インプレッション

ドゥカティ「Multistrada 950」/モト・グッチ「V9 BOBBER」

「Multistrada 1200S」のダウンサイジング版、その意味あいとは?

 クルマの世界と同じく、バイクでもここ10年以上SUVブームが続いている。バイクの場合、正確にはSUVではなく“アドベンチャーツアラー”と呼ばれることが多いのだが、今回試乗したドゥカティ「Multistrada 950」もそのカテゴリーで人気を誇る1台だ。じつは2016年の2輪JAIAレポートでは、兄貴分にあたる「Multistrada 1200S」を紹介した。モデル名の1200は排気量を示すから、それになぞらえば今回の950はいわゆるダウンサイジング版の950ccとなる。しかし、クルマとバイクではダウンサイジング化の意味合いが少し違うと筆者は感じている。

 クルマでのダウンサイジング化は多くの場合、環境性能を高めることが第1の目的だ。エンジンの排気量を小さくすることで燃料消費が抑えられ、結果的に燃費数値が向上する。また、大排気量エンジンがステータスであった上級車に関しては、ダウンサイジングエンジンに過給機を追加することで、カタログ上のパワーやトルク値をこれまでと同等以上に保ち商品力を維持する。昨今では、ハイブリッド化で対応するスポーツモデルや、プラグインハイブリッド化することで高い付加価値とともに同じ効果を狙う欧州メーカーも多い。

 一方のバイクにおけるダウンサイジングがどうかといえば、クルマの事情とガラリと変わり、“動力性能の細分化”にあると考える。筆者の示す動力性能の細分化とは、ライダーが好みのパワーやトルク、さらには車両重量にはじまる取り回しなど、いわゆるウェイトレシオ換算でのダウンサイジング化だ。バイクは本田技研工業「Honda Riding Assist」でもない限り、跨って地に足を着けなければ自立することができない。また、当然ながらバイクにはライダーの存在が必要だ。ライダーは手足で運転操作を行ないながらバランスを取り、重心移動の併用でコーナリングを行なう。そして、時に身体が路面からの衝撃を吸収するダンパーの役割を担いながら、フレームや車体と一体となってはじめてバイクは本来の性能を発揮する。

 近年、バイクのパフォーマンスは飛躍的に向上した。日本ではナンバープレートを取得して公道を走らせることができない車両として(つまりサーキット専用車として)販売されるカワサキ「Ninja H2R」は、市販車ながらスーパーチャージャーとラム圧過給の助けを借りることで400km/hを超える最高速度を記録する。また、リッターバイクやオーバーリッターバイクとも呼ばれる排気量1000ccを超えるモデルはどれもパワフルで、200PS級のパワーは当たり前の世界(こちらは日本の公道でも走行可能)だ。ただ、ライダーは生身の身体。ライディングスキルにしても限界点は人によって大きく違う。ABSこそ日本でも(125cc以上のバイクに)義務化となるが、電子制御化されたスロットルバイワイヤー技術によってパワー特性を穏やかにするモード切り替えスイッチや、空転やウイリーを防ぐトラクションコントロールはあるものの、クルマでいうところの車両挙動安定装置であるESCは存在しない。ボッシュが一部のスポーツモデルに採用するヨーコントロールシステムにしても、タイヤが前後2本しかないバイクでは制御そのものに限界がある。よって、このパワーそのものを抑えたダウンサイジング化が、この先の要になると筆者は考えている。言い換えれば、ウルトラパフォーマンスを売りにする世界と同時に、“扱い切れる気持ちのよい動力性能”を得意とする世界が両立するようになるのではないか。

オンロード/オフロード走行を視野に入れたドゥカティの“アドベンチャーツアラー”「Multistrada 950」。カラーリングはドゥカティレッドで価格は173万6000円
「Multistrada 950」は、最高出力111PS/最大トルク9.8kgmを発生する水冷L型2気筒937ccエンジンを搭載。フロント19インチ、リア17インチのホイールを組み合わせ、ブレーキは前後ともブレンボ製(フロント4ピストン、リア2ピストン)を採用する

 Multistrada 950は水冷L型2気筒937cc(111PS/9.8kgm)エンジンを搭載する。アドベンチャーモデルらしくゆ堂々とした車体は威圧感があるが、上半身が起きているため跨ってしまうと意外なほど安心感が先にくる。ただ、Multistrada 1200Sの標準シートから「Multistrada ENDURO」(大容量燃料タンクにロングストロークサスペンションを装備)と同じ大きなシートに換装されているため、足つき性がわるくなった。カタログ上は1200Sに対して950がちょうど40mm高いだけなのだが、シート幅が広がったためそれに伴い足が広がり、足つき性に影響を及ぼしている。とはいえ片足であればご覧のようにべったり着くし、両足を着けても踵が浮く程度。車両重量は229kgと950ccにしては重めだが、L型エンジンということもあり重心位置が低めで、大腿部より下の部分にマスが集中するから不安にはならない。

「Multistrada 950」にまたがったところ
メーターはモノカラー液晶を採用

 走りはずいぶんと軽快だ。正直、1200S(150PS/13.1kgm)はパワー過剰な印象だったが、950はスロットルを開けた分だけ欲しい加速が得られるため操っている感覚が強くなる。また、直線路では積極的にスロットルを開け、カーブ手前でちゃんと閉じる癖がつくから大型バイク初心者にも打ってつけだ。フロントタイヤは1200Sの17インチから19インチへと大径化されたため、倒し込みの際に大径ホイール特有の引っかかりを感じるようになった。しかし、オフロードモデルのように強めのジャイロ効果はないため、5分も乗れば身体がそれに馴染んでくる。メーターは1200SのフルカラーTFT液晶から通常のモノカラー液晶へと変更され、減衰力特性を変化させる電子制御サスペンションも装備されないが、その分価格は82万円も安く(1200S対950の対比)なり、日本の道路環境ではむしろ扱いやすいエンジン特性との相乗効果で“とっつきやすくなった”感は格段に上がった。

縦置きV型が生み出す走りは理屈抜きに気持ちいい!

