インプレッション

2016 ワークスチューニンググループ 合同試乗会(NISMO編)

「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」「無限(M-TEC)」「TRD(トヨタテクノクラフト)」「STI(スバルテクニカインターナショナル)」という4社の合同グループ活動である「ワークスチューニンググループ」。

 日ごろのモータースポーツシーンではライバルとして切磋琢磨しているが、アフターマーケットでは競合しないとのことから、お互いのレベルアップと効率化を図ろうと、1993年より合同で活動している。

 その目的はモータースポーツとスポーツドライビングの振興にあり、一般ユーザー向けのサーキット走行会なども実施している。また、1年ぶりに舞台を伊豆の日本サイクルスポーツセンターに移して開催された報道向け試乗会もその活動の一環である。

試乗前にそれぞれの車両、NISMOブランドなどについての解説を受ける筆者

 NISMOは、年初の東京オートサロン2016で初披露された、「セレナ」と「エクストレイル」の「NISMO パフォーマンスパッケージ」と、NISMOパーツをふんだんに装着した「GT-R」という3台を持ち込んだ。

 まず、念のためにおさらいしておくと、“NISMO”と名のつくモデルとしては、日産自動車が完成品として販売するコンプリートモデルと、NISMOが設定しているパッケージオプションをユーザーがディーラーで後付けするものがあり、今回のNISMO パフォーマンスパッケージの2台はむろん後者となる。日産としても、すべてのモデルにNISMOのコンプリートモデルをラインアップすることは難しい。それを補完する意味でも、こうしてNISMOでパッケージ化したオプションとして設定しており、追求する方向性は基本的には同じといえる。

 そんなNISMO パフォーマンスパッケージを装着したセレナとエクストレイルは、いずれも車高が約30mmローダウンされ、足下に精悍なデザインのアルミホイールを装着。エアロパーツをまとったホワイトのボディのボトム部分に、アクセントとして鮮烈な赤のラインを配したルックスが目を引く。これだけでノーマルとはずいぶん雰囲気が変わって、ずっとスポーティになっている。

 SUPER GT GT500クラスの空力エンジニアが監修したというエアロパーツは、フロントのダウンフォースと直進安定性の向上に寄与している。

レーシングドライバーであり、NISMOアンバサダーも務めているミハエル・クルム氏
ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 セールス&マーケティング部 企画グループ マネジャー 碓氷公樹氏

セレナ NISMO パフォーマンスパッケージ

 セレナの試乗車は「ハイウェイスター G」がベース。おそらくセレナのユーザーで「ステアリングを切ったときの動きが大きい」ということが気になっている人は少なくないと思うが、セレナ NISMO パフォーマンスパッケージは重心の高い背高ミニバンながら、重心の高さによるハンデを感じさせないドライブフィールが好印象。ロールがかなり抑えられていて、コーナリングでの不安感が小さい。セレナらしからぬ走りっぷりを見せてくれた。これには前述の空力性能の向上も少なからず効いていることに違いない。

セレナ NISMO パフォーマンスパッケージ。エアロモード系を除くハイウェイスターをベースにしたパッケージオプションで、価格は63万4824円(取付費を含む)
エアロキットの「フロントアンダースポイラー」はアンダーグリルやフォグランプベゼルをブラックアウト
17インチの「LMX6」アルミロードホイール。単体価格は1台分で19万5264円
「サイドスカート」にも前後のスポイラーと同じく赤いラインをアクセントとして配する
「リヤサイドスポイラー」はパッケージとは別立てのオプションで、価格は5万1840円
ディフューザー形状となる「リヤアンダースポイラー」
できる限りストレートな形状を採用した「スポーツステンレスリヤマフラー」。単体価格は7万6680円

 それでいて、ミニバンゆえ後席乗員が不快に感じないよう配慮したとの開発担当者の言葉どおり、跳ねや突き上げは上手く抑えられていた。家族みんなで乗ったときに同乗者も快適で、ドライバーも楽しめるよう、操縦安定性と快適性のバランスがほどよく両立されている。

エクストレイル NISMO パフォーマンスパッケージ

 一方、同じNISMO パフォーマンスパッケージのエクストレイルは、ノーマルからの変更内容は基本的にセレナと同じだが、会場となった日本サイクルスポーツセンターのようなワインディングでも、より軽快なハンドリングが楽しめるように味付けされていた。

 引き締められた足まわりはコーナリングでの姿勢変化を小さく抑えつつ、タイヤと路面の状況を分かりやすく伝えてくる。あえてNISMOを選ぶ人には、これぐらいノーマルとの違いを感じられるほうが好まれるのではないか、という印象だ。一方、エクストレイルだけにSUVとしてオフロードを走ることも考慮して、ある程度はサスペンションストロークも確保しているという。

エクストレイル NISMO パフォーマンスパッケージ。ベースモデルは20X “エマージェンシーブレーキ パッケージ”。試乗車は追加オプションの「ルーフスポイラー」(5万5000円)を装着して空力性能をさらに高めている
「フロントアンダースポイラー」には、下側をスキッドプレート風にシルバー塗装して力強さもアピール
純正サイズから2インチアップとなる19インチの「LMX6」アルミロードホイール
サイドスカートは後方側がわずかに広がってウイング形状となっている
カーボン調のドアハンドルプロテクターは2800円
リアアンダースポイラーもオフロードでの走破性に影響しない範囲内でのエアロ形状となっている
やや低音を効かせた音質の「スポーツステンレスマフラー」

 また、どちらもやや低音を効かせたスポーティなエキゾーストサウンドを楽しめるのもうれしい。欲をいうと、これだけ走りを楽しめる味付けだけに、どちらもパドルシフトが欲しくなった。また、足まわりの味付けがノーマルとだいぶ異なるのに合わせて、電動パワステのマッチングを見直してくれると、なおよくなるだろう。

GT-R NISMO カスタマイズパーツ装着車

 もう1台のGT-Rは、すでに市販されているNISMOのカスタマイズパーツの数々が装着されていた。発表されて間もない2017年モデルの各種情報もメディアをにぎわせているところだが、こちらのデモカーは発売初期の2008年モデル。それでもNISMOパーツの装着により、ここまで走行性能を引き上げられることをつくづく思い知った。伸びやかなエンジンのパワー感、応答遅れの少ないステアリングフィール、タイヤと路面のコンタクトフィールやトラクションの高さなど、改良を重ねた後年のGT-Rにもひけをとらない走りを味わわせてくれた。

2008年モデルのGT-R Premium editionをベースに、NISMOパーツを多数装着することによって走行性能を引き上げたモデル
ヘッドライトは2013年モデルのLEDヘッドライトに変更
エンジンは2013年仕様の性能をターゲットに、スポーツキャタライザーやスポーツチタンマフラー、スポーツリセッティングされた専用ECM、専用TCMなどを採用。5500rpm付近でのレスポンス向上、6500rpm以上での回転の伸びを実現しているとのこと
2015年モデルのTrack edition engineered by nismoで使われたタイヤ&ホイールを装着
純正装着品から8kgの軽量化を果たすスポーツチタンマフラー。価格は47万8000円

 しかも今回は「NISMOアンバサダー」を務めるミハエル・クルム氏のドライビングで、そのポテンシャルを存分に引き出した走りを助手席で体感することもできた。クルム氏の卓越したドライビングスキルとそれにしっかり応える試乗車の走りには、ますますGT-Rと、ひいてはNISMOの底力を見せつけられた思いである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一