシキット」を観察する筆者

 タミヤが新しくリリースした「TA07 PROシャーシキット」は、まずは、見た目ですべてを低く抑えたフラットなレイアウトが分かる。スパーギヤを小径にしてシングルベルトで駆動するシャーシ単体を眺めるだけでもスタイリッシュである。上下ダブルデッキのシャーシはアッパー側がまるでテンションロッドで構成されているかのように、実際に部分的に構造の一部を着脱することで捻れ剛性が変わり、ハンドリング特性を変更できる。調整幅の広さは、あらゆるタイプのドライバーに合わせられるということだ。

「TA07 PROシャーシキット」の取材会。モーターの搭載位置を変えた3台のRCカーを用意して、操作性の違いを体験できる時間が用意された

 TA07 PROシャーシキットのウリの1つは、重量物であるモーターの搭載位置を前・中・後と3段階に変更できること。モーターの重量は約160g。バッテリー220g。シャーシの全備重量1380gからすればその比率はわずかだが、モーターが高回転で回る際にローターが発生するジャイロ効果、これがじつはシャーシ特性に大きな影響を及ぼすという。

モーターの搭載位置は3つのポジションから選択可能。ポジションによってハンドリングの特性が変わる

 そうだろうな!! というのは、例えば電源を入れた状態でシャーシを水平に持ち、スロットルトリガーを全開に引くとどうなるか。瞬時に前が上がり、減速すると前が下がるだろう。その反動が操縦性にどれほど変化を及ぼすのだろうか……? それを操縦して自身で違いを確認できるのか? 逆に興味津々である。

 さて、実車の試乗やレースにおいて、例えばサスのセッティングを変更する、タイヤの特性違いをテストするという時に、何をどう変えたのかを先に聞いてはいけない。人間、答えを知ると“コメントを作る”からだ。

 そこを理解しているのは、さすがタミヤの開発陣。というのは、ホワイト、シルバー、ブラックと3台のマシン(ボディは「ライキリGT」)を用意してテスト走行させたこと。3台それぞれモーター搭載位置を変えているのだが、どれが何かを教えられずに試した印象は果たして……!?

タミヤサーキットで行なわれた「TA07 PROシャーシキット」の取材会。モーターの搭載位置はサーキット試走が終了してから発表された。
左がスティック・プロポ。右にあるプロポはホイールでステアリング、トリガーでアクセルとブレーキ操作をする
三和電子機器株式会社「エクゼス ZZ」

 まず、ホワイトのマシン。スティック・プロポでしか操縦できない筆者のために、タミヤさん、わざわざサンワ(三和電子機器)「エクゼス ZZ」を用意してくださった。

 しかし、そのスティック操作に対するステアリングのあまりにも過敏に動き過ぎる応答に戸惑う。いまやサーボはスピードとレスポンスの時代。わずかな操作に対して俊敏に動く。いや、動き過ぎる!! これ、実車で言えばステアリングを瞬間的にイッキに最大舵角まで切り込むのと同じことだ!! 自転車のハンドルを走行中に瞬時に大きく切り込むだろうか?

 そこは実車離れ、現実離れしているのが現在のRCカー。“旧いタイプ”の筆者の操縦スタイルに合わせるため、ステアリング側の操作感度(エクスポレンシャル)をマイルドに、というか操作したとおり自然な動きになるようプロポ側で感度を鈍く調整し直す。

 準備が整ったところでドライブすると、ホワイトのマシンは基本的にステア操作に対して曲がりやすい半面、コーナー立ち上がりでパワースライド量が意外に多い。基本的にクイックで曲がりやすい特性だが、巻込みやすい面もあり、加速も減速もしないイーブンスロットル(一定のアクセル開度)で流すように旋回すると、挙動の乱れは少なかったという「ホワイトのマシン」を基準車と考える。

ホワイトの「ライキリGT」は、挙動の乱れが少ない印象

 さあ「シルバーのマシン」はどうか? 新品タイヤの表面を荒らして皮むき。円旋回とウエービングでグリップ感を確認すると……準備OK!。コーナーの進入でステア操作しながらスロットルOFFすると、フロントが急激にイン巻きし、リアは外方向にブレークぎみにスライド……。

 いわゆるタックイン現象。つーことはこれ「モーター位置は前か?」と予想するが、重量バランスの違いよりもシャーシのどこでジャイロ効果が発生するのかによるので、過去の経験から一概には言えない。コーナー立ち上がりに向けてパワーONすると、それまでの弱オーバーステア傾向から一転、アンダーステアに変化しながら立ち上がりでアウトにふくらむという特性。

シルバーの「ライキリGT」は、ステアリング操作中に、スロットルOFFでタックイン、パワーONでアンダーステアとなる印象

 最後に「ブラックのマシン」。タイヤを皮むきしてコーナー進入。基準車となった「ホワイトのマシン」と比べると“あっ、これ最高!”というくらい劇的変化。コーナー進入から曲がるタイミングも姿勢変化もじつに滑らか。予測できる姿勢変化だから、レコードラインに乗せることも容易。しかも旋回加速でリアが流れず、駆動力=トラクションがドカンと加わる。つまり前へ前へとグイグイ突き進み、体感的にも速い。曲げるための操作と加速でスロットルを開ける操作が自分のドライビングスタイルに完璧に合う。

「ソレは自分に合うだけでしょ!?」という声が聞こえそうだ……。いや、だから3カ所のモーター搭載位置があるので、どの位置かに自分好みの位置があるハズだ。

 因みに「ブラックのマシン」の予想は的中で「モーター位置は後」。タミヤ側の説明では、この仕様はヒトによっては「アンダーステアが強いと感じるかも知れません」とのこと。コーナー旋回途中からスロットルを早めに開ける方には確かにそうかも知れない。

 しかし、実車もそうだが、弱アンダーステアに抑えたクルマを走らせるほうが、結果的にタイムは速く、数十ラップ走行した際のタイムが安定するのはこれ。パワーONするとリアがスライドするオーバーステア特性は、コントロールする達成感はあるが、前に進む力は削がれていて、結果タイムも安定しないのである。

ブラックの「ライキリGT」は、旋回加速でリアが流れず、駆動力=トラクションがドカンと加わる印象

 さて最後に答え合わせ。モーターの搭載位置は、ホワイトが前、シルバーが中、ブラックが後の順!! 重量配分、というよりジャイロ効果の違い!! それをぜひご自身で体験してほしい。

ホワイトのマシンは一番前方のポジションにモーターが搭載されていた
モーターの搭載位置は、ホワイトのマシンが前、シルバーのマシンが中、ブラックのマシンが後

桂伸一