インプレッション

トヨタ「プレミオ」「アリオン」(2016年マイチェンモデル)

 日本のミッドサイズセダンの代表格、そしてトヨタ自動車が乗用車メーカーとして発展した礎を築いた「コロナ」をルーツに持つのが「プレミオ」「アリオン」だ。最初のコロナが登場したのが1957年だから、もうすぐ60年になる伝統あるブランドである。最近でこそミッドサイズセダンの需要は少なくなっているが、伝統は継承され根強い需要に支えられている。

 プレミオ&アリオンは日本で使いやすい5ナンバーサイズのオーソドックスな4ドアセダンだが、今回のマイチェン前までは「カローラ」の影に隠れてしまった感があるのも事実だった。しかし、内外装の変更でカローラとは違った存在感を出すことができた。

 エクステリアではプレミオとアリオンで異なるフロントマスクが与えられ、プレミオでは押し出し感があるデザイン、アリオンでは少しスポーティ感のあるタイプになっている。また、リアコンビネーションランプもフロントに合わせて高級感のあるものに変更。こちらもプレミオとアリオンではデザインが異なり、プレミオはCの字グラフィックと深みのあるレンズ色になり、アリオンは6眼ストップランプを内蔵する奥行き感のある造形になった。

プレミオ F“EXパッケージ”(2WD車)。ボディサイズは4595×1695×1475mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。ボディカラーは「ダークレッドマイカメタリック」
プレミオのフロントグリルは横方向の桟にメッキ加飾を与えて落ち着きある重厚感を表現
従来はロアグリルとフォグランプは独立していたが、メッキ加飾とブラックのベゼルで両サイドまで一体化したデザインになった
リアコンビネーションランプは基本的な形状に変更はないが、Cの字に点灯するスタイルになって個性を表現している
プレミオ(左)とアリオン(右)の車名バッヂ。どちらもトランクリッド助手席側に装着されている
アリオン A18“G-plusパッケージ”(2WD車)。ボディサイズはプレミオより全長が5mm短い4590×1695×1475mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。ボディカラーは「ホワイトパールクリスタルシャイン」
アリオンのフロントグリルはブロックメッシュを細かく配置
アリオンのロアグリルは以前から両サイドまでワイドに見せるデザインだったが、メッキ加飾で上質感を演出した
末広がりの形状と6眼ストップランプのリフレクターの反射で奥行き感を表現するアリオンのリアコンビネーションランプ
トランク容量は通常時は490L。後席のシートバックを前方に倒すと860Lまで拡大する
1.8リッターと2.0リッターのアリオン“G-plusパッケージ”とプレミオ“EXパッケージ”の2WD車は16インチアルミホイールと195/55 R16タイヤを標準装備

 インテリアもメーター形状を一新して、中央のディスプレイも4.2インチTFTカラーディスプレイに変更したことで、一気に視認性や質感が向上しており、メーター指針が白になったことも質感の向上に寄与している。ステアリングホイールやセンターコンソールも形状変更となって、インテリアのイメージも大きく印象を変えた。

 これらのマイナーチェンジでガラリと雰囲気の変わったプレミオ&アリオンだが、実質的な走行シーンではどうだろうか?

“日本的な心地よさ”を持つ静粛性と乗り心地

 1.8リッターモデルのアリオンでは、走行中のロードノイズがかなりカットされていることに気づく。クルージングではキャビン後部からのノイズの侵入が抑えられ、加速中にはエンジンノイズが大きく抑えられた。加速中も耳障りな音が気にならなくなったのは大きな進化だ。

 プレミオ&アリオンのようなミッドセダンでは静粛性は大きな要素。CVTとの組み合わせは加速時のノイズが大きくなりがちだが、遮音材の配置見直しで、急加速によるエンジンノイズはかなりカットされることになった。エンジンフードやカウルなどの遮音材の質量を増やすことで加速時の静粛性に貢献している。さらに遮音シートの部材を厚くして、ドア内部の遮音防振材も変更することでロードノイズの減少に大きな効果が得られている。明らかに従来のプレミオ&アリオンより静粛性はワンランク上だ。質感の上がったインテリアに応じて、このクラスの車格以上に上質になったと言えるだろう。

