インプレッション
ジャガー「XF」(伊勢志摩)
2016年7月22日 15:17
伊勢志摩方面で「XF」シリーズに試乗
「XE」「XF」「XJ」と続くジャガーサルーンのなかで、中間のポジションに置かれるのがXFだ。そのXFが、2015年に初のフルモデルチェンジを行なった。今回の試乗ステージは、こうした報道陣向けの試乗イベントとしてはめずらしく伊勢志摩方面で行なわれた。途中、20年に1度の式年遷宮で有名な伊勢神宮や、伊勢志摩サミットで世界的にその存在を示した賢島を横目に見ながらの試乗となった。
最初に試乗したのは、新型のハイライトというべきディーゼルモデルでラグジュアリーラインの中間グレードである「20d Prestige」。搭載する直列2.0リッターDOHC 直噴ディーゼルターボユニットは「インジニウムクリーンディーゼル」を名乗る新型エンジンで、数値以上の力強さを発揮する点が最大の特徴。日本には未導入だったが、じつは先代モデルにもディーゼルエンジンを搭載しており、そちらは2.2リッター。今回の新型は2.0リッターへとダウンサイジング化しながらも、燃費数値を欧州仕様車での比較で17.5%向上させ、同時に24kgの軽量化も達成させた。また、騒音をはじめとしたNVHの値を最大で5dB以上低下させている。
ディーゼルエンジンの2大排出ガスである「PM」にはDPF触媒、「NOx」には尿素水であるAdBlueを活用したSCR触媒をそれぞれ使い対処するが、このうちSCR触媒は走行性能と環境性能の両立が難しい。厳しい排出ガス規制で知られるユーロ6(日本でのポスト新長期規制に相当)をクリアする排気量の小さなディーゼルエンジンでは、一般的に低速トルクが不足する傾向にあるが、このインジウムクリーンディーゼルは燃焼メカニズムの最適化により、ターボチャージャーの過給圧が高まり切らない1500rpmを下回る回転域でも十分に実用的なトルクを発揮する。AdBlueの消費量は「1回の満給水で2万km程度」(ジャガー・ランドローバー・ジャパン広報部)と、一般的な走行距離のドライバーなら年に1度の給水で十分事足りる。しかし、実際の消費量は燃費数値ほどではないにせよ、他社のディーゼルエンジン同様に運転状況によって変化する点でもある。
注目のスペックは180PS/4000rpm、430Nm/1750-2500rpmとパワー・トルクともに強力で、例えばマツダ「アテンザ」が搭載する2.2リッターディーゼルエンジンを最大値で5PS/10Nm上回る。逆にカタログ燃費数値はXFが16.7km/Lであるのに対し、アテンザが6速ATで20.0km/L(6速MTは22.4km/L)と20~34%ほど上回っている。XFのトランスミッションはZF製8速ATのみで、こちらはDCTではなく通常のトルコンタイプを採用。ちなみに、この新エンジン群は将来的にガソリン化や3気筒化にも対応できる新世代のパワーユニットであり、FR方式だけでなくAWD方式にも対応する。
まず市街地走行時の印象だが、堂々としたボディサイズを感じさせない取り回しのよさが美点として感じられた。最小回転半径は5.7mと小さくはないのだが、ダッシュボード周辺からドア付近にかけ連続して見切りがよいため、狭い駐車場でもすんなり入っていけるし、電動パワーステアリングの操作フィールもよく、XFの弟分であるXEと変らない扱いやすさがある。エンジンをスタートさせると自動的にポップアップする「ジャガードライブセレクター」は、従来のシフトノブに代わるフルロジック方式の操作系統でジャガーの各モデルが採用する。単なるダイヤル形状であることから意図せずクルクルと回してしまいそうだが、シフト位置を1段変えるごとにしっかりとした節度があり、クリック感を確認しながら回せば誤操作の心配もない。また走行中は「R」や「P」に入らないようロックされるなど、誤操作防止機能を持つ。
しかしながら、こうした美点も輸入車に「ひとクセ」を求めるユーザーには物足りなさを感じさせる一因になり得るか。工業製品としての精度は高く、ジャガードライブセレクターのようにHMIもしっかりと考えられているので決してわるいことではないのだが、メルセデス・ベンツではシートポジションに、BMWではナビゲーションやドライブセレクターの操作ロジックに、さらにアウディに至っては操作スイッチ数が多いなど、なにかしらのクセがある。XFにはそうした作り手のクセがなく、サラッと使いこなせてしまうのだ。好き嫌いがはっきり出る部分であるため結論の出ない話だが、購入を検討する際にはできるだけ長い時間ディーラーなどで試乗して確認していただきたい。
高速道路でも性能を体感
さて、舞台を高速道路に移す。本線への合流も力強く、さすがは新世代! と唸った。2000rpmあたりからはパワーもどんどん上乗せされ、マツダのクリーンディーゼルでアテンザなどが搭載するSKYACTIV-Dよりも強い加速度を実感する。また、XFのディーゼルはSKYACTIV-Dと並びアクセル開度に応じた加速度を生み出すことができる貴重なパワーユニットだ。そのため、単に高速道路をまっすぐ走らせているだけでも躍動感があり、じつに気持ちがよい。燃費数値も期待どおりで、周囲の交通環境に任せながら80~90km/hで40kmほど走行した際の区間燃費数値は18.1km/Lを記録した。