モト・グッチ「V9 BOBBER」

 続いて試乗したのはモト・グッチ「V9 BOBBER」だ。つや消しマット塗装されたタンクにブラック塗装のエンジン、エキパイ、ホイールなどかなりシックな装いだ。シートはあえてタンデム部分を短くすることで、車体とのアンバランスさを狙った。試乗車はオプション装備となる左右振り分け式のパニアケースが装着されていたが、専用品らしく脱着は簡単で1分も掛からない。それよりも質感が重厚で、使い込んでいくと風合いが変わるだろうから、オーナーともなれば楽しみも増えるはず。

「Bobber」スタイルを現代的に解釈した「V9 BOBBER」。スチールタンクのチェッカーフラッグをモチーフにしたグラフィックが特徴的。価格は124万8000円
「V9 BOBBER」は空冷縦置きV型2気筒853ccエンジンを搭載し、最高出力は55PS、最大トルクは62Nmを発生。ABSやトラクションコントロールといった安全装備を標準で採用する

 跨った印象はご覧の通り。完全に上半身が起きたアップライトとなり、着座位置も低く(シート高は780mm)、170cmの筆者でも膝が曲がるなど随所に余裕がある。椅子に腰掛け手を伸せばそこにハンドルがある、そんな印象だ。ただ、ライディングの基本であるニーグリップ(タンクを腿で挟んで一体感を高める基本的な乗車スタイル)は若干やりづらい。縦置きV型エンジンのヘッド部分が膝や脛と干渉するからだ。もっとも「縦置きV型」こそモト・グッチの証でもあるわけで、ここが気になるようであれば伴侶には相応しくないということだ。

 空冷縦置きV型2気筒エンジンのバルブ形式はバイクエンジンとしても少数派となったOHVで、853ccの排気量から55PS/約6.3kgmを発生する。それにしても、縦置きV型が生み出す走りは理屈抜きに気持ちがよい! 縦置きなので、停止中にスロットルを捻るとエンジン回転に合わせて右側に車体がフワッと揺れる。以前、筆者はモト・グッチではないが同じ縦置きの(直列4気筒を90度寝かした)BMW「K100RS」に2V→4Vと立て続けに乗っていたので、これだけも懐かしさがこみ上げてきた。冷静に判断すれば、V9 BOBBERの回転フィールは決してシャープではないし、常用域の振動にしても若干多めだ。先の右へ揺れる特性も走りにもしっかり影響を及ぼす。でも、内燃機関を股ぐらに挟んでいるというこうした強い主張もわるくない。やはりバイクは身体で感じる乗り物だ。

 乗り味にも癖がある。前輪が130/90-16インチとエアボリュームが多め。よってハンドルの操作フィールは若干重めだし、ブレーキングからの倒し込み時など荷重方向と接地面が変化する領域では特有のゆらぎを感じる。もっともコーナーをガンガン攻めるバイクではないので、これはよしとするべきだろう。

「C650GT」に備わる先進安全技術も体験

BMWのビッグスクーター「C650GT」(119万9000円)

 会場ではもう1台のバイクにも触れることができた。BMWのビッグスクーターである「C650GT」だ。じつは2016年にも試乗していたのだが、2017年モデルから2輪車世界初となる横方向のADAS(先進安全技術)「SVA(サイド・ビュー・アシスト)」が装備されたのだ。車体後方左右に各1箇所、車体前方左右に各1箇所の合計4つの超音波ソナーによって、となり車線の車両やバイクを認識し、車線変更時のアシストを行なう。原理としてはクルマで実用化されているブラインドスポットモニターの類いと同じだ。

 実際にテストしてみたが、とても効果的であることが分かった。ミラーの死角に車両が入るとミラーステーの鏡面下位置に配置された三角形のインジケーターが黄色く光り、車線変更への注意喚起を行なうのだが、インジケーターの点灯→消灯のタイミングが絶妙なのだ。車体後方の超音波ソナーで認識して点灯、そして車体前方にその車両を認識するとそこで消灯する。ライダーの位置からだと、ちょうどミラーの死角に隣車線の車両が入ったところで点灯し、目視できるタイミングで消灯する。

 ここでの要は約15km/h以上に設定された相対速度差にある。何度もテストした結果、これよりも低い速度差で点灯させると煩わしさをライダーが感じるというのだ。このあたり、さすがは現場主義のBMWだと改めて感心した。

「C650GT」は2輪車世界初となる「SVA(サイド・ビュー・アシスト)」を装備。ミラーの死角に車両が入ると三角形のインジケーターが黄色く光る
SVAで使われる超音波ソナーは車体の前方左右、後方左右に各1箇所配置

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一