プレミオ F“EXパッケージ”のインパネ。一体感の演出を目指してセンターコンソールやシフトセレクター周辺の形状を変更した。インパネやステアリング、ドアトリムなどに使われている木目調加飾はレディッシュブラウン
シート表皮は合成皮革+ファブリックのコンビタイプで、シートカラーはアイボリー系のフラクセン(亜麻色)
マイチェンで1.5リッターと1.8リッターのベースグレード車以外に「Toyota Safety Sense C」が標準装備になった
アリオン A18“G-plusパッケージ”のインパネ。ステアリングは4本スポーツから3本スポークに変更。“G-plusパッケージ”と“EXパッケージ”は本革巻き+木目調のステアリングとなる
メーター指針はレッドからホワイトに発光色を変更。2眼式メーターのあいだのマルチインフォメーションディスプレイも4.2インチカラーTFT液晶となった
センターコンソールやシフトセレクターの木目調加飾はライトブラウン
試乗車はブラウン本革シートをオプション装着

 快適な移動には、静粛性はもちろん乗り心地が重要だが、マイチェン後のプレミオ&アリオンはこの面でも進化を見せた。従来型も決して荒っぽい乗り心地ではなく、適度に機敏で適度に快適な乗り心地を提供していたが、新型ではさらに乗り心地に振られたサスペンションセッティングが行なわれている。

 従来型は段差の通過などでフロントにちょっと大きな入力があり、その後の収まりはよいという感じだった。新型では段差での入力自体が減って、すんなりとショックを吸収するイメージになっている。さらに中速でのウネリ路面は滑らかに通過することできるので、姿勢変化がよりフラットになっている。

 バネレートが下げられ、合わせてダンパーの減衰力もバランスをとるために下げられており、バネとダンパーのマッチング向上を図ったことが良路での滑らかな乗り心地に貢献している。アップデートされた乗り心地と静粛性は日本市場に見合っている。ちなみにプレミオ&アリオンともに日本専用モデルで、いかにも日本的な心地よさがある。

 エンジンは3種類設定されており、1.5リッターと1.8リッター、2.0リッターとなるが、1.5リッターは法人ユーザーから手堅い人気があり、1.8リッターは個人ユーザーから支持されている。

直列4気筒DOHC 1.5リッターの「1NZ-FE」エンジン。最高出力80kW(109PS)/6000rpm、最大トルク136Nm(13.9kgm)/4800rpmを発生
直列4気筒DOHC 1.8リッターの「1ZR-FAE」エンジン。最高出力105kW(143PS)/6200rpm、最大トルク173Nm(17.6kgm)/4000rpmを発生

低中速で快適なミッドセダン

 2ZR-FAE型の1.8リッターエンジンの出力は143PS/173Nmと十分に余裕があり、CVTとの相性もよい。シリーズ中で使い勝手はベストだろう。パワーステアリングの操舵力、保舵力ともに適度で街なかでの取りまわしもちょうどよく、最小回転半径5.3m(4WD車は5.4m)というのも市街地でのフットワークを支えてくれる。

 乗り心地は前述のように滑らかな路面では快適だが、荒れた路面をある程度の速度で通過したときはリア側の上下動が大きくなる傾向にある。こんな場面ではもう少しダンパーの減衰力を上げたくなるところだが、日常的な使い方を考えると現状の方がメリットが大きい。ゆったりドライブするとこのクルマのよさがよく分かる。ただ、高速安定性などを望むとさらに煮詰めが必要だと思われるが、低中速で快適なクルマであることに変わりはない。

 パワートレーン系に変更はないが、心なしかエンジンも滑らかになったようで、CVTとの相性もよくなっているように感じられる。

 一方、量販グレードである1.5リッター版(試乗車はプレミオ)のバランス感もよく、法人に一定したファンがいる理由がよく分かる。ただ、1.8リッター版より37Nmトルクが小さいので、同じ加速を必要とする際はどうしても1NZ型エンジンの回転数を上げなければならず、エンジン自体の特徴で加速時のノイズが大きくなる。タイヤサイズの違いか、ロードノイズも少し大きめになっている。

 プレミオ&アリオンは日本市場に特化しているだけに、クラウンにも通じるなじみやすくホッとさせる面を見せてくれる安心感のある日本のミッドセダンだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一