しかし気になる点もある。80km/hから100km/h程度までの加速時に、比較的大きな振動(バイブレーション)が発生するのだ。振動はエンジン回転数にして約1700-2100rpmあたりに集中し、キックダウンを行ないさらに上のエンジン回転領域を使った場合は発生せず、加速状態の時にだけ発生するもの。よって巡航時には発生しない。フロア全体に“ブルッブルッ”と伝わる早い振動周期が特徴で、前席だけでなく、規模は小さくなるものの後部座席でも実感できた。「試乗車がおろし立てで1000kmに満たない走行距離が原因」(同広報部)の言葉どおり、固有の事象で車両が持つ特性ではないと思われるが、同時に試乗した同型のインジウムディーゼルエンジンを搭載する「XE」では、まったくその振動が発生していなかったため気になった。
ちなみに、同区間をガソリンエンジンモデルでも試乗した。直列4気筒2.0リッター直噴ターボは240PS/340Nmを発生。ディーゼルと各ギヤ段のギヤ比まで同じ8速ATが搭載されるが、ファイナルギヤのみガソリンモデルが25%ほどローギヤード化されている。ともかくこちらはパワフルで、80km/hからアクセルを踏み込むとほんのわずかなターボラグとともにグングンと加速を開始する。2000-4500rpmあたりまでの力強さは「Cクラス」「3シリーズ」「A4」などが搭載する2.0リッターターボエンジンを明らかに上回る印象。半面、トップエンドは5500rpmを超えると売り切れ状態に近く、「クラウン」の2.0リッターターボに近い中回転域に的を絞った特性であることが分かる。
ワインディング路でXFのよさを実感
伊勢方面きってのワインディング路である伊勢志摩スカイラインでは、新世代プラットフォーム「D7A」の素性とジャガーがこだわりをもって開発したサスペンション特性を存分に味わうことができた。もっとも今回は公道試乗のみなので、持てる性能のせいぜい60%程度を多用しながらの走行に留まったのだが、結果的にそれがXFのよさを実感するには最適な走行環境であった。
XFは一体感の高いコーナリング特性を持つが、加えて、いわゆるトルクベクタリング機構「トルクベクタリング・バイ・ブレーキ」によって路面の状態を問わずスムーズに走る。トルクベクタリング・バイ・ブレーキは、前後輪の適切な車輪に適切なブレーキをかけてアンダーステアやオーバーステアを抑制し、速度や路面の状況に関わらず適切なヨーモーメントを発生させる技術だ。今回のような曲率半径20~30m程度のキツめのコーナーでは、さらにその効果が倍増される。
具体的には、キツいはずのカーブがすこし緩くなったかのように感じられるのだ。それにより気持ちにもゆとりが生まれ、ステアリング操作が遅れがちなこうしたシーンでも適確な操作が行なえる。いくら新型エンジンが軽いとはいえ、1t近いフロント荷重のXFがスイスイとよく曲がり、さらにステアリングの切り足しにも順応してくれるので、回り込んだカーブでも安心して走らせることができた。
このXFではスポーツモデルでフラグシップの「S」にも試乗した。こちらはV型6気筒3.0リッター直噴スーパーチャージャーユニットを搭載する。XFが属するEセグメントでは、500PS以上のターボエンジンを搭載したモンスターマシンが多いため、XF Sの380PS/450Nmとスペックは驚くべき数値ではない。しかし、スーパーチャージャーの利点であるタイムラグをほぼ感じさせない加速フィールは、6.0リッタークラスの大排気量エンジンのような特性で、アクセル開度の少ない領域でも太いトルクの恩恵があるので病みつきになる。それでいて、実際には3.0リッターの排気量だから自動車税は6.0リッタークラス(11万1000円)の約半分。もっともSの車両価格は1120万円と高額なので、税金だけでグレードを選ぶなんてことはしないが、メリットの1つではある。
Sで特筆したいのはこの走行フィールもさることながら、じつは乗り味にある。スポーツグレードでありながらシリーズNo.1といえるほど上質なのだ。XE/XF、そして先ごろデビューしたSUV「F-PACE」もサスペンションそのものは共通とのことだが、試乗済みのXF/XEのSでは意外なまでにとても滑らかな走りを堪能できた。Sが標準で装備している「アダプティブダイナミクス」と名付けられた可変サス機構は、「R-SPORT」「PORTFOLIO」にもオプションとして用意されているが、聞けばSのみダンパー容量が他のグレードよりも大きいという。そのため、ゆっくりとした車速でもしっかりとした減衰力を発生させながら、スポーツ走行時に遭遇する瞬間的に掛かる高い荷重をも受け止める二面性があるのだ。この乗り味という点では、今回試乗したディーゼルエンジンの20d PrestigeやガソリンエンジンのPureもSに遠く及ばない。
装備の上で少しだけ残念なのは、ステレオカメラ+ミリ波レーダーセンサー(センサーフュージョンではない)方式の先進安全技術であるADASの数々(衝突被害軽減ブレーキやACC)を採用するも、どうしたことかその点を積極的にアピールしていないこと。また、インパネ部分の12.3インチ液晶ディスプレイに加え、センターディスプレイには対角10.2インチのタッチスクリーンなどHMIにおける新機軸を採り入れているが、この10.2インチは横長となるため相対的に縦方向は小さく7インチ程度に留まる。HMIに正解はないと言われているが、筆者は車内における大型ディスプレイは、操作時の安全から考えて縦型が理想的であると考えている。
ガソリン2タイプ、そして新世代ディーゼルと魅力的なパワーユニットを持つXF。デザイン面でXEとの差が少なく、それが購入者にとってはネガティブにとられてしまうといった心配もあったが、発売以降、順調に台数を伸ばしているという。F-PACEとの違いはどこに設けられているのか、次回はそこを確認したい。